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美しく刷り上ったばかりのFishing 2018 Lookbook。写真:パタゴニア日本支社
美しく刷り上ったばかりのFishing 2018 Lookbook。写真:パタゴニア日本支社

「環境印刷で刷ろうぜ」

By 梶原 緑   |   2018/02/21 2018年2月21日

パタゴニアのカタログは製品を紹介するだけでなく、私たちが奨励する人生哲学を訴えること、イメージを支えている哲学を訴えることを目的としています。またストーリーを語るパタゴニアのその他の媒体は、ウェブサイトから品質表示タグ、店舗のディスプレイ、動画にいたるまで、すべてカタログを基礎として作り、映像も文章もカタログを基準として構築しています。パタゴニアのカタログは、販売シーズンごとに発行する聖典です。

私たちのようなビジネスにとって、カタログは健全な財務体質を保つうえで不可欠なものです。けれども残念なことに、通常カタログは紙に印刷されるので、森林やエネルギー、水といった環境に多くの影響をおよぼします。そうした配慮から、パタゴニアでは森林管理協議会(FSC)認証済みの消費者から回収/リサイクルされた古紙(PCR)100%を採用したカタログを制作。また通常日本で配布しているパタゴニアのカタログは、環境面からすべて英語版とともにアメリカで印刷/製本され、日本に送られてきます。

そうしたなか今回Fishing 2018 Lookbookの印刷/製本をお願いした株式会社大川印刷では、「環境印刷で刷る」ためのさまざまな取り組みを、日本の印刷業界でいち早く取り入れています。パタゴニアのカタログの印刷について、梶原緑氏にお話を伺いました。

印刷前の本機色校正。写真が美しいパタゴニアのルックブックには微妙な色調整は必須。通常の線数(1インチに入る網点の数)は網点175線に対して、このカラーは240線。どれだけ印刷が精細かがわかる。写真:パタゴニア日本支社
印刷前の本機色校正。写真が美しいパタゴニアのルックブックには微妙な色調整は必須。通常の線数(1インチに入る網点の数)は網点175線に対して、このカラーは240線。どれだけ印刷が精細かがわかる。写真:パタゴニア日本支社

LED-UV印刷機とCCDカメラ

Fishing 2018 Lookbookは最新の環境対応印刷でお応えしています。従来の印刷では油性インキを使用します。インキは空気に触れることで乾燥しますが、すぐには乾燥しないので、印刷物同士が付着するのを防ぐために、パウダー(弊社ではでんぷん100%)を印刷機内で印刷物全体に塗布します。今回の印刷には、印刷機の乾燥装置の光源に世界ではじめてLED(発光ダイオード)を採用したLED-UV印刷機を使用しました。インキを乾燥させる乾燥装置の紫外線ランプは通常の印刷機と同様、印刷機に内蔵されていますが、この印刷機では、印刷されると同時に紫外線ランプから光源が照射され、インキを瞬間的に乾燥させます。そのためLED-UV印刷機は、従来の印刷機に比べて約60%も使用電力を削減、環境負荷の低減を実現しています。

日本製のLED-UV印刷機。上部についているのが本機導入後に設置した、印刷の品質検査のためのCCDカメラ。写真:パタゴニア日本支社
日本製のLED-UV印刷機。上部についているのが本機導入後に設置した、印刷の品質検査のためのCCDカメラ。写真:パタゴニア日本支社

この印刷機に使用するのはLED専用の紫外線(UV)硬化型インキです。LEDのUVによって乾燥(硬化)するインキで、通常の印刷どおり、K(ブラック)→C(シアン)→M(マゼンタ)→Y(イエロー)で印刷されたあと、最後にUV装置で乾燥させて、印刷が終わります。弊社で使用している印刷機には、真ん中と最後にUV装置(LED-UVランプ)があります。装置を通る瞬間0.2秒で乾燥するため、従来の油性インキの印刷での乾燥待ち時間やパウダーの使用がなくなり、次の工程にスピーディーに進めることができます。

印刷機のランプとは違いますが、ご家庭用のLED照明と、主流だった白熱電球・蛍光灯の寿命や温度を比較してみるとお分かりいただけるかもしれませんが、印刷機でもLEDを使用することでランプ自体の寿命も長く、また熱温度が低いことは省エネにもつながり、さらにはCO2排出も削減できます。たとえば通常の印刷機とLED-UV印刷機で、同じデザイン、同じ用紙、同じインキの使用量と、すべて同じ条件下で印刷して1時間当たりの電力量を比較したところ、通常の印刷機の85.2kwhに対して、LED-UV印刷機では36.8kwhでした。48.4kwhも省エネにつながったことになります。

中央奥で青く光っているのがLED-UVランプ。インキを0.2秒で瞬間的に硬化させるため、乾燥するのを待つ必要はなく、また電力も大幅に削減できる。写真:パタゴニア日本支社
中央奥で青く光っているのがLED-UVランプ。インキを0.2秒で瞬間的に硬化させるため、乾燥するのを待つ必要はなく、また電力も大幅に削減できる。写真:パタゴニア日本支社

こだわりは環境印刷だけでなく、品質にも力を入れています。LED-UV印刷機導入と同時に、検査カメラ(CCDカメラ)を印刷機上部に設置。大川印刷では全印刷機に検査カメラを設置し、同時に印刷枚数をナンバリング管理しながら、汚れ、色ムラ、ゴミ、ピンホールなども検査。印刷終了後、カメラ検査で製品として不良とチェックされた枚数番号を抜き取ります。カメラが使用できない場合、校正に熟知したメンバーが印刷終了後、目視によるチェックを1枚1枚行います。

すべての枚数管理のため、印刷の余白にナンバリングがされる。このナンバーはハードディスクに記録されて保存。印刷終了後に汚れなど不良の印刷用紙を抜き取る作業に使用する。写真:パタゴニア日本支社
すべての枚数管理のため、印刷の余白にナンバリングがされる。このナンバーはハードディスクに記録されて保存。印刷終了後に汚れなど不良の印刷用紙を抜き取る作業に使用する。写真:パタゴニア日本支社

ノンVOCインキ

印刷資材としてインキにも配慮し、ノンVOC(揮発性有機化合物:VOC:Volatile Organic Compounds)インキを使用しています。これは石油系溶剤0%のインキです。印刷インキ特有のツンとする臭いがしないため、印刷物をご覧になるお客様はもとより、私たち製造者の体にも負担なく使用できるインキです。

使用するのはLED-UV印刷機対応のノンVOCインキ。印刷中もインキを補充するが、作業員も安全。写真:パタゴニア日本支社
使用するのはLED-UV印刷機対応のノンVOCインキ。印刷中もインキを補充するが、作業員も安全。写真:パタゴニア日本支社
使用するのはLED-UV印刷機対応のノンVOCインキ。印刷中もインキを補充するが、作業員も安全。写真:パタゴニア日本支社
使用するのはLED-UV印刷機対応のノンVOCインキ。印刷中もインキを補充するが、作業員も安全。写真:パタゴニア日本支社

印刷物のインキによる人体への影響はあまり知られていないかもしれませんが、実際、本が読みたいのに、勉強がしたいのに、化学物質過敏症で教科書を見ることができない、あるいは触れられない学生さんなどもいます。また石油系溶剤の入ったインキの臭いで気分が悪くなるなどの症状を訴える患者さんたちにもお会いし、ノンVOCインキを使用した印刷物をお渡ししたところ、揮発性の臭いがしない、以前よりパンフレットに触れられるようになったなどの声をいただきました。

また2012年に胆管がん問題が大阪の企業で多発していると問題になったことがあります。機械に付いたインキを洗浄する際の洗浄剤に含まれている1,2ジクロロプロパンとジクロロメタンという物質が危険物質ということで、日本では2011年に規制されましたが、アメリカが指摘したのはそれより20年前。いまでは洗浄剤メーカー側の見直しもはかられ、安心して機械のインキ洗浄ができるものも多くあります。弊社では、国が定める有規則第3種までの有機溶剤は使用していません。これにより、作業環境の安全性を高めています。

FSC森林認証紙

パタゴニアのUS本社がカタログ制作に使用している紙はFSC森林認証紙であり、リサイクル100%であり、バイオガスで製造されているなど、環境に配慮された素晴らしい紙です。日本では、輸入手続き、時間、製造調整、テストなどの確認をおこなう必要があり、アメリカから同じ用紙を入手することは必ずしもできません。よって弊社では、日本で製造し、日本の環境にあった用紙で、patagoniaのロゴが美しく見えるよう、また製品の色やパタゴニアという雰囲気を実現することができるよう、それらにあった印刷品質および環境配慮のFSC森林認証紙を採用しました。US本社でも気に入っていただけたようで満足しています。

リサイクル100%用紙については、日本では2008年に古紙配合率不足の用紙を100%リサイクルと偽装して販売された事件があり、その製造は減ってしまいました。弊社はリサイクル100%用紙と第三者認証機関から認定を受けた植林地の木材チップで製造されるFSC森林認証紙を提案、併用して使用していましたが、現在はFSC森林認証紙をメインに使用しています。トレーサビリティが取れている古紙を配合したリサイクルFSC森林認証紙はダンボール製品に多く使用されていますが、パンフレットなどの商業印刷には用紙銘柄も少なく、現在は選択が困難です。しかしながら今後はさらに「リサイクルFSC森林認証紙」にも注目したいと考えています。

「環境印刷で刷ろうぜ」

CO2ゼロ印刷

印刷事業におけるCO2排出量をカーボン・オフセットすることで、「CO2ゼロ印刷」で印刷を行っています。これは、工場や輸送を含む事業活動で排出される年間の温室効果ガスのすべてを、国内排出量取引制度の「J―クレジット制度」を活用することで、実質ゼロにする取り組みです。J―クレジット制度とは、CO2などの温室効果ガスの排出削減量/吸収量を国が認証する制度で、弊社では印刷業界では全国初のこの取り組みを2016年から実施しています。具体的には、地元戸塚区が友好協定で手を結んでいる北海道下川町や、横浜市の水源である山梨県の森林育成事業、また一般家庭における太陽光パネル導入支援や、海の資源を守る横浜ブルーカーボン事業の支援をすることで、クレジット(排出権)を得ています。

大川印刷の「環境印刷」が明記されたFishing 2018 Lookbook。写真:パタゴニア日本支社
大川印刷の「環境印刷」が明記されたFishing 2018 Lookbook。写真:パタゴニア日本支社

私たちは今後も、地球温暖化の防止や関係地域の森林資源の育成貢献、あるいは地球温暖化防止の意識向上につなげることのできる取り組みが社会や消費者の皆さまにもあることを、パタゴニア社のサプライヤーとして、その印刷物を手に取ったお客様へ、環境に配慮した印刷資材と製造工程の印刷工場から発信していきます。ビジネスを通じて自然環境を守っていくというパタゴニア社のミッションは、弊社の環境にこだわった印刷にも通じます。環境にとことんこだわった製品を、インターネットや動画だけでなく、同様に環境にとことんこだわった印刷で作られたカタログや商品タグからも伝えつづける。自然を保護し、共存していこうと人びとに伝えるものづくりのサポーターとして、今後も協働できることを楽しみにしています。

Fishing 2018 Lookbookはパタゴニア直営店(札幌北仙台渋谷ゲートシティ大崎横浜白馬名古屋京都大阪福岡)にて、221日(水)より配布いたします。
※名古屋ストアは店舗改装のため2月13日(火)より3月27日(火)まで休業中。

パタゴニアの色を、環境印刷を通して実現した製造部の上田広氏と営業部の梶原緑氏。写真:パタゴニア日本支社
パタゴニアの色を、環境印刷を通して実現した製造部の上田広氏と営業部の梶原緑氏。写真:パタゴニア日本支社

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