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2018年6月アイダホ州イエローストーン国立公園、アメリカ本社のフィッシング担当者と共にフィールドで製品を試した。
2018年6月アイダホ州イエローストーン国立公園、アメリカ本社のフィッシング担当者と共にフィールドで製品を試した。

パタゴニア×ダナー 新たなフィッシングブーツの魅力とは

By 小倉 隆平   |   2019/04/11 2019年4月11日

この春、ついに新しいフィッシングブーツの販売に漕ぎ着けた。協働開発のパートナーは我々パタゴニアと同じアメリカの地で古くからブーツを製造販売するダナー社。このプロジェクトがスタートしたのは約2年前で、ダナー社には立地柄フライフィッシングを趣味とするスタッフも多く、彼らが元より持ち合わせる品質へのこだわりと職人技の伝統を組み合わせることで、丈夫で快適かつ修理可能な製品を作ることが出来るという誇りをもっていた。それはすなわち、パタゴニアの製品製造の理念と既に合致しており、通常の協働開発では一番時間のかかる精神的な部分のすり合わせの時間が少なかったのはいうまでも無い。

ほぼ製品版にまで落とし込まれたサンプルを手に取りながら、ダナー社のスタッフ数名と話す機会があったのがちょうど1年前のこと。彼らは自分たちが再びウェーディング・ブーツを作れる喜びに溢れており、「全員がどんなものを目指すべきか即座に理解していたことが両社の固い握手と共に開発に取り組む原動力となった」と、興奮した表情で話してくれたのを覚えている。

2018年シーズンはサンプルとして日本に届いたものを国内や海外の釣行で使用しながら販売に向けて製品に関する詳しい情報を集めてきた。

全てのモデルのタングには「Patagonia Build by Danner」の文字が刻印される。
全てのモデルのタングには「Patagonia Build by Danner」の文字が刻印される。

今回開発された製品はダナー社の伝統的なデザインを踏襲した「フット・トラクター」と、日本でもマニアの多いコンバットブーツをデザインの基とした「リバー・ソルト」の2種類。

共通する特徴として、アッパーは特殊ななめし技術で防水処理(靴の防水性ではなく革自体が水を含まない)が施されたフルグレインレザーと、頑丈な1,000デニールのナイロン製パネルで構成。誰でも履ける独特のフィット感を実現するために、2つの素材それぞれの特徴を生かせる適所に配置されている。使用する人それぞれの足の形に合わせて馴染みが必要な箇所にはレザーを使用。新品状態で足を入れると、少し窮屈と感じることが多いのは革が馴染んでいないため。その点、今回の新製品は、早朝に釣り場に到着し新品のブーツに足を入れて釣りを始めても、昼食のころには、ブーツのサイズ感のことなど微塵も考えなくなるほど馴染みが早いことを実感できる。

また、レザーを使用したウェーディング・ブーツは濡れと乾きを繰り返すことでソールが反り返るほど硬く縮み上がってしまうのが従来の製品の欠点だった。過去の革製ウェーディング・ブーツをご存知の方は使用の度に川の水に浸し、ふやかしてから履いた記憶があるかもしれない。今回の製品に関しては、前述した特殊な防水処理のおかげで、カラカラに乾燥した状態でも難なくスルリと足を入れることが出来るのも大きな特徴のひとつだ。

パタゴニア×ダナー 新たなフィッシングブーツの魅力とは
ソルトウォーターでの使用にも最適なリバー・ソルト(上)と3種類のソールが用意されたフットトラクター(下)。数回の使用で既に履き手に合わせてレザー部分が馴染み始めているのが分かる。
ソルトウォーターでの使用にも最適なリバー・ソルト(上)と3種類のソールが用意されたフットトラクター(下)。数回の使用で既に履き手に合わせてレザー部分が馴染み始めているのが分かる。

一方、1,000デニールのナイロン製パネルはレザーとは真逆で伸びが無いのが特徴で、シューレースを使ってしっかりと押さえ込む必要がある箇所、且つしなやかさが必要な箇所に配置されている。特に特徴的な足首部分は、しなやか且つ伸びのないこのパネルを多めに配置し、ダナー社の長年のブーツデザインのノウハウが詰まったレースホール配置で締め上げると、昨今のウェーディング・ブーツでは経験したことの無い独特のホールド感が得られる。

また、クッション材の使用を最小限にすることでブーツ自体が早く乾くという利点も得ている。従来の製品はクッション材をたっぷり入れることでフィット感を高めていたが、水を含むことで使用中の重量増と乾きの遅さの原因になっていた。さらに、その分厚さは足首の動きを制限するため、それを防ぐための複雑な縫製を強いられており、修理が難しかった。新しいブーツは、従来のデザインが抱えていたこれらの問題をシンプルな方法で解決している。

しなやかながらホールド感のいいナイロンパネル(右)とクッション材が使われていない(左)足首回り。
しなやかながらホールド感のいいナイロンパネル(右)とクッション材が使われていない(左)足首回り。
「フット・トラクター」「リバー・ソルト」共にソールは修理性の高さを目で見て実感できるダナー社お得意のステッチダウン製法を採用。
「フット・トラクター」「リバー・ソルト」共にソールは修理性の高さを目で見て実感できるダナー社お得意のステッチダウン製法を採用。

フット・トラクター・シリーズはキャスティング→スウィング→2ステップダウンをひたすら繰り返すスティールヘッドやサクラマスの釣り、長時間立ちつづけ回遊を待つ湖の釣りなど、比較的運動量の少ない釣りを視野に入れていて、独特のクッション性を持つミッドソール内に「シャンク」と呼ばれる登山靴にも良く見られる背骨構造を仕込み、ゴロゴロと丸い石の上でも常にフラットなソールで疲れにくい造りを実現している。

フット・トラクターには3種類のソールが設定されており、「スティッキー・ラバー・ソール」には寒冷水域の濡れた地面で最大のグリップを発揮するビブラム社製のアイドログリップという素材を採用。付属のスタッドを打つことであらゆる川底に対応でき、まだ日本では馴染みのない珪藻類の河川間移動などの環境問題に関しても、有効な解決策として今後の世界的に最もポピュラーな選択肢となってくる。

国内の渓流でスティッキーラバーを試す。慣れれば濡れた岩でも十分なグリップを得られるが、付属のスタッズを打つことでほとんどの心配は解消される。
国内の渓流でスティッキーラバーを試す。慣れれば濡れた岩でも十分なグリップを得られるが、付属のスタッズを打つことでほとんどの心配は解消される。

2つ目は「アルミニウム・バー」。これまで2度のモデルチェンジを繰り返してきたアルミニウム・バー・ソールも様々なフィールドでのフィードバックを元に改良を続けてきた。今回はついに指球部分のバーが分割され「足裏で掴む」と言う足本来の機能を活かし、底石をガチっと面で捉える独特のグリップ感は更に増した。前述のビブラム社製アイドログリップとのコンビネーションで磯場やヌルの深い川床など、グリップ力重視の釣り人の強い味方となってくれる。

以前のアルミニウムバーとの比較。指球部分のバーが分割されることで「足裏で掴む」感覚でグリップが増した。
以前のアルミニウムバーとの比較。指球部分のバーが分割されることで「足裏で掴む」感覚でグリップが増した。

3つ目に、履き慣れていてどこへ行っても安定したグリップ感とクッション性を提供してくれる「フェルト」ももちろん用意した。いまさら語ることは無いほど釣り人には馴染み深く、ローカルのホームリバーに通い、神経質なライズとの対峙に集中するためには出来るだけ足元の心配を無くしたい。しかし、前述のように世界的な環境トレンドからは少し外れてきているのも事実で、ラバーソールに比べて磨耗は早くソールを張り替える頻度も上がることも間違いない。これから世界に旅立ち、多くの釣り場に足を運びたい方には別の選択肢をお勧めしたい。

そして、単独のデザインと構造を持った「リバー・ソルト」。その名の通り川でも海でも使用できるオールラウンダーと言うポジションも用意した。フットトラクターとは違い、ソールはラバー素材1種のみで、ビブラム社製のメガ・グリップを採用。ボートデッキにソール跡を残さないカラーを採用し、フット・トラクターのそれとはラバー自体の堅さ(開発者はコンパウンドと言う表現を使っていた)を変更することで、鋭利なサンゴの死骸やカキ殻の上を歩き通せる耐久性を持たせた。付属のスタッドを使用することで滑りやすい淡水の川底でも十分対応することができる。

また、リバー・ソルトにはフット・トラクターのように足底部にシャンクは入っていない。その代わりに足底全面にフレックスプレート(下敷きの様な反発性のある樹脂製のプレート)をインソールとミッドソールの間に挟み込ませて適度な屈曲と反発を持たせ、長時間の林道やビーチの移動、渓流を軽快に釣り上がるなど、動き回ることに長けている。実際に履いてみると「これだけで良いかも」と本気で思えるほどの汎用性の広さで、個人的にも待望だったソルトフラットにて本気で使用できる製品に仕上がっている。

パタゴニア×ダナー 新たなフィッシングブーツの魅力とは

最後に、この製品の最大の特徴といえるダナー社の提供する「RECRAFTING(リクラフティング)*」というプログラムについて紹介したい。

このブーツも道具である以上、使用に応じて磨耗し消耗してくることは免れない。ただ、このダナー社製のウェーディング・ブーツに限って、それは買い替えの合図ではなく「造り直し」の合図だということを覚えておいていただきたい。

USダナー社は同社で製造販売される全製品に対して「RECRAFTING(リクラフティング)」というプログラムを適応しており、長年の使用で磨耗、消耗したブーツを3段階のプロセスを経て蘇らせることができる。完全なリクラフティングを依頼すると、ライナーの張替え、アウトソール張替え、ミッドソール張替え(リバーソルト以外)、シャンク交換(リバーソルト以外)、ヒールカウンター交換、破損パーツの交換、新しいシューレース、新しいインソール、ダメージを受けたステッチの修繕、そしてレザーのお手入れをして返してくれる。あなたが長年使い込んで自分の足に馴染んだアッパーを使って、ダナー社の職人が自分の足型を使って「造り直し」てくれるのだ。

使われ、壊され、修理されるブーツが、使われ壊され修理されたトラックに乗せられた。
使われ、壊され、修理されるブーツが、使われ壊され修理されたトラックに乗せられた。

「ウェーディング・ブーツは消耗品」こんな言葉がまるで侵略的外来種のように釣り人達の心に広まってきた今日、ダナー社との協働で完成させた「パタゴニアの製造史上最高のウェーディング・ブーツ」は釣り道具としての魅力、道具と長く付き合うことの愉しさ、大切さを改めて思い起こさせてくれる。大雪の解禁日の美しいヤマメ、灼熱のカリブでのグランドスラム達成、深い森での吸血昆虫との闘い、モンゴルの暴風と巨大なタイメン。そんな、あなたの特別な「あの日」を共に過ごした相棒と再び旅を続けられる、思い出を刻み続けられる。このブーツと共にフィールドに出かける度に思い出が深まり、新しいブーツの必要性がなくなる。これがあなたの購入する最後の一足になることを願っている。

*日本国内でのリクラフティング・プログラムは今秋からの開始を予定、現在国内のダナー社認定工場と調整を行なっています。

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