ボルダラーになる
若いころ、私はビックウォールやロングルートに完全にコミットしていました。それらはしばしば山につきものの多くの苦労を伴いましたが、それぞれの場所の美しさや仲間達とのパートナーシップが私を引き付け、山に向かわせました。私はそんな壮大な景観の中に存在し、壁で眠り、風に叩かれ、クラックにはさまり、山頂に立ち、そういった経験を特別な人たちとすることを欲していました。景観のほんの一部で多くの時間をすごすボルダリングに行くことは馬鹿げたことだけではなく、危険でもありました。足首を折って将来の大きなアルパイン目標を台無しにするわけにはいきません。
でも何かが変わったのです。いまはボルダリングが好きです。どちらかといえば。
それはトレーニングと楽しい仲間たち、強烈な集中力と多くの小さな成功が混じった遊びのようなものです。でも私がボルダリングを学ぶとしたら、鞭を打ってくれる師が必要なことも知っていました。そこで1月のある寒い日、アレックス・メゴスとケン・エッツルがビショップの私の家を訪れたときに計画を立てたのです。それは飛行機で30時間をかけて、派手な色のTシャツを着た活気あふれる国際的で強靭な男性たちが集まるワールドクラスの縞模様のボルダーで登ることでした。
真夜中に南アフリカのケープタウンに上陸すると、親切な地元のクライマーが出迎えてくれ、シーダーバーグ・メサにあるロックランズのボルダリングエリアに連れて行かれました。すべては鍛錬という名のもとに。ロックランズでの初日、アレックスが、私が過去に登ったいくつかのルートよりも高い「ボルダー、ザ・フィニッシュ・ライン」を完登するのを目の当たりにしました。その課題がいかに困難であるかは、登っていく彼の背中の筋肉を見れば一目瞭然で、これまでに目にしてきた彼のクライミングとはムーブの質も違うものでした。これがすごいクライミングであることは明らかでした。黒とオレンジ色の縞模様のコントラストは日中の太陽の下では強烈でした。アレックスは私が到着する前にこの課題に何日もつづけて午前中取り組んでいました。彼はトップアウトすると、溜め込んでいた感情やプレッシャーを吐き出すような雄叫びをあげました。素晴らしかった。それはV16を登るという肉体的に困難な芸術のひとつでした。
インスピレーションを受けた私にはプロジェクトが必要でした。その選択肢は何千とありました。トラ柄のような縞の入った楽しい課題、長いトラバースの課題があり、そして大きなムーブの課題や極小クリンプの課題、ハイボール、極悪なランディングの課題もありました。私は毎日岩の中を歩き回り、アレックスがチェシャ猫のような笑みを浮かべながらビーチサンダルとぶかぶかのショーツでムーブを教えてくれるのを眺めて笑っていました。彼の若々しい熱意は大胆なムーブと巨大なボルダーに対する私の恐怖を沈めてくれる完璧な薬でした。楽しければそんなことはどうでもいいのです。
3日目の遅くに私たちは幅広いのっぺりとしたフェイスを持つ美しいグレーのボルダーであるクリーキング・ハイツの基部に到着しました。そこには完璧なクラックで締めくくる課題がありました。男性陣はこれが私にとって最適な課題であると確信していました。8メートル近い高さ以外は! パッドを数枚敷き、アレックスは人参を食べるためか、何かもっとハードなものに挑戦するためにその場を離れ、ケンはシューズを履いてその細い体でトップアウトしました。
私は緊張していましたが、とにかくシューズを履き、どんな感じなのか取り付いてみました。ぎこちなく数手進むと、私の足はケンのかざした腕の上を越えていました。しかし核心に入ると一気に不安と前腕の重さに捉えられ、どうしても先に進めず、どんな励ましもそれ以上私を前進させてはくれませんでした。私はパッドを一瞥し、飛び降りました。めまいで頭がクルクル回り、パッドに着地すると私にはこの課題は絶対に無理だと悟りました。私は再度挑戦しましたが、結果は同じ。めまいで吐き気がし、疲れ果てていました。男性陣がこれを私の課題にしたことは間違ってはいません。だったら私の問題は何なのでしょう?私たちは夕食を作ろうと帰途につきました。
数日後、私たちは日陰とハイボールの課題をやりたがっていた友達のためにパッドを運ぼうとロードサイド・ボルダーに戻りました。すでにいくつかの美しくハードな課題をこなし、人参をたくさん食べていた私は満足でした。しかし角を曲がるとクリーキング・ハイツが堂々と聳え立ち、頂上の一部だけが日に当たっていました。アレックスは私を見つめてニッコリ笑いました。友だちのショウナが口を挟みました。「ケイト、絶対にこれを好きになるわよ!」と。皆がパッドを二重に敷きはじめると、私はもうすでに怖くてできないと泣き言を漏らしました。
数日前よりも自信がついていた私は再びシューズを履きました。アレックスとショウナの冗談は軽く、私もそれに乗らされました。私が立って平静にスタートホールドを掴むとアレックスは逆立ちしていました。岩に足を乗せた途端に彼らは近づき、腕を上げ、おかしなアクセントで気楽なアドバイスをくれ、同時にバカを言い合っていました。「ちがうちがう、そうそう。もう少し上に。もうちょっとだけ上!」
体は軽くしなやかで、感覚は研ぎ澄まされていました。指が力強くホールドを捉え、つま先のラバーは磨かれた岩を押さえ込んでいました。私は6メートルの高さにいながら、下にいる師匠たちの声が私の耳に囁きかけてくるのを感じていました。すると突然、私の手はクラックを捉え、ツルツルとしていた足はザラザラの感触を得て、太陽へと手を伸ばしていました。私はボルダーの上でプレッシャーや集中力と解き放つ狼の雄叫びをあげました。
笑い転げました。鍛錬は功を奏し、私はボルダラーになることを会得していたのです。