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厳しい逆境

キティ・キャルフーン  /  2020年2月26日  /  読み終えるまで8分  /  クライミング, コミュニティ

Photo: Will Strathmann

ヒマラヤで新ルートを拓くために、パックの重荷にあえぎながら新雪の中を先頭でラッセルしていると、自信喪失に陥ってしまった。仲間の3人の男性たちは私よりもはるかに強く、私の共同装備の分担を軽くすることを申し出てくれた。しかし、私はすべて平等に担ぎたいと伝えた。自分がみんなの負担になりたくなかったのだ。負担を平等に分け合いたいと強く願いながらも、自分が彼らほど強くはないことも分かっていた。そのとき、数か月前にコロラド州ユーレイでのパラドックススポーツのイベントにおいて、私がアイスクライミングのサポートをした手足のない女性のことを思い出した。彼女たちは自分の障害を理由にあきらめようとはせず、頂上まで登り切った。パラドックススポーツで何度かボランティアをしてからというもの、探検旅行の時は、よく当時のことを振り返る。それが私を鼓舞し、私の強さの拠り所となっているのだ。

パラドックススポーツは「身体障害者にできることを応援し、その限界を広げ、その偏見を変える場所」として、2007年にティミー・オニールとマルコム・デイリーによって創設された。クライミングは「心と体に向き合う必要があり、自分を阻む『障害』はしばしば自分の心の中にある」ことから、彼らはクライミングに着目した。

この信念は私の心に響いた。そして、障害のある女性たちをクライミングに駆り立てるものは何か、彼女たちが逆境、挑戦、恐怖にいかに立ち向かうのか、ますます興味が湧いてきた。2月にユーレイでパラドックススポーツのボランティアをする機会があり、7人の女性からその心境を窺い知ることができた。

ステイシーは、第4腰椎を折ったことにより、第3腰椎と第5腰椎をつないで、仙腸関節を接合している。そのため、腹部から足にかけて下半身麻痺となってしまった。彼女は、楽しくて冒険に満ちているからとアイスクライミングを常々やりたがっていた。しかし、背中を傷めてからというもの、自分には何もできないと思っていた。けれどもスキーを試みたことで扉が開き、アイスクライミングに挑戦することを決意した。彼女はできなくても、とりあえず頑張ることにした。そして、自分が思う以上にできることを知り、それが外に出る自信となった。しかし、自分の居心地のよい領域から外へ出るように駆り立ててもらう必要がある。「そうすることで、適応できる人というのではなく普通の人と同じように、周囲から自分を扱ってもらえるのだ」と彼女は言う。

タチアナは生まれつき脳性麻痺があるため、脚が不自由で、特にふくらはぎとアキレス腱が動かない。彼女は、パラクライミング・ナショナルズのためのいいトレーニングになると思い、アイスクライミングをやることに決めた。担当看護師からロッククライミングの話を聞いたことのあるタチアナは、自分を強くし、自信を与え、「すばらしい仲間」に出会えるロッククライミングに恋に落ちた。彼女は、困難にぶつかってもそれは登るべき新たな壁にすぎないと言う。

ビーは、ボルダリングの最中に不幸に見舞われ、膝下を切断している。「アウトドアにいることは自分の強み。アウトドアに出なければ何も感じない」と彼女は言う。事故の後、ビーは何度も手術を受けては回復を試みたが、もう二度とクライミングはできないように思えた。そして自分の脚を切断する決意をしたら、岩山に戻ることができた。第2の人生を与えられたように感じ、今までよりもっとクライミングをやりたくなった。義足で登る方法を考えなければならないうえに、当然ながら、義足が壊れた場合に備えて、予備も持ち運ばなければならない。それが今、新たな課題となっている。ビーは外へ出る度に不安や心配を伴うし、必死で取り組まなければならない。しかし、自分の感覚を通じて地に足をつけることを学び、自分の中の不安を受け入れて前に進む。「私には励ましてくれるパートナーやクライミング仲間がいる。それって大切なことだと思う」と彼女は語る。

エシャは生まれつき目が見えない。盲学校とパラドックススポーツでクライミングに出逢う。クライミングはまた、記憶、意識、アイデンティティ、知覚の混乱などを伴う彼女の解離性障害のセラピーの一貫にもなっていた。エシャいわく、クライミングは彼女に自信を与え、地に足をつけて今を生きることができるそうだ。今年の冬、ユーレイで行われたアイスクライミングは、彼女にとって初めての経験だった。そして、エシャはいつも新たなアドベンチャーに挑もうとする。心を開いて臨んでいたが、寒さに対する心づもりもあった。「絶対にやれると思っていた」と彼女は言う。エシャは、ありのままの状況を受け入れ、新しいことに挑戦し、ベストを尽くし、それがどうなるかを見届けることを強く望んでいる。

キムは生まれつき右手の指がない。彼女はアイスクライミングに出会う前、3年間トラッドクライミングをやっていたが、問題はアイスツールを持つ義手が必要なことだった。この時、初めてキムは自分の障害を痛感した。思い切ってアイスクライミングをやってみたとき、自分が勇気づけられる感覚などは期待していなかった。彼女が感じたのは、スリル、自分の能力、今までとは違う感情、誇りだった。32年間、義手をつけることを拒んできたキムだったが、今は「義手をつけることを光栄に思っている」と語る。新しいクライマーたちにどんな風に受け取られるだろうかととても不安に感じていたが、クライミングコミュニティの中にいるうちに、その思いは変化していった。ザイルでつながり、アンカーを打ち込み、リードするキムを彼らは信頼してくれた。「私の夢が現実の姿になった。アウトドア仲間のサポートがなければ実現できなかった」と彼女は語る。

モーリーン・ベックは生まれつき左手がない。キムとは反対の手が不自由なため、二人でグローブをシェアする。ガールスカウトにいた12歳の時にロッククライミングに出会い、すぐに夢中になった。ロッククライミングにときめいたのだ。モーリーンは登ることができない「はず」という事実が好きで、彼女の言葉を借りれば、これは世の中に対して「自分を裏切る」ことなのだそう。モーリーンは、パラクライミング世界選手権で2回、パラクライミングワールドカップで1回、パラクライミングアメリカ大会で6回の優勝を成し遂げている。また、モーリーンが初めて5.12のリードに挑んだようすを撮影した映画『Stumped』のスターでもある。パラドックススポーツで出会ったアイスクライミングは、ロッククライミングよりも難しく、冷たく、怖いが、いい運動だと認めるモーリーン。それだけでなく、アイスクライミングは、競技人口がまだ比較的少ないため、他人と共有する特別な体験だと彼女は考える。恐れを抱くことは身体にも心にもストレスがかかる。「たとえば、私はフェースクライミングが苦手。だから、アドバイスや助けを求めなければならない。でも、そういう場面が自分にとって最高に有意義なシチュエーションになる」と彼女は語る。

ジェシカは生後4か月の時に病気で右脚を切断した。彼女は健常者と一緒にテニスをやっていた。しかし、ロッククライミングをはじめて、テニスとは違って補装具が何も必要ないことを知る。アイスクライミングは彼女が思っていたものとはかなり違っていた。というのも、彼女は必要であればどこでも足掛かりを作ることができたものの、足を蹴ってマントルの体勢に入るとき、かなりの重労働になるからだ。ジェシカは、クライミングでマントルに挑むのが大好きだ。「みんな、ホールドが短すぎるとか少ないとか何かしらの言い訳がある。だから、問題ないと思って。自分がホールドに届かないのは普通のこと。同じ問題に直面する人が5人いたら、みんなそれぞれ自分のやり方で挑む。人間はいつだって逆境に立ち向かう。私のモットーは、熱望、順応、達成すること。試してみなければ、自分の強さなんて分からない。私の存在がインスピレーションだというのをよく耳にする。でも、その人がソファから立ち上がって、何かをやるきっかけにならなければ、何の意味もない」とジェシカは語る。

今、インドで苦境に陥った私は、当時の体験を思い出している。選ぼうと選ばまいと、人生の困難から逃げられる人なんていない。しかし、この女性たちは「健常者」である女性には決して知り得ない挑戦と共に日々を生きている。「障害を理由に自分に挑戦させているわけではない」とモーリーンは言うかもしれない。しかし、彼女たちの挑戦は私の刺激になる。私をソファから立ち上がらせ、ビーが言うように第2の人生を与えられたような気持ちで私が生きるということも、彼女たちの人生経験の価値に含まれるとしたら、私はそれを、そしてそんな彼女たちのことを光栄に思う。

パラドックススポーツよ、ありがとう。

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