残されるもの
ファッションは私たちが認識する以上に感情的なものです。人びとはしばしば最高のもの、最新のもの、最もファッショナブルなものを欲しますが、私たちの多くが持っているもののなかには、長年所有して何度も何度も繰り返し着るものもあります。そしてこれらのスカーフは、新しいものを欲する/古いものを慈しむという両方の願いをかなえてくれるものだと思います。何かを愛したら、それを永久に持っていたいものです。これらのスカーフの製造は古い何かに新しい命を与えるという意味で力強い経験でした。古いパタゴニアの上着に秘められた経験が、次の使用者に受け継がれていくのかもしれません。
私たちの衣類の縫い目ひとつひとつに愛が込められています。たったひとつの製品に何百メートルの糸と何千もの縫い目を要することもあります。その糸は2本の異なる綿のより糸にテンションをかけて、撚って作られます。縫製工程前にそのテンションが緩んでいないと、縫製作業者は針が生地を通るたびに糸の捩れを経験します。それが何週間もかけて手で縫製する製品に起こるとどれだけフラストレーションの原因となるか、想像してみてください。だから私たちはどんなプロジェクトでも最初に針に糸を通し、すべてのよりがなくなって生地の上でスムーズに縫えるようになるまで指先の油でテンションを均一化させます。私たちはこのプロセスを「糸を愛す」と呼びます。なぜなら指のひとつひとつの動きは小さな祈りともいえるからです。「この糸はこれまでに作られた最も美しい製品を縫う。着る人に喜び、富み、繁栄、愛、美または健康をもたらしますように」と。その願いはどのようなものでもいいのです。良い意図と愛で作られたものすべては、よい場所からはじまるのですから。
このプロジェクトの美しさの大きな一部は、そのダウン・ジャケットの前世にあります。それぞれのジャケットがどのような「暮らし」をしてきたかは分かりません。それを所有した人のことも、その人がそれを愛したかどうか、どれだけ使ったのか、使ったときに人生で何が起こったのかを知ることも、できません。ある人からある人へと手渡された素材からできたこれらのスカーフは、それぞれがすでに代々伝えられた資産なのです。山を登ったことや世界中をセーリングしたことなど、新しい所有者はそのスカーフの前身がどんなものであったかを自由に想像できます。そして着けるたびに、みずからの価値を加えるのです。その命に新たな一章を書き足すのです。そしてあるとき別の人に手渡されるかもしれません。このスカーフに体験を語ることができたら、どんなストーリーになるのでしょう。
近所にウィチャピ・コメモラティブ・ウォールという壁があります。地元民にはたんにザ・ウォールとして知られていますが、それは友人のトム・ヘンドリクスがユチ先住民族だった高祖母を祀るために30年以上もかけて建設している巨大な記念碑です。壁自体よりもさらに驚くべきことは、80歳になるトムはまだこれに付け足しをつづけていることです。これはモルタルでない岩壁としては全米最大で、訪ねて来る人を私がいちばん先に連れていく場所です。トムはアラバマの故郷から現オクラホマのマスコギまでの、いわゆる「涙の道」を強制移動させられた高祖母テラーネイの物語を語るためにこの壁を使っています。故郷とユチ族にとって神聖であったテネシー・リバーを恋しがった彼女は、5年の歳月をかけて徒歩で帰郷しました。
トムの構想と行動は、私の日々の仕事と暮らしにおけるインスピレーションです。ザ・ウォールに彼が足してゆく石ひとつひとつのように、私たちの仕事はより大きなものの一部であることを願っています。私たちの努力が先達へ敬意を払いながら、美しく持続可能なものとなることを祈っています。祖先の旅と壁について、トムは私に何度もこう語りました。「一歩ずつ、一石ずつ。彼女が歩んだ一歩一歩ごとに石を重ねていく。私たちはいずれ地球を去る。残されるのは石だけだ」と。そして私は何度も自問してきました。私はいったい何を残すのだろうかと。
リクレイムド・ダウンについての詳細はこちらから