クリーネストライン


イラスト: Stephen Rockwood
イラスト: Stephen Rockwood

玄関からベーカー山へ

By クリッシー ・ モール   |   2018/10/05 2018年10月5日

パシフィック・ノースウェスト地域では、たとえ晴れた日でもベーカー山を眺められるかはマリン・レイヤーや嵐次第だ。雪を頂く10,781フィート(3,286メートル)のドーム状の山は、変化の激しい天候に隠れることが多く、この山を見ながら育った私も今年はその姿をあまり目にしていなかった。

それでも、私たちが住むベリンハムの街から山頂まで走ろう、というジェレミー・ウルフからのメールを受け取ると、すぐにそれに賛成した。

この計画全体が、実はダン・プロブストのアイデアだ。彼はジェレミーの友人で、ベリンハムとベーカー山を結ぶトレイルシステムの構想に取り組んでいた。ダンのインスピレーションは、はるか北の海岸線に沿って散在する、伐採や採掘の町に住む14人の男を描いた映画から来ている。1911年、彼らは100ドルの賞金を懸けてベーカー山頂まで競走したのだ。ダンは初めて彼らの話を聞いて以来、この2つの場所を結ぼうと考え続けていた。諦めず、情熱を持って、ほとんど取りつかれたかのように、ダンは起きている時間のほとんどを捧げ、このトレイルの構築に不可避な物資輸送上の障害に取り組んできた。

私たちは3日間をかけて時間配分や合流地点、サポートクルーの移動手段や食料など基本的な概要を決めた。山頂へ向かうときの登山ガイドも手配した。登頂を成功させるには、アイゼンやピッケルが必要になるだろう。正確な総距離は分からなかったが、70マイル(113キロメートル)強になると予測した。

雲の上に姿を見せるツインシスターズの眺めを楽しむクリッシー・モールとジェレミー・ウルフ。Photo: Ben Groenhout
雲の上に姿を見せるツインシスターズの眺めを楽しむクリッシー・モールとジェレミー・ウルフ。Photo: Ben Groenhout

当日午後3時、私はジェレミーから「出発した」というテキストメッセージを受け取った。計画では、ジェレミーがインターアーバントレイルをゆっくり走り、ビレッジグリーンで落ち合うことになっていた。そこはよく使ういくつかのトレーニングコースのスタート地点でもあった。

私たちはコーンウォールビーチで手を振り挨拶をした。前半のクルーとハグやハイタッチを交わすと街の中を通って走り、やがてワットコム・フォールズに続くトレイルに出た。車の販売店の横から道へ出て、最初のペーサーであるジェレミーの7歳の娘、オータムを探した。オータムは自転車に乗り、ワットコム・フォールズを私たちと一緒に走った。もっともジェレミーは、80段ある階段で自転車を担ぎ、急な登りではオータムを押さなければならなかったが。オータムは、私たちが次のクルーの場所に着くまで、自転車で一緒に走った。

公園を通り抜けるとワットコム湖畔に出た。そこからは主要道路に並行して進む。ダンが提案したサイドトレイルを利用し、できる限り送電線に沿ってスチュワート山へ向かう。

イラスト: Stephen Rockwood
イラスト: Stephen Rockwood

湖岸に沿って曲がりくねった道を走り、町やいくつもの公園を抜け、湖沿いの道を進んだ後は、ハイライトとなるスチュワート山だ。突然、道が未舗装になった。私たちは手持ちのウォーターボトルをバックパックにしまい、前半のクルーに別れを告げた。「ベッドで眠れる夜を楽しめよ」とジェレミーは妻や娘、友人たちに言った。ジェレミーにとって、これが最初の徹夜のランになる。

次の12マイル(19キロメートル)の間、私たちは何時間も話し続けた。ジェレミーも私も、2年前に数か月の違いでベリンハムへ引っ越して来たが、この計画を立てる前に一緒に走ったことはなかった。

会話に熱中していた私たちは、気づくと道に迷っていた。ダートの分岐を直進すべきだったのに、左の坂道を登ってしまったのだ。この間違いで、2~3マイル(3~5キロメートル)の無駄な登り坂を進んでしまった。

リドリー・クリーク・トレイルをヘッドライトで進む。Photo: Ben Groenhout
リドリー・クリーク・トレイルをヘッドライトで進む。Photo: Ben Groenhout

コースに戻り、まだ話し続けていたが、私はジェレミーの話を遮った。すぐ後ろにある茂みから大きな音が聞こえたのだ。息を飲んで立ち止まり、音がした場所を突き止めようと振り返った。クマだ!私は夢中になって指さした。声を発することができなかった。私たちは恐れおののきながら黒い大きな熊を見つめ、立ち尽くした。

そこからは、長い土や砂利の坂道を、大腿四頭筋を傷めないように注意しながらアクミー地域へと降りて行った。ベースに到達するまでにまだ20マイル(32キロメートル)以上あり、そこからさらに15マイル(24キロメートル)の山頂への道のりがあることを知っていたからだ。私たちは、ミルクセーキが有名なアクミーダイナーで後半のクルーと合流し、カウンターで立ったままハンバーガーとフライドポテトを食べた。外は暗くなり始めていた。クルーと別れると、先へと続く長く暗い、ヘッドライトに照らされた道に満腹の状態で取り掛かった。登山を開始するキャンプ地まで、あと21マイル(34キロメートル)走らなければならない。

舗装路が終わりダートの道になると、私たちは2人とも眠気を感じ始めた。ありがたいことに、クルーは楽しいアイデアをいくつも用意していて、砂利の採掘場でダンスパーティーを始めていた。友人ニコールは、私の40歳の誕生日にやった「リップ・シンク・バトル」から、ジャスティン・ティンバーレイクの「You can’t stop the Feeling」を流し、全員が体を揺らして動き回った。これほど長い距離を走った後の私たちの動きに、誰もが感心していた。

ニコールはスーパーウーマンのように車を変えると、さらに数キロメートルを私たちに付き添った。途中で立ち止まり、携帯電話の代わりに使っていたInReach(衛星通信機)

を確認した。その時、ランナーとして今までに経験したことのない極めて鮮明な幻覚を見た。アフリカでのレース中に見た、道端に沿って風になびく奇妙なピエロのマスクよりも鮮明だった。私の認識では、道の傾斜が登りになっていて、チームにこう告げた。「良かった。ウォークブレイクができるわ」。しかし地形は下り続けていたことに驚いた。

コウモリがヘッドライトの光の中に舞い降り、私とジェレミーをぎょっとさせた。

なだらかな勾配を曲がりながら進む間に、もう2回クルーと合流し、やがて行き止まりにたどり着いた。午前2時。道はここまでだ。私の時計は、11時間前に家の玄関を出てから50マイル(80キロメートル)を示していた。

早朝の霧の中、雪を踏んで登り始めるクリッシーとジェレミー。Photo: Ben Groenhout
早朝の霧の中、雪を踏んで登り始めるクリッシーとジェレミー。Photo: Ben Groenhout

私たちは時間をかけて服を着替え、ヌードルを食べると、パックの中を調べて、登頂に必要な物がすべて入っていることを確認した。クルーはテントを張り、今夜はここで眠る。私たちは2時30分頃に出発した。

ギアや地形の変化がもたらす何かが、まるで新しい冒険を始めたばかりのような感覚にさせた。ここからの数時間は、私たちのヘッドライトが照らすぼんやりとした視界の中に溶け込んでいった。

朝早く、太陽の光が高い雲の合間から差し、雪に覆われた私たちの周りを照らした。私たちは立ち止まって景色に見入った。つかの間、雲が切れ、山頂に至るルートが姿を現したが、登り始めたときにはまた雲に覆われていた。山頂からベリンハムを見たいと思っていたが、ジェレミーと私は顔を見合わせ、何も言わなかった。

私たちは、ベーカー・マウンテン・ガイドのザックが前夜に一泊していた場所よりも少し上まで登ってしまった。幸いなことにザックの緑色のテントタープを見つけることができ、懸命に登った200~300フィート(60~90メートル)を降りて行った。「予告していたほど早くなかったな」。到着したときジェレミーがザックに言った。食事を摂ると、登山ブーツ、防水パンツ、アイゼンに履き替え、ギアを再確認し、最後にヘルメットをかぶって登り始めた。ランの最中に登山用ヘルメットをかぶるのは、初めての体験だった。さらに1時間後、私たちはロープで体を繋ぎ合った。

登頂に成功した後、山頂から下山するチーム。Photo: Ben Groenhout
登頂に成功した後、山頂から下山するチーム。Photo: Ben Groenhout

ジェレミーと私は、ベーカー山そのものや登頂と下山に要する時間を完全に見くびっていた。今考えると、その時間は長い間感じたことがないほどに集中した心地よい時間だった。この挑戦と不慣れな環境が、ザックの足跡や自分の足を置く位置、ロープを引くこと、息づかいなどに私を集中させた。周りを見渡すことすらせず、何時間も私の注意力は、目の前にある足跡を、アイゼンで一足ずつ踏み続けることにだけ向けられていた。

ザックは驚くほどの忍耐力と積極性で、繰り返し注意を促した。「ロープをまたいで、クリッシー」と。

ローマン・ウォールのクライミングは、間違いなく最も手ごわいパートだった。ほんの数百フィート(60~90メートル)だが、直立している上に凍っているのだ。私の呼吸は慣れ親しんだ持久ペースから、より長く、強く息を吐く方法に変わった。緊張やストレスを感じているときに、自分を落ち着かせ集中を保つために使う戦略だ。

帰宅途中、汗びっしょりで疲れ果てたクルーは、みんなでアクミーダイナーに立ち寄ると、ミルクセーキを飲んだ。

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