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マングローブフィッシングの魅力 – 西表島に通いつづける理由

マングローブフィッシングの魅力 – 西表島に通いつづける理由

By 中根 淳一   |   2013/07/11 2013年7月11日

中根 淳一 (パタゴニア・フライフィッシング・アンバサダー)

Photo_kitajima01

ここ数年間、沖縄へのフィッシング・トリップを繰り返している。延べにすると年間で3週間以上の日数を過ごしていることになる。そのなかでも10年以上にわたり、毎年のように訪れているのが県内で2番目に面積の広い西表島だ。西表島は日本の最西端に浮かぶ10の有人島と、いくつかの無人島が連なる八重山諸島に属する。近隣の石垣島同様に低いながらも山塊が存在するため、河川が発達し、その河口域には国内最大規模のマングローブが広がっている。島の最大の魅力は広大な群生地での釣りなのだが、西表島の海岸線は道路が1周していないので西部の河川やリーフは人工物のない手つかずの自然の中で釣りに没頭できるのだ。

今年も沖縄県が入梅した頃に島へ釣行した。前半は私が主宰するフライキャスティング練習会『CASTOUT』の仲間たちとにぎやかな釣りを楽しむ。梅雨と聞くと釣りに行くことにためらう人もいるが、実際の天候はスコールのような一時的な降雨がほとんどで、一日中雨天ということはほとんどない(今回も2週間の滞在で雨が降りつづく日はなかった)。梅雨明け後にくらべ、ツーリストが少なく島内が静かなのもこの時期を選ぶ理由である。

[ 上の写真:北島 清隆 ]

航空機を使って移動できる場所(石垣島まで)としては、「最果ての地」のひとつと考えても構わないほど時間を使って西部の上原港に到着する。そこはいつもと変わらずゆったりとした時間が流れているのだが、到着時だけはその流れに反し、倍速で釣り支度をして宿の目の前に広がる徒歩数十歩のリーフに降りる。初日の釣りは水温などのコンディションを計るための軽い運動で、夕食を楽しむための食前酒ならぬ食前釣。本番は翌日からのマングローブフィッシングなので、島に来た実感を得る程度で終了。それでも小物ながら皆に釣果があったようで、食事中の会話もその話題で盛り上がる。さあ、これから「釣って、食べて、飲んで、寝て」を繰り返すだけの、釣り人にとって夢の数日間のはじまりだ。

Photo_nakane01[ ボートから降りて、ウェーディングで各自が目指すポイントに散開する 写真:中根 淳一 ]

翌朝、いつもお世話になっている「ワンオーシャン」のガイド永井洋一くんとともに出発。西表島では釣りをするうえで相棒ともいえる存在であり、彼なしでは陸路がないエリアでの釣りは難しい。西部の河川やリーフの釣りでは、道路の終点である白浜港から出船する。ウェーディングの釣りにこだわる私は動力船を移動の手段としてのみ使うのだが、港から近い河川に釣り場を限定するのであればカヌーで移動することもある。ポイントに着くと1人ずつ離れて船から降りていく。初めてここで釣りをしたときは周囲にだれの姿も見えず、腰上まで水に浸かりながら釣りをしていると、自然の中に取り残されたような不安感でいっぱいになった。あらためて「本来の自然というのは怖いのだ」と感じたことをいまでも思い出す。

Photo_nakane02[ 小さな水路に入り丹念にマングローブ際を探っていく 写真:中根 淳一 ]

マングローブで釣れる魚はナンヨウチヌ、マングローブジャック(ゴマフエダイ)、メッキ(ヒラアジ類の幼魚)、パシフィックターポン(イセゴイ)などで、それらの魚たちが、水面を割ってトップウオーターフライに襲いかかる。

Photo_nakane03[ マングローブや岩の隙間へ的確にフライを投入できれば、プレッシャーという言葉とは無縁の魚達が素直に反応してくれる 写真:中根 淳一 ]

そのほとんどは特別に大きな魚ではない。「なんだ、小さな魚だな」と写真を見て思うかもしれないが、実際に多くの釣果を得るのは簡単ではない。空気抵抗の多いフライを8フィート以下の短い竿で、ときには胸に近い水深に立ち込み、繁茂するマングローブの根や岩の際に投入することは、未経験では想像できないほど難しいのだ。キャスティングや誘いの技術と経験の豊富さがそのまま釣果にあらわれる釣り。偶然「釣れちゃった」ではなく、すべてが「釣った」という実感が味わえるのがこの釣りの面白さなのだ。だから同行歴の長い人が20尾以上釣っても、1尾も釣れない初心者だっている。この適度に「難しい」ということが、通いつづける原動力となるのは、釣りに関わらず趣味全般にいえることだろう。

Photo_nakane04[ 大きな岩の陰からフライに激しくバイトした「マングローブジャック」。成長して海に下ると10㎏以上になる 写真:中根 淳一 ]

Photo_nakane05[ 細い支流の出入り口で水面を炸裂させた「ナンヨウチヌ」。西表島マングローブでは筆頭の対象魚 写真:中根 淳一 ]

Photo_nagai01[ ヒラアジ類の幼魚「メッキ」。ロウニンアジ、ギンガメアジ、オニヒラアジと、多種のメッキと出会える貴重な釣り場だ 写真:永井 洋一 ]

そしてもうひとつの原動力が、島自体の空気感と食事。10年以上も通っていれば顔見知りも増え、居心地がよいのは当たり前なのだが、初めての人でもシマ(泡盛)の力を少し拝借すれば皆友達。人間関係の垣根などという言葉は存在しない。島特有の食材を食べ、シマを飲んで寝たら、また手つかずの自然の中で釣り。日中は釣りに没頭し、夜は食事を楽しむ。寝ているとき以外は、陸(食)と海(釣り)の贅沢を1日中堪能できる島。国内にもまだまだ充実したトリップができる場所はあるのだ。

Photo_nagai02[ 河口のサンドバーに立ちこみ、ガーラ(ヒラアジ類の現地名)の回遊を待ち構える。どのポイントも貸し切りで、見渡す限り人工物はない 写真:永井 洋一 ]

5日間の仲間たちとの釣りのあとは、ひとり残って3~4日ほど自分の釣りに集中する。特定の対象魚に無理を承知で挑むこともあれば、ガイドの永井くんと2人でゆったりと各自の釣りを楽しむこともある。その時々で自分の釣りを楽しんでいるので、どれが何尾、何キロということは重要ではない。それよりも行ったことのないポイントで、やったことのない釣りをすることが楽しく、まだやりたいことがたくさん残っていることが嬉しくてしょうがない。さて、この後は石垣島に渡り、4日間パシフィックターポンを追いかけよう!

Photo_kitajima02[ 仲間達が帰京後に永井くんとの釣りを楽しんだ。マングローブの水際で相棒としばし休憩。永井くんに指示を仰ぎ、フライをセレクトする 写真:北島 清隆 ]

Photo_nagai03[ 宿から徒歩5分以内の場所にも美しいリーフが広がる 写真:永井 洋一 ]

最後にマングローブと海水魚の関わりについて少し説明したい。マングローブとは熱帯、亜熱帯地域の河口域塩性湿地に成立する森林(集合体)の総称であって、1種の植物の名称ではない。国内でマングローブのみに分布している植物は5科7種で、西表島にはそのすべての種が生育している。生育する場所は波の当たらない、遠浅の汽水域なので干潮時には干潟となって有機物が集まり分解される。その過程で小魚や甲殻類へも食物が供給され、多くの生き物を育む「ゆりかご」のような存在になる。それらの小さな生物を補食する魚が、我々釣り人にとっての対象魚になるわけだが、マングローブは食物供給場の一部であると同時に、その呼吸根が魚類などの隠れ家になるので、安全で食べ物が豊富なマングローブで幼魚期を過ごす海水魚は多いというわけだ。

Photo_nakane06[ 浦内川の河口に広がる国内最大規模のマングローブ群生地 写真:中根 淳一 ]

西表島だけにかぎらずここまで読んでいただければ、釣りを楽しみつづけるにはどうしたらよいのかこれ以上説明する必要はないだろう。専門家ではないので明解にはお伝えできないかもしれないが、釣り人という立場でも健全な川に健全な動植物が繁栄し、その先は海につながっているということくらいは想像できる。だからその重要性を忘れないため、これからも西表島を訪ねて自分の行動を見つめ直す時間を持ちつづけたいと思う。

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『Irumty Mangrove Grand Slam(イルムティ・マングローブ・グランドスラム)』
山塊を心臓として、その周りには血管のように川が広がる西表島。島の血液ともいえる清き流れが海に注ぎ、多くの動植物を育んでいる 絵:中根 淳一

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