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海の呼吸がとまる前に

赤井 絵理  /  2017年3月17日  /  読み終えるまで12分  /  アクティビズム

沖縄北部の嘉陽の浜で拾ったマイクロプラスチック。写真:赤井絵理 

「私たちがいま生きている地球は、もはやプラスチックスープどころではない。プラスチックスモッグだ」 これは昨年、日本で25年以上海洋ゴミとその環境保全の活動に深く関わってきた一般社団法人JEAN が主催、パタゴニアの環境インターンシップ・プログラムを通じて、私がその通訳兼運営スタッフとして参加した、第14回海ごみサミット三重会議で、アメリカの海洋環境研究所5Gyres 代表マーカス・エリクセンが行ったプレゼンテーションでの一幕。彼の言葉を聞いた瞬間、とっさに自分の呼吸を意識してしまったのを覚えている。地球の7割以上を占め、何百年という歳月をかけて循環し、酸素を作り、たくさんの命を宿す海は、まさに地球の心臓のような存在だ。

海の呼吸がとまる前に

第14回海ごみサミット2016三重会議の会場。写真:赤井絵理

2011年3月11日、東日本大震災。私はカナダ・ブリティッシュコロンビア州のバンクーバーに住んでいた。当時友人の一声で集まった10名程度の日本人留学生で JAPAN LOVE PROJECT を結成し、募金活動を中心に被災地への金銭的支援をおこなっていた。そして震災から半年が経って募金活動が落ち着いたころ、3.11で流れ出た瓦礫が太平洋の海流に乗って北米大陸の海岸に漂着することが予測されると報道されはじめた。専門家の予測では早いもので約半年後に漂着がはじまり、1年〜1年半後に1回目のピークが来るだろう、と。「日本から瓦礫が漂着?」予想だにしなかった展開に半信半疑だったが、漂着するかどうか定かではない日本の瓦礫を拾うべく、「震災がれき清掃活動」を計画した。このとき日本政府は瓦礫の漂着を見据えたうえで、北米の太平洋側の5州(アラスカ・ブリティッシュコロンビア・ワシントン・オレゴン・カリフォルニア)に対し、見舞金としてすでに計5億円を送金していた。ニュースにもなったハーレー・ダヴィッドソンや名前入りのサッカーボールなど、日本からの瓦礫が大量に漂着しはじめていた。

私はBC州唯一のサーフタウン、バンクーバー島のトフィーノで清掃活動したが、日本の伝統的な彫刻や建設技術が施された家柱が大量に流れ着いたとき、生まれてはじめて「海はつながっている」の意味を本当に理解した気がした。これが私と「海ごみ」との最初の出会いだった。環境省からの依頼を受けて海外に流れ出た震災瓦礫の視察のためバンクーバー島を訪れたJEANと出会ったのも、このころだった。その後JEANの活動に度々参加するようになり、海ゴミに関するさまざまな問題について学ぶようになった。

海の呼吸がとまる前に

トフィーノで”made in Japan”の軽トラタイヤを発見。写真:赤井絵理 

海の呼吸がとまる前に

トフィーノにある311モニュメント。写真:赤井絵理 

いま世界で排出されるゴミの年間平均量は約25億万トン。そのうちプラスチック製のゴミは約2.75億万トンにのぼり、さらにそのうちの800万トンは海へ流出している。それはエッフェル塔約1,000個分に値する。海に浮かぶゴミに比べれば、大量の震災瓦礫も、氷山の一角にもいたらない。昨年スイスで開催された世界経済フォーラム、ダボス会議でも海洋ゴミに関する報告書が発表され、内容の一部として世界のプラスチック生産量が1964年〜2014年の50年間で20倍以上(1,500万→3億1,100万t)に急増したことや、今後20年間での倍増を見込むと、2050年までに海中に浮かぶプラスチックゴミの量は重量ベースで魚の量を上回ると予測されていることなどが報告された。プラスチックは1930年代に普及、その利便性と低コストから世界は「Throw-Away Economy – 使い捨て経済」へと変化していった。半世紀以上経ったいま、果たしてその代償は海にどんな影響を与えているのだろうか。

海が生み出さないすべてのものを「海ごみ」という。たとえそれが木材やリンゴの芯など、自然のなかで育ったものであっても、もともと海に存在しないものは海ごみだ。海岸に落ちているもの、川から流れてくるもの、漁船から落ちるものなど、海に流れ出る状況はさまざま。海底に沈んでしまうようなゴミはそこに生息するサンゴやワカメを傷つけ、魚の住処を奪ってしまう。ビニール袋やプラスチックボトルなどの軽くて浮遊力のあるゴミは、海中に暮らす生物やその上を飛ぶ海鳥が食べ物と間違えて誤飲し、消化不良で死に至る。ミッドウェー諸島に生息するアルバトロスの体内がプラスチックゴミでいっぱいになっている写真や、ドイツの海岸に打ち上げられたマッコウクジラの胃から大量のプラスチックや漁網が見つかった話を、聞いたことがあるだろう。漁業で使うロープや釣りで使うテグスも動物たちの体に絡まり、成長とともに痛々しい傷をつけて内臓や骨が変形し、その結果うまく泳げずに死んでいくケースも稀ではない。

また風の影響を受けて浮遊しながら長距離移動をするゴミには、フジツボの一種などが付着し、そのまま何千キロも移動する。そのフジツボは本来移動先に存在しない「外来種」となり、そこに元から存在する生態系を崩してしまうことになる。海に流れ出たゴミが原因でさまざまな生態系が影響を受けている。

海の呼吸がとまる前に

歯型が残るプラごみは動物たちの誤飲のしるし。写真:赤井絵理 

崩れゆく海洋生態系とともに、同じく影響を受けているのが海洋の食物連鎖だ。「マイクロプラスチック」これは直径5ミリ以下のプラスチックを示す言葉で、海に流れ出るプラごみはすべて、紫外線や熱や波などの力を受けて劣化し、細かい破片へと変化する。プラスチックは人間が肉眼では認識できないほどに微細化していくが、そうなったとしてもプラスチックであることに変わりはなく、海中で半永久的に存在しつづける。また厄介なことにプラスチックは海水中にある汚染物質を吸着し、有害化する性質があるため、形がどんどん破片化していく反面、汚染濃度は上がりつづける。こうして有害化したマイクロプラスチックは海の食物連鎖の底辺である微生物が食べられるほどに小さくなり、食物連鎖の過程で汚染濃度を増していく。

たとえばマグロはその連鎖のトップに君臨するため、体内に含んだマイクロプラスチックの汚染濃度もトップクラスになった状態で市場に出されている可能性もある。かねてから海中のマイクロプラスチックの研究の最前線を行く東京農工大学農学部の高田秀重先生の研究室が、東京湾で釣ったカタクチイワシ64尾を分析した結果、49尾からマイクロプラスチックが検出されたという報告もある。地球上で最も深いと言われるマリアナ海溝の海底でも、マイクロプラスチックや化学繊維の衣類などから剥がれ落ちるマイクロファイバーやその他のゴミが確認されている。「太平洋には巨大なゴミの島が浮かんでいる」というのも、決して都市伝説ではない。これは北太平洋に浮かぶ漂流ゴミがかたまって浮いているエリアで、日本の国土面積の4倍にも及ぶと言われている。便利な生活、安い日用品、捨てることへの無関心さ、過剰包装や過剰消費が、ゆっくりと、でも確実に、海の呼吸を止めようとしている。

海の呼吸がとまる前に

いつもの遊び場である葉山の長者ヶ崎でサップしながら浮遊ごみ回収。写真:赤井絵理

だが、現時点で海洋に存在するゴミをすべて収集することは不可能だ。微粒子化し、海底で土壌汚染を及ぼしているマイクロプラスチックなどはもってのほかである。では、私たちはいったいどうすればいいのだろう。海洋に存在するゴミの80パーセント以上が陸から流出したものであることはわかっている。だから根本的な対策は、「陸から海へのゴミの流出を防ぐ」ことと、そもそものゴミの出所となる「物の消費スタイル」の改善することだ。そのための政治、経済、教育、個人の4つのアプローチが見えてくる。

環境省はみずから日本の沿岸地域での海洋ゴミ調査なども行っているが、それだけでは足りない。現在世界中では、220以上の都市がビニール袋の廃止を法律化している。他にもマイクロビーズを含んだ製品の生産禁止令や、ペットボトルの水の販売廃止、プラスチック製の食品容器の提供廃止など、使い捨てプラスチック製品の使用を削減できる法律が、日本以外の世界では次々と決められている。また「EPR 拡大生産者責任 – Extended Product Responsibility」という言葉をご存知だろうか。これは経済協力開発機構が提唱した概念で、「製品に対する生産者の物理的および(もしくは)経済的責任が製品ライフサイクルの使用後の段階にまで拡大される環境政策上の手法」というもの。最終的な廃棄物の削減を徹底するためにも、すべての生産者はEPRを念頭に置いて製品デザインを行うべきで、消費するすべての消費者はそれを理解した上で使用する責任がある。リサイクルはあくまでも最終手段として3Rを見直し、線形型ではなく、循環型社会を導入していく必要があるということだ。

そしていちばん希望があるのが、小さな子供たちや若い世代への教育ではないだろうか。6歳になる甥っ子を連れて地元の海に行ったとき、彼の第一声は「ここすっごく汚いね!」だった。少し砂利っけのあるそのビーチは状態のよいシーグラスもたくさん拾えるが、それを拾うためには大量のゴミを掻き分けることになる。「じゃあ、少しだけお掃除していこうか」と誘い、私はタイミングよく足元に落ちていたビニール袋のなかにゴミを入れはじめた。甥っ子も私のあとをついて、汚い汚いと連呼しながらゴミをひとつずつ拾った。「このゴミどっから来るの?なんでこんなに落ちてるの?」大人になると忘れてしまうシンプルな「なぜ」、「どうして」、が子供には当たり前にある。そんな子供たちに対して、私たち大人が見せている生活スタイルはどのようなものだろう。未来を生きていく彼らに、受け継いでほしいものだろうか。どうしてゴミが落ちているのかを説明すると、少し考えて甥っ子は、「こんなにいっぱい大人は捨てるんだ!バカだよね!僕は絶対捨てないよ。あとね、ここに落ちているゴミは、ゴミ掃除機を発明してそれで吸い取ればいいね」と言った。興奮して話す彼に、私はそうそう、その調子、と思った。問題を知り、自分ができることや解決法を見つけること。自分が生きている環境に対してつねに感謝し、考えられる教育が彼らには必要なのだ。そんな教育を受けた彼らから、私たち大人は学ぶことになるのだと思う。たくさんゴミを拾ったあと、ご褒美にシーグラスを気がすむまで拾った甥っ子は、会うたびに「ねぇ、次はいつまた海に行く?」と聞いてくる。

海の呼吸がとまる前に

ルイとビーチクリーン。写真:赤井絵理

では私たち大人は、日々の生活のなかで何をどのように実践できるだろう。私自身、昔からゴミを意識していたわけではないし、ときに必要以上にゴミを出してしまうのも事実。それでも「使い捨て」という言葉を意識するだけで、消費スタイルはだいぶ変わった。いまでは世の中にあふれ、むしろそれ自体がゴミになろうとしている「エコバッグ」。レジ袋をゴミ袋代わりに使用している人がたくさんいて、レジ袋いりませんはできませんという話はよく聞くが、指定のゴミ袋が用意されている自治体が多いのも事実だし、できるだけ食べ残しをしない、野菜くずは濡らさず、生ゴミは水分をできるだけなくしてから捨てることなどで、可燃ごみのほとんどは読み終わった新聞紙等の紙で作るゴミ袋に収めることができる。

日本人が平均で1年間に使うビニール袋は(スーパーやコンビニのみ)約300枚で、なんとその平均使用時間は5分以下だ。ペットボトルについては一人当たり年間約160本、プラスチックストローに関してはなんと約584本。日本には保冷性/保温性とも世界最高レベルの超高機能水筒がたくさんあるのに、なぜこんなにペットボトルの消費量が多いのか、非常に残念だ。少し「使い捨て」を減らす生活に慣れてきたら、地域に根付いた商店街暮らしを駆使する。スーパーのプラスチックや発泡スチロールのトレーに入っているものを買わない、お弁当を作ったり、テイクアウトよりイートイン、コーヒーは割引もあるマイタンブラー。安っぽいビニール傘よりも、お気に入りの自分の携帯用傘。充電式の電池を使ったり、充電して繰り返し使用可能な電子製品を使う。

ゴミの量が減ることで忙しい朝のゴミ出しも楽になり、またゴミ出しの回数自体も減るかもしれない。そして私たちの生活に便利なたくさんの使い捨て製品は、ゴミ捨て場に捨てれば消えるのではない。可燃処理されようが、埋め立てられようが、不法投棄されようが、何らかの形で地上に残り、山や川や海に悪影響を及ぼす。これを知ってしまった以上、私は以前のような「使い捨て」生活をつづけることはできなかった。

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2013年ICC鵠沼クリーンアップでのデータ取り。写真:赤井絵理

国内や海外で、たくさんの自治体、NPO、任意団体、ボランティアの人たちなどが、日々ビーチクリーンをしている。でも海岸に出ると、本当にたくさんのゴミが落ちている。海岸でゴミ拾いをすることは、すでに海に流れ出てしまったゴミを拾い集めるよりもはるかに効率的ではあるものの、やはりいちばんに見直し、改善すべきはそれらゴミの元となるものの生産と消費にある。次に使い捨てパックに入ったお惣菜を買うとき、ペットボトルを買うとき、レジ袋をもらうとき、考えてほしい。それらを使い終えたときの最終地点を。たった少し考えてより責任ある選択をするだけで、私たちはより満たされた生活を手に入れ、そして海ゴミの大きな変化の一部にもなれるのだ。

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