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イランで見つけた避難地

ベス・ウォルド  /  2019年6月20日  /  読み終えるまで5分  /  クライミング, コミュニティ

タブリーズからやって来た友人でありパートナーの、イラン人クライマーのハビビとショルマズから、アラムクーに関する情報を分けてもらうアン・ギルバート・チェイスとブリッタニー・グリフィス。ベースキャンプではハビビやショルマズをはじめ、その他大勢のイラン人クライマーたちと知り合うことができた。彼らはテントに立ち寄っては私たちをイランとアルボルズ山脈に歓迎してくれ、クライミングや人生や政治について語り合った。私たちはそこでは際立って異色な存在だったが、クライマーであることがその壁を取り除いてくれた。 Photo: Beth Wald

細い小川の上に古びた木板が掛けられただけのガタガタの橋を渡り、みすぼらしく濡れて臭いを放つ羊の群れを通り過ぎ、きつい傾斜を登りはじめたところで、遠方のカスピ海で生まれた霧が、道路を離れた私たちのまわりで渦を巻いた。イランのアルボルズ山脈にあるアラムクー山のベースキャンプを目指し、ブリッタニー・グリフィスケイト・ラザフォードアン・ギルバート・チェイスと、私たちのガイドのモハメッド・サッジャーディーは、トレイルのほとんどを走って登った。何日もつづいた車での移動の末にやっと動くことができ、興奮していた私たちは、霧の中へと消えていった。

1〜2キロメートル進んだところで最後尾にいた私が角を曲がると、4人は何か目に見えない境界に立ち止まっているようだった。もうスカーフを外していいよ、とモハメッドが言った。私たちはすぐに頭からスカーフを外し、アウトドアウェアの上に着ていた大きめのチュニックを脱ぐと、それをバックパックにしまった。涼しい山の風で、露出した私の腕に鳥肌が立った。長袖の下は暑くて汗をかき、ずっと覆われていた腕は奇妙な感覚を受けて、不思議と露わな気分になった。

この5 日間、私たちはイスファハーンとカシャーンの古都を探索し、モスクや宮殿の巨大なドームや複雑なモザイクに感嘆していた。バザールで絨毯商人と値引き交渉をしたり、モハメッドの地元の岩山を登ったりもした。イスファハーン郊外の砂漠を通るハイウェイの脇にそびえる粉吹いたその石灰岩の崖は、近くの警察署が由来となって「ポリス・ウォール」と名づけられていた。初日の晩も、イスファハーンの背後に立ちはだかるソッフェ山に登った。時差ボケで、慣れないスカーフとチュニックを着て汗をかきながら。一緒に登った大勢のアウトドア愛好家たちの中には、男性も女性も、そして子供もいた。見晴らしのよい山頂に到着したころには日が暮れ、即興的にパーティーがはじまった。スピーカーからはイラン音楽が流れ出し、男性たちは腕や腰を振り、挑発的な動きで踊り出した。女性たちは観るだけで、なかには手拍子を打つ人もいたが、誰もダンスには加わらなかった。街路、バザール、モスク、博物館、この険しい岩山や山につづくトレイルでさえも、すべては公共の場であり、イスラム共和国の法律のもと、西洋人には慣れない厳しい規則が適用される。それは男性にも適用されるが、とくに女性に対して厳格だ。これらの規則はイラン人である彼ら自身の家庭や私的領域の境界の向こうまで、また私たちの小さな私的領域であるホテルの部屋のドアのすぐ外までを支配する。そして、ここアラムクーへのトレイルではその自由な私的領域は広がり、長く険しい谷や頂、さらにその先へとつづく。

イランのクライマーにとって、このキャンプ地や周囲の山々はイラン・イスラム共和国の生活の一部である要求や規制や、国による監視から逃げるための、切り立つ岩に囲まれた避難地だ。モハメッドによると、そういった避難地は警察の目が届かない山々や砂漠、その他道路から遠く離れた野生地にある。とくに若い世代にとっては、自分自身を見つめ直し、友情やコミュニティを築くことができる場所なのだ。そうした行為は、男女の交わりが厳しく制限される場所では、不可能でなくとも難しい。

このエッセイはMarch Journal 2019に掲載されたものです。

イランで見つけた避難地

イランに到着して2日目、まだ時差ボケで、イスファハーンの街の喧騒と威圧的な暑さに惑わされていた私たちは、モスクに足を踏み入れると、暗闇と神秘的な空間に包まれた。頭上の巨大なドームを見上げ、暗さに目が慣れてくると、壮大なカーブを描いた表面に複雑なモザイク模様が踊るように広がっていた。私たちのガイドのモハメッドは2,500年以上もつづくペルシャ文化を自身が受け継いでいるという事実に誇りをもちながら、ペルシャ芸術と建築が反映する傑作の歴史について語ってくれた。この建築物はそれが開花した400年前、ペルシャ帝国が拡大するサファヴィー朝の時代に建てられたそうだ。そこで私は、精妙なタイルで覆われたファサードと入口のイーワーンに立つ尖塔を完璧な額に収めた、このアーチ状の門を見つけた。内側と外側、影と光、アーチとパターンとラインが調和して繰り返される空間。 Photo: Beth Wald

イランで見つけた避難地

テヘランにある私営のスポーツジムで、照明に向かって登るアン・ギルバート・チェイス。アパートの地下をボルダリング用スペースに一変させている。イランのジムやクラブには公営と私営があるそうで、私営のジムでは男性と女性が一緒にクライミングやトレーニングをすることもできるが、それは公営のジムでは許されない。私営のクラブは、ある意味では、山頂での体験を街でも少し味わうことができる場所であり、たとえ山から遠く離れていても、オーガニックな人間関係やクライミングコミュニティを繁栄させることのできる場所とも言える。 Photo: Beth Wald

イランで見つけた避難地

アパートの地下に造られた私営のクライミングジム。イラン Photo: Beth Wald

イランで見つけた避難地

旅をはじめてから1週間後、パートナーたちとともにアラムクーのビッグウォールに挑む前のウォーミングアップとして、スプリッター・クラックを登りつめるアン・ギルバート・チェイス。私たちが出会ったイラン人のほとんどが、メインウォールの中央にある急勾配のクリーンなエイドラインで登ることを目指していたが、私たちのチームは新しいフリーラインを探していた。その結果、あまり知られていない地形を旅し、怪しい岩に遭遇することにもなった。 Photo: Beth Wald

イランで見つけた避難地

パートナーと山で築く関係は深く、独特で、貴重なものであり、私たちの多くにとって、山は日常生活から逃れる場所でもある。しかしイラン人クライマーたちにとっての山で過ごす時間と日常生活の差は、よりはっきりしている。 Photo: Beth Wald

イランで見つけた避難地

アラムクーの山頂からギザギザに伸びる尾根が、まるで花崗岩でできた巨大なステゴサウルスの背中のように切り立っていた。乾燥した茶色の頂や谷は標高差約4,800メートル下で雲に覆われたカスピ海へとつづく。イランで2番目に高いアラムクーは、イラン北部を分断する狭い高地に連なる峰々と火山帯であるアルボルズ山脈の一部。この山脈はカスピ海の湿った空気を封じ、南に広がるイラン高原に乾燥した雨陰を形成する。その野生的で壮大な風景は、ゾロアスター教の宇宙の山々とも名前を共有し、太陽や月や星を超越した世界の中心にあると信じられている。アルボルズ山脈とアラムクーは、ほとんどの人間が住む混雑した目まぐるしい都会から逃れることを望むイラン人にとって、寓話の世界として存在する。これらの高山は、イランの日常生活の一部であるしきたりや制限、国の監視から逃げるための避難地だ。 Photo: Beth Wald

イランで見つけた避難地

拡大しつづける人口1,500万のテヘラン首都圏までは100キロメートル弱しか離れていないものの、私たちがいたアラムクーのベースキャンプはカラスが空を舞い、まるで異次元のようだった。極度に冷え込んで闇が広がる夜には、アラムクー山塊の背後に月が沈み、火星が瞬き、天の川が幾千もの銀河を藍色の夜空に散りばめていた。 Photo: Beth Wald

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