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シエラ・ハイルートでの災難スタイル

ルーク・ネルソン  /  2016年1月19日  /  読み終えるまで6分  /  トレイルランニング

起床時間。Photo: Luke Nelson

凍えて目覚めるというのは何か不安を掻き立てるものがある。僕は寝返りを打ち、1ダースほどの腹筋をして体を暖め、ふたたび眠りにつこうとした。僕の動きで目覚めたコーディが腕時計のライトを押した。

「もうすぐ4時だ」と僕はつぶやく。

「しばらく寒さに堪えていたよ」と彼が返事をした。

「僕も」と応える。「動きはじめようか」

そうしてみずから「災難スタイル睡眠システム」と名付けたエマージェンシー・ブランケット、ダウン・パンツ、ダウン・ジャケットから這い出し、ふたたび走る準備をはじめた。シエラ・ハイルートの314キロをなるべく早く完走するという旅の2日目で、僕らはこてんぱんにやられていた。

全長300キロ以上のほとんどが2,900メートル以上の標高で、トレイルもほぼ皆無のシエラ・ハイルートを完走することがとても困難であることは承知だった。予想していた5〜6日分の装備すべてを担ぐ必要性を加えると、それはさらに手強い挑戦となった。実際に成功する可能性は低かった。

最初の1,800メートルのトレイルの登高はすぐにこなしたが、トレイルを外れてシエラ・ハイルートへ向かうと、すぐに僕らの意図とは裏腹に、行動が遅々としたものになるであろうことに気づいた。地形は花崗岩のスラブとガレ場がほとんどのとてもテクニカルなもので、大気は付近のキングス・キャニオンの山火事ラフ・ファイヤーで煙り、不気味な雰囲気を醸し出していた。困難な地形と煙にもかかわらず、僕らはまあまあの前進を遂げた。

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

出だしはラフ・ファイヤーにいちばん近い。ときとして煙は圧迫感を醸し出していた。Photo: Luke Nelson

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

「スモーク・オン・ザ・ウォーター」Photo: Luke Nelson

日が暮れると僕らは楽観的な旅行日程から16キロも遅れていることが分かった。体は思ったよりもくたびれ、精神も破綻しはじめた。パックからヘッドランプを出しながらその夜の戦略を練り、ジョン・ミューア・トレイルのセクションを次のオフトレイルがはじまる所まで走破することに決めた。午前1時を回ったところでストップし、睡眠キットを出して数時間地面の上に横たわった。

日が昇るころまでに僕らは2時間行動していた。暗闇のなかでのルートファインディングは退屈かつ遅々とし、太陽はうれしい光景だった。ポットラック峠の頂上で岩の背後に座って風を避け、日光が顔を暖めるなか、エナジーバーを楽しんだ。だがたった数時間後には樹木限界線の上を走りながら太陽を恨むことになった。隠れる場所はどこにもなく、強烈な日差しは僕らの肌を焼いた。

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

エボルーション山群を背景に走る最初の数キロ。Photo: Luke Nelson

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

シエラ・ハイルートにある峠のほとんどが全方向に信じられない景観をもつ。座ってエナジーバーを楽しむのには完璧な場所だ。Photo: Luke Nelson

長いオフトレイルのセクションのあと、僕らはジョン・ミューア・トレイルにふたたび合流し、ミューア峠へと向かった。ほぼ20時間ものあいだ2人っきりだったので、たくさんのバックパッカーを目にするのは奇妙な気がした。通行量の増加のせいで、僕らの気はスケジュールよりどんどん遅れている事実からそれていった。それは辛い行進だった。重い荷を背負ってのランニングで肩が痛み、足はゼリーのようになり、靴擦れができ、ペースは緩慢すぎた。長期の冒険は往々にしてそれ自体が楽しいわけではなく、終わったあとに楽しいストーリーを語る楽しみだけが待っていることがある。しばしそれは第3種の楽しみと呼ばれるものだが、この時点でそれは第3種を超えていた。

ジョン・ミューア・トレイルを何時間も歩いたのち、コーディを説得して湖畔で休憩し、僕らの状況について短い討議をした。予定していたスケジュールよりも大幅に遅れ、その遅延はどんどん増加していた。楽しさは完璧に消滅し、身体は過酷な状況に耐えきれなくなっていた。僕らは湖で泳ぎ、スピードの目標を棚上げすることに決めた。

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

ミューア・ハットで「災難スタイル」の賛否を熟考する。Photo: Luke Nelson

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

目標を再調整したあと笑顔で進む。Photo: Luke Nelson

湖にひとつかりし、考え方を変えたのは、気力の回復に信じられないほどの効果があった。ほぼ瞬時にこの旅にある種の楽しみが戻ってきたように感じた。僕らは時間目標を無理矢理満たすのを止める決意をし、ルートの残りをつづけることも疑問視した。僕らはよりたくさんの写真を撮り、エボルーション・バレーの人気のない美しさを堪能するためによりひんぱんに立ち止まった。

ダーウィン・ベンチを登るころには日が傾き、行動をつづける前に数時間休息を取ることにした。ふたたび「災難スタイル睡眠システム」を取り出し、一夜の準備をした。数時間後、僕は腹筋をしていた。また行動開始の時間だ。身体はくたくただったが、歩調には軽さが感じられた。僕らはマウント・ダーウィンに昇る朝日をじっくりと楽しみ、ハンフリー・ベースンへ向けて峠を下山しはじめた。数時間後には町までヒッチハイクさせてくれる車を待つあいだ、未舗装の道路の脇にあったほこりっぽいクマの足跡を調べていた。

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

下山していく車はあまりないが、数マイル歩くと幸運に恵まれた。Photo: Luke Nelson

シエラ・ハイルートでの災難スタイル

ビショップでヒッチハイクするときは、行き先をはっきり書くのが懸命。モービル(レストショップ)は誰でも知っている。 Photo: Cody Lind

定めた目標を達成できなかったハイシエラでの旅は失敗だと見なされるかもしれない。だがそうだとしたら僕は失敗を祝いたい。僕らはシエラ・ハイルートを完走できなかった。この地形への準備は足りず、数日間にわたる旅の経験も浅かった。しかしハイシエラを素早く移動することを楽しみ、多くの貴重なレッスンを学んだ。ビショップまでヒッチハイクする前にも、改善すべきこと、翌年の可能な日程を企んだ。これは僕らのシエラ・ハイルートの経験の第一章に過ぎない。この書物があまり長くならないことを願うが。

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