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Photo: Patagonia Historical Archives
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ビジネスにより大きな「責任」が求められるとき

2012/09/10 2012年9月10日

ゲストコラムニスト:イヴォン・シュイナード/ヴィンセント・スタンレー

*この記事は2012年7月11日(水)のYahoo!Financeに掲載されたものです。

Photo: Patagonia Historical Archives
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責任ある会社をはじめるためにビジネスの世界に入るという人はいないでしょう。人は何かに対する特別な思い入れや、有望なアイデア、あるいは投資するお金があるから、リスクを承知で事業に乗り出すのです。やりたいことをやって富を築いたり、あるいは生計を立てるために、ビジネスに着手するのです。

私たちが40年前に衣類を輸入しはじめたとき、パタゴニアは「責任のない会社」のはずでした。薄利ながら当時世界最高のクライミング・ギアを製造していたシュイナード・イクイップメントの単なる付属会社であり、衣類の売上でクライミング・ギアの製造費用が賄えられればいいという公算でした。衣類販売はコークス炉もいらなければ分割返済を要求する高価なダイスも必要もなく、アルミのくずが中庭の舗装に積もったりして新たに設立された環境保護庁に目をつけられることもありません。じつに簡単できれいな仕事であり、またクランポンやアイスアックスと異なり、爪やピックが金属疲労で破損し、友達にけがをさせるかもしれないという心配もいりません。クライミング・ギアの製造は責任重大ですが、衣類の取り扱いは気軽で面白いだろうと考えたのでした。

しかしフラナリー・オコナーが作家に言った「見逃してもらえるなら何をやってもよい。だが、報いを受けないことはほとんどない」というアドバイスは、ビジネスにも当てはまるということがわかりました。私たちは相互依存の世界に住んでいます。作家が読者に明瞭な考えを伝えなければならいのと同じように、実業家は他人に対して責任があるのです。そしてこの相互依存の世界を維持し、支えているのは自然界です。

問題の発覚
パタゴニア創設当時の社員は大半がクライマーかサーファーだったため、ほんの50年前までは人間の手など届きそうもないように思えた野生の場所でさえ自然が傷つけられているという状況を早い時期から見てきました。樹齢千年のシエラの木々がロサンゼルスのスモッグに枯れ、また源流の氷河が後退するのを目にし、そして川のトラウトが小さくなって数も減少しているのに気付きました。

ですから私たちにとっては、環境税という意味で毎年売上の1%を土地や川の保護に取り組む草の根環境保護グループに寄付することは困難ではありませんでした。しかし長年、私たちはみずからの業務やパタゴニアの名のもとにサプライチェーンでなされる社会的・環境的損傷には目を向けていませんでした。それは他人の問題だったのです。カタログに使用する紙のように直接管理する要素に関しては分析調査を行い、高画質写真を印刷できるリサイクル紙の開発にも協力しましたが、環境問題に関して、じつはもっと深く掘り下げる必要があると気付いたのは、新たにオープンしたボストン店の従業員が勤務中に頭痛を訴えてからでした。店舗の空気質を分析してみると、欠陥のある換気装置から排出されるホルムアルデヒドが従業員の頭痛の原因となっていました。

そして意外にも店内のホルムアルデヒドの出所はコットン製品の縮みを防ぐために工場で施される仕上げ加工であることがわかりました。

この事実に驚いた私たちは、早速パタゴニア製品に使用する4つのおもな繊維の分析調査に乗り出し、その結果、栽培時に大量の農薬が使われる「ナチュラル」なコットンはポリエステル以上に環境に悪影響を与える繊維であることが判明しました。同時に、この現状を変えることができるということも学び、それから2年をかけてパタゴニア製品に使用するコットンをすべてオーガニックコットンに切り替えました。その過程ではそれまで他人まかせだったサプライチェーンに関する知識も身につけ、またオーガニックコットンへの切り替えで学んだことを応用してその他の側面でも無駄や不要なコストの削減を実現させました。

責任を負うことは流行っている
この15年のあいだ、私たち以外にも責任を果たそうとしている企業があることを知りました。

どんなビジネスもさまざまなプレッシャーに直面します。それは必ずしもみずから課したものではなく、大学や機関投資家から、あるいは意義深い仕事を追求する若い社員から、また過酷な労働慣行や粗末な環境対策を告発する活動家からのものもあります。それゆえ現在では、標準機構、財団、そして世界有数の大企業までもが、企業がその事業が社会に及ぼした害の分析を義務づけられるトリプルボトムラインの採用を提唱しています。

多数の社員を抱えて長期的な展望を持つ大企業は、今後数十年のあいだに直面する資源制約がいかに深刻であるかを把握しています。人口が20億増加し、潜在的に数十億人が現代の高消費経済に加わることになる40年後に自然が世界に課す制約を、すべての大企業が認識するようになったのです。

そして、複数の企業が共同で取り組めば正しい行動を実践するためのコストを最小限に抑えることができる、という事実にも気付きはじめています。パタゴニアが参加する〈サスティナブル・アパレル・コーリション〉(世界の衣類およびフットウェアの3分の1を製造/販売している企業がメンバー)は、社会的・環境的実績に準じて製品を評価し、その評価をメンバー企業の製品製造計画に組み込み、最終的には製品が消費者に及ぼす影響を知らせることを目指しています。これは私たちが苦労して築いたシンプルかつ信頼できる過程です。もちろんこの種の仕事をするために事業をはじめたメンバー企業はありません。しかしこれはサスティナブル(持続可能)という名にふさわしい経済に向けての第一歩であり、メンバー企業全社が正当に自慢できることであり、そして希望をもつことのできる根拠なのです。

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イヴォン・シュイナードは著名なアルピニストであり、パタゴニア社の創設者兼オーナー。同社はアウトドア、サーフィン、スポーツウェア、クライミング・ギア、フットウェア、アクセサリーを製造・販売する一流企業で、昨年度の売上は5億ドルを超える。また年間売上の少なくとも1%を環境保護グループに寄付することを誓約する企業アライアンスである〈1%・フォー・ザ・プラネット〉の共同創設者でもある。

ヴィンセント・スタンレーはパタゴニア社のマーケティング担当副社長。1973年の創設以来、断続的にパタゴニア社で勤務し、同社のフットプリント・クロニクルの開発に尽力した。また長年にわたり同社の卸売ビジネスの副社長を務めてきた。

ふたりの共著である『The Responsible Company』では、パタゴニアでの40年にわたる経験 と他の会社の現行の取り組みについての知識をもとに、私たちの時代における責任あるビジネスの要素について語られています。日本語版は2012年12月発売予定。

クライマーでもあるイヴォン・シュイナードが自分自身の人生について、そして車のトランクに積み込んだ手製のピトンを旅先で売るというビジネスの出発点から現在までを綴った『社員をサーフィンに行かせよう – パタゴニア創業者の経営論』はこちらからお求めいただけます。

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