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『THE FIRST TRACK』 – 玉井太朗

『THE FIRST TRACK』 – 玉井太朗

2012/01/10 2012年1月10日

Creary_r[ PHOTO:Ryan Creary ]

パラダイスとは辞書によれば天国、楽園、極楽なんてことが書いてある。しかし、そんなものはこの世に存在するのだろうか。初めてオーロラを見て、こんなに素晴らしいものは見たことがないと感激している傍を、空なんか気にもかけていない人が通りすぎていく。ヤシの木陰でビールを片手にうたた寝をしている傍には、見窄らしい格好の乞食が物乞いをしている。大都会の高層ビル群の麓には、最も貧しい貧民窟が広がっていた。色々な場所で対極的なコントラストを見てきたが、要するにパラダイス、天国、楽園とは場所のことでもモノのことでもないようだ。

セバスチャン・サルガドの有名な一枚で、戦争や紛争で傷ついた人々を朝の美しい光が取り巻いている写真がある。私はその写真を見て、素直に美しいと思った。

光は誰にでも平等に降り注ぐ。どんな過酷な状況に置かれても人間は生きていかなければならない。その光をどのように感じるのかが重要なのだと私は思う。たとえば私は波乗りを裸で行うものと考えていた。暖かい海、熱帯の色彩、開放的な空気。誰もが憧れるパラダイスの象徴とも言うべき景観。海は当然のように人で込み合う事になる。それは私の求めていたものなのだろうか?いつしかそのような疑問が生まれてきた。

私はスノーボードと出会ったおかげで北を目指す原動力を持ち合わせていた。完璧な雪を求めるあまり北海道に移住し、そこで出会った冷たい海。誰もいないパーフェクション。水はきりりと冷たく身が引きしまる。他者を気にする事が無いため全てが自分対うねり、潮、風といった自然そのものになる。波が打ち寄せるリズムを感じるその時と、ゆっくり思惑なしに対峙する。これだと決めた一期一会の波にドロップし、間違えがなければ一体化し、さもなければワイプアウトをする。子供の頃に身近な自然と一体化したあの感覚。そこには今の私にとっての楽園があった。

結局、かなり個人的な問題だから、自分で見つけ出すしかない。そこへの道を見つけ出し、それを見失わなければ、何をしようとも、どこで生きようとも笑顔を絶やさずに生きていけるのかもしれない。自分に正直に生きることが、パラダイスへの一番の近道ではないだろうか。

– 『THE FIRST TRACK』/「パラダイス」

Valdez[ The Books Vardez Alaska, 2009 March  PHOTO: Taro Tamai ]

“ファースト・トラック”とは初めについた足跡の事である。それは道無き道を行く事を意味する。ファーストディセントともなれば、その価値は2番手と比べることなど出来ない。過去に前例がなく、成し遂げた者など誰もいない。誰にも想像もつかなかった事、考えも及ばなかった事を実現するからだ。そのためには、一歩一歩、一挙手一投足、全てに全身全霊をかけて行う(行わなければならない)事が求められる。

無垢な魂が心の命ずるままに真理を求める。多くの場合、歴史の陰に沈んでいくものもある。しかし、その中身が本物である限り、いつの日か正当な評価は得られるものだ。坂本龍馬が「世の人は我を何とも云わば云え我が成すことは我のみぞ知る」と詠んだように、その先に見えているものを信じて道無き道を行く者にとってのモチベーションは、そこにあるのだ。

– 『THE FIRST TRACK』/「道無き茨の道を行く」より一部抜粋

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スノーボードの創世期から伝説的なライディングや活動で知られるパタゴニアのアンバサダー、玉井太朗。北海道ニセコを拠点に、アラスカ・ヴァルディーズの開拓メンバーの1人として名を連ね、極東ロシア、中央アジアのモンゴル、ウズベキスタン、南米のペルー、チリ、エクアドル、アルゼンチンなど、世界各地のシークレットスポットに数々のトラックを残してきました。その玉井太朗の28年間を収めた写真集『THE FIRST TRACK』が完成したのは昨年12月。玉井太朗は語ります。雪、山、海というフィールドを舞台に世界中を旅する目的は、「その時、その場所にいる事」。13名の写真家による108枚の写真や玉井本人による書き下ろしエッセイから、いまなおファースト・トラックを刻みつづける玉井太朗の開拓精神の真髄を垣間見てください。

また、『THE FIRST TRACK』の写真展が1月25日(水)~2月29日(水)に東京の「SLOPE GALLERY」にて開催されます。こちらもぜひお立ち寄りください。

THE FIRST TRACK

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