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ゴビ・グリズリーを追って

ダグ・チャドウィック  /  2017年3月2日  /  読み終えるまで6分  /  アクティビズム

オアシスで無線の首輪を取り付けられ、その周辺の葦の草間に佇む「ビッグ・バワ」と名づけられたクマ。Photo: Joe Riis

今日は、パタゴニア・ブックス出版の『Tracking Gobi Grizzlies: Surviving Beyond the Back of Beyond』より、第9章「Big Bawa(ビッグ・バワ)」の一部をご紹介します。

午前中も遅くになってから、私たちは2台のバンに分かれて出発した。1台はスージーン・ボラグの泉に水を補給しに、もう1台はさらに北の、まだ湧き出ている2つのオアシスに設置した箱罠を偵察しに行くためだった。1台のバンは差動歯車からオイル漏れを起こしていて、その日の午後にアンハーが修理する予定でいた。もう1台も何度もトライしないとエンジンはかからない。のちにきちんと修理されるまでは、応急処置を施したスターターで走っていた。二手に分かれる前、私たちはツァガーン・ボグドの瓦礫の斜面の麓にある大きな石塚に立ち寄り、山の神々に供物を捧げた。早朝の静寂と入れ替わるようにイワシャコの群れが舞台を占領し、クックッ、ピチュウィチュと、あたり一面をにぎやかに歩きまわったり、飛びまわったりしていた。彼らのさえずりは、すべての生命がここで繁栄することを山頂の神々に祈る私たちの儀式の、バックコーラスのようだった。

ゴビ・グリズリーを追って

クマの生息範囲を調べるために長時間の旅へ出るときは、モンゴルのバラードとアメリカン・ロックが興味深く混じり合った音楽を聴くことができる。というよりも、実際はそれから逃れることができない。Photo: Joe Riis

今朝の懇願儀式はじつに功を成した。もっとひんぱんに行うべきではないだろうか。ムクタル・ザドガイに仕掛けた箱罠は、たんにクマを捕らえた訳ではなかった。そこには、巨大なクマが詰まっていた。年齢や性別はハリーが投与した薬が効いてくるまで定かではなかったが、非常に厳ついマザーライ(ゴビグマのモンゴル語名)だった。それがようやく麻酔に屈服したころには太陽は高く昇り、めずらしく無風だったこの日はとてつもない暑さに達していた。私たちはクマを箱罠から引きずり出し、金属の箱の横にできた狭い長方形の陰に体のほとんどが入るように横たえた。グリズリーベアの平均体温は38度3分程度。ハリーが直腸体温計で測ってみるとそれよりも高い温度を示したため、すぐに泉から水を運んでくるようにと、私たちの何人かに指示した。その季節にだけ地表に湧き出る泉から冷水を入れたバケツを急いで運んでは、捕獲されたクマの股のまわりの皮膚にかける。それは雄であることがわかった。熱射病の人間に施すように、前足と胸のあいだの「脇の下」にも同じように水をかけた。次にクマの毛皮の上からも水をかけ、外側の上毛と密生している下毛の下の皮膚に届くように刷り込んだ。作業を終えるころには、この捕虜は冷水のシャワーを浴びたような状態になっていた。

ゴビ・グリズリーを追って

マザーライはゴビ砂漠の岩に覆われた丘に穴を掘ることも、粗食のために体を温かく保つ機能の脂肪を蓄えることもできない。その機能を太い上毛と密生した下毛に頼る彼らは、寒い冬のあいだ部分的に露出せざるを得ない洞穴で冬眠することもめずらしくない。Photo: Doug Chadwick

このクマを洗うのは相当なことだった。この雄のまわりにロープ状のハーネスをかけ、重量計の下部のフックに取り付けた。上部のフックに結び付けられた棒は150センチほど。2人の保護区管理員が1人ずつ棒の両脇を持ち上げようとしたが、ほんの少ししか持ち上がらなかった。そこでさらに2人が助けに入って棒をつかんだ。それでもクマの頭と足がぶらつくまで地面から持ち上げるのには悪戦苦闘し、他のチームメンバーも押しかけて手を貸した。その重量計の限界は150キログラムだったが、それでは足りず、クマの巨体は重量計の最後の数字を1.5センチほど振り切ってしまった。ハリーの推測では、155キロから160キロだろうということだった。

これまでの調査で記録された最大級のクマは、相撲のチャンピオンにちなんで「ヨコヅナ」と名づけられた雄だった。何年も前のことだが、このクマの存在により、モンゴル政府を説得して保護区の一部での金鉱採掘の許可を止めさせることができた。ヨコヅナの無線首輪が示した位置によれば、彼の行動範囲は提案された採掘地にも明らかに及んでいたのだ。今回発見したサイズの雄グマであれば、行動範囲は周囲にある山系3つをすべて結ぶ地域にまで及ぶだろう。私が考えるに、このクマが私たちとモンゴル政府に伝える最も重要なメッセージは、開発の手が届かないように保護された砂漠は、じつに大きな、肥えた、強い、健康なマザーライを育てることができるということ。生息数全体の将来にとってもこれは幸先の良い話である。このクマを見ればわかるだろう。

ゴビ・グリズリーを追って

オアシスで無線の首輪を取り付けられ、その周辺の葦の草間に佇む「ビッグ・バワ」と名づけられたクマ。Photo: Joe Riis

ゴビ・グリズリーを追って

麻酔から目覚め、開けられた罠の扉の横で休む、首輪をつけられたばかりの雌のゴビグマ。側にあるのは研究チームによって見捨てられた道具箱。彼らは予期していたよりもずっと早く目を覚まして立ち上がる彼女の姿を見て逃走した。Photo: Joe Riis

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餌付け場所に設置された自動カメラの1つが撮影した、まだ成獣に満たない子供を他の大きなクマから守ろうとする母親の様子。Photo: Gobi Bear Project

ゴビ・グリズリーを追って

『Tracking Gobi Grizzlies: Surviving Beyond the Back of Beyond』ダグラス・チャドウィック著

ダグラス・チャドウィックのベストセラーである冒険回顧録『The Wolverine Way』の伝統を引き継いで生まれたこの新書『Tracking Gobi Grizzlies』は、地球上で最も過酷な遠隔地のひとつに生存しようと戦う、最も稀少なクマたちの肖像を描きます。絶滅の危機に瀕するゴビグマを追う彼は、なぜその生存が何百種もの植物や動物が互いに絡み合う全生態系にとって重要であるのかを、デザートローズからユキヒョウ、ワイルドルバーブ、そしてフタコブラクダまで探究します。そのすべては気候変動に可能な限り順応しようと格闘しているものたちであり、これは伝説的王国で芽生えた環境保護の寓話です。本書の英語版はpatagonia.jpでお求めいただけます(日本語版発売未定)。またゴビ砂漠に生息する世界最後のグリズリー、ゴビ・グリズリーについてのストーリーは、3月に発刊されるパタゴニアの2017年Springカタログでも特集します。

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