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信州の自然に触れて、しきりに「美しい」とつぶやいていた、フライフィッシング・アンバサダーのディラン・トミネ。 写真:中根淳一
信州の自然に触れて、しきりに「美しい」とつぶやいていた、フライフィッシング・アンバサダーのディラン・トミネ。 写真:中根淳一

魚と釣り人のフェアな関係のために

By 中根 淳一   |   2019/11/21 2019年11月21日

日本は小さな島国ながら山が連なる地形ゆえ、その山々からは谷間を縫うように豊かな流れが集まり、海まで注いでいる。「山・川・海」と、釣りにはとても恵まれた環境であり、美しい景色に囲まれながら、釣り糸を垂れるひと時には格別な楽しみがある。

ディランは環境保全に奔走する活動家でもあるが、夢中で竿を振る姿は、やはり生粋の釣り人。 写真:福本玲央
ディランは環境保全に奔走する活動家でもあるが、夢中で竿を振る姿は、やはり生粋の釣り人。 写真:福本玲央

渓流へ釣りに出かけると、ハイカーの皆さんと出会うことも多い。釣り竿を持っていると、好奇心からかよく声をかけられる。
「何が釣れるんですか?」
「ヤマメやイワナです」
「天然の魚は美味しそうですね」
「食べないんですよ(笑)」
「えっ!」
よく交わす定番の会話。この後に「自然の川に泳いでいますが、ここはほとんどが放流された魚なんですよ」。このように続けたいところだが、話が長くなるので、そそくさと釣り場へと足を向けてしまう。釣りをやらない人たちにとって、川に泳いでいる魚たちが、すべて天然だと思っているのは致し方ないこと。しかし現実的には、その河川固有の遺伝子を受け継いでいる、純粋な天然魚は流域のごく一部に残っているだけかもしれない(地域にもよるが)。車を使って容易にアクセスできるような流れの多くには、魚が放流されているはず。つまりそれらは天然魚ではない。分かりやすいところでは、遊漁券を購入して釣りをする川は、漁協(内水面漁業協同組合)が管理しているので可能性は高いだろう。そもそも、お金を払って釣りをしていることすら、知らない人も多いのでは? 国内で遊漁料を支払わないで釣りができる河川や地域はごくわずか。海外では海の釣りでも有料の許可証が必要なことがある。漁協は行政から漁業権を免許されている。その組合員も漁業権行使料が必要なのだが、釣り人にも遊漁という名目で支払いの義務がある。これらの収入は漁協に科せられている、「増殖行為の義務」にも使われる。増殖義務には繁殖の妨げにならないように禁漁期を設け、産卵場所の造成や整備なども含まれるので、単純に「増殖=魚の放流」だけではない。また、漁場監視員(漁協組合長が任命)の目があるから、無秩序な乱獲などから守られている一面もある。それでも私の個人的な気持ちとして、放流魚よりは天然魚(せめて野生化した魚)を釣りたい。しかし、成魚を放流しなければ、継続的に釣りを楽しめないのも事実……それだけしか方法はなのだろうか?

信州の渓で出会ったイワナ。大きく整った胸ビレが印象的だが……もちろんこの渓流も漁協が管理して魚を放流している。 写真:福本玲央
信州の渓で出会ったイワナ。大きく整った胸ビレが印象的だが……もちろんこの渓流も漁協が管理して魚を放流している。 写真:福本玲央

これは私が体験したことがある、過去の記憶だが……以前、横浜の自宅から3時間とかからない地域(約100キロ圏)に、両親の家があり、よく通った人気の里川がある。そこでは3月の解禁日から数日間は、そこかしこに渓魚がひしめき合っていた。それがゴールデンウイークあたりになると、まったく姿が見えなくなる。もちろん放流された魚が、水温の上昇や自然の流れに適応して、居場所が変わったこともあるだろう。警戒心が高くなり、身を隠す術を学んだのかもしれない。しかし、どうやっても釣れないと、放流された魚が極端に減少したと考える。私の技術的な問題や自然死もあるだろうが、釣り人の多くが持ち帰った可能性も高いのでは? と想像してしまう。

渋谷ストアで催された『アーティフィッシャル』のジャパンプレミア。釣り人や漁協関係の皆さんも多く参加され、興味深い話も聞くことができた。 写真:中根淳一
渋谷ストアで催された『アーティフィッシャル』のジャパンプレミア。釣り人や漁協関係の皆さんも多く参加され、興味深い話も聞くことができた。 写真:中根淳一

今年の4月ころだっただろうか。パタゴニアが製作した『アーティフィッシャル』を、いち早く視聴する機会に恵まれた。その時点では字幕も付いていなかったため、詳細までは理解できなかった。それでも第一印象としては、これを日本の釣り人や漁協の関係者が観たら、どう感じるのだろうか? という懸念。その約2か月後には字幕付きで再度視聴。懸念はいっそう深まったが、同時にいつかは誰かが、このような問題提起をしなければいけなかったという、気持ちからの期待感。そうでなければ、日本の河川は短期間だけ放流魚ばかりが泳ぐ流れになってしまうのかも?後日、数人の漁協組合員さんと話す機会を得た。皆さんに共通したのは「増殖義務」を、成魚放流の継続だけではない解釈でも模索しているとのこと。興味深い取り組みも多く、現在では懸念よりも期待のほうが勝っている(これらの取り組みに付いては別の機会にレポートしたい)。さらに本稿を書くにあたって、何度も一時停止してメモをとりながら、じっくり4時間近く視聴した。何度観ても孵化場(や養殖場)をすぐになくしたら、現在の日本では釣りが成立しないだろう。その考えは変わらない。釣り人口と自然供給される魚の量が、まったくつり合わないからだ。そこへ環境破壊も拍車をかけている。では、この映画で繰り返し語られているように、「孵化場に依存しつづければ、最終的には、魚をはじめとした種を絶滅に追い込むことになる」としたら?

分からないことがあれば、すぐに質問してくるディラン。疑問があれば「知りたい」という好奇心を、私も常に持ちつづけたいと思う。 写真:福本玲央
分からないことがあれば、すぐに質問してくるディラン。疑問があれば「知りたい」という好奇心を、私も常に持ちつづけたいと思う。 写真:福本玲央

魚に近い立場の我々釣り人は何をすればよいのだろう?『アーティフィッシャル』ジャパンプレミア後に、本フィルムのプロデューサーであり、パタゴニア・フライフィッシング・アンバサダーのディラン・トミネと、一緒に釣りに行く機会をいただき、さらに雑誌用のインタビューもさせていただいた(この内容は10/22発売のFlyFisher誌に掲載)。その中で私とも一致した、いますぐできる行動として、「正しいキャッチ&リリース」のさらなる啓蒙。孵化場の問題はその後でもよいだろうということ。冒頭に書いたように、釣った魚を放す行為は、釣りをやらない人たちにとって不思議なことだろう。至極健全な考え方だとも思う。釣った魚を持ち帰ることは、レギュレーションに従っていれば合法だ。しかし、魚がいなくなって困るのは我々なのでは? 釣り堀のように、「いなくなったから放せばよい」だけではなく、「いなくならないから放流しなくてよい」に考え方を変えたらどうだろう? 天然魚もしくは野生化した魚で、あふれる渓流が実現するのかもしれない。「理想」かもしれないが、言葉にしなければ実現もしないだろう。誤解のないように付け加えると、ディランも私も魚を食べるのが好きだ。釣って食べても天然魚が減らないと、確実に管理されているのであれば食べるかもしれない。

ディランと過ごした時間は、これからの行動を見直すよいきっかけとなった。 写真:加藤学
ディランと過ごした時間は、これからの行動を見直すよいきっかけとなった。 写真:加藤学

最後にインタビューでディランが語った言葉から、心に強く残っている一部を紹介しておきたい。
「僕が子供のころ、釣り人がキャッチ&リリースするなんて考えてもいなかった。でも、現在の米国でトラウトを釣る若いアングラーは、釣りあげた魚の味を知らないはず」。
それだけキャッチ&リリースが根付いているということ。
「ロッククライマーは岩を食べないし、スキーやスノーボードを楽しむ皆さんも、雪を食べる目的で出かけないでしょう。釣りも魚を食べるスポーツではないと考えればよいのでは?」。
釣りというアクティビティについて、考え方をあらためる必要があるのかもしれない。
「魚と釣り人がフェアな関係を保つには、近しい我々が魚にとっての悪影響を、多くの皆さんに知ってもらえるように発言すること」。
魚が大切といいながら、ハリを引っ掛ける釣り人へ矛盾を感じるだろう。しかし、魚と接する機会が多いからこそ、危機的状況について、もっとも身近に感じているはず。まずは「正しい」キャッチ&リリースをあらためて学びなおし、魚の量を成魚放流だけで補うのではなく、ほかの方法はないのか?常に模索して発言しつづけたいと考えている。

※言葉の整理をしておきましょう。私は研究者ではないので、専門的な名称ではなく、我々釣り人が交わす言葉として……
「天然魚」は放流魚などからの影響を受けずに、在来の遺伝子を繋いでいる魚。ただし、遺伝子のレベルになると、見た目では判断しにくいので、このあたりは曖昧だったりする。
「野生魚(野生化した魚)」はかなり以前に放流されて、自然の中で生き抜き、子孫を繋ぐ力を持っている魚。発眼卵や稚魚の放流もこれにあたるだろうか(これもいくらか曖昧)。
「放流魚」は養殖場(養鱒場)から放流されてまもない成魚や、養殖魚の面影が強く残っている魚。顔つきやヒレの形状などで、いくらか判断できるはず。
「外来種」は海外から持ち込まれた魚はもとより、ほかの水域から移入した魚(国内外来種)。よって、コイの一部やワカサギの多くも外来種といえる。

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