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アラスカ州北極圏国立野生生物保護区ブルックス・レンジの丘陵。Photo:Austin Siadak
アラスカ州北極圏国立野生生物保護区ブルックス・レンジの丘陵。Photo:Austin Siadak

北極圏国立野生生物保護区を旅して

By クレア ・ ギャラガー   |   2020/05/11 2020年5月11日

2019年の夏、私たちクレア・ギャラガートミー・コールドウェルルーク・ネルソンは、アメリカの偉大な国家的宝である北極圏国立野生生物保護区で、汗をかき、笑い、そして泣いた。アラスカ北東部の海岸平野が、グウィッチン民族の文化的・精神的生活とどれほど不可分な関係にあるかを彼らから学び、今日のアメリカにこれほどの野性がまだ存在していることに畏敬の念を抱いた。

まず、私たちが人生の大半を原野で過ごしていることを伝えておきたい。ロッククライマーあるいはトレイルランナーとして、そして3人ともパタゴニア・アンバサダーとして、610メートルの垂直な岩壁や160キロメートルのシングルトラック周回コースに挑む機会に恵まれている。

それでも、そこは私たちが見てきた中で最も野性的な場所だった。

野性が至るところにあった。ブルックス・レンジまで果てしなく続く緩やかな起伏の緑のツンドラ、その合間を網状に流れる透明な青い川。生まれたばかりの子を連れて平原を駆ける母親カリブー。カモメ、野生の花々、見渡す限りの湿ったコケ。岩崩れ、雪崩、川の氾濫。

一行は、ジェイゴ・リバーの谷の涸れ沢に降り、刺すような風を避けて昼食をとった。しゃがみこんでいると、トミーが上を見て、静かに言った。「ほう、オオカミがいる。」みな振り向いた。3メートルも離れていないところから、見事なオオカミが穏やかに興味深げに私たちを見ていた。オオカミは数歩後ずさりし、数分間こちらをにらみ返し、走り去って行った。近寄れば口先に赤い血痕が見えただろう。想像するに一足先に彼もここで昼食をとっていたようだ。Photo:Austin Siadak
一行は、ジェイゴ・リバーの谷の涸れ沢に降り、刺すような風を避けて昼食をとった。しゃがみこんでいると、トミーが上を見て、静かに言った。「ほう、オオカミがいる。」みな振り向いた。3メートルも離れていないところから、見事なオオカミが穏やかに興味深げに私たちを見ていた。オオカミは数歩後ずさりし、数分間こちらをにらみ返し、走り去って行った。近寄れば口先に赤い血痕が見えただろう。想像するに一足先に彼もここで昼食をとっていたようだ。Photo:Austin Siadak

ある日、ツンドラに腰を下ろして昼食をとっていると、1頭の好奇心の強いオオカミが歩いてくる。凍り付き、呆然とする。私たちはよそ者だ。

道標も建物もなく、人もいない。そして登山道も。あるのはカリブーが1頭通れるほどの獣道で、それもミステリアスに現れては、訳もなく途絶える。それでもこの生息地一帯には18万頭のカリブーが息を潜めている。

なぜこの野性が問題なのか。海岸平野に掘削の脅威が差し迫っていればなおさらか。

何よりも、これはグウィッチン族の人々にとって問題なのだ。

アラスカ州北極圏国立野生生物保護区オクピラク川の網状流路。Photo:Austin Siadak
アラスカ州北極圏国立野生生物保護区オクピラク川の網状流路。Photo:Austin Siadak

グウィッチンは、この土地を「生命がはじまる神聖なる場所」(Iizhik Gwat’san Gwandaii Goodlit)と呼ぶ。何千年もの間、グウィッチンを支えてきたポーキュパイン・カリブーの群れがこの地で出産するからだ。油井探査の掘削、巨大な機械による耐震実験、カリブー繁殖地での道路建設は、カリブーを、続いてグウィッチンを滅ぼすだろう。

グウィッチンは食糧の80%以上をこの土地から得ている。グウィッチンが暮らすアラスカ僻地の9つの集落では、約3.8リットルの牛乳が10ドル以上する。コユクック・アサバスカ族の猟師ダレル・ベント・シニアは「行ける店がないんだ。この土地が私たちの店さ」と言った。

2019年の「北極圏先住民気候サミット」で、グウィッチャー・ズィー(現在のフォート・ユーコン)の第2首長マイク・ピーターから温暖化における狩猟の問題について学ぶルーク・ネルソン、クレア・ギャラガー、トミー・コールドウェル。Photo:Austin Siadak
2019年の「北極圏先住民気候サミット」で、グウィッチャー・ズィー(現在のフォート・ユーコン)の第2首長マイク・ピーターから温暖化における狩猟の問題について学ぶルーク・ネルソン、クレア・ギャラガー、トミー・コールドウェル。Photo:Austin Siadak

グウィッチンはこの土地を熟知している。この繊細な生態系下での掘削が提案されたとき、政府が彼らの意見を聞くことは当然と思えた。しかし、そうではなかった。先住民社会に対する数々の不当な扱いの例に漏れず、グウィッチンも、海岸平野を数十年かけて研究してきた科学者と共に、トランプ政権の環境評価では無視され、しかも誤った形で引用されることもあった。それどころか、政府は科学的所見を消去し、抑圧することで、法的に必要な検証プロセスを強行しようとしており、その一方で、採掘で見込まれる利益を著しく過大評価することで、鉱区借用権の販売をできるかぎり早期に実現しようとしている。

グウィッチン運営委員会の事務局長バーナデット・デミエンティエフも次のように述べている。「この一帯は何千年も前から私たちのものです。石油やガスの開発が始まれば、真っ先に影響を受けるのは私たちです。」

マッコール・クリークに沿ってオーファイス層を進むルーク・ネルソン。オーファイスとは、寒冷環境で川が氾濫・凍結を繰り返すことで形成される氷層のシート状の塊。数メートルの厚さに成長することもあり、しばしば夏の終わりまで融けない。北極圏での河川の航行を大いに難しくする。Photo:Austin Siadak
マッコール・クリークに沿ってオーファイス層を進むルーク・ネルソン。オーファイスとは、寒冷環境で川が氾濫・凍結を繰り返すことで形成される氷層のシート状の塊。数メートルの厚さに成長することもあり、しばしば夏の終わりまで融けない。北極圏での河川の航行を大いに難しくする。Photo:Austin Siadak

保護区は手付かずのようにみえるが、人間が容赦なく化石燃料を燃やすことで、この驚異的で類まれな動植物の多様性に既にどれほど影響を与えているかが分かった。永久凍土が融けたところでは、巨大なクレバスがツンドラを切り裂いている。既に地球上のどこよりも急速に温暖化が進むこの地での採掘は、気候変動による傷を広げるだけだろう。

北極圏で2週間を過ごした後、開かれた目と、痛む足と、学んだことを伝えたい熱意を抱えて帰国した。この保護区を掘削してはいけない、永遠に保護すべきだ。グウィッチンの人々の人権を守り、野性のアメリカを守り、未来の世代を守るために。

そのためには、北極圏保護区の保全に手を尽くすよう連邦議員に要請する必要がある。幸い、下院はH.R.1146を可決することで行動を示した。海岸平野での石油・ガス鉱区借用を禁止する法案である。しかし上院も動かないことには、海岸平野の危機は去らない。下院がH.R.1146を可決したその同日、米国土地管理局は、石油・ガス掘削に関する最終的な環境報告書を公開しており、そこでは海岸平野での石油・ガス鉱区借用権の販売開始を認めている。上院が行動を起こすまで、アラスカ・ウィルダネス・リーグの仲間たちは人々に呼びかけ、石油・ガス企業に対し、私たちが監視していることを知らせ、そして石油・ガス開発を目的に入札に参加し、これらの土地を買う場合は企業に説明責任を果たさせようとしている。

この国最後の野性の未開拓地を案じるアメリカ人として、親として、アスリートとして、有権者として、私たちには声を上げる義務がある。北極圏国立野生動物保護区を永遠に守ろう。

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