クリーネストライン


グループに分かれて、渋谷駅前(都市)と白馬村(中山間地)の、現在の課題と、課題の裏返しではないありたい未来を考え、描く。円型模造紙「えんたくん」を膝に乗せる参加者たち。
全写真:パタゴニア日本支社
グループに分かれて、渋谷駅前(都市)と白馬村(中山間地)の、現在の課題と、課題の裏返しではないありたい未来を考え、描く。円型模造紙「えんたくん」を膝に乗せる参加者たち。 全写真:パタゴニア日本支社

第6回草の根活動家のためのツール会議:気候変動編

By 中西 悦子   |   2018/09/20 2018年9月20日

気象庁が史上最速の梅雨明けを伝えた6月末から7月1日の2泊3日、国内では第6回目となる草の根活動家のためのツール会議を開催しました。気候変動編とした今回の会議では、国際環境NGO、地域の環境団体、企業、自治体、農家、大学生、写真家、パタゴニアスノーアンバサダー、各専門分野のアドバイザーといった多様な顔ぶれ55名が、山梨県清里高原キープ協会清泉寮に集まりました。温室効果ガスの最大の排出源である石炭火力の発電所が100基以上稼働し、世界に逆行して新規建設が計画されているこの日本において、どのようにしたら「脱炭素社会」を実現できるのか。また解決策のひとつである再生可能エネルギーの推進が、大規模開発をともなわないなどの配慮をしたうえで可能になるのか。それぞれの活動を共有し、変化において大きな力となるためです。

問題への理解や関わり方、職業、社会的立場、日常の時間の使い方などが異なる参加者がまず共有したのは、気候変動といわれるものの現状です。

地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5~2度未満に抑えることを目標としたパリ協定。国際条約のもと、温室効果ガスの排出を早期に減少に転じさせ、削減目標を達成したとしても、気温が上昇した結果起こりうる現象への策は必要となる。それでも現段階において削減のために行動しようとすることの意義は大きい。そうした国立環境研究所の高橋潔氏からの科学者としての報告とこの会議へのエールを皮切りに、認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏による、「気候変動解決のための政策と持続可能な地域社会」と題した基調講演では、世界における化石燃料からのダイベストメント(投融資撤退)の巨大なうねりと、指数関数的に拡大している太陽光、風力発電の動向について、想定される未来がこれまでの延長線上にあるのではなく、私たちはいま大きな転換期の時代を生きているという歴史的な時間軸にあることも語られました。

基調講演者の飯田哲也氏。
基調講演者の飯田哲也氏。

一方、日本社会と企業が世界的な潮流から取り残されている厳しい現状、産業構造転換の必要性、変化に対応するスピードアップが求められる段階にあること、そのなかにおいて企業の意思決定がどのようになされているかなど、大和総研調査本部主席研究員である河口真理子氏の講演が続きました。参加にあたり、地域社会を持続可能なものにして子どもたちに手渡せる未来を考えていたという、あるスノーボーダーはここに来なければおそらく出会うこともなかった専門家や企業人である登壇者の話にこんなにも引きつけられるのかと、驚きもってその学びをかみしめていました。

初日、ビールの時間目前の最終講義。日本の企業の現状と、世界のなかで日本が期待されていることのギャップについて、ウィットに富んだ問題定義で参加者を引きつける河口氏。
初日、ビールの時間目前の最終講義。日本の企業の現状と、世界のなかで日本が期待されていることのギャップについて、ウィットに富んだ問題定義で参加者を引きつける河口氏。

環境分野にかぎらず、現在世界が、日本が直面している重要かつ複雑な問題は、多数の要素が絡みあい、影響しあい、時間の経過とともに状況が変化していくため、ひとりのヒーロー、あるいはひとつの組織で解決することは困難です。気候変動問題はその最たるものですが、このテーマに取り組む環境団体をはじめ、社会においてさまざまな立場にあるステークホルダーが互いにその存在に気がつき、問題の解決において果たすことができる役割と相互の関係性の理解を深め、共有する、ありたい未来や究極のゴールに向き合ったとき、これまでにない新たな連携や創造的な策が生まれてきます。

戦略づくりのプロセスワークでは、以下の段階に、順に取り組みました。

1.ありたい未来を考える
2.ありたい未来を実現するための課題は何か考える
3.課題が発生している原因(構造・背景)は何かを考える
4.原因を解決するためのアクション(解決策)を考える
5.解決策に対して、自分が担う役割・貢献を考える

問題解決型で動くと陥りやすい、何をしたら問題が解決できるのかというアクションを考えることを急ぐのではなく、構造や背景といった課題が発生している真の原因を掘り起こすことに焦点をあて、仲間と認識を共通にしていくことに、多くの時間が割かれました。大きく2つに分けたワーキンググループのうちのひとつでは、求めている変化を起こせる「意思決定者」を明確にし、その決定者に影響できる人や事は何かをたしかめること、また問題の構造、背景を理解して適切な働きかけができるよう、問題を船にみたてて、船底を支える柱を描き、問題を支える柱や影響を及ぼす柱に何があるのか、その要素を洗い出す方法で原因を探っていきました。こうして構造に働きかける効果的な戦略をたてることで、適切な戦術とは何なのかがみえてきます。けれども、いざ実際に行動に移すには、頭と心、とくに心が動かなければ行動に結びつかない点についても伝えられました。

第6回草の根活動家のためのツール会議:気候変動編

持続可能な社会の実現に向け、発生している課題の原因を追究するワークに参加するひとり、一般社団法人ソーラーシェアリング推進連盟の馬上丈司氏。農地を利用し営農を継続しながらの「ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)」は、エネルギーの地域自立と農業の自立を同時に達成していくことが可能。

第6回草の根活動家のためのツール会議:気候変動編

NPO認定法人気候ネットワーク桃井貴子氏。脱炭素で持続可能な社会をつくっていくことを目指し、地球温暖化防止のために市民の立場から「提案×発信×行動」する同団体は、地球温暖化防止に関わる専門的な政策提言、情報発信とあわせて、地域単位での地球温暖化対策モデルづくりに、多くの組織・セクターと交流・連携しながら取り組む。

第6回草の根活動家のためのツール会議:気候変動編

グループワークでコメントする、仙台港の石炭火力発電所建設問題を考える会の長谷川公一氏。地元で活動する彼らと、認定NPO法人気候ネットワークなどが中心となり、事業者や自治体に対して、地道に粘り強く働きかけてきたことにより、バイオマス専焼発電事業に切り替えが決定。また、仙台市も石炭火力発電所建設を厳しく規制する条例を公布。これにより、日本国内の建設計画50基のうち7基が中止・燃料変更となった。

第6回草の根活動家のためのツール会議:気候変動編

最終日のワークショップ。スキー場の森林再生など関するアドバイスを求めるProtect Our Winters Japanの小松吾郎氏にコメントする350.org Japanの古野真氏。同団体では現在、金融の脱炭素化を目指す「COOL BANK AWARDキャンペーン」を展開。

今回のツール会議では、すべての人が学びあい、分かちあい、できることを提供し、達成したいことを話し、役割をどう果たせるかを考えることができるように、講師と参加者は先生と生徒の関係ではなく、アドバイザーとして参加いただいた方も含め、同じ社会を構成する一員として、ともに同じ問いをし、思考プロセスを共有してもらいました。「GIFT&WANT」として初日行なったアイスブレイクでは、GIFTとして、提供できる、手伝える、話せることを、そしてWANTとして学びたい、達成したい、実現したいことを、個人として、それぞれが所属する組織として、考えました。特別なスキルではなくとも、ある関係性において、ときに重要な役割やスキルとなるものを、誰しもが持ち合わせています。また問いを共有することで、得られる協働もあります。これまで気にかけてこなかったそれぞれの個人が提供できるものや、すでにある存在に気づき、再定義することで、無数の関係性による新たな生態系を築くことが出来ることを、この2泊3日の現場で体感しました。

初日の休憩時間、パタゴニア・スキー・アンバサダー大池琢磨によるパタゴニア地方への遠征のスライド&トークショーを実施。圧倒的な自然のなかで滑るその姿が映し出されたとき、私たちが守りたいものがなんであったかを、その場にいた多くの人が心に感じました。そして世界中の雪を追い求めている彼から、訪れた地域やそのフィールドでの素晴らしさとともに、気候変動の影響とみられる変化を聞いた参加者は、自分たちの役割を再認識します。「科学者でも環境の専門家でもない僕にもできることがあることに気づけた。そして仲間がいることにも」帰り際の彼の言葉です。

いま、多種多様な人が関わり、問題に対応できる社会をつくることを目指しながら、その一方で緊急的に対処すべき課題に、戦略的に取り組んでいくことが求められています。気候変動とは、地球温暖化やその影響など、それによる人種も国境も越えた地球規模での現象のこと。すでに世界各地でそのさまざまな影響が現れはじめており、自然環境や私たち人間の暮らしにも重大な問題を引き起こしています。国内でも、ツール会議を終えてむかえた夏は、かつて経験したことのない猛暑、豪雨、また経験値があてにならない軌道をたどる台風など、気候の変化が日々の暮らしや日常に大きな影響を及ぼし、生命の危険を感じるほどの猛威をふるいはじめていることを体感しています。

この3日間、同じ時間を共有した参加者は、別々の場所にいながらも、強い希望と意志とともに、大きな青図のなかで、各々動きはじめている。
この3日間、同じ時間を共有した参加者は、別々の場所にいながらも、強い希望と意志とともに、大きな青図のなかで、各々動きはじめている。

そして2018年12月、国連気候変動枠組条約第24回締約国会議(COP24)がポーランド南西部のカトヴィツェで開催されます。今年は先のパリ協定の実施へ向けた重要な年であり、本会議ではパリ協定の詳細ルールの合意を目指すことが期待されています。日本だけでなく、気候変動対策に取り組む世界各国のあらゆる政府、自治体、企業、団体などから、温室効果ガスの排出削減等に関する取り組みの情報を集める段階を経て行なわれるこの会議の動向は、「ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。」をミッションに掲げるパタゴニアはもちろん、母なる地球で生きるすべての人が関心を向けざるを得なくなっているのではないでしょうか。

【講演者・アドバイザー】
飯田哲也(認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長)
河口真理子(株式会社大和総研調査本部主席研究員)
高橋潔(国立環境研究所社会環境システム研究センター広域影響・対策モデル研究室室長)
会沢裕貴(NPO法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン地域実践伴走担当)
鮎川ゆりか(CUCエネルギー株式会社取締役/元千葉商科大学政策情報学部教授)
近藤ヒデノリ(株式会社博報堂 ブランドイノベーションデザイン局 クリエイティブプロデューサー)
佐藤潤一(パタゴニア日本支社環境・社会部門シニアディレクター)
田中信一郎(一般社団法人地域政策デザインオフィス代表理事)
中野宗(株式会社アークウェブ代表取締役/ウェブプロデューサー)
広石拓司(株式会社エンパブリック代表取締役)

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