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脱原発をめざす首長の輪:第六首「再生可能エネルギー地域自給を目指す小田原の歩み」

加藤 憲一  /  2014年1月30日  /  読み終えるまで8分  /  アクティビズム
脱原発をめざす首長の輪:第六首「再生可能エネルギー地域自給を目指す小田原の歩み」

小田原は「地域自給圏」たるべきエリア
丹沢山塊、箱根外輪山、曽我丘陵に抱かれ、富士山に源流を持つ酒匂川に潤された肥沃な田園を有し、日本三大深湾のひとつである好漁場・相模湾に開けた、我が郷土・小田原。一年を通じ温暖で、海・山・里の幸に恵まれ、多彩な生業や文化が展開する小田原は、客観的に見ても何と豊かな土地だろうかと、市長の任を与って6年が経たとうとするいまもなお、その感を日々深めている。

私はもともと、高校時代は山岳部に所属していたこともあり、地元の山はホームグラウンドでもあったこと。30歳を過ぎた頃から娘の病気療養のため自然農の生活に入り、最盛期には1町2反の田と5反の畑を耕作していたこと。農家収入だけでは不十分な現金を得るために、早朝の定置網漁業を手伝うため、毎日海に出ていたこと。同じ理由で手掛けた苗木生産業の仕事柄、里山にも頻繁に入っていたこと。街なかの商店会活動などとご縁が生まれ、さまざまな地場のなりわいの現場を知るようになったこと。そのような経験を通じて、小田原の豊かさを深く実感するに至った私の中には、地域のあるべき姿についての考えが自ずと形成されていった。それは、「地域自給圏」と言うべきものである。

酒匂川という水系を中心軸とし、その水系がカバーする地域圏の中で、人が暮らしていくために必要な要素、とりわけ、「いのち」を支えるために必要なものが、しっかりと自給できる。水や食料などの素材のみならず、それを加工し、暮らしの中に活かしていく技術や、お互いを支え合っていく文化なども含めて。それが、小田原を中心とする酒匂川水系では実現できる。いまは市長の政策目標として、「いのちを守る地域自給圏の構築」という表現をしている。これが、地域住民の安全保障の最たるものだと信じている。

3.11からの痛みが、再生可能エネルギー推進の原動力に
2008年5月に市長に就任後、エネルギーの地域自給も理想に抱きつつ、当時はまだ「クリーンエネルギー」と呼ばれていた電力の地域内での確保に向け、研究を行ってきた。しかし、太陽光にしても、小水力にしても、高額な設備コストや水利権の壁などがあり、思うようには実用化に至ることができなかった。そんな中、2011年3月11日がやってきた。

福島第一原発の事故がもたらした二つの大きな経験によって、小田原市民はエネルギー地域自給の必要性に否応なく気づかされることになった。ひとつは、計画停電。これによって、小田原を支えるさまざまな産業が事実上の稼働停止に追い込まれた。例えば、代表的な産業である、蒲鉾づくり。原料の冷凍保存、大量の水の汲み上げ、すり身づくり、蒸気での蒸しなど、一連の工程では膨大な電力を必要とするが、それが全く組めなくなり、製造がストップ。また、小田原の経済が大きく依存する箱根地域は、言わずと知れた国内屈指の観光地だが、まだ寒さの残る3月、全館の暖房ができないだけでなく、お客様を受け入れる施設の照明すらままならないのでは、商売にならない。対前年比で、売り上げが8割以上落ち込んだ宿も少なくなく、廃業に追い込まれた事業者もいる。普段は観光客でごった返す箱根湯本の温泉街に、誰もいなくなってしまった。

もうひとつは、放射能汚染。福島第一原発から300キロメートルも離れているので、誰もが影響はないと思っていたのだが、風向きの影響で、箱根山に遮られた放射性セシウムが、小田原の里山を汚染。当地域のブランドである「足柄茶」から、基準を超えるセシウムが検出され、全面的に出荷停止に。関連して、当地域の柑橘や野菜などを給食に使っていた近隣自治体からは、取引の停止通告。地域の農業への影響は極めて深刻な事態になった。

これらの直接的な痛みは、広域で一元化されたエネルギー供給体制の危うさ、そして何よりも原子力発電の「いのちへの脅威」とでもというべきものを、小田原市民に強く認識させるに至った。これが、小田原における再生可能エネルギーの地域自給推進への大きなモーメントになっている。

「小田原電力」を目指す官民協働の動き
2011年、3.11以後、以前からお名前は存じていた飯田哲也氏にコンタクトし、7月には、従来市長との個別面談で行っていた行政戦略アドバイザー制度を拡大運用、小田原駅舎内の公共スペースにて市長に対する飯田氏の公開アドバイザリーを実施。詰めかけた大勢の市民の前で、小田原が目指す取り組みについて縷々話したところ、飯田氏から「それは『小田原電力』をつくる、ということですね」とのコメント。エネルギーの自治を目指す機運が、一気に高まった。

間をおかず、新しい公共を育てる目的で立ち上げた事業「小田原まちづくり学校」の第1講として、再生可能エネルギーを取り上げ、飯田氏率いる環境エネルギー政策研究所の古屋氏などにも全面的にご協力いただきながら、市民・事業者・市職員らが学習を重ねた。おりしも、環境省が設置した地域主導型再生可能エネルギー事業化検討業務に、国内最初の認定となった7か所のうちの1か所(自治体としては高知県と小田原市のみ)に採択されたこともあり、この年の12月には小田原再生可能エネルギー事業化検討協議会が立ち上がった。以来、熱心な市民や民間事業者にリードされる形で、具体的な事業化への検討が重ねられた。掲げたスローガンは、「創エネ」「節エネ」そして「みんなのエネルギー」。まずは、太陽光発電を手段として、市民参画型の発電事業が目指された。

翌2012年12月、発足からわずか1年という短時間で、地元事業者24社の出資による「ほうとくエネルギー株式会社」の設立に至る。会社名に冠した「ほうとく」とは、小田原が生んだ江戸時代の偉人・二宮尊徳が実践した報徳の訓えにちなんだもので、自然や人が元来備えている「徳」(長所、可能性)を最大限に引き出そう、との思いが込められている。

2013年には、小田原市役所環境部内にエネルギー政策推進課を新設。この分野の政策を協働で進める上での事務局機能を確保した。また、具体的に先行する事業として、小学校の屋上や体育館といった公共施設を市が貸し、そこに事業会社が太陽光発電設備を設置、日常は売電するとともに、非常時は広域避難所でもある学校に電力を提供するという、公共施設屋根貸事業に着手。2014年1月には、まず市内3か所で発電を開始する。また、事業会社の初期の立ち上がりを支えるべく、メガソーラーを郊外の山林に設置する予定。今後は、公共施設の活用をさらに拡大する他、箱根外輪山から流れ出る河川や用水を利用した小水力発電の実用に進むことになる。

また、小田原市としては、再生可能エネルギーの普及をさらに加速するため、2014年3月には促進のための条例を制定する予定であり、これによって一定の要件を満たす太陽光発電や、市民共同出資による発電事業などの支援をより活発化したいと考えている。

「脱原発」はスローガンではなくアクション
国民の節電意識がライフスタイルに浸透してきたいま、原発が生む電力がなくとも、夏冬の電力需要ピーク時でさえ電力には余剰が出るようになっている。脱原発は、既に現実なのだ。あとは、それをより地域分散で供給する仕組み作りと、より環境負荷の低い再生可能エネルギーに置き換える取り組みを進めるのみ。いま私たちが進めるべきは、これらについての地域ごとの地道な具体論の積み重ねである。幸い、その方法論は、既に各地の実践が良き競争を繰り広げる形で、たくさん示されている。「脱原発」とは、たんなるスローガンではない。アクションと相互啓発のネットワークであるべきだ。

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