クリーネストライン


鋼鉄の頭

鋼鉄の頭

2012/11/19 2012年11月19日

by  赤星明彦

スキーナ画像 007

スチールヘッド。鋼鉄の頭をもった魚。北米を中心に繁殖する降海タイプの虹鱒。大きなものは体長1メートルを超え、重さも20キロ以上にもなり、その引きと跳躍は桁外れにパワフル。さらにその美しい魚体。そして釣り上げることのむずかしさ。まさに釣り人の憧れの魚。

私は仲間数人とこの魚を釣り上げるべく、カナダのブリティッシュ・コロンビア州を流れるスキーナ川へ遠征した。今年は例年になく早い冬の訪れで、氷点下を下回る気温の厳しい条件のもと、一日中、川に立ちつづけた。

13フィート余りのダブルハンドロッドをひたすら振りつづけ、寒さにしびれる指先に息を吹きかけるたびに周りを見渡すと、そこには人工物はまったく無く、護岸もされていない。崩れてむき出しになった川岸と激流に押し倒された針葉樹が、川面に突き刺さる風景。そう、この川にはダムも無ければ護岸もされていない自然そのままの姿、まさにウィルダネスが残っている。過去の長いあいだ、スチールヘッドたちは海とこの川を行き来し、成長し、子孫を繁栄させてきた。

【スキーナ川の川辺からの風景 写真:足立信正】

そんなスチールヘッドも一時期、乱獲でその数を激減させた。その後、みずからの誤りに気づいた人間たちによって手厚く保護され、いまは個体数も増えて遡上を繰りかえす。そんな彼らとロッドを通して行う真剣勝負には、厳格かつ絶対的なルールが存在する。1日に川に入ることができる人数は制限され、かなり高額な(高いか安いかの感覚は人それぞれだが…)ライセンスを事前に申請して取得。そうしてはじめて川辺に立てる。日本のような現場売りなどはない。さらにルアーだろうとフライだろうと、シングルフック(1本針)でバーブレス(返しの無い針)の使用を義務付けられる。そして、徹底したキャッチ&リリース。釣り人を楽しませてくれた魚をリリースする際には、迅速かつ丁寧に、魚に極力ダメージを与えないようにとフィッシングガイドから促される。もしこれらのレギュレーションに違反すれば、釣り道具は没収され、驚くべき額の罰金が科せられる。

ラン(魚が集まるポイントの流れ)からランへボートで移動してスチールを追いながら、スキーナ川でふと考えたのは、この春遠征した北海道へのイトウ釣行。日本でもイトウをはじめ、個体数が激減して危機が叫ばれている魚たちがいるが、手厚く保護されているのだろうか。イトウだけでなく、他の魚たちやその生息環境はきちんと守られているのだろうか。たとえば日本でもサクラマスサツキマスといった降海タイプのトラウトが生息しているが、実際に遡上するときには人間によって作り出された多くの障壁がある。砂防堰堤やダム、護岸、汚水の垂れ流しなど。たぶん、ある面ではスチールヘッドたちとは比較にならない大変な条件下で子孫を繁栄させ、生息している。また釣りに関するレギュレーションも不十分で、残念ながらマナーにも問題が残る。

人が自然のなかで遊ぶことの素晴らしさはいうまでもない。アウトドアでの活動は私にとっても生きがいである。しかし、そのためには人間本位の姿勢を改め、つねに自然に対して畏敬の念をもち、そして厳格なまでのルールとシステムを構築して、後世まで人が自然のなかで楽しめるような環境を作らないといけない。ところが果たしていまの日本にはそれがあるのだろうか。金銭に絡む問題や不明瞭な行政のシステムで自然が破綻し、ときには釣り人みずから自分の首を絞めているような気がしてならない。これはいま日本でブームになっている登山でも同様のことがいえるのではないだろうか。

キャッチしたスチールヘッドをリリースするときのフィッシングガイドたちの優しい眼差しと慈愛に満ちた表情はいまも心に残る。またふたたび、スチールヘッドの神々しいまでの魚体に、そしてその鋼鉄の頭に、触れてみたい。そんな思いを残して日本へ戻った。

スキーナ画像 004【バンクーバー空港から、目的地テラスへ向う】

スキーナ画像 005【スキーナ川本流】

スキーナ画像 006【スキーナ川のポイントに向うジェットボートより】

スキーナ画像 008【早朝、川面より霧が立ち込めるケイラム川】

スキーナ画像 009【足立氏とガイドのトッドとのセルフポートレイト ケイラム川下流】

スキーナ画像 011【ラフトでケイラム川を下りながらポイントを目指す】

スキーナ画像 013【スキーナ川の入川口付近にて】

スキーナ画像 014【倒木とロッド】

スキーナ画像 015【ケイラム川でキャスティングを繰り返す】

スキーナ画像 016【ケイラム川であたりを待つ】

スキーナ画像 017【氷点下の川辺でキャスティングを繰り返す釣り人】

スキーナ画像 018【護岸も無く水流に削られた川岸が露出しているケイラム川】

 

スキーナ画像 021【ウイルダネスが残る川岸と冠雪したばかりの山々】

【ここまでの全写真:足立信正】

—————————————-

パタゴニア名古屋のオープンと同時に2002年に入社して以来、名古屋ストア勤務一筋10年となる赤星明彦は、幼少時のフナ釣りからはじまり、渓流、磯釣り、アユ釣り、ルアーと一通り釣りの経験を積むも、大学卒業後にたまたま雑誌で見たフライフィッシングに興味を覚え、他の釣りをすべてやめるほど傾倒して早くも25年。年数のわりにはいまだ上達しない腕に悩みながら釣行を重ねる。年間を通じて、フライフィッシングであればジャンルを問わず手を出し、世界中どこへでも魚を追いかけつづけている。

スキーナ画像 001
【メスのスチールヘッド スキーナ川支流ケイラムリバーにて 写真:柳下肇】

 

コメント 0

関連した投稿

« »