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レース最高地点から景色良いトレイルを走る。
Photo: Gleen Tachiyama
レース最高地点から景色良いトレイルを走る。 Photo: Gleen Tachiyama

旅の理由:3年目のオーカス島

By 西城 克俊   |   2018/05/18 2018年5月18日

オーカス島(Orcas Island)。アメリカ、シアトルから200キロ離れた港から船で1時間ほどのところにある島。毎年2月、私は旅に出る。島を走る100マイルレース、Orcas Island 100に出場するためだ。

なぜ毎年同じ島に行くのか?様々な国に行き、いろいろなトレイルに出会い、走りたい、そういう欲求がないわけではない。それでもこの土地は、そんな気持ちを拭うほどの体験と感情を私に与えてくれた。そして、かけがいのない友人とも出会わせてくれたのだ。

船から見たオーカス島。写真:藤岡正純
船から見たオーカス島。写真:藤岡正純

北米のレースには2012年から毎年1~2レース、多い年で3レース走りに来ている。ワシントン州にはじめて来たのは4年前。パタゴニアのアンバサダーでもあるクリッシー・モールプロデュースのChucanut50Kに出場したときだ。そのときに出会った友人たちとは、今でも交流があり、今回のレースもサポートをしてもらうことになった。同じ場所を訪れ続ける理由の一つは「大好きな友人たちに会いたい」からかもしれない。レース以外でも、自宅に招かれ食事をしたり、ランニング談議に花を咲かせたり、行きつけのランニングショップでランニングコミュニティと触れあわせてもらったり。私の人生に多くの気づきを与えてくれている。それぞれが年齢を重ねる中で、どういうスタイルで、どういう考えで、トレイルランニングに取り組んでいるのか。そういう話をしていると、時間が過ぎるのは本当にあっという間。この友人たちと出会わなかったら、今の自分のスタイルはなかったかもしれない。

レースの話に戻ろう。このレースは、島の中にある25マイル(40キロ)のトレイルを4周する100マイルレースだ。同じところをグルグルするとは、なんてグレージーなんだと多くの人が思うかもしれない。1周40キロだと、次の周回の時には走る時間帯が違うため、同じトレイルなのに違う姿を見せてくれる。それがまたいいのだ。私は好きなトレイルに出会ったら、とことん同じ場所に通ってしまう習性がある。走る時間、季節、体調、気持ち、走るたびに同じ条件はない。毎回、新しい発見があるから面白い。噛めば噛むほど味が出るではないが、訪れれば訪れるほど、走れば走るほど、そのトレイルの魅力を知ることができるみたいな感じだろうか。オーカス島のレースもそうだ。1年目は雨、2年目は雪、3年目は快晴、とこの3年間は全く違う条件だったので、いろいろな状況を想定し、準備をしていくが、毎回ことごとく打ちのめされている。そして、この3年間で見た景色は全て異なるのだ。走っているスピードも違ければ、走っているときの感情も異なる。そのため、トレイルを踏みしめる感触や見える景色も違って、毎年違うトレイルを走っているようにさえ感じるのだ。これも毎年来る理由のひとつでもある。

スタートゴール地点のログハウス。ゴールした人、家族・友人のゴールを待っている人たち。写真:藤岡正純
スタートゴール地点のログハウス。ゴールした人、家族・友人のゴールを待っている人たち。写真:藤岡正純
コース中盤の走りやすいトレイル。写真:西城克俊
コース中盤の走りやすいトレイル。写真:西城克俊

人との触れ合いも楽しい。レース出場者は約200名。みんなの顔が見える範囲のレース運営。毎年出場しているランナーとはもう顔なじみのため会場に行けば「今年も来たんだね、ようこそ!」と言って迎えてくれる。3年連続はごくわずかで3回完走者は4名のみ。会った瞬間、笑顔で握手、ハグ。私は英語が得意なほうではないので、濃いコミュニケーションはできないが、トレイルランニングを嗜みこのレースを一緒に走っているというだけで、すぐに仲良くなれる。スポーツって、国境はないなぁとつくづく感じさせられる瞬間だ。ランナーだけではなくレースに関わっている人たちとの交流も楽しい。コースには5か所、約8キロごとにエイドステーションがある。1周ごとに立ち寄るので、毎回同じスタッフに会える。中には老夫婦もいて、聞けばとあるレースのレースプロデューサーだった方らしい。この2人のいるエイドのゆったりとした時間が疲れをいやしてくれた。レース後半に疲れ切ってエイドに入ると、「なにがほしい、スープを飲むか、パスタ食べるか」と気にかけてくれる。疲れすぎて座り込んでいると、横にきて「まだ十分時間がある。歩いたってゴールできるから、のんびり行けばいいよ。」とも言ってくれる。いい意味でプッシュしてくれるとともに、ひとり一人のチャレンジをリスペクトし、友人のようにサポートしてくれる雰囲気が大好きだ。

滝の撮影している西城克俊。Photo: Gleen Tachiyama
滝の撮影している西城克俊。Photo: Gleen Tachiyama

さて、今年のレースはというとこれまで最も苦しんだレースの一つに入るくらい厳しいものだった。事前のトレーニングもしっかりと行い、体調を整えて臨んだつもりが、約40~50キロほどで脚に疲れが出現。自分の中でこれまでにない感覚に戸惑いながら走り続けるものの、なかなか体調が上がらない。でもやめようとは一切思わなかった。これが今の自分だからだ。頭の中にある理想を追い求めてはいけない。今の自分が持っている体力と精神力で100マイルのトレイルランニングレースをどう攻略し、全てを出し切ってゴールするのか。これこそが次の成長につながると信じているからだ。毎年いろんなことが起こる。1年目は足の甲が腫れてリタイヤ、2年目は寝不足で大失速、3年目の今年は大不調。なかなか思うようにはいかないなぁと考えながら、気持ちを切り替え「今の自分にできることをやろう」と。アスリートなので結果を求められる立場ではあるが、その前に1人の人間。ダメなときもある。

ゴールタイムは29時間35分、最長時間更新だ。ただしそれは最も長くトレイルの中で自分と向き合った時間でもあった。いろんな意味で、今回のレースは私の気持ちを振り切らせてくれ、これからの道筋を示してくれたように感じてならない。

ゴールで友人ジャームスが待っていてくれた。写真:藤岡正純
ゴールで友人ジャームスが待っていてくれた。写真:藤岡正純

スポーツとは何なのだろうか。ひとそれぞれだとは思うが、自分にとってはライフスタイルだ。走るという、非常にシンプルなスポーツ。シンプルだからこそ、いろんなことを感じることができる。私はこれからも自分の人生を豊かにするため、大好きな友人に会いに、お気に入りのトレイルを走りに、日本をはじめ、北米に旅に行くだろう。

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