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多くの選手にとっては日の出と日の入りの中を走ることになる。
多くの選手にとっては日の出と日の入りの中を走ることになる。

信越五岳トレイルランニングレース、これまでの10年とこれからの10年

By 根津 貴央   |   2018/12/04 2018年12月4日

2018年9月15日〜17日、『信越五岳トレイルランニングレース2018 〜パタゴニアCUP〜』が開催された。

実に今年で10年目。国内のトレイルランニングレースにおいて、10年以上続いているものはほんのわずかである。しかも、信越五岳トレイルランニングレースはトレイルランナーから圧倒的な支持を得ており、毎年エントリーがスタートするとものの数分で締め切られてしまうほど。

かくいう私(筆者)も、今年で3回目の出場を果たした。3回もエントリーしたのはこのレースくらいである。なぜか? 走って楽しいコースであることや、地域の方々や大会スタッフのホスピタリティ、お祭りのような大会のムードなど、とにかく魅力がたくさんある。

しかし、3回という数字は決して珍しくはなく、毎年のように参加している人も少なくない。なぜこのレースは人を惹きつけてやまないのだろうか。

そこでこの大会の10周年を機に、プロデューサーであるパタゴニア・トレイルランニング・アンバサダーの石川弘樹に、このレースの成り立ちや、コースに込めた想い、今後のビジョンについて話を伺った。

100マイルの部のスタートは20:30。選手を激励する大会プロデューサーの石川弘樹。
100マイルの部のスタートは20:30。選手を激励する大会プロデューサーの石川弘樹。

既存の道を活かしたコース

–– 石川さんは、斑尾高原トレイルランニングレースを2007年から開催しています。その斑尾高原を含むエリアで、新たに信越五岳トレイルランニングレースを開催するに至った経緯を教えてください。

「斑尾高原トレイルランニングレースの開催準備をしているさなかに、地元の人から信越五岳(※)を一本の線でつなげられるという話を聞いたんです。斑尾のレースは50キロだけど、信越五岳をつなげればかなり壮大なスケールになる。それで第1回目の斑尾のレースが終わった頃から、道を探しはじめるようになりました。

2008年に、つなげた道を全部走ってみたら、これはすごく面白い!と感じて、当時の妙高市長さんへの提案をきっかけに、市長さんの協力も得ながら整備を進めていきました」

–– 2007年に興味を抱いて、2年後の2009年にはもう第1回目の信越五岳トレイルランニングレースが開催されました。

「意外とスムーズだったのは、もともとあった既存の道を活かしていることが要因のひとつだと思います。使われていない道もたくさんありましたが、草刈りレベルで済んだところが比較的多かったですね。

ただそれは偶然ではなくて、私自身、当初からレースだけのコースにしたくないという想いがあったからでもあります。ゆくゆくは、このコースを常設にしたい。つまりレース期間にかかわらず、いろんな人が歩いたり走ったりして、この110キロのトレイルを楽しめるものにしたかったのです」

※信越五岳:新潟・長野県境にある斑尾山、妙高山、黒姫山、戸隠山、飯縄山、この5つの独立峰の総称。北信五岳とも呼ばれる。

コース整備の入念な準備。
コース整備の入念な準備。

100マイルならではのカルチャーがある

–– コースの長さはこれまで110キロでしたが、昨年からはそれに加えて100マイル(160キロ)のカテゴリーも新設。残念ながら、昨年は雨の影響で短縮コースとなってしまいましたが、今年、ついに100マイルが実現しました。

「レースがスタートした2009年から、いつか100マイルをやりたいとずっと思っていました。私も、これまで数々の100マイルレースに参戦してきましたが、100マイルには他とは異なる独自のカルチャーがある。トレイルランナーにとって特別なんです。

その世界観を言葉にするのはすごく難しいのですが、とにかく強烈な走り旅で。正直、100キロくらいであれば頑張れば大抵の人が完走できる。でも、100マイルはそうはいかない。メンタルもフィジカルも含めて、いろいろ乗り越えないとゴールできません。そこにチャレンジする面白さと、それをやり遂げた時の達成感は、100マイルならではなんです」

アメリカの100マイルレース「Hard Rock Endurance Run」でコースの情報をスタッフに聞く(2004年)。アメリカのレースをラウンドしてきた経験が国内のレース運用に活かされている。
アメリカの100マイルレース「Hard Rock Endurance Run」でコースの情報をスタッフに聞く(2004年)。アメリカのレースをラウンドしてきた経験が国内のレース運用に活かされている。

–– 100マイルレースはアメリカにはたくさんありますが、国内では数えるほど。今回、石川さん自身も初の100マイルレースのプロデュースでした。

「まずは大きな事故やトラブルなく終えることができてホッとしています。それが一番ですね。そして、ようやく念願の100マイルがここ信越五岳のエリアで開催できて嬉しく思っています。

信越五岳の100マイルが他の100マイルと大きく異なるのは、走れるオフロード率の高さと制限時間です。走りやすいトレイルが多く、ゲレンデや林道なども繋ぎながら160キロにも及ぶ距離にも関わらずアスファルトを走ることが少ないコースレイアウトとなっています。走れるが故にランナーとしての走力が問われ、進み続けることの難しさを強いられるレースとなりました。他の100マイルレースは40時間前後のものが主流のなかで、信越五岳は32時間。今回、国内の名だたる100マイラーが参加してくれましたが、その人たちも経験したことのない100マイルだったと思います。完走率も48%と低かったですから。

印象的だったのは、トップクラスの選手が、何人もゴール後に足を引きずっていたこと。私は別に選手をいじめたいわけでは全然ないのですが、そのシーンを見て、普段とは違う走り方をさせられた面白いレースになったんじゃないかと思いました」

信越五岳トレイルランニングレース、これまでの10年とこれからの10年

レースを通じて “絆” が生まれる

–– 以前から、アメリカの100マイルレースのように、100マイルを完走した人には全員にバックルを手渡ししたいと言っていました。

「入賞して表彰される人は壇上に上がったりインタビューされたりするわけですが、でもその他の完走した人もすごいんですよ。100マイルはとんでもない距離で、とんでもないチャレンジです。こんな人が走ったんだよというのを、ぜひ会場の人たちにも知ってほしい。表彰されるわけではないけど、頑張った自分を認めてもらうというか、栄誉あることだと感じてもらいたい。あとは頑張ってくれたことに対する大会側からのお礼も含めて、バックルを渡そうと。

だから、学校の卒業式のように名前を一人ひとり読み上げて、壇上にあがってもらってバックルを渡して反対側から降りていく、ということをやりました」

信越五岳トレイルランニングレース、これまでの10年とこれからの10年

–– 100マイル、110キロ、いずれのカテゴリーも、ペーサーとアシスタントポイントという独自の仕組みがあります。

「ペーサー(※)とアシスタントポイント(※)は、私がアメリカのレースで経験してすごくいいなと思って取り入れた仕組みです。いずれも、国内ではこの信越五岳が初めて採用。これまでの国内のレースは、一人でエントリーして、一人で準備して、一人で走って、一人で帰っていくスタイルが多かった。でも、レースは選手だけのものじゃないと思っていて。

というのも、選手がレースに出場するにあたっては、普段のトレーニングなどの時間を作る上でも、家族や仲間とかいろんな人が関係してきますよね。なのにレースになると選手以外の人は、応援したいけどあまり触れられないというか。そこでペーサーやアシスタントポイントを設ければ、一緒に作戦を考えたりして一緒にレースに臨むことができるわけです。しかもそこで家族や仲間とのコミュニケーションの場ができたり、絆が生まれたりするんじゃないかと。

今回トップ選手でも、親御さんかどうかは定かではありませんが年配の方々が熱心にサポートしていました。その光景を見て、家族のコミュニケーションの場になっているんだなあと思いました」

※ペーサー:選手と一緒に走る伴走者のこと。100マイルは102キロ地点から、110キロは63キロ地点からペーサーをつけて走ることができる。

※アシスタントポイント:各エイドに設けられたサポートエリアで、選手が家族や友人などからサポートを受けることができる。100マイルは7箇所、110キロは4箇所ある。

信越五岳トレイルランニングレース、これまでの10年とこれからの10年

これからの10年は、より地域や環境のために

–– 信越五岳トレイルランニングレースは、今年で10周年を迎えました。石川さんの念願だった100マイルも実現できました。今後、レースをどうしていきたいと考えていますか。

「制限時間32時間の100マイルレースは、多くの人とって未知の世界。それは48%という完走率からもわかります。なので、私の中ではやっとスタートラインに立ったという感じです。まさにこれからですね。

大会の魅力っていうのは、まだまだ秘めたものがたくさんあると思っていて。たとえば、もっと地元の人を巻き込むとか。今年、私は妙高市に家を借りて住みはじめたのですが、レース自体は耳にしたことはあるけど見たことはない、という人がたくさんいて。でも、ここに住んでいろんな人と関わることで、今回、私が住んでいる地域の人がけっこう見に来てくれたんです。そういう人をもっと増やして地域全体で盛り上げていきたいですね」

トレイルの整備はレース後にも行われる。
トレイルの整備はレース後にも行われる。

「そのうち海外選手にも来て欲しいと思っています。日本らしい田舎や里山の風景やウェルカムパーティ、エイドの食べものなど、楽しんでもらえる要素はたくさんある。海外の選手が走ることで、それがまた地元の人にもいい刺激になると思いますし。ただ、今はまだ受け入れ体制が整ってないので難しいですけどね。

また、せっかくこんなに素晴らしいコースを作ったので、普段もハイカーやランナーに楽しんで欲しい。だからいつか常設コースにしたい。それがこの信越五岳トレイルランニングレースのゴールでもあります。私がレースを手がけるのは、あくまでトレイルランニングやトレイルの楽しみ方を普及させるため。多くの人に日常的にトレイルを楽しんでもらうためにも、常設化は実現させたいです。

最後に、環境にもできる限り配慮したいと思っています。現状としては、無駄をなくすことを徹底しています。たとえば、レースにおいてマーキングのためのテープは一切使っていないんです。そのぶん、コース上の矢印の杭は1000本近く必要になるんですけどね。大変ですがそのおかげで本当にゴミは少ないんです。ペーパーレスにすることはまだ難しいですが、環境負荷の少ないシンプルな大会運営にすべく、努力し続けていきたいと思っています」

100マイル男子優勝者、奥宮俊祐ゴールの瞬間。
100マイル男子優勝者、奥宮俊祐ゴールの瞬間。

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