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ブリストル湾のクビチャック川
ブリストル湾のクビチャック川

夏の儀式:歓迎されるものと、されないもの

By ティム・ソン   |   2018/10/19 2018年10月19日

ブリストル湾の釣りシーズンのはじまりは、つねに興奮と不確実性が入り交じり、気力を失わせるのだが、過去10年以上、より大きな不確かさが覆いかぶさっている。それは、提案されながらもまだ理論でしかないペブルマインだ。ブリストル湾の河川システムの源流近くにできることになるこの巨大な露天掘り採掘鉱山は、サーモンとそれに依存する生物に潜在的な生存危機をもたらす。

鉱山は最近いくつかの敗北を経験したが、漁師たちは、経験と気骨により、ものごとを短距離走ではなくマラソンとみなす傾向にあり、よって鉱山が依然として現実に起こりうることを知っている。

「ペブル・プロジェクトは現在、連邦政府レベルで認可を待っている、という事実が残る」 そう言うのは2004年からペブルと闘っているブリストル湾のフィッシング・ロッジ所有者のブライアン・クラフト。「ブリストル湾の永久保護が確保されないかぎり、ある会社がいつかまた、それに再投資するだろう」

海まで約27キロ、アラナック川はブリストル湾を迂回し、クビチャック湾へと流れ出す。晴れた日にはベニザケの群れが数百メートル上から望める。アラスカ州。Photo: Ben Knight
海まで約27キロ、アラナック川はブリストル湾を迂回し、クビチャック湾へと流れ出す。晴れた日にはベニザケの群れが数百メートル上から望める。アラスカ州。Photo: Ben Knight

つい最近まで、クラフトと仲間たちはこの煉獄から本当に抜け出ることができるかもしれないと思っていた。2014年、EPA(米国環境保護庁)は3年の研究のあと、ブリストル湾水源アセスメントを提出し、クリーン・ウォーター法のもと、この地域での鉱業を厳しく制限する権限を行使する準備をしていた。何十億ドルもの潜在的価値のある巨大な金と銅とモリブデンの鉱床であるペブルの見通しは、暗いように見えた。1980年代後期に発見されたペブルは、イリアムナ湖の北20キロ付近、ブリストル湾に流れ込む川が交差する場所に位置する。これらの河川が流れ出る場所は、世界最後の手つかずの野生のサーモンの生態系のひとつを成している。今年の夏はこれまでに5千800万匹のサーモンが回帰したブリストル湾。この湾の毎年のサーモンの産卵遡上は、何千年にもわたって先住民族の文化的かつ食生活の中心でありつづけ、2013年のナップの研究によれば、1万4千の職と1億5千万の年次歳入をもたらす持続可能な経済の基本であり、世界の野生のベニザケの半分近くを供給している。

アラスカのブリストル湾の小さな滝を産卵のために遡る前、エディで順番を待つベニザケの群れ。Photo: Ben Knight
アラスカのブリストル湾の小さな滝を産卵のために遡る前、エディで順番を待つベニザケの群れ。Photo: Ben Knight

そのころまでには、ペブルのパートナーは撤退し、EPAの行動が保留中に新しいパートナーを惹きつける希望もほとんどなく、その採掘権を有すカナダの企業ノーザン・ダイナスティ・ミネラルズは、財政破綻ギリギリのところにいた。同社はそのすり減っていく財源をアグレッシブな法的およびロビー・キャンペーンにつぎ込み、2016年の選挙時に未解決だった訴訟で、EPAを縛りつけることに成功した。トランプ政権は、予想通り、ペブルにはるかに友好的であることが証明され、ノーザン・ダイナスティはチャンスをつかむためにベストを尽くした。

EPA長官としての短い在職期間中、この前EPAの訴訟当事者スコット・プルーイットはオフィスに防音電話ボックスを建てたり、EPAのスタッフのやる気を損なっていないときにはペブルの代表と4度の会合を持ったりしたが、反大勢との会合はわずか1度だけ。その後、訴訟で和解し、提案されていた制限を棚上げした。ノーザン・ダイナスティはペブルの蘇った幸運を売り込みはじめ、2017年12月には彼らが何年も約束してきたことを果たした。陸軍工兵隊に鉱山計画を提出し、正式に認可工程に着手したのである。

彼らが提案している鉱山は、ある意味「ペブル・ライト」で、以前のそれと比較するとかなり小さなものだ。ペブルはそれを「アラスカ州民の意見と必要性に配慮した事業」と呼び、「環境への安全性を多大に向上したもの」としている。鉱山の反対者にとっては、それは白昼夢であり、陸軍工兵隊が受け付けるべきではなかった、大急ぎで作られた不適切な計画のように見える。

「彼らはこの大きな計画を、現実にもとづくことなく、その大部分について基本データもないまま、想起した」と語るのは鉱山に反対する先住民族グループの共同体、〈ユナイテッド・トライブス・オブ・ブリストル・ベイ〉のディレクターで、みずから漁業を営むアラナ・ハーリーだ。

彼らはいまだに経済的実行可能性についてのデータもなく、そして多くのオブザーバーが軽率だと考慮する、多数の新しい大きなアイデアについての環境的基本データもないことを指摘する。たとえばアラスカ最大のイリアムナ湖を渡る通年の砕氷フェリー、あるいはマクニール・リバー野生動物保護区に恐ろしいほど近接する搬出道路などである。そこはアラスカ半島を渡ってクック入江側にはない港に到着する前にある、有名なクマの生息地である。

「道路と港とそれに関連する工業活動のすべてが隣接するのは、おそらく最高の野生のクマの観察場所だろう」と言うのは、環境保護団体でパタゴニアの環境助成金を受領した〈サーモンステート〉のエグゼクティブ・ディレクターのティム・ブリストル。「僕らは皆、そのサーモンへの潜在的影響については知っているが、いま人びとが認識しはじめているのは、そのうえブラウン・ベアもが危険にさらされていることだ。この事業計画はどんどん愚かになっていくばかりだ」

ペブルが5月にその提案採掘計画の規模を拡大し、より大規模な現地電力発電所を求める鉱山計画の改訂を提出したとき、それはそのオリジナルの計画のいい加減さ、そして彼らが何か大きなものへとつながるドアをこじ開けようとしているのではないかと疑う反大勢のひそかな懸念を強調しているように見えた。「小さな鉱山はただの見せかけです」とハーリーは言う。「彼らは将来の巨大鉱山のための勢力を築き上げているのです」

鉱業会社はそのような理論を拒絶する。「提案者が事業計画の調整をするのは非常に典型的なことだと思います」とノーザン・ダイナスティの広報担当副社長のショーン・マギーは語る。そして将来の鉱山拡張はいかなるものでも、それ自体の環境影響評価を経てふたたび同じ精査に直面しなければならないことを指摘する。「この事業計画に反対する人びとは、私たちが実際に提案したものではない、何か別のそれに焦点を当てつづけています」

新計画は新しいパートナーを惹きつけるのに十分だった。少なくとも短期間には。ファースト・クアンタム・ミネラルズは取引交渉中に、認可の第一段階を支持する資金として最初に支払い、3,750万ドルをし、結果的にこのプロジェクトの5割の所有権と引き換えに、1億ドル以上を投資することになった。この春の時点で、陸軍工兵隊は環境影響評価報告書(EIS)の草案の前段階であるスコーピング段階に入っており、彼らが2020年までに完了させることを期待する過程に対する意見などの提供を求めている。この予定は大統領選挙の周期にわざと合わせたファスト・トラック認可ではないかと、数名のオブザーバーは疑っている。僕が4月にアンカレッジで行われたスコーピング公聴会のひとつに出席したとき、ペブルは明確な前進への道を獲得したように見え、長いあいだ鉱山の反対をしてきた人たちのムードは悲観的だった。

しかしそれから、ブリストル湾ではよくあるように、天候はふたたび変化した。

まず、ペブルに関しては「適正手続きの自然の経過をたどらせるべき」だとして、長いあいだ明言を避けてきたリサ・マーコウスキー議員が州の役員数名に同調し、当初30日に短縮されたコメント期間をより標準である90日に延長するよう呼びかける書簡を陸軍工兵隊に書いた(6月末に切れたコメント期間中に、17万5千のコメントが提出された。陸軍工兵隊が開いた9つの公聴会での証言が何かを示唆しているとすれば、それはコメントの大多数が鉱山に反対していることだった)。マーコウスキーの行為は大したものではなかったが、有権者を強引に押し倒すことはさせないことを示していた。

「この規模と潜在的影響を抱く事業計画には30日のスコーピング期間は不十分であることを、アラスカ州民の多くが表明しました」と彼女は陸軍工兵隊に当てた書簡に書き、すべての利害関係者の発言が尊重されるべきだという彼女の希望を強調した。

その後、メモリアル・デー直前に、ノーザン・ダイナスティとの交渉を2度延長したファースト・クアンタムが、それまでのすべての求婚者がしてきたように、ペブルを祭壇に置き去りにし、提案された取引から手を引いた。ペブルの株価はそのニュースで30%下落した。代替えパートナーのオプションもすぐにはないなか、手元にある現金はあと1年の操業経費しかないことに投資家たちは注目。会社のこの先の困難な道を反映していた。

この決断に「私たちはショックを受けました」と〈ユナイテッド・トライブス・オブ・ブリストル・ベイ〉のハーリーはいう。「最初に包括協定をしたとき、〔ファースト・クアンタムは〕、反対勢がいかに巨大で熱心であるかについて、はっきりと理解していなかったのだと思います」

ペブルは平静を装うのに最善の努力をした。「私にとって、今日はいつもと同じです」とニュースが流れたあと、同社のCEOトム・コリアーは声明を出した。「この事業計画はうまく定義されたもので、私たちはなぜそれがもたらす機会に信念を抱いているかについて、アラスカ州民とのコミュニケーションを取りつづけていきます」と。しかし状況が宙ぶらりんに返ったことは明らかだった。またもや。

鉱山反対勢はこれを祝った。釣りシーズンのはじまりに、ついに良いニュースが出たのだ。しかしこの長年の闘いは彼らの警戒を緩めさせない。「ファースト・クアンタムが手を引いたのは素晴らしいことです。しかしこの闘いの次の段階への最初の鐘にしか過ぎません」とクラフトは言う。ハーリーもこれに同意する。「私たちの日々は変わりません。彼らはもっとひどいところから復帰したことがあるのですから」

連邦政府レベルでは聞き入れてもらえないことを認識した反対勢は、11月の選挙に向けて熱戦状態の州知事レースでペブルを主要な問題にしたいと考え、すでに州レベルにおける努力を倍加して、サーモンの個体数を開発計画による潜在的な崩壊から保護するために既存の認可法を改訂することを目的とした、「スタンド・フォー・サーモン(サーモンのために立ち上がる)」住民投票を押し出している。住民投票の策略はこれまでにも試されてきたが、今回のその努力はより的を絞ったもので、多くの支持を得ている。

ファースト・クアンタムのこのニュースが報じられてからずっと大荒れがつづいている。陸軍工兵隊のスコーピング期間が終わるわずか数日前、プルーイット長官はEPAのスタッフに、クリーン・ウォーター法のセクション404(c)のもと汚染する事業計画を阻止するエージェンシーの権威を制限するための規定草案を書くよう命じた。これはまさにペブルに制限を課す試みとして前任者が行使した権威そのものである。その1週間後、プルーイットは辞任を余儀なくされた。その命令がどうなるのかという疑問を残して。しかし、プルーイットは去ったが、彼の規制撤廃の意図は去っていないと予測するのが無難そうだ。

しかし州に焦点を合わせた反対勢の戦略は功を奏しはじめている。ペブルに反対する前議員のマーク・ベギッチが州知事選挙に出馬したことに促されたのか、これまで穏やかにペブル反対だった現知事のビル・ウォーカーが、今回強い反対を表明している。陸軍工兵隊への書簡で、彼はペブルが実行可能な仮経済アセスメントを提出できるまでEIS工程を一時停止することを求めた。ペブルは「私たち、またはアラスカの一般に対して、まだ実用的かつ現実的な事業計画の提案を示していない」と。ウォーカーの書簡はEIS工程を中断させそうにはないが、彼の立場は州政治のより良い風向きの兆候である。

ペブルはこれは彼の書簡が取り上げた疑問そのものについて回答する過程自体を妨害するものであると彼をたしなめ、同社のCEOコリアーは声明で、「これは陸軍工兵隊が評価することであり、私たちはその期待に応えられるかどうかだけです」と述べた。

こうしたことは僕らにとって何を意味するのだろうか。ノーザン・ダイナスティは前進をつづけ、新しいパートナーを見つけることに楽観的で、仮経済アセスメントは今秋提出できるだろうとしている。陸軍工兵隊はスコーピング期間を終え、2019年中頃に完成予定のEIS草案に取り組んでいる。反対グループは「スタンド・フォー・サーモン」住民投票が「スタンド・フォー・アラスカ(アラスカのために立ち上がる)」と名乗る鉱業や石油ガス企業による何百万ドルもの寄付を財源とするグループからの反対に直面するなか、圧力をかけつづけることを誓っている。これらすべては不確実性というおなじみの感覚がふたたび戻ってきたこと、あるいはそれが一度も去ったのではないことを意味する。

配達準備の整った1日の収穫のごく一部。アラスカ州ブリストル湾のクビチャック川。(左から右):ビリー・ディレーニー、著者ティム・ソン、シャヤン・ロハニとコーリー・アーノルド。Photo: Corey Arnold
配達準備の整った1日の収穫のごく一部。アラスカ州ブリストル湾のクビチャック川。(左から右):ビリー・ディレーニー、著者ティム・ソン、シャヤン・ロハニとコーリー・アーノルド。Photo: Corey Arnold

夜が長くなり、魚が少なくなっていくブリストル湾のサーモン・シーズンの末期では、漁師たちは不快な現実に直面する。それは「ゴースト・フィッシュ」と呼ばれる、シーズンを通して釣り網やボートから落ち、波に揉まれて何週間も過ごした、浮腫んで脱色した腐敗しかけのサーモンの死骸だ。漁師たちはこれらの一群を忌み嫌う。網に巻きつきやすく、デッキに上げられると、破裂して極めて不快な匂いを放出するからだ。それらは逃れることのできないブリストル湾の暮らしの一部であり、潮とともに往来して日毎にやつれ、汚損していく。ペブルマイン物語の長い経緯は一部の漁師にとって、これと同様の感覚をもたらすようになってきている。

「長年にわたって、たしかに負担をかけられてきた」とロッジのオーナー、クラフトは言う。「疲れるし、ときには士気をそがれることもある。だが、結局のところこれほど重要な問題はない」

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