クリーネストライン


パッカブル・ウェーダーは履いていることを忘れさせるほど、軽快に釣りを楽しめる。 写真:森安正樹
パッカブル・ウェーダーは履いていることを忘れさせるほど、軽快に釣りを楽しめる。 写真:森安正樹

夏のイワナ釣りを楽しむための選択:ミドル・フォーク・パッカブル・ウェーダーと過ごした時間(東北釣行編)

By 中根 淳一   |   2018/02/15 2018年2月15日

かれこれ1時間以上歩きつづけているが、釣り場はまだ先なのだろうか。福島県の山間部とはいえ、梅雨明け間近の河畔は不快なほど多湿。体温で偏光グラスはくもり、吹き出す汗が止まらない。さらに整備されていないそま道は、マダニの巣窟で、「道」と呼ぶには相応しくないだけ荒れ放題。避けては跳ね返ってくる草木をかき分けながら進むほかない。これがトレッキング装備であれば大した苦でもないが、川通しに進む行程もあるため、ウェーダーを履いたまま歩きつづける……経験者はお分かりだと思うが、土踏まずが曲がらないフェルトソールのウェーディングブーツは、長距離を歩くように作られてはいない。もちろんウェーダーを履かないウェットウェーディングという選択もあるが、夏でも15℃に満たない冷たい流れに長時間浸かるのは体にもよくない。

先を行く同行者も無言で歩いている。単純に魚を釣るだけであれば、ここまで上流へ行く必要もないのだが、放流魚ではなく天然のイワナにこだわると妥協はしない(前年も釣りをせずに往復6時間以上歩きつづけた)。今回の「唯一」といえる救いがウェーダーにミドル・フォーク・パッカブル・ウェーダーを選択したこと。既存のウェーダーであれば、いくら透湿性が高くても下半身は汗で湿って不快だが、この薄いウェーダーは体感的にレインパンツを履いている程度。過度な蒸れも気にならずに軽快だ。

新緑のカーテンに囲まれる東北の渓。 写真:森安正樹
新緑のカーテンに囲まれる東北の渓。 写真:森安正樹

じつは一昨年前にパタゴニアのベンチュラ本社でパッカブル・ウェーダーの試作品を見る機会があった。そのときの正直な感想として「すごいウェ−ダーを考えたな!」という驚きと同時に「強度や耐久性は大丈夫なのか」という疑念を抱いた。それはとても薄くて、手に持った感覚は防水ジャケット程度の重さ(実際は約740g)。薮を漕いだり、斜面や岩をよじ登ることも多い日本の山岳渓流で使うには、誰もがその強度や耐久性を疑うことだろう。その印象から懐疑心が拭えない僕は、昨シーズン中の釣りで意図的に酷使してみようと目論んでいた。

ようやく入渓地点に到着すると、流れに腰まで浸かって涼を得る。歩行中は軽量化最優先で飲料水も少なくしているため、同時に沢の水を濾過して飲み水を確保。さて、歩いただけの効果はあるのか。釣りがほかのアウトドアアクティビティと大きく異なるのが、自然に加えて「魚」という生き物を相手にするということ。ゆえに魚たちが健全な生活を営み、コンディションがよくなければ楽しめない。我々人間からは一見豊かな自然も、わずかな水位の増減や水温の上下、水質の悪化で状況は刻々と変化している。苦労に比例しないのが悩ましいところだが……今回は魚たちの機嫌がよかったのか、ここぞというポイントごとに、きれいなイワナがフライに飛び出してくる。それも10〜12番サイズという大きめのフライに反応がよいのだから、その大らかさに自然と顔が緩むのは仕方がない。2~3人で交代しながらでも満足な釣りを続ける。

歩きつづけて火照った体を冷やしながらフライを選ぶ。釣り前のしばし楽しい時間。 写真:森安正樹
歩きつづけて火照った体を冷やしながらフライを選ぶ。釣り前のしばし楽しい時間。 写真:森安正樹

僕の出番が回ってきた。「少し上流によい流れがあるな」と思いながら歩を進めると、視界の隅に魚が見えた。脅かさないように後退りながら静かに距離をとる。何か妙な感じがするが、尺(30cm)はありそうだ。充分に距離を離して1投目。フライに向かって浮上してきた。しかし流れるフライに追いつけずに元の位置に戻ってしまった。それでもこちらに気付いている様子はない。2投目も同じ反応。これは「釣れる」と確信して、自分のポジションをフライが流しやすい位置に修正。3投目も同じように反転するかと思った瞬間、その魚は迷いも見せずにフライを激しく引ったくった。

強い流れにのって抵抗する魚。ここでさらにイワナとは異なる引きに違和感を覚える。優しくランディングネットですくうと原因がはっきりとした。ネットの中に入っていたのは、イワナではなくヤマメだったから。この沢にはイワナしか棲息していないはずだが……おそらく下流から昇ってきたのだろう。エサが少ないのか細身ではあったが、その逞しさに見とれながら、いつもは出さないメジャーをあてるとジャスト尺。

野趣あふれるイワナもよいが、「渓流の女王」にたとえられるヤマメも美しい。 写真:中根淳一
野趣あふれるイワナもよいが、「渓流の女王」にたとえられるヤマメも美しい。 写真:中根淳一
アベレージサイズは7~9寸だが、ほとんどのイワナが大きなフライに好反応。 写真:森安正樹
アベレージサイズは7~9寸だが、ほとんどのイワナが大きなフライに好反応。 写真:森安正樹

翌日は釣り時間を長く取るために、アクセスが容易な沢に入渓する。この沢はさらに水温が低い。あえて告白するとパッカブル・ウェーダーの欠点ともなりそうなのが、低刺激性の合成ラバーソックス。ネオプレーンとは違いシームレスの丈夫さや軽量化と引き換えに、薄いので水温がそのまま感じられる。現在はウィンター・ウェイト・フリース・オーバーソックスも発売されているので、中に履く「靴下」で調整すればよいのだが、この釣行は初めての使用だったので、考えもおよばなかった。ただし、長時間水に浸からなければ、気になるほどではないだろう。それよりも軽快感が勝っている。いつまでも「ウェーダーを履いている感覚」が希薄なのだ。

この沢も好調で前日同様によく釣れたが、そろそろ退渓地点も近い。最後のポイントで僕が竿を出させてもらう。落ち込みのある奥の核心部は、ほかの人に釣ってもらうとして、手前にフライを流してみよう。木々に覆われて薄暗いため、フライを目で追うのも辛いが――一瞬フライが消えた――アワせた瞬間、それまでとは違う重みがロッドに伝わり湾曲する。いくら何でもそう簡単によいサイズが釣れるはずもないが、明らかに重い。手を水に浸しながらやり取りし、充分に冷えたところで、優しくハンドランディング。「でかい!」計測するまでもなく尺を超えているが、念のため。ここが釣り人のいやらしいこだわり(笑) 33.5cm、1尺1寸超え!

さすがに尺イワナは稀だが、歩いただけの釣果があれば嬉しいもの。ただし、いつも報われるとは限らない。 写真:中根淳一
さすがに尺イワナは稀だが、歩いただけの釣果があれば嬉しいもの。ただし、いつも報われるとは限らない。 写真:中根淳一

できすぎの大物を釣った余韻に浸りながら顔のほころびも最高潮だったが、パッカブル・ウェーダーは「だから?」とでも言いたいのか、何事もなかったように下ろし立ての快適さを保ってくれている。ここまで薮を漕ぎつづけ、岩に膝をついて擦ったり、お尻だけで進んでみたりと、開発者が見たら絶句しそうなほど酷な使い方を続けたが、穴が空くような気配はない。取りあえずのところウェーダーの基本性能は合格。あとはシーム部などの長期耐久性を確かめる作業が必要だが、すでに1か月後には北海道への釣行も決まっている。夏場なので内部の汗を洗い流したいところだが、今回はあえて何のメンテナンスもせずに乾燥だけにして、そのまま畳んで保管してみよう。僕の自宅にはエアコンがないから、厳しい環境での待機となるが、新しい相棒のパフォーマンスが真に確かめられることだろう。

ウェーダーがひどく汚れた場合は洗濯したあと、表と裏面を充分乾燥させたうえで折り畳まない保管が理想です。特に夏場の高温期に車内などで折り曲げたまま放置すると、シームテープ部分が浮いたり、漏水や生地の劣化につながり、製品の寿命が短くなる原因となります。

北海道釣行編もお楽しみに。

最後のポイントで釣れた一尺一寸イワナ。このサイズになると顔も厳つい。しかし、いつもながら僕が持つと小さく見える(笑) 写真:森安正樹
最後のポイントで釣れた一尺一寸イワナ。このサイズになると顔も厳つい。しかし、いつもながら僕が持つと小さく見える(笑) 写真:森安正樹

コメント 0

関連した投稿

« »