クリーネストライン


カイル・デンプスターとオーガI峰の第3登を達成したあと下山中のヘイデン。パキスタン、カラコルム山系。Photo: Kyle Dempster
カイル・デンプスターとオーガI峰の第3登を達成したあと下山中のヘイデン。パキスタン、カラコルム山系。Photo: Kyle Dempster

2013年度ピオレドール賞のこと

By ヘイデン・ケネディ/花谷泰広   |   2013/05/24 2013年5月24日
カイル・デンプスターとオーガI峰の第3登を達成したあと下山中のヘイデン。パキスタン、カラコルム山系。Photo: Kyle Dempster
カイル・デンプスターとオーガI峰の第3登を達成したあと下山中のヘイデン。パキスタン、カラコルム山系。Photo: Kyle Dempster

「それを世紀の登攀だと宣言する人もいた。でもそれに対する僕らの幻想をたしかめるために、誰かがガッシャーブルムIV峰を再登したか? それに、ある詩を世紀の詩と宣言する意味があるのだろうか? 世紀の女性をどうやって選ぶのだ?」 —ヴォイテク・クルティカ、ガッシャーブルムIV峰のシャイニング・ウォールについて

クライミングには勝者も敗者もない。どうやってそれを決めるのか?エゴや競争といったテーマから逃れることがクライミングの意義ではないのか?それが失敗であれ成功であれ、手元にある経験に自分自身を委ねること——自分の、そしてまわりの、期待の表面を突き破り、深い動機と好奇心とミステリーに到達することではないのか?僕の人生における最も偉大な瞬間のいくつかは、失敗から得られた。それに、成功とは真に何を意味するのだろう?登頂することは明らか、かつ理論的な指標だが、それに焦点を当てすぎることはそれが失敗であれ成功であれ、手元にある経験に自分たちを降伏させるという、より深淵な可能性を閉ざしてしまうことになる。多産な登山家マグス・スタンプはこう言った。「アイ・トゥースのポータレッジで8日間沈殿していた…。僕らに頂上は必要ない。ここにいるだけ、この現在に在るだけ、それで十分だ」

カイル・デンプスターと僕が、幸運にもシャモニのピオレドールの第21回の授賞式に招待されたとき、僕の頭にあったのはこういう考えだった。たくさんの赤ワインと美味しいフランス料理に満ちた4日間にわたるこの毎年のイベントは、その年「最高」のアルパインクライミングを選び、そのチームに金のピッケルを与える。カイルと僕はパキスタンのカラコルム山系にあるオーガI峰の南壁の新ルートの開拓でノミネートされた。

僕らは世界最強かつ伝説的なアルピニストたちに囲まれていた。ある日の昼食では、スティーブン・ヴェナブルズがインドでアンカーが壁から外れ、何十メートルも滑落して両足を骨折したことについて語ってくれた。隣のテーブルではブロードピーク(1957年)とダウラギリ(1960年)の両山を初登した著名なクルト・ディムベルガーが彼のストーリーを語っていた。エスプレッソを飲みながら、英国人ミック・ファウラーはヒマラヤを探検した初期の頃のワイルドな話をしてくれた。とても多くの驚くべきクライマーに囲まれるのは本当に名誉なことだった。

それ以外にノミネートされた5本の登攀も、8,000メートル峰の3週間の縦走から未登峰の探検まで、すべて顕著かつユニークなものだった。僕は山での可能性について開眼させられた思いだった。だがイベントの最中、「誰」が「勝つ」のかについて色々な憶測もあった。一部の人にとってそれは大事なのだ。僕はといえば、まわりのクライマー仲間に圧倒され、賞などはどうでもよかった。

驚いたことに、ピオレドールの審査員たちは一本の登攀に賞を与える代わりに、今年の登攀すべてを祝うことでアルピニズムに対する偉大な声明を出した。これは良い方向に進む素晴らしい最初のステップで、僕はこの選択に感謝したい。実際、僕らは皆でワイルドなクライミングの冒険への情熱を分かち合ったということで十分なのだ。このイベントで耳にしたストーリーにとても感化された僕の頭は、また山に戻ることで一杯だった。

究極のアルパインクライミングは、人っ子一人いない場所でパートナーと一緒に未登の壁にある壮大なラインを登ること。そしてそれについては一言も触れないことだ。登攀の純粋な経験以外のすべての欲望を剥ぎ、あらゆる期待と自らのエゴから逃れること。それが本当の達成だ。僕らは皆、こう夢見るべきだ。そしていつか、それが現実となるかもしれない。

可能性が増大し
喜びが感覚を食いちぎり
パワーは無限に思える
突如、僕は発見する
狂気からの唯一の逸脱は
血と汗と涙にまみれた
古い道
—ヴォイテク・クルティカ

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花谷泰広、ヘイデン・ケネディと
花谷泰広、ヘイデン・ケネディと

キャシャール南ピラーの登攀が、第21回ピオレドールにノミネートされたという連絡を受けたのが2月だった。そのメールの中に、今年のノミネートがズラッと並んでいたが、そのリストを見て感動した。どれも本当に素晴らしいクライミング。そのひとつに入れていただいたことに心から感謝した。ノミネートされたということは、このイベントに集まるクライマーたちと、お互いの冒険を分かち合うことができるのだ。これこそがピオレドールというイベントの醍醐味だ。そして個人的には、僕のクライミング人生の節目に必ず存在する馬目弘仁と、信州大学山岳会で共に育った横山勝丘(審査員として参加)という身近な3人で参加できたこともうれしかった。

イベント中は、ただただ参加者らと時間を共有できることに喜びを感じていた。僕もヘイデンと同じく、賞などどうでもよかった(もちろん、いただけるならこれ以上の喜びはないのだが)。イギリスから2チーム4名が参加していたが、そのうち3人が自分の親の世代に近い年齢だったことには度肝を抜かれた。こういう登山をいつまで続けられるだろうなんて考えていた自分の小ささよ!アルピニズムの奥深い一面を見た気がした。

今回のピオレドールでは、異例の「全グループ受賞」という結末になった。この是非がヨーロッパのメディアを中心に問われているようだ。たしかにイベントとしてはチャンピオンを決めたほうが盛り上がるのかもしれない。しかし僕自身としては、(受賞者が言うのも何だが)すべてを称えるという決定を下した審査員たちの英断に賛辞を送りたい。もともと冒険に順位や優劣をつけることなど出来ないことだし、その意味もないことだ。当事者になってより一層その無意味さを感じた。

僕らはただ、自分自身の理想を追い求めて登っているのだ。

花谷泰広

左から花谷泰広、馬目弘仁、横山勝丘
左から花谷泰広、馬目弘仁、横山勝丘

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