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第3回ツール会議参加者。写真:佐藤光夫
第3回ツール会議参加者。写真:佐藤光夫

キープの森で生まれたツールの森

By 中西 悦子(パタゴニア日本支社 環境部)   |   2012/12/20 2012年12月20日
第3回ツール会議参加者。写真:佐藤光夫
第3回ツール会議参加者。写真:佐藤光夫

「当方の会員の主力はサラリーマンです。近時の経済状況から日曜出勤は当たり前、有給休暇も簡単には取れません。日時のすりあわせは、残念ながら出来ませんでした」 日本の環境団体のメンバーの多くが専任ではなく別の仕事をもち、自分の時間の一部、もしくは大部分をその活動に充てています。そのため活動のために遠くはなれた場所に向かう費用や時間を割くのも、なかなかハードルが高い状況です。しかも、目の前で起きた問題の解決に動き出したときには、道具箱に何が必要かなど考える時間もなく飛び出した市民活動家たちは、パタゴニアの創設者であるイヴォンの言葉を借りれば、「手作りバザーのような規模で、大企業の弁護士チームと戦わなくてはならない」状況にあります。

だからこそ、効率よく行動するために効果的な戦略を構築し、メッセージを明確化し、そしてそのメッセージを伝える妥当な手段を見つける必要があります。けれどもそのとき道具箱に適切なツールがなくては効率よく行動することはできません。経験豊かな専門家と環境活動家を講師に招き、より効果的な活動家になる秘訣を学んで、実践してもらうための「草の根活動家のためのツール会議」を、日本では第3回となる2012年11月末に公益財団法人キープ協会運営の清泉寮にて、短く長い2泊3日の日程で実施しました。

基調講演者には、日本で初めての本格的なダム撤去となる荒瀬ダムの撤去運動や川辺川ダムの見直しを地元のさまざまなステークホルダーを巻き込みながらオーガナイズしてきた、つる詳子さん。色々な立場や利害のある地域住民や市民運動が、ときに自由に、ときにまとまりながら、地域において撤去に向けた機運をつくりあげ、それを実現するまでのストーリーを共有してくれました。漁業権の訴訟へ持ち込むために立ち上がってほしいと漁師の家へ通い走りまわり、議員や新聞論説委員へのファックスに月10万円を超えた通品費を使い、任せたい人のところへ行って頼み込んで役割をお願いする。その行動力には頭が下がるだけでなく、草の根の市民活動の重要性と力に勇気をもらい、胸が熱くなります。そして今回のツール会議のテーマのひとつであるネットワーク型の環境活動の進め方を、フェイスブックツイッターもない時代から独自に「生態系をつくること」として実践されたセンスに、講師陣までもが驚かされました。現在のつるさんは新たなツールも見事に使いこなし、さらなるネットワークの構築につながっています。

基調講演者のつる祥子氏。写真:佐々木聡
基調講演者のつる祥子氏。写真:佐々木聡

長い活動はときにその道の険しさと社会の状況から、誰にも必要とされていないことをしているのではないかという不安がつきまといます。会議初日のイントロダクションでは、参加団体にそれぞれの活動年数を聞きました。1年、3年、5年・・・そのなかで「10年以上活動をつづけている方」にも多くの手が上がりました。つづいて講師陣のひとりから出たのは「環境団体は反社会的な存在。マイノリティです」という言葉。「環境が悪化しているスピードに対して、もし環境団体がしていることがそれまでと同じで成長がなければ、悪化を食い止めることはできないことになります」 講師が環境の悪化の急な曲線と団体の成長の緩やかな曲線をあらためて描くと、成長志向の必要性が示されます。そして「いまは反社会的な存在であっても、それは通過点であり、長期的にみれば社会的ですよね。皆さんが長期的な目標としているのは、新しい合意できる未来のはず」とつづき、ビジョンとは何であるか、組織のビジョンを再確認します。勉強会やシンポジウムはやればやるほど課題が複雑にみえてきて、「むずかしい」、あるいは「問題が大きすぎる」と、かえって行動できなくなる状況を多く見掛けます。情報をさらに情報にする「教育」と情報を行動にかえていく「キャンペーン」は大きく異なります。情報を行動へ集約していくのが「キャンペーン」であると伝えられると、参加者は目から鱗が落ちた様子でした。

今回の会議の構成を表す木。写真:佐藤光夫
今回の会議の構成を表す木。写真:佐藤光夫

根の張った、幹のしっかりとした木に枝が伸び、葉がつき、実がなり、その周囲に多くの動物や鳥や昆虫がやってくる。これは1枚のイラストで伝えられた今回の会議の構成です。木の根は「ビジョンの実現やビジョンの理解」、葉っぱにあたるのは「キャンペーン戦略」、樹木にあつまる動物や鳥や昆虫は「巻き込むコミュニケーション」、リンゴの絵で描かれた実の部分は「組織の表現」を表しています。息のあった講師による連携や、そうした講師陣のそれぞれ少しずつ重なり合うメッセージが盛り込まれたワークショップでは、ひとりひとりが多角的に何度も組織や自分自身や活動を見つめなおし、新たな「小さな物語」をつむぐことをはじめました。

「さらにスピードをあげて解決に向けて動くためには、少しだけ背負ってきたものをおろす時間が必要だった」と2日目のKAZZさんの音楽の時間に心を開放し、コミュニケーションを実践する参加者。写真:佐々木聡

「さらにスピードをあげて解決に向けて動くためには、少しだけ背負ってきたものをおろす時間が必要だった」と2日目のKAZZさんの音楽の時間に心を開放し、コミュニケーションを実践する参加者。写真:佐々木聡

テーマごとに発見し、学んだツールを書き込み、その木をさらに全員で共有すると、それは森になっていました。ツールの森です。講師だけではなく、参加者ひとりひとりが活動のなかで創り上げてきたさまざまなストーリーや情熱、そしてアイディアを持ち寄ることで生まれた森です。写真:佐々木聡
テーマごとに発見し、学んだツールを書き込み、その木をさらに全員で共有すると、それは森になっていました。ツールの森です。講師だけではなく、参加者ひとりひとりが活動のなかで創り上げてきたさまざまなストーリーや情熱、そしてアイディアを持ち寄ることで生まれた森です。写真:佐々木聡
会場には参加団体のコーナーを設置し、互いの活動や問題について知っていただく機会としました。これは「伊賀・水と緑の会」の展示。写真:佐々木聡
会場には参加団体のコーナーを設置し、互いの活動や問題について知っていただく機会としました。これは「伊賀・水と緑の会」の展示。写真:佐々木聡

心の火種に薪がくべられ、ふたたび燃えはじめているかのように、いま環境部門にはお礼がわりの具体的な協議やアクションの報告が届けられはじめています。今日の事務局会議では、来月の新年会「伊賀の水と緑の5年後」を福娘に負けないくらいの絵にしてみよう、と話しました。それが実現され、目標を達成してその先にある問題が解決されたときこそが、第3回草の根活動家のためのツール会議の本当の成果といえるでしょう。

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