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地方創生の礎として、広葉樹をパートナーに選ぶ

中村 幹広  /  2018年6月7日  /  読み終えるまで8分  /  コミュニティ, 食品

飛騨市有林から伐採された広葉樹を使ったブライダルギフト。伐採・製材・乾燥を経て作品になるまでには最低1年以上を要する。 Photo: Hida municipal office

2011年7月、スイス・チューリッヒ州ヴィラ村

『Fichte, Vier(トウヒ、4)』『Ja, nächste!(了解、次!)』『Buche, fünf(ブナ、5)』)男たちのそんな声が雨上がりのスイスの森に響くなか、自然が創り出した美しき造形物である木々は、森の管理人、フォレスターが手にした情報端末を通り抜け、瞬時にデジタル情報へと変換される。そうした森の情報はいまや木材生産に欠かせない。その日、私は日本から遠く離れたスイスの森で、林尺を片手に、フォレスターとともに収穫する木々の調査を行っていた。

地方創生の礎として、広葉樹をパートナーに選ぶ

欧州でも人気の高いカエデ。高級家具の材料として重用される。スイス・アールガウ州セオン村。Photo: Mikihiro NAKAMURA

林尺とは大型のノギスのような見た目で、木を一本一本挟んで直径を測定する林業専用の測量道具だ。測定する木の斜面上方側に立ち、胸の高さ(地上高1.3メートル)で木の直径を測る。これを樹高データと組み合わせることで、その木がどれくらいの材積量(立方メートル)なのかを大まかに知ることができる。私たち林業関係者はこうした作業の積み重ねによって深淵なる森の姿をほんのわずかではあるが、しかし少しずつ、そして確実に明らかにしていくのである。

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トウヒの一斉林から本来の植生であるブナの森へと再転換していく途中の択伐林スイス・アールガウ州セオン村。Photo: Mikihiro NAKAMURA

私がスイスの森で同行していたフォレスターの名は、ロルフ・シュトリッカー。チューリヒ州のヴィラ村とシュテルネンベルグ村、両村の約900ヘクタール(東京ディズニーランドと東京ディスニーシーの両方を合わせた面積のおよそ9個分)の森を管理しているフォレスターだ。彼が管理する森には、トウヒやモミといった欧州では一般的な樹種もたくさん生えているが、飛騨市と同じくカエデやタモ、ブナといった広葉樹もたくさん生えていた。

2012年8月、岐阜県飛騨市古川町

 私はロルフと一緒に飛騨の森を歩いていた。ロルフが管理する広葉樹の森づくりをどうしても飛騨市の人たちに伝えたいと思い立ち、彼をスイスから遥か1万キロ以上も離れた飛騨市に招いたのだ。

ロルフが言う。「自分が暮らす町と飛騨市はよく似ている。もちろんスイス人はいないし、話す言葉や植生も違う。慣れ親しんだスイスのチーズやチョコレートもスーパーには売っていない。だけれども、緑豊かな谷あいの町に気持ちの良い人たちが楽しそうに暮らしている。それに広葉樹の森が多いところは自分が暮らす村とそっくりだ。ここはとても豊かで気持ちの良い場所だと思う」

全国有数の森林県である岐阜県は南北に広く、標高差も海抜0メートル未満から3,000メートル超と、ダイナミックな地形の変化に富む。また東西の中心に位置することから、標高差と相まって分布する樹種は混ざり合わさり、その種類も豊富である。私の同僚が教えてくれたところでは、岐阜県内には400種ほどの樹木が存在し、うち一般的に用材として使えそうな有用広葉樹は40種ほどもあるらしい。わけても県最北端に位置する飛騨市は広葉樹の資源量が群を抜いて豊富であり、古くから「飛騨の匠」を輩出した地として知られている。いまでも飛騨地方は全国家具産地の一つに数えられるほどだ。

しかしこの豊かな飛騨市の広葉樹の森にも課題は多い。2016年に飛騨市が調査した結果によれば、豊かな広葉樹の面積や蓄積は確認されたものの、太くて大きな木はすでに過去の存在で、そのほとんどは伐採され、建築や家具用材としていますぐ経済的に利用できるものはあまり残っていない。残っていたとしても、それは伐採した木を運び出すための道もない奥山か、かつては細くて利用価値がないと伐り残されたものが単木的に残存しているということが明らかになった。ちなみに市内民有林における広葉樹のデータを単純平均すると、林齢は70年、直径はわずか26センチだった。

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スギ造林地へ向かう途中に残されたブナ。何故この木が残されたのか、今となっては知る由もない。飛騨市宮川町。Photo: Mikihiro NAKAMURA

一般的に家具メーカーが好んで欲する木材の寸法は、製品としての歩留まりなどから、幅80センチ程度以上と聞くことが多い。もちろん最近では、消費者の環境意識の高まりやメーカー側の弛まぬ努力による加工技術の発達などにより国産材利用への回帰も進んでいるし、2017年の国調査結果によれば、材料寸法は以前よりも小径化の傾向にあり、中部地方の場合だと最低幅40センチ以上という声も聞かれた。

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広葉樹の伐採作業を検査。経済的に価値の高い木を将来に残しつつ収穫作業の収益を確保するのはいつも至難の業だ。飛騨市神岡町。Photo: Mikihiro NAKAMURA

誰もが知るように、木の年輪は1年に1つしか形成されない。だから単純に平均値を計算すれば、直径26センチの木は70年という年月をかけて、1年間におよそ0.7ミリずつ太くなってきたことになる。では家具メーカーが欲する最低40センチに到達するまでには、あといったい何年が必要となるのか。その答えは20年。そして目標を80センチにすれば、私たちはこれからさらに約80年間も待つ必要がある。

これが意味するところ、それはつまり私たちが真に目を向けなければならないのは、いま目の前にある森ではなく、80年後の森。しかし果たして誰が、樹齢150年の森の姿を正確に思い描くことが出来るのだろうか。

では、私たちはこの先いったい、どのような森づくりを目指すべきなのだろうか。答えは人の数だけ、いや広葉樹の種類だけ無数にあるのだろう。しかし一つだけ言えるのは、私たちは将来にわたって品質の高い木を育て続ける必要があるということ。なぜなら、品質の高い木を育てていく過程では、山火事や落雷などの気象災害が発生するかもしれないし、保育や収穫作業中に誤って木に傷をつけてしまうこともあるだろう。ひょっとすると遺伝子による予期せぬ悪影響が出てくるかもしれない。さまざまな不可避な理由によって、私たちの意図に反し、目標よりも品質の劣る木は必ず生まれてくる。

地方創生の礎として、広葉樹をパートナーに選ぶ

将来にわたって集中的に育てる育成木を選ぶための現地研修会。飛騨市河合町。Photo: Mikihiro NAKAMURA

であればこそ、私たちは自然の姿をつぶさに観察しなければならない。自然が許容する範囲のなかで、林業という人間の営みをつづけることで森からの恵みを最大限に享受しつつ、いまある木々が大きく育ち、建築や家具用材の品質を満たすその日まで積極的に、しかし必要最低限のコストで、将来の多様な需要に応えられるよう複数の価値ある広葉樹を育てる。そしていまある「使えない」と言われている広葉樹小径木の新しい価値を模索していく。そうしたことが必要なのではないだろうか。

これから先も飛騨の広葉樹で作られた、家具をはじめとした魅力あふれる製品をたくさんの人たちが手にする機会が増えていくことだろう。どんな人が、どんな場面でそれを手にするのかは分からないが、飛騨の豊かな森に思いを馳せてもらいたいと思う。そして林業とは、森で木材を生産だけでなく、環境を保全して安全・安心な暮らしを創り、将来に向かって森の価値そのものを向上させつづけるものであること、またその過程で山村地域に雇用を生み出し、森からの恵みによってそこに暮らす人びとを豊かにすることができる生業だということを知ってもらえたら。

飛騨市は地方創生の礎として広葉樹をパートナーに選んだ。私たちにはそうする理由と、義務があった。森は先人からの贈り物であり、そして二世代先の未来への贈り物なのだから。

「パタゴニア プロビジョンズ 飛騨の森カッティングボード」は日本の豊かな資源を適切に有効活用し、国内の作り手を守りたいとの思いから作られました。株式会社トビムシの協力を得て、岐阜県飛騨市の森林から搬出された、これまで未利用だった多種多様な小径木を活用し、古くからの 高度な木工加工技術を有する飛騨の職人と福祉事業所の手仕事によるカッティングボード。 日本国内のみ取扱の製品です。

製品名:パタゴニア プロビジョンズ 飛騨の森 カトラリーセット

素材:飛騨市産業広葉樹(クリ、サクラ、ホオノキ他)

サイズ:25.1×14.4×0.8センチ(天然木のため若干異なります)

重さ:130~190グラム(樹種によって異なります)

塗装:天然オイル

価格:3,500 円(税抜)

*全国のパタゴニア直営店で販売中。 6 月 7 日よりパタゴニア・オンラインシ ョップにて発売開始予定。

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