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タンプラインについて

イヴォン・シュイナード  /  2011年9月26日  /  読み終えるまで7分  /  デザイン

写真:『最もシンプルな解決策』と映画『180° South』からのスクリーン画像

タンプラインについて

写真:『最もシンプルな解決策』と映画『180° South』からのスクリーン画像

今日はパタゴニアの創設者イヴォン・シュイナードが私たちの製造する最もシンプルなギアについて書いたエッセイをご紹介します。1980年にシュイナード・エクイップメント社のカタログに掲載されたものです。

少し前にスキーの展示会に出向いたとき、大手バックパック製造業者のブースの前を通ると、営業兼デザイナーが新しくデザインしたパックを見ろと、強く勧めてきた。たっぷり20分かけて彼はそのデザイン性、優れた負荷分散機能、人間工学的に設計されたSカーブのフレームについて、さらにタングステン・不活性ガスで溶接され、8オンスのパラパック用ナイロンをSuper-Kでコーティングした420デニール素材が使われた、綿加工されたダクロン糸を使って1インチあたり18針で縫い合わされたバックパックについて語った。異常なほどに興奮し、ありとあらゆる航空学的用語を使い果たした彼は、誇らしげな笑みを浮かべながら一歩下がった。そして目の色が次第に元に戻ってくると、「さて、シュイナードさん、いかがでしょうか」と尋ねた。私は肩をすくめてこう言った。「ずいぶん考え抜いてこれを作ったようだね。展示用に詰め物が入った状態だから、たしかに見た目も感触もいい。ただ期待を裏切るようなことを言うようだが、私はいま自分の荷物を運ぶのにタンプラインを使用しているんだ。これさえあれば何を背負っていようが関係ない。こんなにすごい最新テクノロジーを費やしたバックパックでも、ジャガイモ袋でも」

彼はそのコメントに少し苛立ったようだが、どうして私がタンプラインに結論づいたのかわからないようだった。1968年、私はコロンビアのジャングルで浅い川に飛び込んだときに顔面を激突させて首を痛めた。それが片側の首の筋肉を萎縮させ、典型的な腰痛とさまざまな筋肉の痙攣を引き起こした。整形外科やカイロプラクターにも世話になり、腰痛に関するありとあらゆる書物にも目を通した。そして腰痛に関して共通していえることは、ほとんどの腰痛は弱い背筋もしくは腹筋が原因であるということだった。そうか、それなら神経損傷をもつ筋肉はどうやって鍛えればいいのだろうか。私はいわゆるエクササイズのためだけのエクササイズに耐えられない人間だ…。

タンプライン:(語源はアルゴンキン語)荷物を背負ったり引っ張ったりするために額や胸にかけるつり革

腰痛は1978年のネパール遠征まで、徐々に悪化しつづけていった。けれども私はそこで地元の人たちが脊柱の両側に素晴らしい筋肉をつけていることに気づいた。彼らはゆうに45キロを超える荷を背負って、高い峠を越えながら生活している。そしてその荷運びを竹で編んだだけの雑な作りのタンプラインのみで行う。私の腰痛の解決策を思いついたのはそのときだった。どうせバックパックを担がなくてはいけないのだったら、同時に背筋も鍛えればいいのだ。それに、どのみち私は現代的なバックパックを十分に活用できた試しがない。腰にサスペンションが付いたバックパックも、私には平地でしか機能しない。少しでも坂を登ろうとすれば、腰の関節が外れてしまうかのように感じる。けれども重い荷物をショルダーストラップだけで支えようとすれば、肩が凝り、その日の終わりには腰痛が出る。それに胸のストラップを使うと息が出来ない。

それから46日間、私はおそらく存在する荷物運搬方法で最も古く、かつ広く知れ渡った方法、つまりタンプラインを使った。2.5センチ幅のテープ生地を、バックパックの両脇と下に簡素に結びつけたのだ。最初はビラトニガール付近のジャングルで7キロの荷物を1時間担ぐ程度で首が痙攣を起こしそうになっていたが、2週間も経つと14キロを3~4時間も担げるようになった。最終的にマカルーでは冬が到来し、すべての道が深く雪に埋もれたが、この雑な作りのタンプラインで1日中ラッセルしながら23キロの荷物を担ぐことができるようになっていたのだ。腰痛は消え、その遠征から3か月間、まったく腰痛に悩まされることはなかった。しかしサーフィン、テニス、クライミング、そして水泳と活動的な生活を送っていたにもかかわらず、また痛みが再発した。その後エクアドルへの遠征でふたたびタンプラインを使うことによって、同様の効果を得ることが出来た。それ以来、11キロ以上の荷物を担ぐときはタンプラインを使うことにした。この知識をもつようになったいま、腰痛の有り無しに関わらず、もう決していわゆる標準的なバックパックには戻らないだろう。

タンプラインについて

写真:イヴォン・シュイナードとジェフ・ジョンソン。『180° South』からのスクリーンショット

けれども、こう確信しているのは私だけではない。チベットへの遠征では、数人の友人たちをタンプラインに夢中にさせ、腰痛持ちであろうがそうでなかろうが、皆1日の終わりに感じる疲労感が減った。そして彼らは高山で最もその効果が感じられることに気がついた。肺拡張がまったく制限されないからだ。ショルダーストラップがない方が、スムーズなリズムで深く呼吸ができるのだ。

タンプラインについて

いま使っている装備は極めてシンプルである。頭上の5センチ幅の柔らかいテープが下方で2センチ幅に狭まり、調整ストラップがついているもので、ソフトなバックパックにも、フレーム付きのバックパックにも適応する。個人的には頭を前方に傾けて頸筋を鍛えるためにおでこに引っかけるのが好きだが、その努力を軽減するためにはもう少し頭上にかけるべきである。平地や上り坂では荷物の20%をショルダーストラップで支え、下り坂では調整ストラップを締めて、ほとんどをショルダーで支えるようにしている。そうでないと私の弱い膝と頸筋には、急斜面を下りる際には負担が大きすぎるからだ。それにショルダーストラップは荷物の左右の動きを抑える効果がある。

最初にタンプラインを試すときは、慣れるのにしばらく時間がかかることを覚えておいた方が良い。自分自身を順応させなければ、航空宇宙学の時代から急に原始的な時代のアイディアへと戻ることはできない。6061-T351のパララックスフレームへの依存から抜け出して自身の筋力と体力学を頼れるようになるまでには、時間がかかる。時間をかけて築き上げていけば良い。最初に苦痛で困難であるほど、いかに自分の腰が弱いのかがわかる。いずれそれらの筋力は鍛えられる。そして、荷物を担ぐ楽しみが増えるだろう。とくに科学技術の時代から抜け出すことに喜びを感じる者ならば。

-イヴォン・シュイナード

このエッセイを読んでタンプラインを試してみたいと思われた方もいらっしゃることでしょう。残念ながら、現在はパタゴニアの日本サイトからタンプラインをお求めいただくことはできません。けれども皆様のご要望が多ければ、日本のオンラインショップに登場する日が、もしかしたら来るかも?しれません。イヴォンが『180° South』でタンプラインを使う様子はビデオ『最もシンプルな解決策』をご覧ください。

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