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トスカーナからの手紙(パタゴニアの着古したウールの調達先)

マダリナ・プレダ  /  2019年11月25日  /  読み終えるまで9分  /  フットプリント, デザイン

1987年、イスリップ・タウンとニューヨーク市の3,100トンのゴミを、廃棄場所を探して2か月間にわたって9,600キロ運んだ、モブロと名付けられた艀。32年後のいまもその行き先を求める大きな問題はつづく。 Photo: Dennis Capolongo

すでに色別に仕分けされたウールの古着の圧縮俵のプラスチックのひも止めを、シルヴィア・ミケローニが切る。今日彼女が取り扱うのは緑色。最後のひもを切ると、さまざまな大きさと形の深緑色の布地が工場の床に散らばる。彼女の息子ガブリエルが静電気防止のために水を噴射し、電動フォークリフトで衣類の山を持ち上げてベルトコンベアーに載せると、それらはギロチンのような細断機でハンカチのサイズまでどんどん小さくカットされる。これらの機械すべての動きとメンテナンスに必要な機械油の臭いが、私の感覚を圧倒する。

私はイタリアのトスカーナ州北部にあるプラート地域のど真ん中で、リサイクル・ウールがどのように作られるのかを勉強している。私たちのパートナーであるカラマイ家はラニフィチョ・ベキャグリ繊維工場の細断施設などと仕事をし、古着のウール製品をパタゴニアのウーリエステル・フリースにしている。これは「ポストコンシューマー」のリサイクル・ウール糸を超軽量なマイクロポリエステルと混紡して紡いだ糸で作られる。リサイクル専門用語では、ポストコンシューマーとは使い古され、その寿命が尽きて埋立地行きの運命にあった最終製品を救い出し、別の製品に作り直すことを意味する。指定の衣類回収箱に捨てられた衣類などもそうだ。

トスカーナからの手紙(パタゴニアの着古したウールの調達先)

圧縮されたリサイクル・ウール衣類の俵。環境保護庁によれば、アメリカでは全テキスタイルのリサイクル率は、2015年は15.3%の250万トンだった。リサイクルされないものは埋立地行きか汚染物を大気に排出する焼却炉行きとなる。 Photo: Keri Oberly

トスカーナからの手紙(パタゴニアの着古したウールの調達先)

リサイクルされたウール廃棄物を細断機にかける準備をするガブリエル・ミケローニ。衣類のリサイクルは、それを回収し、分別し、細断し、梳き、紡ぎ、織り、布地を新たな生命へと準備する専門ビジネスのネットワークに依存している。この機械はリサイクル・ウールの細断に使われる。 Photo: Keri Oberly

ここには2つの細断機があり、古いセーターを刻む音は、距離があっても会話をほぼ不可能にする。この騒音で、葉巻愛好家でウール専門家である私のガイド役のアンドレアが妨げられることはない。彼はウールのリサイクル工程すべてを細かく解説するつもりだ。「革命的なフランスの発明だ!」と彼はギロチンを指して叫ぶ。アンドレアは分別された衣類がベルトコンベアーで運ばれ、最初の刃物の列(またはギロチン)を通過し、2つのシリンダー(ひとつは掴み、もうひとつは引っ張る)にかけられてさらに細かく刻まれる工程を説明する。

工場の壁の外では静寂な階段状の丘陵がヨーロッパ最大の工業地域のひとつを取り囲む。この地域を成すのは、リサイクル生地を製造し販売することに関わるビジネス、工場、繊維工場、輸送施設のすべてのネットワークだ。これらの丘の先にある世界を構成するのは、他の何千もの製造会社が廃棄物をリサイクル製品に変えるサプライチェーン。サプライチェーンとはつまり、糸を作るための作物から、生地を衣類に縫い、最終製品を倉庫、店、お客様の玄関先に輸送するまでのすべてを包括する言葉だ。それは独自のフットプリントを有する世界的な工業過程であり、リサイクル生地がどうやって作られるのかをこの目で見るまでは完璧には理解できなかった。

トスカーナからの手紙(パタゴニアの着古したウールの調達先)

この機械的にリサイクルされたウールは染色の必要がなく、水とエネルギーを節約する。糸に必要な色は異なる色のリサイクル・ウールを色調合表に基づいて混ぜることで得られる。パタゴニアのオキサイド・レッド色に仕上がる深紅色3種の混合。 Photo: Keri Oberly

「工業」という言葉はしばしば、食物を栽培したり、食肉動物を育てたりする文脈で使われるが、アパレル産業に関してはあまりピンとこない。しかし衣類を作って売ることはとても工業的である。全体としてこのプロセスにより、およそ12億トンの温室効果ガスが、私たちが呼吸する大気に放出されて気候危機を加速させている。2017年の〈エレン・マッカーサー財団〉からの報告書によれば、衣料業界の排出量は国際線の飛行機と船舶による排出量を合わせたものに相当する。なぜか? それはほとんどの衣類が化石燃料、ことに石炭火力発電所からの電力に大きく依存する中国、インド、バングラデッシュの工場で製造されるからだ

天然、化繊を問わず、すべてのバージン原料は人と惑星に何らかの影響を及ぼす。バージン・ウールは羊毛を生地に変換するためにエネルギーと水と化学薬品を要する。ナイロンは石油由来のプラスチックであり、バージン・ナイロンから衣類を作ることは化石燃料の抽出に依存することを意味する。いまでは世界中の衣類の60%に使われているポリエステルもまた石油に由来する。リサイクル素材から衣類を作ることで、その影響をパタゴニアなりの方法で削減している。

パタゴニアは1996年に消費者から回収されたペットボトルをシンチラ・フリースのリサイクル・ポリエステルにして、初のリサイクル原料による衣類を製造した。当時は使っていたスプライトのボトルの色を取り出せず、パタゴニアのすべてのリサイクル・ポリエステルのフリースはそれと同じ緑色になった。過去20年間、私たちはかなりの前進を遂げ、今シーズン、パタゴニア製品の69%(重量比)がリサイクル・ウール、リサイクル・カシミア、リサイクル・ポリエステル、リサイクル・ナイロン、リサイクル・ダウンとリサイクル・コットンなどのリサイクル原料で製造されている。

トスカーナからの手紙(パタゴニアの着古したウールの調達先)

イタリアのプラート地域で家族経営のリサイクル・ビジネスを指揮するベルナルド・カラマイ。2人の若い兄弟が1878年(現代の環境運動誕生のずっと以前)にカラマイ施設を創業したのは、増大する安価な衣料需要を満たすことだった。今日、カラマイ家の4世代目は経済ではなく、生態学に動機を見出している。 Photo: Keri Oberly

リサイクル生地と原料を使うことは、着れなくなった衣類の新たなリサイクル経路を助長し、製品の原材料の抽出にまつわるカーボン・フットプリントを削減する。バージン素材ではなくリサイクル素材を使用することで、パタゴニアは年間2万トンに相当する二酸化炭素の排出量を削減している。環境保護庁の排出表によると、これはおよそ2,400のアメリカの家庭が1年に消費するエネルギーに等しい。しかし改良の余地はまだまだある。衣類産業全体のリサイクル率はわずか15%だ。そして衣類生産に使われた原料がどれだけ新たな衣類へとリサイクルされているかを調べると、その数字はさらに低くなる

カラマイ家は着古されたウールの衣類を1878年から回収してきた。「持続可能」という言葉が一般に使われるようになる100年以上も前からである。

「私の曽祖父は最初のウール工場を駅の近くに建て、高品質のウールの端切れを求めて、裕福なヨーロッパ諸国をワゴンで旅しました」と言うのはカラマイ家の家族経営ビジネスを率いるベルナルド・カラマイ。第一次世界大戦後、回収したウールの多くがアメリカからやって来たそうだ。「世界中から端切れを集めましたが、最高品質のものは当時とても豊かだったカリフォルニアからやって来ました」

トスカーナからの手紙(パタゴニアの着古したウールの調達先)

この機械はリサイクルされたウール繊維を紡績準備のためにスプールし、そして生地が完成する。リサイクル・ウールを使用することで、バージン・ウールと比較して二酸化炭素排出を44%削減する。 Photo: Keri Oberly

当時、端切れを選んで素材の種類と色で仕分けしていた作業者「シンシナロ」たちは、アメリカからやって来る衣類のなかに秘密のお宝を含むありとあらゆる種類のものを発見した。あるときシンシナロは袖のなかから6百万リラを発見した。「最近じゃ小銭ばかりだけどね」とベルナルドは笑う。

近頃は、カラマイ一家は不要になった、あるいは着古されたウール衣類を世界中から集める。ほとんどがインド、アメリカ、イタリアからだ。廃棄経路から次の命へと衣類が生まれ変わるとき、それらは仕分けをし、細断し、紡ぎ、織り、生地を完成させ、製品にして世界中へふたたび出荷する専門ビジネスのネットワークを通過する。

それは見事で複雑な工程だ。リサイクル・ウール以外では私が目撃したのは、工場のフロアからのカシミアの端切れがプラートのその他の施設でリサイクル・カシミア糸になる工程、そして古いカーペットと引き揚げられた漁網がスロベニアで粉砕されてリサイクル・ナイロンになる工程だった。

メモを取り、専門家から学ぶにつれて、哲学者ジョン・ヘイルの言葉が何度も頭に浮かんだ。「私は次の主張を自分の起点とする:何かを目撃することは(おそらくある意味において)何らかの信条を得ることである」と。プラートに行くまで、リサイクル工程についての私の信条は呪術思考だった。思ってたのは、埋立地に漂着した衣類の山、グッドウィルの店舗で延々とラックにかけられたダブダブのTシャツ、あるいは染色工場に隣接する紫色の川だった。リサイクルがそれらすべてを救って新しい命を吹き込むことができたらと願って。リサイクル・ウールを含むすべてが影響を及ぼすということに私を目覚めさせてくれたのは、イタリアの葉巻愛好家兼ウール技術者と何ダースもの工場を見学した1週間だった。

トスカーナからの手紙(パタゴニアの着古したウールの調達先)

織布施設のリサイクル糸。この秋、パタゴニア製品の69%(重量比)がリサイクル・ウール、リサイクル・カシミア、リサイクル・ポリエステル、リサイクル・ナイロン、リサイクル・ダウン、リサイクル・コットンなど、リサイクル原料で製造されている。 Photo: Keri Oberly

リサイクルが成し遂げていることは、原料の抽出を置き換えていること。それはこれまでにも増したスピードで資源を使っているこの時代では切に求められていることだ。しかし新しい原料の生産を減らさなければ、リサイクルは避けられないことをただ遅延させるだけのこと。最終的には、同じ原料は新たな命のためにあまり多くの機会は得られず、結果的には捨てられ、埋立地か焼却炉にたどり着く

「リサイクルに関する最大の誤解はその理由にあります」と言うのはカリフォルニア大学サンタバーバラ校の産業エコロジー学教授のローランド・ガイヤー。「環境問題の視点から考えると、リサイクルの唯一の役割はバージン素材製品をなくすこと。最終的に問題なのは、消費する量です。消費を抑え、そのうえでリサイクルすれば、大きな違いが生まれるでしょう」と彼は言う。ガイヤー教授はリサイクル原料を含有する製品を購入したとしても、環境への影響はあると考える。その影響は典型的にはバージン原料で作られた同じ製品よりは低いとしても、だ。彼はこう語る。「グリーンになるわけではありません。ブラウンを少なくはするでしょうが」

パタゴニアが衣類に使用するリサイクル原料について、そしてなぜアパレル産業の他のブランドもバージン原料の使用を制限する必要があるかについてはこちらをご覧ください。

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