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厳しい贈り物

ロランド・ガリボッティ  /  2018年12月25日  /  読み終えるまで5分  /  クライミング, コミュニティ

薄情な白状。花崗岩のわずかなエッジと小さな氷の塊だけを使って、アグハ・スタンダルトの「エグゾセ」の最初のピッチが、ランナウトと霧氷に彩られたイカしたものであることを認識するクリス・ミュッツェル。アルゼンチン領パタゴニア Photo: AUSTIN SIADAK

天候はすべてを複雑に、そして豊かにする。

僕がトップアウトするころには雪が降りはじめ、あたりは暗くなる。ロープがつづくかぎり進み、できるだけ平らな場所を見つけて穴を掘り、膝を抱えて座る。「登ってこい!」と何度も叫ぶが、強風にかき消されてパートナーたちには聞こえない。僕はひたすら待つ。下で彼らが、ロープに体重をかけて登りはじめていいものかと悩み、決断までに1時間近くが過ぎる。その間にも僕のジャケットには雪が積もっていく。心配すべき状況なのだろうが、あまりの苦境の不条理に、不意に笑いがこみ上げる。ようやくエルマンノが現れ、そのすぐあとにアレッサンドロがつづく。頂上まで数メートル歩くにつれて、天候はさらに悪化する。何も見えない。僕たちは真夜中、普通であれば避けるような天候の下、パタゴニアの険しい尖峰の頂にいる。岩壁のくぼみに座り、湯を沸かし、夜明けを待つ。ようやく夜が明けると、雲が晴れ、これまで目にしたなかでも最高に美しい景色に迎えられる。清々しい朝の光が四方八方に輝き、新雪をかぶった周囲の峰々に反射する。

当然ながら、どちらかといえば僕たちは悪天候を避ける。だが、絶え間ない突風や容赦ない横殴りの雨といったパタゴニアの名高い気象条件は、ずいぶん長いこと、ここで意味するところの成功をもたらす枠組みを築くようになってきた。山が提示する挑戦はたいていの場合は表面どおりの意味でなく、天候のプリズムを通さなければならないということだ。

厳しい贈り物

製品テスターになりたいって本気? アンカーにつながり、ブーツの紐を緩め、ロープを防寒具代わりにして座り、持参したすべてのウェア(おそろいのパーカの試作品含む)をレイヤリングして、フィッツロイの山頂までわずか200 メートルの地点でビバーク。不快になること間違いなしの夜、できる準備はすべて整えたアン・ギルバート・チェイスとマイカ・バーハルト。アルゼンチン領パタゴニア 
Photo: PETER DOUCETTE

1970年代後期のパタゴニアで登攀していたジム・ブリッドウェルは、「好天はサハラ砂漠の水ほどに貴重で稀有である」と書いている。瞬時に変わる天候、長引く嵐、残忍な風などを描写し、クライマーにとっての「大胆さと愚かさの境界はカミソリの刃ほどに薄く」、また「パタゴニアではおそらくその差異さえない」と言っている。さらに「拳銃に弾丸を4つ装填したロシアンルーレットのゲームをしているようなものだ」となぞらえた。それよりも前の1952年、リオネル・テレイも、それまでに遭遇したどんな状況よりも危険で、「ひどい強風が、登攀を死ぬほど危ういものにする」という同様の見解を示していた。

暴風はアプローチ中の体を地面に殴り倒し、登攀を支配し、そして非常に意外な形で周辺環境を作り上げる。重力に逆らって地面と平行に、風下に向かって育つ木があり、とりわけ強い突風の最中には爆発のような騒音を聞くこともある。峰々の稜線や尖鋒の周辺に大気が吸い上げられる音で、音速の壁を破る点まで大気を加速させる、ベンチュリ効果のひとつだ。さらにはグレッグ・クラウチが「パタゴニアのオルガン」と適切に名づけた、調子はずれの教会のオルガンのような拍動音も聞こえる。

だが「悪」がなければ、パタゴニアを類い稀な場所にする「良」もない。たとえば風と水分がなければ、山頂や尾根の風上側や風に面した岩壁にエビの尻尾ができることもなく、それはあたり一帯が雲にすっぽりと包み込まれて、強風が非常に冷たい雲粒を氷点下の表面に吹きつけてできる巨大な層となり、たいていどの局面もオーバーハングになっている。エビの尻尾の登攀はとりわけ恐ろしい。綿菓子のような脆さのため、登るだけでなく、十分なプロテクションを取ることさえ難しい。

厳しい贈り物

天気予報では快晴だったのに。雲が晴れることを願いつつ待ったクライマーたちのチーム数隊は、それどころか視界の悪い状況で進むことがいかに困難であるかを痛感させられることとなった。アルゼンチン領パタゴニア Photo: JASON THOMPSON

悪天候がなかったら、これらの峰々は文字どおり「バラバラになる」ことも忘れてはいけない。気候変動のせいで、ことさら暖かく乾いた夏は落石が深刻な問題で、チャルテン山塊の大部分は立ち入り不可能となる。岩表面の永久凍土層を維持して山頂の剥離を防いでくれるのは氷と低温なのだ。

僕は子供のころから、この場所のあらゆる状態に魅了されてきた。パタゴニアでの2度目のビバークは15歳のとき、アグハ・ギヨメの上だった。下降中に荒れ狂う嵐に見舞われた僕とパートナーは、暴風にロープのうちの1本を奪われてしまい、あと4回の懸垂下降で氷河にたどり着くという地点で夜を迎え、そこにとどまることを決めた。雪は夜通し降りつづいたが、朝には運よく風がやんで安全圏に降り立つことができた。バラクラバのあご部分にぶら下がったつららがどれほど自慢だったか、いまでも覚えている。それは遭遇した厳しい状況のシンボルであり、過酷な悪天候を耐え抜いた勲章のようなものだった。努力もむなしく、そのつららはベースキャンプまでの長い道のりで解けてしまったが。

その後年数を重ね、自分の弱さを自覚し、また予想外の逆境に魅せられることもなくなるにつれて、可能なかぎり悪天候を避ける術を身につけた。空が晴れたら山に入り、雲行きが怪しくなったら勢いを増す前に撤退する。それでも悪天候は、僕たちのあらゆる回避作戦に対して、山での体験をより意義深いものにするために欠くことのできない埋め合わせを与えてくれる。向こう側に友だちがいなければ、シーソーは成り立たないのだ。

このストーリーの初出はパタゴニアのNOVEMBER Journalです。

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