ジャンボ・ワイルド:「我ら人民」
注意して見ていなければ見過ごしてしまうものがある。
朝日のなかでコロンビア・リバー流域からパーセル山脈を見渡していると、ラジウム・ホットスプリングスにある地方自治体事務所を通り過ぎてしまう。それは人間の存在がたんなる星印のように思えるこの限りない自然の世界ではむずかしいことではない。
編集者記:街頭デモからオンライン嘆願書への署名までアクティビズムにはさまざまな形態があります。私たちにできる最も重要で効果的なもののひとつは公聴会での発言です。今回の投稿はブリティッシュ・コロンビアに提案されているジャンボ・グレイシャー・リゾートについての今年はじめの公聴会からのもので、ジャンボ・バレーをめぐる25年の闘いのたったひとつのエピソードです。私たちはこのストーリーを、スウィートグラス・プロダクションとパタゴニアによる長編映画『Jumbo Wild』の発表にともないお届けします。映画のリリースとともにパタゴニアは地元の環境保護団体〈ワイルドサイト〉と密に協力し、ジャンボ・バレーの開発の阻止と永久保護に取り組みます。映画のツアー日程、予告編、ジャンボを野生のままに保つための行動についてはPatagonia.com/japanでご覧ください。
その建物は引き返すとやっと見つかる。オフホワイトで、小さな看板があり、公共施設というよりは住居のようだ。ここが最近できたジャンボ・ワイルド・マウンテン・リゾート自治体のための一般の意見聴取の足場。公衆が存在しない地域における公聴会のようなもので、提案されているジャンボ・マウンテン・リゾートの方向について懸念を抱く人びとが情報や意見を表明するのに5分が与えられる。
部屋のなかを見渡すと、立ち席が足りないものの、立っている人たちはそうすることを喜んで受け入れているようだ。緊張感は明白で、流域からの地元民からなる聴衆は部屋の奥に座るジャンボ自治体の町議会2人と町長に意見したがっている。
ジャンボの町長グレッグ・デックはコロンビア・ベースン・トラストおよびコロンビア・パワー・コーポレーションのディレクターで、彼を任命した人たちは彼のこのような役割をこのコミュニティにおける専門知識の証拠だと指摘している。しかし彼の現在の聴衆たちはこれを、最高でも利害対立、最低では権力と資源の乱用の種になると見なす。町議会メンバーとして彼の両脇にいるのはナンシー・ハグニンとスティーブ・オストランダー。彼らは地方選挙で選ばれたのではなく、イースト・クートニー立法議会メンバーのビル・ベネットによって任命された地元のビジネスオーナーである。ジャンボには投票する地元民が存在しないのだ。
最初の項目は開発に反対する210の署名を有する〈ワイルドサイト〉の手紙、そしてさらに反対を表明する個人からの104通の手紙と18のe-mailの要約だ。経済的持続性、野生動物の生息地保護、そして本質的に非民主的な地方議会への疑問がこの公聴会の雰囲気を決定付け、この25年のジャンボ問題の枠組みとなった項目を反響させる。
開発を支持する唯一の手紙は開発会社グレイシャー・リゾートの役員からのもので、彼はリゾートをもちあげ、批評家を嘲る内部資料の多くを執筆した当人である。
最初の発言者はインバーメアの住人で〈ワイルドサイト〉の地元支部ディレクターのジム・ギャロウェイだ。80歳になる彼は短髪とハイキング・ショーツといういでたちで、公聴会で発言するというよりは、周辺の山を13日間徘徊するほうが似合っている(これは去年の秋にジャンボのアクセス道路にある監視キャンプで現実となったのだが)。
そしてこの工程の現状に対する彼の明らかな軽蔑よりも顕著なものがある。それは彼が警察力の欠如からこのプロジェクトに要求されるオフロードカーの管理とモニタリングの欠如まで、「公式コミュニティ計画(OCP)」の個々の問題や系統的な問題をいかに正確に指摘できるかということだ。「これは健全なOCPではないが、もし仮にそうであったとしても、それは執行する委員会次第で良くも悪くもなる」
その意見には〈ジャンボ・クリーク・コンサベーション・ソサエティ〉の代表ボブ・サンプソールと1964年のオリンピックでボブスレッドの金メダルを獲ったダグ・アンキンも同意した。極端に長身と短身の2人はこのベースンにおける生涯の想い出を語り、周辺の原生地の自然美の鮮明な映像を伝えるシェイクスピア風のカリスマ性を分かち合う。彼らはこのプロジェクトの時代遅れの本質について、とくに氷河の溶解によって宣伝されている通年のスキーはすでに確実なものではないことを指摘した。
公聴会には地元の強力かつ母性的な姿が散在し、さまざまなレベルの怒りと恐れ、そしてコミュニティの安全、生態系、法律を保護する揺るぎない願いを見せていた。地元の猛禽類の個体数の回復に取り組むインバーメアの動物看護師ジュディ・バーンズがOCPによって見過ごされている安全性の数を挙げていくと、室内の感情が高まった。ほとんど信じがたいほどの細部への警戒をもって彼女が指摘したのは、この書類の原稿のなかで安全に関する言いまわしを緩めるために変えられたすべての例だった。
地元のビジネスRKヘリスキーで長年ガイドとして勤務するグラム・ホルトと、ベテランのガイドで以前バックカントリーのロッジを所有していたマーガレット・ジェイムソンは、現在の建設はすでに雪崩の危険地帯にあること、提案されている住宅地に存在する25の雪崩の経路のうちの23がレポートから漏れていることについて詳しく説明した。さらにバレーへのアクセス道路が数えきれない雪崩の経路にあることが無視され、また全国で建設/維持される最も高価で危険な道路になるところが開発会社によって省かれていることについても言及した。
それらすべては議会にとっては古いニュースのように思われた。ホルト氏が最近(2015年3月)改訂されたブリティッシュ・コロンビアの「アドベンチャー・ツアー方針」を持ち出し、新しいリゾートが既存のヘリコプター/スノーキャットのスキー操業者に相談を義務付けていることに言及するまでは……。このことはこの公聴会ではじめてデック町長の興味を駆り立てた。このミーティングにおける一方的なプレゼンテーションを超えた議題について、真の対話が必要とされていることが明らかになったからだ。
最後に発言したのはガーミート・ブラーだった。引退した化学エンジニアでレイク・ウィンダーメアのアンバサダーの彼は重い足取りで慎重に演台へ向かい、ゆっくりと頭を上げると、町議会に語りはじめた。彼はOCPの研究に費やした時間について、そしてジャンボ・プロジェクトについての公式書類の追加バインダー3冊について熟読し、この書類に内在する「虚偽、間違った断定、真っ赤な嘘」と彼が言う項目への30ページにわたる公式な反論を作成していることについて語った。
彼は地元での葬儀のためファースト・ネーションズがこの場で発言できないものの、彼らが長年このプロジェクトに公式に反対してきたことを告げた。またこのプロジェクトをクトゥーナーハ・ネーションズに対する精神的な集団虐殺であるという個人的な見解を表明した。
そして雪崩地域にリゾートのロッジやサプライ施設のためのコンクリートの土台を認可することは、この地域の前例および規則に反するものであり、工程全体がいかに腐敗したものであるかを明確に示すものであると締めくくった。
ブラー氏の最後の言葉は聴衆からの拍手喝采を得た。このコミュニティの行動への忠誠、細部への注意、そしてしかるべき人びとに責任を課すことへの意志に畏敬の念を感じるばかりだ。
ジャンボ・プロジェクトの主唱者たちはその遅々とした進行の理由に、しばしば異常に長い検討工程やプロジェクトに反対する過激なグループを挙げる。だが今日発言した人たちは過激ではない。彼らはこの世代そして将来の世代のために、これに関わるすべての人たちに地元とそれを取り巻く環境の健康と未来を保護する規則と法律に対する責任を負わせる、正直な民主主義のプロセスに忠誠を誓う人たちだ。
行動を起こそう。映画のツアー日程、予告編、ジャンボを野生のままに保つための行動についてはPatagonia.com/japanをご覧ください。