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ニュージーランド、ブロークンリバーにて Photo: Takahiro Nakanishi
ニュージーランド、ブロークンリバーにて Photo: Takahiro Nakanishi

好きな場所で暮らし、暮らしている場所を愛す

2014/02/17 2014年2月17日
ニュージーランド、ブロークンリバーにて Photo: Takahiro Nakanishi
ニュージーランド、ブロークンリバーにて Photo: Takahiro Nakanishi

自然と一体になる感覚が好きで長いあいだこの遊びに夢中になっている。ただ単純に面白くて気持ちがいいし、スキーをつづける理由はたくさんあるが、それだけで滑りつづけ、情熱を注ぎつづけることはできない。

この遊びの本質は何だろうと考えはじめたとき、ターンの仕方やスプレーの上がり方、トリックの形などは別にどうでもよくなり、旅をすることこそが最も重要な行いだと思えた。本当に必要な物だけを持って、不便な旅先で何を見て、何を感じ、何を想うのか。そしてどんな人と出会い、一緒に滑るのか、それが結果として滑りに表れる。あるときそう感じて、いままで色んなところで、その土地のローカルたちと滑ってきた。20代のスキーバム時代に経験したことは、いまの自分のスキーに大きな影響を与え、さらには人生についても多くを学ぶ時間となった。

でも心のどこかで、これは自分のホームマウンテンを探す旅なのかもしれないと、薄々は気づいていた。白馬で暮らしはじめたころから長期間の旅に出る回数が減り、ここの雪と山に夢中になった。世界的な豪雪地にある日本有数の山脈、日本海からの絶妙な距離によって降雪量と質のバランスが保たれている奇跡的なロケーション。斜面の向きもいいし、スキー場も多いので標高が高いエリアへのアクセスもいい。冷静に考えると、ここをホームマウンテンに選ぶ理由はいくらでもある。だけど「ここに住もう」って決めたのは、直感だった。

森林限界以上のアルパインエリアで最高の滑走をしたければ、決め手はズバリ、風だ。前日までに降った雪の量はさほど重要ではなく、それよりもどれくらいの強さの風が、どれくらいの時間、どの方角から雪面に当たっていたのか、もしくは無風だったのか、そんなことを考えながらワクシングする時間が、ここで暮らしていてよかったと思う瞬間だ。期待して山に上がっても、期待通りにいかないことがほとんどだが、運がよければシーズンに1日くらいはそんな日にめぐり合える。だから、ここで暮らしていれば、絶好のコンディションを引き当てる確率は確実に上がる。

といっても白馬で暮らすことは楽ではない。生活の快適性を優先する人にはおすすめできない。シーズン中はガイドの仕事が無くても朝五時半には起きる。外の様子を伺い、複数の天気予報サイトをチェックする。ガイドのある日は6時半にはウェアに着替えて家を出る。1日のうち12時間はウェアを着てすごす。家の周りの雪掻きが必要な日はさらに早起きしないといけない。当然夜は早く寝るので、シーズン中にあちこちで行われているパーティー事情にもめっぽう疎い。シーズン以外は白馬村の消防団活動や地域の祭りに参加したり、ガイド組合の交流を通じて同世代の友人や自分の親ほどの年齢ながら真剣に遊んでいる大人たちと深く関わる。

シーズン中でも仕事のない日は家でゆっくり過ごせるならもっと楽に乗り切れるのだろうが、そうはいかない。白馬で暮らしていてスキーができるのは1年のうちたったの6か月。しかもコンディションがいいのはそのうち4か月しかないから、滑りにいかずにはいられない。降雪がつづくということは、雪掻き、パウダー滑走、そしてまた夕方帰宅後の雪掻き、という日々がつづくということである。パウダーを愛す滑り手ですら、もう勘弁してくれと心の中でつぶやく。そのうえ1週間あるいは10日ほど降雪がなかったとしても、山に登ればいい状態の雪が誰にも滑られずに残っているのだ。

そうした日々を通じて、この場所に対する愛情は増し、同時にローカルとしての誇りや責任も強く感じるようになった。これからもここで滑りつづけたい。……だが今日は昨日の雨と朝からの強風でリフトも動かないコンディション。11月中にと依頼されたこの原稿を2か月遅れでようやく書いている。

Photo: Takahiro Nakanishi
Photo: Takahiro Nakanishi

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