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ハチミツを愛するがゆえに

ハチミツを愛するがゆえに

2015/09/07 2015年9月7日

 by ハンク・ギャスケル

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彼の手は他の農家の人のそれとは違った。硬かったり、たこやひび割れができているわけではない。ただ大きくて、純軟性があり、その動きはすばやい。僕らは分厚い白色防護服と息が詰まるような覆面布付きヘルメットを着用していたが、彼にとってはそれも苦にならないようだった。僕は熱で溶けそうになっていたのに。

マウイ島の深い森林に覆われたワイホイ渓谷にはハチの巣が無数にある。それは花の咲く生態系には不可欠だ。黒ずんだ溶岩の鉱脈で寸断された肥沃な土地にはアボカド、マンゴー、グアバ、オヒア、レインボーユーカリ、カンアオイが力強く成長し、カピアの小川が海に向かって細長く流れていく。渓谷のふもとでは、マンゴーの枯れた切り株にできたハチの巣が地元の漁夫の一家を困らせていた。

そのハチの巣はねじれた場所にあり、友人のケニーはいつもよりも敏感に、よりスムーズに作業を進めなければならなかった。20年の経験をもつ彼は、ハチが攻撃してきても平静に集中力をもちつづけた。外科医のような的確さで巣を取り扱い、箱を動かして、ハチの巣がぴったり納まるように調整する。その動きは巧みで忍耐強くありながらも熱意にあふれていた。僕の白い防護服は汗まみれの肌に密着し、ハチに刺されやすくなっていたが、僕はそれを一心に見つめた。とりこになっていた。

写真上:4枚の巣枠の1つを調べ、採蜜可能かどうかを確認するガールフレンドのマリアと僕。ハワイ、ハナ。写真:Anna Riedel

 

その日ケニーからは多くを学んだ。物事はいつも計画通りに運ぶわけではないという教訓もそのひとつだった。何らかの理由で、女王バチは新たに提案された巣を見捨て、ハナの原生地のどこかにふたたびコロニーを作ることを選んだ。僕にとってそれははじめての養蜂の試みだったが、黄金に輝く何リットルものハチミツは、残念賞としては十分だった。

母が庭の片隅にあった古びた発泡スチロール製のクーラーのなかに自然のハチの巣を見つけたとき、僕はもう一度試してみようと思った。ケニーから学んだ知恵を生かしながら、相棒のデーゲと僕はなかなかいい仕事をしたと思う。クーラーはうまく壊れて、巣は比較的おとなしいハチと一緒に箱のなかに簡単に納まった。

多くの成功と悲痛な失敗のあと、7つのコロニーができあがった。放置しておけば駆除されてしまう運命にあった迷惑バチを家屋や庭から抽出して、自宅の庭や友人の農場に移動させられたハチたちは、あふれんばかりの有機栽培のかんきつ類、マンゴー、アボカド、エキゾチックな果物の木や野生の花とともに暮らすこととなった。

 

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養蜂に対する情熱が日に日に高まっていく。何かについての知識が豊富になり、その美しい複雑さが分かるようになることは本当にいい気分だ。写真:Anna Riedel   

 

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以前はこうやって採蜜していた。そのうちにもっといい方法を考え出しはしたが、僕らは色んな意味でまだ初心者だと思う。写真:Anna Riedel

 

それぞれの巣には何万、ときには何十万という数の小さな働きバチが、文字通り忙しく働いている。小さな雌バチは空中や花のあいだを飛翔し、直径5キロの範囲で花粉、花蜜、プロポリス(蜂ヤニ)を採取する。雌バチたちが採取の任務から帰ってくるとき、その脚には鮮やかな黄色、オレンジ色、赤色の粉末が付いているのが分かる。花粉は彼らにとってタンパク源だが、僕たちが採取して楽しむこともできる。プロポリスは樹液から取られるもので、接着剤の役目を果たして堅固で断熱性の高い巣を作る。花蜜は採取されてハチの胃の中の酵素がそれを分解して長期間の保管に適するようになるまで、一匹のハチから次のハチへと吐き戻して渡される。つまりのところ、ハチミツはなんと嘔吐物なのだ。

雄バチの人生の目的はただひとつ。女王バチと交尾することだ。女王バチは約23日齢となると結婚飛行を行なう。近親交配が発生しないように、同じ巣ではなく、近隣の巣にいる雄バチのみが女王バチを追跡する。30メートルほど空中に昇ったところで、最強の雄バチだけが女王バチを捕らえることができる。1ダースほどの最も有能な雄バチとの交尾が終わったあと、女王バチはその残りの一生で、多いときには1日あたり2,000個の卵を産むのに十分な精子を備えて巣に戻る。女王バチと交尾した雄バチは、そのあと間もなく死ぬ。

コロニーが大きくなると、女王バチは群れの半分強を率いて分巣することもある。彼らは2~3日間、木の枝に留まってその地域を偵察したあと、新しい住まいを構築する場所を選ぶ。古いほうの巣にいる働きバチは、卵を産む個室を広げ、ロイヤルゼリーと呼ばれる特殊な食物を与えて新たな女王を作り出す。

 

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燻煙器に火をつけるマリア。ハチの巣の周りに煙が広がると、ハチは巣がつぶされるのだと勘違いする。そうすると人を攻撃するのではなく、避難準備としてハチミツを蓄え、コロニーを移動する。ミツの食べすぎでハチは不活発となり、攻撃性が低下するのだ。写真:Anna Riedel

 

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採蜜する筆者。いつの日か防護服を着ずにハチの巣を開き、葉巻タバコの煙を吹きかけてハチを落ち着かせる熟練者のようになれるといい。そのときまで、防護服は不可欠だ。写真:Anna Riedel

 

ここ1年ほどの間に、ガールフレンドのマリアと僕は「ミルク&ハニー農場」という名前のビジネスを非公式にはじめた。いつの日かいろいろな動物を飼い、できる限り自足自給の生活をしながら本物の農場をもつのが僕たちの夢だ。でもいまはただ若いこの時期を過ごすだけで精一杯。

マリアはシアトルの理学療法クリニックに常勤しているが、秋には理学療法の学校に入学する予定だ。僕はプロのサーファーとしての生活で、いつもハナの町からはなれているため故郷で安定した仕事に専念するのはむずかしい。でも、ハチについてもうひとつ興味深いのは、彼らは完全に自立していて、メンテナンスがほとんど不要だということだ。波が高くなれば、僕はいつでも荷物をまとめて出かけることができる。

家からはなれているあいだ、帰宅してまたつづきをはじめることを夢見る。ハチの家族をできる限り増やしていくことが本物の「ミルク&ハニー農場」へと向かう前進の一歩だからだ。

 

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この冬、GoProで撮影したバックドアの僕。いまもおもな職業はサーファー。写真:Hank Gaskell

 

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彼女は本当にハチミツをガブ飲みしているわけではないが、全部飲んでみたいほどにおいしい。ハチミツは砂糖に代わる甘味料であり、栄養面での利点があるばかりか薬理作用もある。写真:Anna Riedel

 

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新鮮なフルーツが採れすぎたら、マリアと僕はそれを食品乾燥機で処理する。マリアは抜群のグラノーラを作り、僕はいつもバナナ、ココナッツ、パパイヤを乾燥させている。それはすばらしいギフトにもなる。写真:Anna Riedel

 

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愛犬のモクと瓶詰めのハチミツ。写真:Hank Gaskell Collection

 

 

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ハンク・ギャスケルは、マウイ島の閑静な小さな町で育ち、その地域に発生する数多くの秘密の波をトレーニングの場に、世界を股にかけるプロのサーファーとなる。この10年間、遠征の暮らしの方が多いものの、故郷にいることがいちばんのお気に入りだ。最新情報はハンク (@hippiehanahank) およびマリア (@maliaflower) のインスタグラムでご覧ください。

養蜂に興味のある方は、地元の養蜂場に問い合わせることをハンクは薦めています。「概してとても親切な人たちで、皆自身の巣の構築方法も含めて、きっと喜んで教えてくれるだろう」

 

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