クリーネストライン


 フィッツロイ山群。写真:横山 勝丘
フィッツロイ山群。写真:横山 勝丘

スカイライン – パタゴニアとの付き合い方

By 横山 勝丘   |   2013/02/28 2013年2月28日
 フィッツロイ山群。写真:横山 勝丘
フィッツロイ山群。写真:横山 勝丘

パタゴニア社のロゴを見せて、「このロゴを知っているか」と聞くのはあまりにバカげた質問かもしれない。それぐらいあのスカイラインのロゴは、パタゴニア社の顔として毅然と君臨している。でもどれだけの人がパタゴニアという名前の由来を知っているのだろうか。小さいころから山のことばかり考えてきた僕にとって、パタゴニア=衣料ブランドという図式はそもそも存在しない。僕にとってパタゴニアは「南米最南端に位置する、荒々しい山と氷河に覆われた土地」だし、それはいまでも「あまり」変わらない。では本題。あのスカイライン、何という名前の山なのだろう。

答えはフィッツロイ。いや正確には、ここに描かれたスカイラインはじつは7つのピークによって構成されていて、これらすべてを合わせて「フィッツロイ山群」と呼ぶ。そして真ん中のいちばん高くて目立つピークがフィッツロイというわけ。遠くからでも目立つこの山は、昔からクライマーにとっては憧れの対象だった。初登頂は1952年、フランス人によって達成された。1968年にはイヴォン・シュイナードたちが、カリフォルニアからはじまった旅の最後にこの山を登った。そのルートは「Ruta de los Californianos(カリフォルニア・ルート)」 、もしくはその遠征名にちなんで「The Fun Hog Route」と呼ばれている。

2012年1月、はじめてこの場所を訪れた僕たちは、まさにパタゴニア初心者。悪天候の影響も重なり、結局やりたいことを何もやれないまま終わってしまった。次に訪れるまでにはもっと強くなって、何がしたいのか具体的に考えないと…そう心に決めたのだった。そのころ僕を含めて6人のパタゴニア・アンバサダーたちが麓のエル・チャルテンにいたのだが、会話の中から彼らがどのようにこの山に取り組んでいるかを垣間見た。たとえばコリン・ヘイリー。彼は7つのピークすべてをソロで登頂した最初の人間になった。マイキー・シェーファーはこのすべてに自分のルートを拓きたいと話す。「いま5つなんだ、来年くらいには終わるかな」 達成したからって世間からの称賛が得られるわけでもないし、クライミング的にも大ニュースではない。ましてやメーカーの宣伝のためでもない。自分自身の楽しみのためだけにやっているにすぎない。言い方を変えれば、それが彼らなりのこの山との付き合い方なのだ。僕は一度の旅で、この山に惚れ込んでしまった。ここでのクライミングは決して冒険的ではないが、発想ひとつでクライミングを面白くできる、その可能性の大きさが気に入った。

僕なりのこの山との付き合い方はないだろうかと考えた。そして真っ先に思いついたアイディアが、このスカイラインを一筆書きする、つまり北の端から南の端まで縦走しようというものだった。これまで成し遂げた人間は誰もいない。それをトライしたという話すら聞いたことがない。そもそもどれだけむずかしいことなのか、どれだけ価値のあることなのかさえもわからなかった。「誰かが本気で考えはじめる前にやってみよう」という抜けがけの気持ちがぼくの心に芽生えたのだ。

3日目、フィッツロイ北ピラーを登る横山。写真:増本 亮
3日目、フィッツロイ北ピラーを登る横山。写真:増本 亮
北ピラーの頂上でくつろぐ横山。眼下には先日登ったポローニ山群が見える。写真:増本 亮
北ピラーの頂上でくつろぐ横山。眼下には先日登ったポローニ山群が見える。写真:増本 亮

11月。30年以上にわたってこの地でクライミングをつづけるローランド・ガリボッティ(通称ロロ)からメールが届いた。「今回は縦走をするみたいだけど、いったいどこへ行くんだ。フィッツロイか?」 僕はドキリとして、一瞬身がまえた。これはトップシークレットなのだ!正直なところ僕だって、7つを繋げて縦走するなんていうのは一種の夢物語なんじゃないかと疑心暗鬼になっていた。だから他人にそのアイディアを語るのが、少しばかり恥ずかしくもあったのだ。「うーん、そうね。まあケアベアトラバース(前半の3座縦走)ができれば上出来かな」 そうやってお茶を濁したけれど、すぐにバレるウソをついてしまった小学生のような気分だった。

12月。数か月ぶりに訪れたエル・チャルテン。ロロにお願いしておいたアパートは、彼の家の向かいだった。それに同じアパートにはパタゴニア8年目のコリンまでいる。トップシークレットがバレるのも時間の問題だ。年末の好天周期にヘトヘトになるまでクライミングをした僕たちだったが、正月の悪天周期を街でやり過ごすと、体にエネルギーが戻ってきた。天気予報が高気圧の到来を告げている。隣人のロロとは毎日のように会う。「そろそろケアベアだろ、情報いるか」と彼が尋ねる。ケアベアを2度登っている彼の言葉はよどみない。1の質問をすれば10の答えが返ってくる。「あとはフィッツロイ山頂から南東稜を下るだけだ。以上だ、ジャンボ」 そのタイミングを見計らい、ぼくは切り出した。
「じつはさ、もし天気が良かったら…」
すぐに彼が切り返す。
「その先に行くのか」
「なんでわかるのさ」
「当たり前だろ、誰だってあの縦走は夢見るものだ。俺だって2回挑戦している」
そう言って彼は、僕を家に招き入れて、その先の説明をはじめた。「でもさ、これだけ長いと飽きちゃうかもね」 なんの気なしに発した僕の言葉に、彼の顔色はみるみる変わった。「飽きる?何を言っているんだ、ジャンボ。こんな最高の冒険は他にはないだろう!この縦走はな、フィジカルの問題じゃないんだよ。サイコロジカルな部分こそが核心なんだ」 僕はくだらないことを言ってしまったと反省した。そう、この山で大きなことがしたい、熱中できるなにかがほしい、だからこそぼくはこのアイディアをもった。そしてロロもまた、いまだに同じ夢を見ているのだ。彼の家を出ると、気分が軽くなっているのがわかった。いままで隠し通してきたのがバカらしくなってきた。そのまま街に向かって歩きだすと、コリンに出くわした。
「ようジャンボ、今度のウィンドウはどこか行くのか」
「うん、フィッツロイ行くよ」
「ケアベア?」
「いや、フィッツロイ縦走だ」
今度は臆せずに言った。
「おお、全部か!?」
「そう。コリン、お前はやったことがあるのか」
「当たり前だろう!」
そう言って彼もまた、そのときのストーリーを嬉々として話しはじめたのだった。

3日間かけてぼくたちはフィッツロイを越えた。でもまだ、全行程の半分をトレースしたにすぎなかった。残念なことに、持参した2本のロープは登攀続行不可能なまでにボロボロになっていた。どう都合良く考えても、これ以上先に進むのは不可能。そうしてフィッツロイ先のコルから僕たちは稜線をはなれた。意外にも悔しい気持ちは少なかった。ちょっとした安堵感と、それ以上にメラメラと新たなモチベーションが込み上げてくるのがわかった。

今回はここまで。フィッツロイを下降する横山。写真:増本 亮
今回はここまで。フィッツロイを下降する横山。写真:増本 亮

僕はこの山に、長くて美しい一筆書きを描きたい。クライミングにかぎらず山の世界には、「ライン」という言葉が存在する。クライマーが描くラインもあれば、スキーヤーが描くラインもある。こう書くと、なんだか優雅で繊細な画家にでもなったようだが、そんなものではない。山にラインを描くというのは、もっとドロドロとした心の葛藤や、もっと無様な困難との闘いまでも内包している。だからこそ、行為そのものが意味をもつ。ラインは、そのオマケにすぎない。フィッツロイ縦走もまた、それなのだ。情熱を傾けてみる価値がそこにはある。そしてそれこそが、ぼくとこの山との付き合い方なのだ。コリンやマイキーやロロにだって、彼らなりの付き合い方がある。同じように、きっとイヴォンにだって彼なりの付き合い方があるはずだ。たとえばそれは、パタゴニアという企業を通じて発せられるメッセージかもしれない。

「繋げること」は、すべての行動の規範だと僕は思う。どんなことだって、やりつづけなければ答えは見えてこない。やりつづけても何も見えないときだってあるかもしれないが、それもまた一興。その結果を受け入れることができれば、また次の一歩がはじまる。僕はパタゴニアのスカイラインに自分勝手な思いを込めてしまったが、それを繋げて登ると考えただけで、人生は一段と楽しく豊かになる。それでいい。いまようやくスタートラインに立ったところだ。

フィッツロイ山頂にて。横山(左)と増本(右)写真:横山 勝丘
フィッツロイ山頂にて。横山(左)と増本(右)写真:横山 勝丘

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パタゴニア直営店では横山勝丘によるスピーカーシリーズを下記のとおり開催します。ご興味のある方はぜひご参加ください。

パタゴニアを登る
~スカイラインに夢を託して~
3月9日(土) 19:30~ 福岡ストア (要予約:定員40名)
3月21日(木) 20:30~ 渋谷ストア (要予約:定員60名)
3月22日(金) 20:00~ 京都ストア (要予約:定員50名)

みなさんが良く知っているパタゴニアのロゴ。これ、どこの山だかわかりますか。2012年12月、ぼくはこのあまりにも有名なスカイラインを自分の足で一筆書きするために、南米パタゴニア地方まで出かけた。その山を登ることに情熱を傾ける人々、そしてぼくの挑戦。そこから見えてくるこれからのぼくとパタゴニアのあり方。

お問い合わせ/ご予約は各ストアまでお願いいたします。

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