魚類調査対象の6魚種。上からシミズシマイサキ、ニセシマイサキ、ウラウチフエダイ、カワボラ、ナガレフウライボラ、ヨコシマイサキ。イラスト:中根淳一 
魚類調査対象の6魚種。上からシミズシマイサキ、ニセシマイサキ、ウラウチフエダイ、カワボラ、ナガレフウライボラ、ヨコシマイサキ。イラスト:中根淳一 

沖縄県最長河川のいま:西表島・浦内川(後編)

By 中根 淳一   |   2016/05/23 2016年5月23日

前回紹介した西表島での渓流釣り。その浦内川に昨夏、取水用の送水管が引かれた。川沿いを黒い大蛇がうねるような光景は異様で、原始の流れを色濃く残す流れだけに、とても残念なことに感じる。

軍艦岩から上流の川沿いには人工物がなかったが、突如黒いパイプが敷かれた。写真:中根淳一
軍艦岩から上流の川沿いには人工物がなかったが、突如黒いパイプが敷かれた。写真:中根淳一

西表島は県内で2番目に大きな島だが、山がちな地形ゆえ、そのほとんどは密林。人間の生活域は海岸線のわずかな地に留まっている。その山からは大小40以上の川が流れているが、そのなかでも西部を流れる浦内川は主流長18.8キロメートルと沖縄最長の河川。島の約1/5の面積を占める流域には、これまで遊覧船の発着場以外の目立った人工物はなかった(上流発着場も最低限の設備しかない)。しかし2015年の夏、取水パイプが引かれた。ことの発端は2014年の降雨量の少なさ。平年比で42%の雨量は、石垣島地方気象台が統計を開始してから最少量を記録し、秋から初冬にかけて夜間断水や給水制限が実施された。このような経緯から干ばつ対策として、マリウドの滝壺下流から上原地区の浄水場まで取水パイプが設置され、1日500トンを送水する計画が実施されているのだ。

マリウドの滝壺下流が取水パイプの起点となっている。写真:中根淳一
マリウドの滝壺下流が取水パイプの起点となっている。写真:中根淳一
浦内川での取水パイプの終点。ここからさらに山中を上原地区の浄水場まで延びている。写真:中根淳一
浦内川での取水パイプの終点。ここからさらに山中を上原地区の浄水場まで延びている。写真:中根淳一

私もこの年に2回訪島しているが、極端に台風が少なく、ほとんど雨が降っていなかった。9月にウェーディング(入水しての釣り)したときは、水温が上がり過ぎた浅場には魚が少なく、全体的に低活性で、ぬるま湯の風呂に漬かっているような温かさだったことをよく覚えている。

川沿いをうねる黒大蛇のようにつづいているパイプは異様な光景。写真:中根淳一
川沿いをうねる黒大蛇のようにつづいているパイプは異様な光景。写真:中根淳一

浦内川では400種以上の魚類が確認されているが、これは日本三大清流のひとつ、四万十川(高知県)の約2倍を誇る。四万十川は浦内川の約40倍もの流域面積があるのだから、浦内川のその豊富さは比較にならないだろう。なかでも環境省第4次レッドリスト(2013年公表)の絶滅危惧種、汽水魚・淡水魚167種のうち43種が浦内川で確認されている。国の特別天然記念物に指定されているイリオモテヤマネコは多くの人が知っている、もしくは聞いたことがあるという高い認知度でさまざまな保護活動が行なわれているが、同じカテゴリーに入る絶滅危惧IA類(CR)の魚が浦内川には23種も生息している。ほかにも絶滅危惧IB類(EN)13種、絶滅危惧II類(VU)が7種と、この川には近い将来に絶滅が危ぶまれる種が多い。絶滅危惧種が多いということのほかにも、浦内川にしか見られない種が多い、未記載種の発見が多い、淡水域に大型魚種が多い、幼魚期をすごす種が多い、日本一大きな川魚(オオメジロザメ)が生息するなど、この川が魚類にとって重要な流れであることが分かっている。多くの種が生息する浦内川だが、しかしその反面で生息面積が狭いゆえに1種あたりの個体数は少ない。個体数が少ないと遺伝的な多様性が低く、少しの環境変化でも短期間に絶滅する恐れがあるとのことだ。

釣りの合間にパイプに腰掛けて昼食。管が岩盤に直接固定されているのがよく分かるだろう。写真:中根淳一
釣りの合間にパイプに腰掛けて昼食。管が岩盤に直接固定されているのがよく分かるだろう。写真:中根淳一
設置から数か月しか経っていないが、すでに所々壊れはじめている。写真:中根淳一
設置から数か月しか経っていないが、すでに所々壊れはじめている。写真:中根淳一

ここまで読んでいただければ1日500トンの取水が、いくつもの危険をはらんでいることは想像できるだろう。渇水対策ということは、雨量が少ない時期に取水するということだろうか?であるならば、ただでさえ魚類に厳しい環境に、さらなる追い打ちをかけることになる。もちろん汽水域では塩分濃度が変化するだろう。「生命のゆりかご」などともたとえられるマングローブで、幼魚期を過ごす耐性の弱い稚魚などには厳しいのではないだろうか?細かいことを挙げれば、導水管を岩盤に直接固定しているが、強度を上げるために接着剤が使用されている。この薬品の影響はないのだろうか。

調査スタッフが集まって浦内川の希少性や、魚種を同定するための特徴を念入りに確認。写真:中根淳一
調査スタッフが集まって浦内川の希少性や、魚種を同定するための特徴を念入りに確認。写真:中根淳一

ほかにもこの事業が住民の要望や総意ではないとのことや、取水量の算出根拠も不明である。環境への影響に対する専門的な検討や調査が不十分であるなど、多くの問題点があるにも関わらず、2015年10月には試験的な送水を開始したらしい。しかしながら、いつどれだけの量を取水したのかいまだ公表されていない(2015年12月上旬時点)。さらに日本魚類学会から竹富町へ専門家会議開催の要請をしているが、半年経った現在も進展はないようだ。

昨年の12月上旬、第1回目の調査に私も同行した。本調査は悪天候で延期したため、写真は事前調査の模様。目視で生息数を確認していく。写真:中根淳一
昨年の12月上旬、第1回目の調査に私も同行した。本調査は悪天候で延期したため、写真は事前調査の模様。目視で生息数を確認していく。写真:中根淳一

今後はこの事業による魚類(おもに絶滅危惧種)への影響を調査するために鈴木寿之さん(日本魚類学会自然保護委員会)の指導を得て、西表島エコツーリズム協会が主導で年5回の調査を実施していく(その後も継続予定)。第1回目の調査は昨年12月上旬に行なわれたが、私も同行させていただいた(本調査は悪天候により延期のため事前視察に同行)。また本プロジェクトの運営にはパタゴニアから助成金が支給されている。

魚類調査の方法などを指導してくれる鈴木寿之さん(左)と西表島エコツーリズム協会の徳岡春美さん(右)写真:中根淳一
魚類調査の方法などを指導してくれる鈴木寿之さん(左)と西表島エコツーリズム協会の徳岡春美さん(右)写真:中根淳一

私は専門家ではないが、素人目にも何らかの影響を危惧してならない。それでも私は観光客ゆえ、現地で生活している皆さんと同じ気持ちでは語る資格はないだろう。そして一方的な目線では書きたくない。だが浦内川のいまを多くの人に知っていただきたい。そしてよい方向へ進むように、「現状を伝える」努力はつづけたいと思っている。

資料提供=鈴木寿之(日本魚類学会自然保護委員会