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「クローム金属のような光を発した」斜面に残された「黒いシュプール」 キャプチャー:『icon 7』より
「クローム金属のような光を発した」斜面に残された「黒いシュプール」 キャプチャー:『icon 7』より

die schwarze spur(黒いシュプール)

By 関口 雅樹 (ebis films 代表)   |   2012/11/14 2012年11月14日
「クローム金属のような光を発した」斜面に残された「黒いシュプール」 キャプチャー:『icon 7』より
「クローム金属のような光を発した」斜面に残された「黒いシュプール」 キャプチャー:『icon 7』より

2001年に最初の作品『icon』を発表して以来、スキーやスノーボードを題材にした映像作品を制作してきた。

映像を学んだ経験はない。かつてはスキーバムと呼ばれる滑る側の立場だったのだが、あるきっかけで雪上での撮影のアシスタント「脚持ち」をすることになり、スキーバム生活をつづけながら仕事の依頼があるとよろこんで三脚を運んだ。被写体としての滑り手とカメラマンとの現場でのやり取りに参加したうえで、その結果残される映像を完成した作品として観ることができるのはとても贅沢なことだったし、何よりもその現場の緊張感と達成感にすっかり魅了されてしまったからだ。

お世話になったカメラマンと相性が良かったこともあり、3シーズンほどそのような生活をつづけながらカメラマンのすぐ後ろで撮影風景を眺めているうち、自分でもファインダーを覗いてみたくなった。北米やヨーロッパのスキーフィルムはすべて滑る側の人間によって制作されているのを知っていたし、被写体になる滑り手は自分の周りに沢山いたので、漠然とではあるが何とかなるのではないかと考え、みずから撮影をはじめたのは15年ほど前のことだ。素人同然の僕がこうして好きな題材だけを撮りつづけられたことに自分自身とても驚いているし、同時にとても恵まれていると感じる。

はじめの5年ほどは毎年一作品を発表していたのだが、ここ数年は2年に一作品を発表している。
毎年というのはあまりにも忙しすぎるので、自分にとってはちょうど良いペースだと思う。そしてつい最近、2年ぶりに新しい作品『icon 7』を発表したばかりだ。

冬のあいだ、おおむね12月から翌年の5月頃までの約半年間撮影をつづけるのだが、二冬に一回、つまり一作品を制作するうちに一回くらいの頻度で最良のコンディションの日が訪れる。多くの場合、それは良く冷えた真冬の夜に風もなく、しんしんと雪が降り積もった翌日の深雪なのだが、今回の作品におけるそれは4月半ばの良く晴れた春の日だった。

春の雨が降ったあとで少しだけ気温が下がったときなどに、「フィルム・クラスト」と呼ばれる、水分が雪の表面で凍って薄い膜(この薄さが重要で、あまり厚すぎては良くない)になった状態になることがごく稀にある。程よい厚さのクラスト斜面は、深雪とはまた違った浮力を楽しむことのできるコンディションであり、そのなかでもフィルム・クラストはおそらく良い深雪に出会うよりもさらに貴重なコンディションなのではないか、と僕は思う。

2011年の4月、北海道ニセコのイワオヌプリで完璧にフィルム・クラストした斜面に遭遇した。とくにその状況を期待していたわけではなかったので、まさに遭遇したという感じだった。滑り手はテレマークスキーの高梨穣とアルペンスキーの秋庭将之。高梨はまるで白波のように押し寄せてくるスプレーと戯れるようにゆっくり大きくターンしながら滑り、元ダウンヒル・ナショナルチームに所属していた秋庭将之は、いつも通りのスピードで桜吹雪のようなフィルムの破片をまき散らしながら、あっという間に滑り降りてきた。

telemark skier: Yutaka Takanshi キャプチャー:『icon 7』より
telemark skier: Yutaka Takanshi キャプチャー:『icon 7』より
skier: Masayuki Akiba キャプチャー:『icon 7』より
skier: Masayuki Akiba キャプチャー:『icon 7』より

逆光に光り輝く斜面のあまりの美しさに、滑り手たちは二度三度と登りかえしては滑り、僕は終始興奮しながら撮影をつづけたのだが、じつはこの斜面を見たときに、ある写真が僕の頭のなかに浮かんでいた。1965年に発刊された三浦敬三先生の写真集「黒いシュプール」の表紙に使用された一枚だ(僕はかつてミウラドルフィンズに在籍したことがあるので、敬称を先生とさせていただく)。もはや説明する必要はないのかもしれないが、敬三先生は青森の営林局在職中に数々の八甲田のツアールートを開拓し、退職後はさらにスキーへの関わりを深めながら101歳まで滑りつづけ、スキーを探求しつづけた我々の大先輩であり、また三浦雄一郎先生の父親である。

目の前の斜面は写真集の記述にある通り「クローム金属のような光を発していた」し、滑り手の残したそれはまさに「黒いシュプール」だった。僕はその写真をイメージしながら、少々極端な絞りで撮影した。

数年前、まだご存命の敬三先生に作品を観ていただく機会があった。敬三先生は画面に映し出される映像に文字通りクギづけになりながら、クリフを飛び降りるようにまるで子供のように驚き、深雪を滑走する姿に喜び、そしてグリーンランドやアラスカの未知の斜面に思いを馳せられていた。僕はこのときの先生のひとつひとつの表情が忘れられない。これまで自分がつづけてきた活動が間違っていないという自信を与えてくれたこの出来事は、僕にとって本当に幸せな時間だったからだ。先生は撮影や編集技術ではなく、滑り手の素晴しいパフォーマンスとその場の空気、匂い、気持ちといったものが多少なりとも表現されていたことによろこばれていたのだ、と僕は勝手に解釈している。

この春の日の一連のフッテージをまとめたパートの題名は、敬三先生に敬意を表して「die schwarze spur」(黒いシュプール)とした。まだまだ十分ではないにせよ、この題名を敬三先生に許していただけるのではないかと思う。

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die schwarze spur(黒いシュプール)

『icon 7』
riders:河野克幸、河野健児、浅川誠、高久智基、石橋仁、美谷島慎、丸山隼人、佐々木大輔 他
DVD/16:9/50分/2012年作品
定価 ¥4,200(税込)
パタゴニア直営店およびオンラインショップにて販売しています(オンラインショップは11月16日(金)より)

なお、パタゴニア直営店では下記の日程で『icon 7』上映会を開催します。ぜひお越しください。

11月16日(金) 19:30~ 仙台ストア (要予約:定員40名)
11月20日(火) 19:45~ ゲートシティ大崎ストア (要予約:定員80名)
11月28日(水) 20:00~ 大阪ストア (要予約:定員40名)
11月30日(金) 19:30~ 名古屋ストア (要予約:定員40名)
12月5日(水) 20:30~ 神田ストア (要予約:定員40名)

お問い合わせ/ご予約は各ストアにて (上記、日程横のストア名をクリックしてください)

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