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自分の居場所

エリック・アルセ  /  2020年4月30日  /  読み終えるまで14分  /  マウンテンバイク

気の合う仲間と一緒にいれば、どこでもアットホーム。たとえ、ミネソタの洞窟でも。ダルースでの雨天のライド中、 集合写真でポーズを取るトレイシー・ブラウン、レイチェル・オルザーとエリック・アルセ。Photo:Hansi Johnson

「黒人の命も大切だ」というサインが表窓に掛けてある〈ヴェンチャー・ノース〉のドアを開けると、コーヒーの香りが私を迎えてくれる。店内の壁を覆う写真や壁画は、どれも近所の有色人種をモデルにした作品だ。この事実に驚くべきことは何もない。ミネアポリス北部は歴史的に黒人が多く、〈ヴェンチャー・ノース〉の経営者も黒人であることを考えれば。

それでも、そのサインは僕の目を引く。〈ヴェンチャー・ノース〉は自転車店だが、自転車店というものは、通常は有色人種のマウンテンバイカーには居心地よい場所ではない。それどころか、苦痛の種となる場合の方が多い。自分の自転車の知識を証明しないといけないように思わせる、上から目線の整備士や店員がいるからだ。

残念ながら、有色人種にこのような思いをさせるのは店だけではない。マウンテンバイク業界自体がそうだ。今日、私たちがここにいる理由はまさにそこにある。

トレイシー・ブラウン、レイチェル・オルザーと僕は、いまから数時間前、数ブロック先のレイチェルの家ではじめて顔を合わせた。だが僕たちはこのトリップを何か月も前から、〈@allmountainbrothers(AMB)〉というインスタグラムのアカウントで計画してきた。これはトレイシーが共同設立したアウトドア界の有色人種のためのオンラインコミュニティだ。僕たちは皆このスポーツを愛し、美しいトレイル、素晴らしい景色、自然とのつながりといった、このスポーツが与えてくれるすべてのものを愛している。それと同時に、このスポーツに欠けている文化的および人種的多様性にもがいている。だから僕は写真家として、おもに有色人種の人びとを被写体として選んでいる。僕たちはこのスポーツで得られる仲間意識の喜び、自由、冒険のストーリーからは除外されてばかりいるからだ。

〈ヴェンチャー・ノース〉は例外だ。黒人のサイクリストによって経営され、温かく迎えてくれる整備士がいる。これが僕が思い描く、通常のライダーにとってのパーフェクトな自転車店だ。そしていつか、これがマウンテンバイク業界の姿になると信じたい。

トレイシーは振り向いて僕にこう言う。「ここではアットホームな気分になるね」

僕自身は、2000年初期にカリフォルニア州マンモス・レイクスでマウンテンバイクを学びはじめ、地元のダウンヒルシーンでは唯一の有色人種であることが日常だった。その当時の僕にとって、マウンテンバイクはストレスから逃れ、自由を見つけられる場所だった。サービス業で働くラテン系移民が多いカリフォルニア州の小さな町では、マウンテンバイクのコミュニティから、僕たちの人種を見下すようなコメントを耳にすることもあった。たとえばこんなことも。地元でのダウンヒルレース後の集会で、誰かがテーブルにぶつかって皿やコップが散らばった。すると部屋の奥から、「メキシコ人に片づけさせろよ」という声が聞こえ、皆が笑った。

それは僕にとってはじめての経験ではないし、最後でもない。2007年にカリフォルニア大学サンタクルーズ校で学士号を取得するため、サンタクルーズに移り住んだ。その地域にはハードなことで有名なトレイルがあることも魅力だったが、そこでも他のサイクリストたちに幻滅し、やがてはマウンテンバイクから身を遠ざけるようになった。最初はひとりで乗っていたが、僕にとってのマウンテンバイクの醍醐味のひとつは仲間と乗ることにあった。その結果、魅力はさらに薄れ、2009年には自分のマウンテンバイクを売り払って、すっかり足を洗ってしまった。

自分の居場所

一行がミネソタ州トフティにある新トレイル網を訪れようとしたとき、天気予報は雨以外の可能性を示さなかった。それでもバイクに乗りたかった彼らは濡れることを覚悟で出発したものの、トレイルヘッドから10分走っただけでずぶ濡れに。レイチェル・オルザーとエリック・アルセは引きかえしたが、ハンジ・ジョンソンとトレイシー・ブラウンは「ジャックポット」という新しいフロートレイルへと向かい、そこで15分というつかの間の太陽をつかまえた。 Photo:Hansi Johnson

けれども、僕のマウンテンバイクへの愛情は消えなかった。トレイルや山、そして精神安定剤としての効果が恋しかった。体が軽くなると同時に、精神が落ち着くことが恋しかった。それは僕がいわゆるマインドフルネスに達することができる唯一の場所だった。ほんの1~2時間であっても、自分自身があるべき姿となり、幸せになれたのだ。

2016年、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で社会学の博士号に取り組んでいた僕は、ストレス発散のためにふたたび自転車を購入した。だが2018年2月に転倒して鎖骨を折ってしまった。病院で僕の首にあるシコリに気づいた医者が生体検査を行うと、さらに甲状腺癌が見つかった。治療は可能だったが、それは人生の優先順位を考えさせるのに十分な恐怖だった。僕は大学院をやめ、写真を中心とする生活に集中するためにユタ州ソルトレイク・シティに移住した。

しかしまずは甲状腺を切除しなければならなかった。両親には話しておらず(父も膵臓癌と闘っていた)、ソルトレイク・シティには僕のフィアンセ以外、誰も知り合いはいなかった。2018年10月、Lyftドライバーに病院に送ってもらい、数時間後に退院した僕は癌を克服し、変な話だが、僕の命を救ってくれたスポーツへ有色人種の参加を増やすことを、より固く決心したのだった。

実際、僕が新しいバイクラインディングのコミュニティを築くことに興奮しはじめたのは、インスタグラムで他の有色人種のサイクリストに出会ってからだった。その後すぐに〈AMB〉の存在を知り、トレイシーに連絡を取ってみると、そのコミュニティはすでに存在しているというではないか。

トレイシーは2018年、スヌーク、イーヒディ、コーリーという友人とともにバイクトリップを決行したのち、〈AMB〉を共同設立した。全員黒人であるこの4人は、白人が大半を占めるコミュニティにおける有色人種としてストーリーを共有しはじめ、同じような経験をもつ人びととつながりたいという願望があることに気がついた。トレイシーは帰宅すると〈AMB〉を立ち上げた。設立以来、アカウントは日々成長し、フォロワーは世界的な規模で増えつづけ、受信ボックスは〈AMB〉のフィードに自分たちが反映されていることに感謝するたくさんのメッセージであふれている。

「自分の人種を参加させることは重要だ。なぜなら、誰にとっても尊敬する人やそうなりたいと憧れる人の存在が必要だから」とトレイシーは言う。「僕がトレイルではじめて黒人のバイカーを目にして、そのときに感じた感情。それを共有する場所を作りたかった。他の有色人種のマウンテンバイカーを勇気づけるためにも。何よりも、僕はもっと黒人やラテン系の子どもたちがマウンテンバイクを楽しむ姿を見たかった」

レイチェルにも〈AMB〉は同じような絆を提供してくれた。プロのクロスカントリーレーサーになる前にミネソタ大学で生物学、進化学、行動学の博士号の取得を目指していた彼女は、熱心なロッククライマーだった。スポーツ自体が肉体的に厳しいことは当然だが、その文化はさらに厳しいものだった。

「クライミングはとても新しいスポーツです。それがいかに白人男性中心であるか、女性や有色人種の人たちにとってはいかに排他的であるかという認識が、あまり広まっていないんだと思います」と彼女は言う。「フィールドに出るたび、自分がいるべきところにいることを証明しなければいけない気がして、疲れちゃいました。どれだけ上手になっても、気持ちよくても、受け入れてもらえるには、ほど遠い気分でした」

僕たち3人は直接メッセージを送り合いながら何か月も過ごし、自分たちのストーリーをどう共有すべきか、サイクリング文化における他の有色人種の人たちの状況をどう学べばいいのか、いろいろな考えを出し合った。そして多様な発想をもち寄った僕たちは、このスポーツで無視されがちな人びとや場所に着目したバイクトリップに繰り出すことにした。マウンテンバイク文化で見下されがちな地域があるとすれば、それはアッパー・ミッドウエスト(中西部の北部)だった。

自分の居場所

春にミネアポリス周辺のトレイルで1日を過ごすと、粘り気のある土と新緑に輝く森、そしてミネソタ州を象徴する非公式の「鳥」と呼ばれている蚊の醍醐味を体験できる。その群れを出し抜くために速度を保つトレイシー・ブラウンとレイチェル・オルザー。 

僕はもっと標準的な、山地に囲まれた地域を推薦したが、トレ イシーとレイチェルの心はミネソタに決まっていた。テキサス州オースティン出身のトレイシーはその地域の素晴らしいライディング体験を耳にしたことがあり、レイチェルは地元のトレイルを僕たちに紹介できることにわくわくしていた。ソルトレイクのワサッチ山脈から来る僕は、正直なところ少し気後れしていた。僕からすれば中西部はじつに平らな地域だった。

コーヒーとタイヤチューブを手に〈ヴェンチャー・ノース〉から外へ足を踏み出した僕は、自分が間違っていたことを実感することになる。

ハンジ・ジョンソンとはダルース市のダウンタウンにあるアイスクリーム屋で待ち合わせをしていた。物静かな笑顔で剃り残しのヒゲが似合う彼は、力強い活動家的な風貌ではないが、その見かけに惑わされてはいけない。アウトドア産業に人生を捧げ、かつては〈国際マウンテンバイク協会〉の支部長を務め、この地域をアウトドアレクリエーションのホットスポットとして促進するために重要な役割を果たしてきた人物だ。現在はセントポールを拠点とする環境保護団体〈ミネソタ・ランド・トラスト〉のレクリエーション用地ディレクターを務め、これまでと同じような支援運動で州の自然を保護している。

ハンジは以前からマウンテンバイクの文化は包括的であると考えていた。しかし、彼の養子である韓国系アメリカ人のテイに、なぜ自分のような姿の子どもがもっとトレイルにいないのかと聞かれたとき、アウトドアのコミュニティに欠けている多様性に気づかされた。以来ハンジはその欠点を指摘し、非難する記事を発表してきた。その反応は彼が期待していたものではなかった。彼の同僚のなかには、問題はそれではないと主張する人や、このテーマは対立を扇ぐと危惧する人もいた。しかしそれはハンジの決心をより固くするだけだった。

「いつか、僕の息子が振りかえる日が来るだろう」と彼は言う。「僕を見て、あのとき何もしなかった白人だと思うか、何かを成し遂げた白人だと思う日が」

ミネアポリス出身のマウンテンバイカーであるレイカン・ウィルソンにも出会った。21歳の有能なクロスカントリーレーサーであるレイカンはエネルギーに満ちあふれ、明らかに自分の地元を誇りに思っている。これまでノルディックスキーのような従来のアッパー・ミッドウエストのスポーツに打ち込んできた彼にとって、サイクリングは自分の頭をすっきりさせるためのスポーツであり、地域のテクニカルなトレイルやジャンプラインに興奮を覚えるようになった。またミネアポリスのバイクシーンでの有色人種として、アウドドアレクリエーションをより包括的にするために活動する団体〈ロペット・ファウンデーション〉に携わっている。

レイカン・ウィルソン

有色人種として、アウドドアレクリエーションをより包括的にするために活動する団体〈ロペット・ファウンデーション〉に携わっている。

「僕はミネアポリス北部の有色人種の子どもたちのコーチをしているけど、その年齢層は4歳から67歳までと幅広く、子どもだけじゃない」と彼は言う。「子どもたちが何かにひらめく様子を見ることほど、充実感を得られる経験はない」

アイスクリームを楽しんだあと、ハンジとレイカンが地元のトレイル網を紹介してくれて、中西部は平らではないことを完璧に証明してくれた。急勾配、難しいライン、岩からのドロップ、きつい上りなどを備えたこれらのトレイルは、アメリカ国内のどこでも素晴らしく手強いレベルと見なされるだろう。もちろんこれは簡単に築かれたものではない。ダルースの広大なトレイル網は20年をかけた懸命な努力の賜物である。翌日の晩にハンジの裏庭で開かれたバーベキューパーティでは他の有色人種の地元マウンテンバイカーたちにも出会い、このトレイル網の基盤はもっと古いものであることを学んだ。

ダルースは先住民オジブウェ族の祖先から伝わる故郷であり、彼らはこの地域を「ミサアベコン(巨人の地)」と呼ぶ。彼らはスペリオル湖畔で米を収穫しながらこの土地を何世紀にもわたって保全してきた部族で、アッパー・ミッドウエストの主要な存在でありつづけている。より大きなアニシナアベ族に属する同族のメンバーであるアリシア・コズロウスキーと、第23回「アニシナアベ・スピリット・ラン」の最終区間であるフォンデュラク居留地の近くで合流した。4日間にわたって開催される200マイル(約320キロメートル)のこの耐久レースは、薬物乱用防止を支援するイベントだ。アリシアによると、このランはアニシナアベ族社会で、薬物依存と闘うための力強いツールとなっているそうだ。彼女はレース後に参加者を敬うパウワウに僕たちを招待してくれた。それは僕たちにとって強力な体験となり、参加者にとっては人生観が変わる瞬間だった。

翌朝、トレイシーと僕はふたたび新しい友人を応援するために叫んでいた。レイチェルが地元のスキー場でクロスカントリーレースに出場している。レースはレイチェルが自身を試す場所であり、自分を受け入れてくれる場所でもあるが、いまでも彼女がレースで唯一の有色人種女性であることはめずらしくない。「女性というだけでなく、唯一の有色人種というときもあります」と彼女は言う。トレイシーと僕は異常なデシベルを放つ音以外の何ものでもないが、レイチェルにとっては、彼女が孤独ではないという心の支えだ。

ダルースでの最後の朝は雨に見舞われたが、それでも街の北部のトレイルを探索してみようということになった。ハンジは雨は上がると言っていたが、その気配はない。それどころか雨足は強くなるばかりで、レイチェルと僕は脱落した。乗りつづけることにこだわったトレイシーとハンジは、車で待っていた僕たちと合流すると、まるで青空の下で最高の地面を走ってきたかのように話を弾ませていた。これがマウンテンバイクの不可思議のひとつである。気の合った仲間と一緒なら、馬鹿げているような最悪なコンディションのなかでも素晴らしい時間が共有できるという。

自分の居場所

アッパー・ミッドウエストの地形は平らであるという一般的な誤解に反して、ミネソタ州ダルース周辺のトレイルは挑戦しがいのある地形がたっぷりあるため、〈国際マウンテンバイク協会〉からゴールド級の「ライド・センター」指定を受けている。この写真は、ピードモントのトレイル網の難所をこなすトレイシー・ブラウンとエリック・アルセ。 Photo:Hansi Johnson

トレイシー、レイチェル、レイカン、ハンジのような多様性を理解して尊敬する人びとと出会ってから、僕はこれまで以上にマウンテンバイクに乗る機会を増やしている。マウンテンバイク文化に自分自身が反映されているのを見ることで、さらに貢献しようと思うようになったのだ。ダルースでの時間やトレイシーの〈AMB〉での活動に刺激されたレイチェルと僕は、あらゆるレベルと種類の有色人種のバイカーを祝福する「@pedal2thepeople」という新しいインスタグラムのアカウントをはじめることにした。今回の旅の経験で得た、自分自身でいることの心地よさを再現する試みだ。

だからこそ、自分を表現することは重要だ。〈ベンチャー・ノース〉のように、マウンテンバイクが自分の居場所と感じられるように。

「君たちと経験できたことは夢のようだった」と、のちにレイカンが僕に語ってくれた。「夢というのは、つまり、僕が想像していたとおりの心地よさだったってこと。境界線を越えていない、と感じられる心地よい場所。『僕はここにいていいのか?』と自問せずに、ここがまさに僕の居場所だと思える場所。それはきっと、因襲に異なる光を差すと思う」

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