ガールズ・ゴーン・ワイルド:ジプシー・バン・クロニクル – パート2
高速道路I-70をモアブに向けて走らせながら、私はゾーイにインディアン・クリークのブリッジャー・ジャックにあるタワー、キング・オブ・ペインの「ジジ」をトライしてはどうかと提案した。マウンテン・プロジェクトのトポを渡すと、ゾーイは目を輝かせた。
「4ピッチで5.12は2ピッチだけなのね」 ゾーイはほっとしたようだ。「ムーンライト・バットレス」に比べればクライミングの量はずっと少なく、つまり私たちには時間がたっぷりとあり、ルートもそれほどきつくないということだ。
編集者記:パタゴニアのアンバサダー、ブリッタニー・グリフィスがジプシー・バンを運転して、ゾーイ・ハートとまっしぐらに岩場に向かうガールズ・ゴーン・ワイルド・クロニクルのパート2をお楽しみください。パート1をご覧になっていなければこちらでどうぞ。
私たちはブリッジャー・ジャックスに向けて、未舗装の荒れた道を進んだ。タワーに向かう途中にすてきなキャンプサイトがあって、私はそこへ行きたかったけれど、ジプシー・バンはこの四輪駆動の道には不向きだった。それでも私はバンの力を信じて、傾斜のきつい岩だらけのセクションに乗り入れた。ゾーイは肘掛けを命綱のように掴みながら、目はその先の道を見据えていた。
「本当に大丈夫?」 彼女はジプシー・バンの力に対する懐疑心を隠そうとしながら、ささやいた。
「大丈夫。でもここは降りて、プロパンガスのタンクを底から落としてしまわないように誘導してくれる?」 ゾーイはそのチャンスに飛びついて車を降りると、素早く坂の上に位置を取って、ヤバそうな岩と砂のセクションを導いた。
「いいわよ!」 ゾーイは叫ぶと、ためらい気味に合図した。私は自信たっぷりにティップトロニックのギアを1速に入れると、軽くアクセルを踏んだ。ディーゼルエンジンは『ワワワワ・・・』という音を立てた。ジプシーはやる気満々で、私は彼女を止めるつもりもなかった。すると、まるでチャンピオンの雌馬のように着実にパワーを出して、危なげな道を乗り越した。核心部の真ん中で、ゾーイの表情が不安から、『まったくすごい車だわ』に変わったのに気づいた。道が平らになると、私は冷静にサイドブレーキを引いた。ゾーイが、その雄弁なニュージャージー弁で、叫んだ。「まったくすごかったぜぃ!」
私は言った。「ジョナサンには内緒よ」
(後にソルトレーク・シティに戻ると、私たちは自分たちが達成したことをジョナサンに告げずにはいられなくなった。そしてその一件を知ったジョナサンは、うなった。「バンをどこで走らせたんだって?まったく。レンタカーでだってあんな所には行かないぞ」)
[4輪駆動のバン。Video: Zoe Hart]
どうしてかは説明できないけれど、クライミングで私が好きなことのひとつにギアラックを準備することがある。だからブリッジャー・ジャックでの初日の朝、ジプシー・カフェの始動は早朝からだった。お湯が沸くのを待つあいだ、私はキャンプ地の砂岩のテラスで、「その日のギアラック」をていねいに整理した。テントのなかで目覚めかけたゾーイに、朝のコーヒーを持っていった。
[ギアラックの準備。Video: Zoe Hart]
私がさりげなくゾーイのリードに重要なギア、キャメロット#6を見せると、彼女は驚いて言った。「それって今日なの?」
ゾーイはくじ引きではずれ、第1ピッチのリード役になった。悪名高きリードだ。それは「たったの」5.11だったけれど、私はタワーの「簡単な」ピッチがいかに野蛮にもなるかを知っていた。そのうちいくつかからは、私は間違いなく敗退していた。
「パンプしてる」 ゾーイは6メートル上から叫んだ。砂埃が私の髪と目に降りかかった。
「私なんか登っているときの80%はパンプしてるわよ!」 私はジョーク(でもないが)を返した。「次のアングルピトンまで行ってみて。つづけたくなかったら私が交代するから」と提案しつつも、彼女がリードを渡さないことをひそかに期待していた。ゾーイの状況は、とてもむずかしそうだった。
「いい感じよ!」 上でしっかりしたハンドジャムを決めようと格闘しているゾーイを励ました。「そのまま行って!」(そしてアンカーまで到達して!と思った。)結局ゾーイはアンカーまで到達し、私たちはそれを誇りに思った(そしてホッとした)。
ピッチの終了点に到着するころには、日は左の壁を去り、寒さが急激に増した。私たちはこのクライミングがいかにやりにくく、そして不気味であるかを決定的に過小評価していた。そしてこの寒さのなか、5.12の核心が2ピッチ残っている。私たちは顔を見合わせた。懸垂下降してジプシー・バンに戻る時間だということは明らかだった。唯一の固定ギアはベビー・アングルピトンだった。私はゾーイにザックとギアラックを持たせると、2個のカムでバックアップを取って懸垂させた。それから私はカムを回収して、ピトン1本だけのアンカーから懸垂した。
私は言った。「ジョナサンにはこのことも内緒よ」 ピトンのバックアップのためにカムを残置しなかったことを知ったら、きっと彼は怒るだろう。
寒過ぎてシングルピッチのクライミングしかできない天候下では、完璧な岩が何キロもつづくインディアン・クリークのような場所にいることはラッキーだった。私たちの行動はシンプルになった。クライミングのあとジプシー・バンに逃げ込み、私が夕食を作るあいだ、ゾーイは『ピープル誌』のゴシップを読んで聞かせてくれた。オオカミのように食べ、私が皿を洗った。ゾーイはボックス・ワインを、私はテキーラ(ユタ州のテキーラはユタ州のビールと同じようにアルコール度は3.2%しかなく、そのため3日前に買ったボトルがほぼ空になっていても問題ないことをゾーイに納得させた)を飲んだ。
結局、私たちは雑誌やブログに紹介できそうなことは何も達成しなかった。「ムーンライト・バットレス」も5.13のシンハンド・クラックも。重要なことは何もしなかった。
私はクライミングの経歴を高める責任を回避しているだけなのかもしれない。でも私は、クライミングですることは、人生ですることに比べてたいした重要性はないとずっと思ってきた。美徳はハードなルートのアンカーや野獣のような山の上にあるのではない。私たちは自分の欲望よりも他人の欲望を優先できるだろうか?私たちは礼儀正しいだろうか?寛大だろうか?パートナーを守る役目を与えられるのに値するだろうか?個人的な業績よりもパートナーシップを尊重できるだろうか?そして私たちは、クライマーとしての夢や目標は、こうしたことができなければまったく無意味であるということに気づくことができるだろか?
ゾーイをラスベガスの空港の車寄せに落とし、ジプシー・バンから荷物を引き出すのを手伝った。
「バーイ、ゾー」と手を降った。私たちがしなかったことすべてに感謝しながら。