クリーネストライン


ヤムナイ沢全景。向かって左の尾根が南陵 写真:狩野恭一
ヤムナイ沢全景。向かって左の尾根が南陵 写真:狩野恭一

利尻南陵からヤムナイ沢滑降:デナリの前に

By 狩野 恭一   |   2018/01/18 2018年1月18日

2017年3月27日~4月1日までの6日間、利尻山の南陵登攀とヤムナイ沢の滑降に挑んだ。6月のデナリ南西壁滑降に向けたトレーニングおよび撮影チームとの連携を確認するためだ。なぜここを選んだのかというと、北海道でこの手のトレーニングにはこの場所しか選択の余地はなく、メンバーみんなも利尻が好きでヤムナイ沢を滑りたかったから。NHKを含むカメラチームには本州からきてもらうことになって申し訳なかったが、ヤムナイ沢を滑るということは数年前からやってみたかったことで、こういうチャンスがないかぎりなかなかトライできない。北海道の銘菓「白い恋人」のパッケージにもなっている斜面を今回滑ったのだが想像以上の場所だった。

南陵の登りは自分を含む佐々木と新井場の滑降チームと、加藤と平出のカメラチームの5名で、撮影しながらいかに効率よく登れるシステムを作り出せるかが問題だった。数ピッチ登るうちに改善点が見つかり、システムは良くなったが自分と新井場と、他の3人とのクライミング力の差が浮き彫りになった。それでもこの時期の利尻では考えられないような晴天が続いたおかげで、5人で登る大変さをかみしめながらも2日目の夕方には南峰の上に立つことができた。ヤムナイ沢での滑降は東面なので次の日朝日が当たって少し斜面が緩む時間帯を狙った。

海をバックにひたすら稜線を登る。 写真:佐々木大輔
海をバックにひたすら稜線を登る。 写真:佐々木大輔
P2へのルート工作をする狩野。 写真:佐々木大輔
P2へのルート工作をする狩野。 写真:佐々木大輔
大槍とP2を振り返る。 写真:佐々木大輔
大槍とP2を振り返る。 写真:佐々木大輔

4時に起床して南峰にもう一度登り、日の出を眺めてから一度テントに戻り8時出発でヤムナイ沢を目指す。この日も天気は快晴。斜面には日が当たりはじめ雪も緩みはじめていたが、日が当たったことによって沢の中にはガスが湧きはじめていた。滑走の準備を整え、4か所に分かれたカメラチームとの位置確認のあと佐々木から滑りはじめた。トップの雪面はまだ硬く、転ぶと止まれない斜面なので慎重に50メートルほど降りて止まる。ここで1つのカメラ位置が雲の中に入り、見えなくなったので雲が晴れるのを待つことに。この後、他のカメラ位置も雲の中に入りすべての雲がとれるまで3時間近く40度近くある硬い斜面で待つことになった。

南稜ピークのテン場。 写真:狩野恭一
南稜ピークのテン場。 写真:狩野恭一

ヤムナイ沢は滑降の記録がない。沢の中には大滝がありここを通過しないといけないのだが、深いゴルジュになっているうえクランクになっているので訪れないかぎり見ることができない。数年前に南陵敗退したチームがここを歩いて降りた記録が見つかったので、歩いて降りられるのなら滑れるだろうと希望的推測をたて、ヤムナイ沢を滑降することにした。

滝が大きくて滑れない場合は懸垂下降するか、最悪スキーヤーズレフト側のエスケープラインまで登り返さなくてはいけない。大滝の中に入ってしまうと屈曲していて上が見通せず、ヤムナイ沢のどこで雪崩が起きてもここの通過は1分1秒を争う。

ようやく雲も抜けだし各カメラもスタンバイOKとなったので、11時30分、大滝に向けてリスタート。少し細めのシュートに滑り込む。最短幅で8メートルほど、そこを抜けるとスキーヤーズライトにラインをとりながら登りで確認していた中間部分の雪崩の破断面目指して滑り降りていく。そこを通過したところで一度リグループ。加藤と平出のカメラチームは送り出しを撮影した後、スキーヤーズレフトのラインで大滝をかわしてルートをとり、下部での合流を約束した。

ヤムナイ沢大滝に向かって滑り込む。 写真:新井場隆雄
ヤムナイ沢大滝に向かって滑り込む。 写真:新井場隆雄

ここから先はどんどん狭くなっていくのに反比例して、行動と判断はスピードを要求される。斜面の状況は降りるにしたがい雪が緩んで滑りづらく快適とは言えない。安全確実に滑って大滝を抜けえることを3人で確かめて佐々木が最初に飛び込んでいった。数分後、「次いいぞ」と合図が聞こえてくる。なんとか行けそうなのか?2番目に自分。徐々に狭くなっていく大滝上部に入っていくときは、本当にここに入っていいのか、抜けれるのかと思えるぐらい圧倒された。

大滝のシャンデリア。 写真:狩野恭一
大滝のシャンデリア。 写真:狩野恭一
その横の一番狭く急な核心部。 写真:狩野恭一
その横の一番狭く急な核心部。 写真:狩野恭一

1番狭い場所で3メートルあるかどうか。斜度は45度ほどで日が当たらず硬く凍り付いていた。そこを早く抜けたい気持ちと転ばないように慎重にいく気持ちをコントロールしながら滑降していく。その先は少し広がっていて、もし雪崩がきてもなんとか回避できそうなスペースになっていた。後ろを振り返ると高さ7~8メートルほどの氷のシャンデリアがかかっていて、これが崩れたらと思うと早く滑り終えたかったが、もう二度と来れないかもしれないと思うともう少しここにいたいという複雑な感情が湧いてきた。着いてすぐに新井場にコールするがなかなか姿が見えてこない。ヤキモキしながらカメラを構えていると、ようやく滑り降りてくる音が近づいてきた。硬く急な斜面を降りてくるのだから時間がかかるのは当然だが、待っている間の時間がすごく長く感じた。

利尻南陵からヤムナイ沢滑降:デナリの前に

その先もL字に曲がっていてまだ下の斜面は見えてこない。また、佐々木が先頭で滑り出しL字の先で止まって「ものすごく硬いぞ」とアドバイスをもらう。これ以上ここにはいたくないという3人の気持ちが合わさったのか動きにスピードが増した。佐々木が先に降りろという指示をだしたのでそのまま出口を目指す。やっと下まで見えるところまでくると、クラックが入っていて飛び越さないといけないことがわかった。こんなところで止まりたくないので、スピードを上げて飛び越す。後を追いかけてくる新井場に聞こえるかわからなかったが、クラックがあることを叫びながら抜け切った。安全地帯まで行き3人が合流すると、無事に抜けれた喜びでチーム名である「なまら癖-X!」と叫んでいた。こんなに興奮して叫ぶなんてことは何年振りだろう。でも単純にうれしかった。滑った時間は30分ほどだったが、それ以上に長く感じた滑降だった。

今回は天気と雪の状態、そしてメンバーに恵まれたおかげで登って滑り抜くことができた。これでデナリに行っても、カシンを登って南西壁を滑れるだろうという自信につながった。

クライム&ライドは、登りには邪魔なスキーをわざわざ背負い、滑走時には登るために性能を下げたスキーで滑り降りなければならない。矛盾があって大変だがその両方を成し遂げたときの喜びも倍に近い。このきわめてマニアックな世界をまだまだ探っていきたい。

2017年6月、佐々木大輔、新井場隆雄、狩野恭一の3人は、北米大陸最高峰「デナリ」で最も過酷なルートのひとつである、カシンリッジを5日間かけスキーを背負って登攀し、南西壁の初滑降に成功しました。

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