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山のなかを流れる須築川に突然姿を現す砂防ダム。写真:稗田一俊
山のなかを流れる須築川に突然姿を現す砂防ダム。写真:稗田一俊

川に転がっているごくごくありふれた石が川の水を命を育む流れに変える

2011/09/22 2011年9月22日

川の水は高い方から低い方へと流れている。川底の石のあいだを潜ったり出たりしながら流れる水もあれば、湧き水もある。川を流れる水には複雑な流れがある。

編集注記:パタゴニア日本支社で独自に実施した環境キャンペーン「フリー・トゥ・フロー - 川と流域を守る」のエッセイでもおなじみの稗田一俊氏は、魚・川・自然の写真を撮るという仕事から、自然の大切さ・役割を学び、自然保護の活動をはじめました。今日は北海道八雲町の遊楽部川(ユーラップ川)でサケの撮影をつづける同氏から、どこの川にも転がる石の話を伺います。

山のなかを流れる須築川に突然姿を現す砂防ダム。写真:稗田一俊
山のなかを流れる須築川に突然姿を現す砂防ダム。写真:稗田一俊

サケ、サクラマス、イワナ、ウグイは川を上り、上流で産卵する。サケは湧き水のある川底に産卵し、サクラマス、イワナ、ウグイは渕から水が流れ出す、「渕尻」と呼ばれる場所で産卵する。こうした魚たちが産卵する川底はとても柔らかい。歩いてみると石がグズグズと崩れる。石のあいだを流れる水は石のあいだの砂粒を吹き飛ばし、石と石のあいだを隙間にする。だから川底を足で踏みつけると石が動き、川底が柔らかく感じるのだ。魚たちはこんな川底に産卵し、その卵は石のあいだで新鮮な水にされされながら育つ。卵を生んだあと死んでしまう魚もいれば、生みっぱなしで知らんぷりしてどこかへ行ってしまう魚もいる。それでも卵は確実に育っていく。卵は親がいなくても育ってしまう。水は高い方から低い方へと流れるだけだ。けれども川底の石のあいだを流れるとき、水は卵を育てる特別な流れになる。言いかたを変えるなら、川底の石が川の水を命を育む流れに変える。

北海道にはサクラマスという資源を保全する目的で、魚釣りなどを規制する保護河川制度があり、北海道南部の日本海側に注ぐ須築川も保護河川のひとつである。1969年、この川の河口から2.8キロメートルほど上流に堤高約10メートルの砂防ダムが建設された。保護河川ゆえに魚道も取り付けられた。ところが、ダム建設前にはサクラマスの水揚げが3億円であったの対し、ダム建設後にはその15分の一の2千万円にまで落ち込んだ。ダム建設後、保護河川のサクラマスが絶滅に瀕してしまったのである。「ダムができる前は川に入るとサクラマスが体にぶつかってくるほどたくさんいた。手で掴んで、川岸に放り投げて捕まえたもんだ。そのサクラマスがいまではいなくなった」、「砂防ダムができてからダムの下流の川底がどんどん掘れて下がってしまった」 地元漁民はこう嘆く。

漁民は「須築川を元の川に戻してほしい」と、1996年に河川管理者の北海道渡島振興局函館建設管理部に対して魚道改築と砂防ダムの撤去、スリット化を要望した。河川管理者は魚類や現況の調査を実施し、魚道改築に向けた調査/設計を手がけ、その間に漁民との意見交換会を開催した。しかしながら河川管理者側は漁民のスリット化の要望にガンとして応じず、漁民側はいまよりも少しでも良くなるのならと、2009年4月にやむなく魚道改築に同意の意向を示した。だが魚道改築で資源の回復がどれだけできるかの説明がないとして、同年11月に同意の意向を撤回し、土砂が漁場に流れ出ても3年でも5年でも我慢する。補償も要求しない。だから砂利を流してほしいとスリット化を切に要望した。

2009年9月の北海道立水産ふ化場の須築川の魚類調査では、サクラマスの成魚はゼロ。砂防ダムの上流でヤマメを4尾確認したに過ぎなかった(北海道新聞2010年1月29日)。サクラマス資源は壊滅状態である。その後2010年におこなわれた河川管理者と漁民との話し合いでは、スリット化に向けた調査や国や道の関係機関との調整に3年、スリット化工事の準備に1年、スリット化の本体工事に3~4年、最終的にスリット化が実現するまで8年以上かかるとの説明がされた。さらに工事の困難さと経費の説明が強調され、やる気のなさを感じただけの説明会だった。住民は須築川を元の川に戻してほしいという願いを込めて、2011年1月21日、〈せたな町の豊かな海を取り戻す会〉を立ち上げた。その後、須築川砂防ダムのスリット化は決まったが、上述のとおり、着手は8年先と先送りされている。サクラマスの生息状況からは早急なる着手が必要なのは明白だが、砂防の専門家や魚類の専門家は行政に追従するだけだ。

須築川と同様に河床低下が進む砂蘭部川。写真:稗田一俊
須築川と同様に河床低下が進む砂蘭部川。写真:稗田一俊
須築川と同様に河床低下が進む砂蘭部川。写真:稗田一俊
須築川と同様に河床低下が進む砂蘭部川。写真:稗田一俊

サクラマス資源が枯れたのは砂防ダムの建設後である。ダムによって砂利が止められたことが原因で、ダムの下流で砂利の移動が激しくなり、川底が掘れて下がり、各所で川岸が崩れ、山の斜面が崩れ落ち、微細な砂が流れるようになった。サクラマスの卵が流されたことや、石のすき間が砂で埋まって卵が窒息したことが容易に推測され、それによって繁殖がうまくいかなくなり、サクラマス資源が枯れたのだと考えられる。もしも魚道が機能せず、サクラマスが溯上できなかったのなら、ダムの下流にはいまでもたくさんのサクラマスが産卵していなければならない。しかし、その姿は無い。ダムがダム下流の石を動かすことで川底の命育む仕組みが壊れ、サクラマス資源が枯れてしまったのだ。川に転がっているごくごくありふれた石。じつはそれらはとても大切な役割をもつ石なのである。そして清く澄んだ水の流れは、生き物たちが共有する命育む水なのである。

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