クリーネストライン


キャプ:リーフ手前の浅場では、魚影を捜しながら釣りをする「サイトフィッシング」が楽しい。
写真:永井洋一
キャプ:リーフ手前の浅場では、魚影を捜しながら釣りをする「サイトフィッシング」が楽しい。 写真:永井洋一

生涯の相棒となり得るのか?

By 中根 淳一   |   2019/03/20 2019年3月20日

南の海と北の川で、ダナー製ウェーディング・ブーツの可能性を確かめる

一歩踏み出すごとに「ゴリゴリ」とも「ガリガリ」とも表現できる感触が、足から伝わってくる。そのたびに鋭利なサンゴや岩が、おろしたてのウェーディング・ブーツを削っていくのが想像できる。コーラルリーフ域で、長時間の釣りを経験したことがある人は承知だろうが、あまり心地のよい感触ではない。潮流でカミソリのように研がれた岩やサンゴは、リーフ専用のブーツであっても、その表面やソールにダメージを与えて、最悪は切り裂いてしまう。さらに、細かい砂やサンゴの破片は、予想外の隙間にも容赦なく入り込み、ヤスリとなって破壊の手助けをする。強力な紫外線も劣化活動へ積極的に参加するため、この島で釣りを続けると滞在中、常に何かが壊れているイメージ。自然の力が実感できる環境だ。

私には毎年決まって通う地がある。そのひとつが、春の沖縄県八重山諸島に浮かぶ西表島。昨年も19日間の釣行に出かけた。20年間近く通い続けて、年間で1ヵ月近く滞在することもある。この島の魅力はリーフやサーフはもちろん岩場、汽水域のマングローブエリアと、海のショアフィッシングで考えられる、地形の多くが揃っていること。さらに、渓流釣りもできるのだから、長年通っても飽きるどころか、やりたいことが後を絶たない。

河口近くのマングローブエリア。時には腰うえまで浸かりながら岸際の物陰を丹念に探っていく 
写真:中根淳一
河口近くのマングローブエリア。時には腰うえまで浸かりながら岸際の物陰を丹念に探っていく 写真:中根淳一

長期間の滞在でも10日間ほどはツアーなどが入って、プライベートの釣り時間は限られる。ツアー中はゲストの安全を確保するために、進行方向へ先回りして足場や水深の確認。時には記念撮影のカメラマンにもなる。立ち止まることのほうが少ないので、必然的に自身で釣りをする以上に歩く距離は長くなっているはず。

ぬかるんでいるマングローブエリアでは、進路を間違えると股まで泥の中に沈み、単独では脱出できなくなる。起伏に富んだリーフも歩き慣れていないと、水中を数メートル進むのも難儀する。そんな苦労をしてまで進んだ先にパラダイスがあるのか……毎回報われるわけではないだろう。それでもあと10メートル先に大物がいるという、期待(と妄想?)がある限り、釣り人は一歩でも先に進みたくなるようだ。

マングローブの根もとに潜む獰猛な顔つきの「マングローブジャック(ゴマフエダイ)」 写真:杉田貴志
マングローブの根もとに潜む獰猛な顔つきの「マングローブジャック(ゴマフエダイ)」 写真:杉田貴志

ただし、西表島の魚たちは我々の「期待や妄想」に比較的寛容。特筆するような大物がたくさん釣れるわけではないが、マングローブフィッシングでは、その根もと際へ正確にフライを投入できなければ、明らかに釣果は悪くなる。偶然釣れたというよりも、狙って釣ったという達成感を味わえる。リーフでは少しでも遠くへ投げられれば魚との出会いも増えるだろう。もちろん、生き物が相手だけに好運にも「釣れてしまう」ことはあるが、日々の努力や鍛錬を体感できるよい機会なのだ。

何よりも周囲に人工物のない大自然の中で一日中釣りをして、夕食は島の美味しい食材をシマ(島酒=泡盛)とともに堪能。寝て起きたら、また釣りという繰り返しの毎日は、釣り人にとって夢のような時間。

釣り場に向う船上でブーツに足を入れる瞬間は、期待感と高揚感で自然と顔がにやけてくる。
写真:中島徹也
釣り場に向う船上でブーツに足を入れる瞬間は、期待感と高揚感で自然と顔がにやけてくる。 写真:中島徹也

昨春の西表島釣行では、今期発売されたダナー社製「リバー・ソルト・ウェーディング・ブーツ」をテスト。履き心地や耐久性などを確かめながら、毎日海中を歩き続けた。

強度が必要な部分にはフルグレイン・レザー、屈折などの動きが多くなる部分には、耐摩耗性のナイロン素材がうまく配置されているので、ホールド感はとてもよい。ネオプレンソックスと併用すれば、砂やサンゴ欠片の侵入も極わずかで、海水の排水もまずまず。強いて言うならば、コバの部分がサンゴや岩の隙間に引っ掛かるが、製法上仕方のないことだろう。気にかけて歩けばそれほど不快でもない。

帰宅後、入念に破損カ所をチェック。レザーの表皮は削れているが、ステッチ糸が切れるなどの破損はない。
写真:中根淳一
帰宅後、入念に破損カ所をチェック。レザーの表皮は削れているが、ステッチ糸が切れるなどの破損はない。 写真:中根淳一
ワンシーズン西表島などの海で使った、旧モデル(右)とリバー・ソルト(左)のソールを比較。リバー・ソルトは写真でも分かりづらい微細なキズのみだが、旧モデルは凹凸が削られて丸くなり、所々に小さな亀裂が入っている。
写真:中根淳一
ワンシーズン西表島などの海で使った、旧モデル(右)とリバー・ソルト(左)のソールを比較。リバー・ソルトは写真でも分かりづらい微細なキズのみだが、旧モデルは凹凸が削られて丸くなり、所々に小さな亀裂が入っている。 写真:中根淳一

それよりも気になるのは耐久性。毎日の釣りが終わると、潮抜きで洗うたびに各部の破損を確認。冒頭のような過酷な環境で使い続けると、ステッチ糸のどこかが切れてもおかしくないし、ソールへのダメージも多大なはず。ツアー参加者も釣行中にブーツが破損したことが数回ある。私もリーフ用ブーツのソールが切り裂かれて、割れてしまった経験は何度もある。

毎日のチェックは怠らなかったが、現場では不具合を確認できず。最終的には帰宅して乾燥した後、細部まで見て感心した。フルグレイン・レザー部分は削られてキズだらけになっているが、ステッチ糸はまったく切れていない(解れてもいない)。ビブラム・メガグリップのソールも微細な傷はついているが、凹凸部の減りは確認できない。パタゴニア製リーフ用ブーツは過去に5〜6モデル使ってきたが、耐久性では比較にならないかも? 今年も20日間の八重山釣行がすでに決まっているため、海でのさらなる真価を試せそうだ。

降雨からの増水でタフなコンディションだったが、道東の自然の中で釣りができるだけでも幸せ。
写真:佐々木大
降雨からの増水でタフなコンディションだったが、道東の自然の中で釣りができるだけでも幸せ。 写真:佐々木大

もうひとつの恒例釣行が盛夏の北海道・道東エリア。前年同様に釧路市のルアー&フライショップ『ランカーズクシロ』スタッフ、佐々木大さんと車中泊の旅。テレストリアル(陸生昆虫)盛期に、巨大なドライフライの釣りが楽しめる。

挨拶もそこそこに、いつもの質問攻め。天候は前年の渇水とは打って変わって、雨が多く増水傾向のこと。温暖化の影響なのか、梅雨がないと言われていた北海道でも、6月から晴れた日を数えたほうが早いらしい。真夏なので雨でも釣り人は我慢できるが、川への濁りや増水などの影響が心配だ。

初日は短時間の釣りなので、5〜6時間で楽しめる行程。若干の濁りは気になるが、ドライフライに反応はあるはず。しかし、増水した川は歩きにくい。その重い流れは気を抜くと転倒しかねない。常に踏ん張っていないと、せっかく進んだ距離をズルズルと押し戻される。魚の反応もいまひとつだったが、数尾のレインボートラウトがフライに飛び出してくれた。

夜は雷が鳴り始めて雨が本降りに。足寄郡から帯広市方面まで移動して、釣り場横の高架橋下で宿泊。

強い流れの中でも逞しく泳ぐレインボートラウト。背中の筋肉が発達して張り出している
写真:佐々木大
強い流れの中でも逞しく泳ぐレインボートラウト。背中の筋肉が発達して張り出している 写真:佐々木大

翌朝も雨。降雨も手伝って相変わらず川の流れは強く、短距離でも川の中を進むのは一苦労。少し気を抜いた瞬間、流れに足をすくわれた。幸い岸近くの浅瀬だったので、どうにか手が川底に着いたが、一瞬冷やっとした。書くまでもなく、ウェーダーの中まで浸水したので、こちらは本当に冷やっとしている。

子供の頃から道東の川で釣りを続けて、歩き慣れているはずの佐々木さんも流れの中で転倒。その後は進む方向を決めかねている様子なので、声を掛けると「渡れるはずの場所が深いんですよね」とのこと……あとで分かったが、我々が釣りをしている最中に40cmも水位が上昇していた。どおりで魚の反応も少ないはずだ(水位の急激な上昇はコンディションも一変する)。

危険と判断した佐々木さんは、予定の場所ではないが舗装路に近い場所を選んで、強行退渓することに。これがとても大変だった。過去に道があったわけでもない原野で、草木をかき分けながら進む。さらに自分の身長以上ある高さに積み重なった倒木をよじ登っては降りをくり返す。地図で見る限り150メートルほどの距離だったが20分以上もかかった。

その間にウェーダーは木の枝に刺さり破け、全身は川の水や雨、汗でずぶ濡れ。何で濡れているのかも分からない状態。さすがに佐々木さんも万策尽きたようで、せめて翌朝に釣りができる川を移動しながら捜すことにした。

十分に回復させたら優しくリリースして流れへ帰す。 写真:中根淳一
十分に回復させたら優しくリリースして流れへ帰す。 写真:中根淳一

北東方面に進みながら、川があればその都度のぞいてみるが、すべて茶色の濁流。最終的には網走郡まで長距離移動して、どうにか釣りができそうな川がみつかった。

翌日は晴れ予報なのでやっと服を乾かせる。運動会の万国旗さながら、車の周りには色とりどりの衣類が干された。大量発生したカメムシに悩まされたが、疲れていたので早々に夢心地。

朝起きると急いで釣り場へ向かうが、すでに先行者の車が駐車されていた。このコンディションでは、釣りができる川もほとんどないので致し方ない。釣り進むといくらかは反応があるが、先行者の影響は残っているようだ。予定よりも早めに切り上げて阿寒川へ向かう。

狙った場所へ首尾よくフライを流せれば、魚は素直に反応してくれる。
写真:佐々木大
狙った場所へ首尾よくフライを流せれば、魚は素直に反応してくれる。 写真:佐々木大

阿寒川は少々の雨であれば濁ることはない。釣りを続けると30cmクラスの野生化したレインボートラウトが、飽きない程度に釣れる。もうこれで十分。この天気では仕方がないし、そもそも数やサイズにこだわっていない。大きなフライを投げているだけでも楽しいし、経験豊かな佐々木さんと一緒に釣りができるだけで満足。

この釣行では前出のリバー・ソルト・ウェーディング・ブーツ同様、ダナー社製「フット・トラクター・ウェーディング・ブーツ」を使用。最初は硬くて履き心地には懐疑的だった。しかし、2度目に履いた瞬間まったく違う印象に変わった。さらに、使い続けるたびにフィット感が高まっているようだ。よく考えれば分かることなのだが、リバー・ソルト以上にフルグレイン・レザーを多用しているので、最初は硬いのだ。それが濡らして乾かすをくり返すたびに、革は足に馴染み始めていた。いまでは新品時と比べて、つま先あたりが私の足に合わせて変形している。

近年の合成皮革靴はクッション素材を各所に入れることによって、フィット感を高めているのだが、足の形というのは個人差が大きい。しかし天然皮革であれば、若干の時間は必要なものの、馴染みさえすれば、個々の足の形に合わせてフィットするようになってくる。このブーツを使うことによって、長い歴史で使われ続けてきた、天然素材の素晴らしさを改めて確認できた。

これから購入を考えている方へのアドバイスは、使う前に水に浸して乾かすこと。できれば足を入れて半乾きまで動かしながら待てるとよいだろう。それだけでもいくらか足に馴染んでくれるはず。

ワンシーズン使用した私のブーツは使うほどに足に馴染んで、よい「味」に育っている。
写真:中根淳一
ワンシーズン使用した私のブーツは使うほどに足に馴染んで、よい「味」に育っている。 写真:中根淳一

最後に……私はアンバサダーということで、製品のテストを行なったうえで、耐久性を含めた使用感などを、パタゴニアへフィードバックする役目もある。よって、壊そうとまでは思わないものの、壊れてもよいと思って常に使用している。扱い方には個人差があるので、時には少し乱暴な使いかたもしてみる。もし破損したとしても、どこから壊れ始めるかを知りたいからだ。

もちろん昨春渡された、ダナー製ブーツ2種(4モデル)の製品サンプルも、頓着せずいくらか乱暴に扱っている。しかし、現時点で不具合もなく、壊れる要素がとても少ないブーツだという感想。さらにソールの張り替えはもちろん、リクラフティングを考えると、長年愛用できるだけの耐久性はあるだろう。

「生涯の相棒となり得るのか」は、もう少し使い込んでみなければ分からないが、私に残された寿命年数を考えれば、確かに一生ものなのかもしれない。

コメント 0

関連した投稿

« »