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山と人を撮る

松岡 祥子  /  2016年6月23日  /  読み終えるまで6分  /  スノー

八方より白馬三山。写真:松岡祥子

山岳滑降が好きです。とりわけ緊張感や達成感を得ながら濃密な時間を過ごすことのできる、北アルプスの急斜面やレアルートの、しかも広い斜面より狭いルンゼが。なぜなら山に抱かれている気がするから。山岳滑降のいいところは、遠くからでも滑ったルートが分かることです。たとえば白馬三山(白馬村に入った途端目に入る白い三つの頂、厳冬期に鋭く尖って白く輝く尾根、それらが集まって出来るピーク)は山頂から滑ることができ、かつそのルートを麓から見ることができます。見るたびに滑ったときの感動を反芻できるので、それを味わうために何度も北アルプスに足を運んでしまう人も多いのではないでしょうか。そこを滑ったときの熱い情熱は、年を取ったとしてもその山を見るたびに思い出すはずです。

「山」は不思議なスポーツです。穏やかなときに登ればなんともなくても、いったん荒れたら帰るかやり過ごすかしかなく、運が悪ければ命を落とすことさえあります。人間にできることはといえば、山の機嫌に合わせて行動することだけ。稜線で帯電したときには落雷の恐怖に震えながら走って下山したことがありますし、爆風の稜線を這いつくばって逃げ帰ったことがあります。カチカチの斜面に飛び込んでしまえば、冷や汗をかきながら横滑りで下りることしかできません。人間はちっぽけで、大自然には太刀打ちできません。美しいけど怖い、それが山です。だから山にいると当然、生や死をとても強く意識します。前十字靱帯を断裂し、仲間と自力下山したことがありました。山での心がけは、つねに最悪の事態を考え、それを避けるためのより良い選択をすることかもしれません。

そんな私が山に行ってするのが写真を撮ることです。風景写真ではなく風景のなかに人が入っている写真、とくに滑っている写真や登っている写真です。山を始めたのはスキーがきっかけだったので、写真に滑走者がいないとさびしく感じてしまうのかもしれません。人と山を一緒に写すことによって、風景に登場人物と物語を閉じ込めることができます。

山と人を撮る

八ヶ岳赤岳を臨む。写真:松岡祥子

使っているのはデジタル一眼レフカメラです。そして厳しいルートの場合は標準ズーム1本だけです。カメラバッグと合わせると2キロぐらいになりますが、連写やバッテリーの持ちを考えると、これ以上削ることができません。カメラバッグは必ず身体の前側に装着し、いつでもすぐ出せるようにしています。当たり前の話ですが、たくさん撮らないことにはいい写真は残せません。「いいな」と思う光景にめぐりあったら、必ずカメラを出して写真を撮ります。なぜなら、写真に写るのは撮った人の感動だから。八方に行くと鹿島五龍、立山に行くと奥大日、飽きもせず毎回撮ります。兎に角美しい。同じような写真と言われようとも、感動するのだから撮るより他はありません。撮ることによって心が浄化され、帰宅して見るPCのモニターには、そのときの感動がきちんと写り込んでいます。

写真には人の気持ちが写ります。いくら美しい景色でも、ただたんに撮るだけなら人を惹きつける力は少ないし、逆に何の変哲もない情景でも、撮る人が感動して撮れば、撮った人の感動や伝えたいことが写ります。不思議ですが事実です。だから撮るときは、ファインダーを覗き、心がより動いたところでシャッターを切るようにしています。

日本には本当にたくさんの山があり、未だ人の目に触れられていない景色がたくさんあります。スキーで移動すると山岳写真家とは違う場所でカメラを構えられ、普段目にする景色とは違う光景が目の前に現れます。それは板を履いた写真家のメリットです。「行った人が見た世界を撮る」 それが私の写真の全てかもしれません。「行きたい、見たい、撮りたい」余裕があれば滑走者をはなれたところから撮りますが、基本的には一緒に行動し、近くから撮ります。あふれる臨場感や緊張感、仲間と感じた感動。全てそこにいないと撮れない写真です。

写真には大きな使命があり、「見たことのない情景を見せる」もその一つだと思います。ジャーナリズム然り、アート然り。同じ山でも撮る位置が変われば違う景色が写る、縦横無尽に移動できるスキーやスノーボードは、優れた足だと思います。写真家が女性であっても、トレーニングや軽量化の技術で、被写体の滑り手である男性と一緒に行動することはできます。写真は感性の世界であり、無限の表現は男女の別なく体現できるのですから。山岳滑降を撮影する魅力は、自身の能力すべてを出し切って行動する山行と、撮らずにいられない感動。それらを体験して残したく、毎週山に登り、撮りつづけるのです。

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下記でご紹介する写真の被写体はすべて、パタゴニアのプロでもある三浦大介氏。登山家であり、スキーアルピニストである三浦氏は、80年代半ばより国内外で未滑降ルートの探求をつづけ、現在までにスティープライン200以上を滑降。初滑降ルートも80本以上を記録する山岳スキー滑降の第一人者です。三浦氏とは私が所属する山スキー同人RSSA(スキーアルピニズム研究会)の先輩です。2010年6月に富士山へスキーに行ったとき、はじめて会いました。雑誌等で活躍は知っていましたが、下山後道路脇に車を停め、双眼鏡でルートの確認をしている姿を見て、やはりただ者ではないと思いました。その後RSSAに入り、黒部横断や初滑降に同行させてもらうようになりました。

山と人を撮る

谷川岳一ノ倉沢。写真:松岡祥子

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北穂高岳松濤岩。写真:松岡祥子

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黒部横断水晶岳への登り。写真:松岡祥子

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杓子岳より白馬岳小蓮華山。写真:松岡祥子

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富士山吉田大沢から小御岳流しへ。写真:松岡祥子

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北穂高岳バックに南岳。写真:松岡祥子

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南岳クライムダウン。写真:松岡祥子

山と人を撮る

白馬村より白馬鑓ヶ岳杓子岳 写真:松岡祥子

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