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オレゴン州のスチールヘッド:すべては故郷の水域のために

スティーブ・デューダ  /  2020年7月6日  /  読み終えるまで12分  /  フライフィッシング, アクティビズム

オレゴン州沿岸のスチールヘッドの川に腰までつかり、スペイキャストしようとするジェフ・ヒックマン。Photo:Jeremy Koreski

オリィ・ヒックマンは、よくはしゃぐ3歳児だ。目下、母親のキャサリンが差し出すニンジン・スティックに喜び、キッチンでラップを踊り、そして会ったばかりの初対面の人々に興奮している。何しろその全員が大声で、しかも同時に話している。けれど何よりオリィ・ヒックマンが大喜びしているのは、父さんとやっと遊べるからだ。

オリィの父、ジェフ・ヒックマンにとってそれは長い1日だった。ヒックマンはスチールヘッド(ニジマス)釣りの一流ガイドで、釣具屋で、自然の川や野生魚を保護する活動家である。この日、オレゴン州北岸沿いの小川の事務所では、みぞれ、雪、雨、さらにはひょうのスコールまで降るひどい1日で、世話人のところまで、ボート2台で行くことにした。ノットをほどき、フライを変更し、初心者にはスペイキャストの手ほどきが必要で、さらにふたり組の釣り人が森で迷子になるという初めてのハプニングもあった。出発した浜に戻ったときは、もうすでに暗くなっていた。しかも寒い。そして今日は、スチールヘッドは釣れなかった。たぶん明日だ。

けれど、川面から戻ったヒックマンは機嫌がよく、キャーキャーと叫ぶオリィを肩にまとわりつかせながら、川の水位、天候、明日の見込みについて語った。スチールヘッドの理想的なガイドとしては、はまり役である。背が高く、いかつい屈強な体格で、濡れ、寒さ、風に耐えられる。その体格、評判、職業からもっと重々しい人物を想像するかもしれないが、むしろすべてにおいて、無邪気で、真面目で、情熱的である。小さなことでも彼にとってはおかしく、おかしなことは、もっとおかしい。ようするに笑い上戸だ。笑うと伸ばしっ放しのあご鬚がクシャッとし、そのクスクス笑いが壁に跳ね返る。

オリィはさらに数回、キッチンでラップを踏む。大鍋のポゾレがグツグツ煮立ち、サワードウ・ブレッドの香ばしさがただよい、丁寧に盛られたサラダが目を引く。話題は、今日の川面の影が完ぺきなスチールヘッド・グリーンの色だったこと、山の雪の深さ、そしてサスカッチ(カナダのビッグフット)に関する最近の地元のニュースへと移っていく。みなオリィがビッグフットについて何か話すだろうと期待する。

息子同様、ヒックマンも快活で、ビッグフット、スチールヘッド、川について話すときは特にそうだが、中でもスチールヘッドと川は特別だ。手振りをまじえ、次第に大きな声で、次々と早口で言葉が飛び出すようになる。「生活のためだけにフライフィッシングをしているわけじゃない。精神の健全性のためさ。」こんな悲惨な水曜日の夕刻に、ヒックマンが遅くまで戸外にいるのは、釣りだけではない何かがある。「責任感が芽生えるというか、自分の義務みたいに感じるんだ。動かず、しゃべらず、変化を起こすためにできることをしていなかったら、夜眠れないだろうな。」

「在来魚協会」(NFS)のボランティアであるヒックマンは、11年以上にわたり、オレゴン州ネハレム川の監督員として活動している。当時NFSは、オレゴン州の貴重なサーモンの生息域で32,186キロメートル以上にわたる有害な川底掘削を中止させ、またオレゴン南西部では408平方キロメートルの公有地を露天掘りから保護する活動を支援し、さらにネハレム川の風光明媚な水路の保全を確保した。会議や聴取、プランニング・セッションへの出席、調査や復興プロジェクトのためのボランティア集めは別として、ヒックマンが野生魚の保護活動家として成功している理由は簡単で、それはその雄弁さとひたすらポジティブな姿勢にある。「秘訣は、近所の人に話しかけ、自分のコミュニティについて知ってもらうこと。それが草の根活動だよ。」

ヒックマンのもう1つのやり方は、単に自分の心に、必要があれば大声で、語りかけることだ。「つまり苦情ベースのシステム。苦情があるから、人は変化を起こそうとする。変化を促そうとするのさ。」彼が口にするとおかしく、本人も言いながら笑いを隠せないが、決めセリフの後で、論点はしっかり押さえる。「お先真っ暗なわけじゃない。ぼくは『世界は終わった。さあ、あきらめて酔っぱらおう』とは言っていない。今が転換期であり、みんなで立ち上がり、心に語りかけ、何が自分たちにとって重要であるかを話すのさ。良しと認めるよりも、苦情の方がずっと価値があると思う。『きしむ車輪は油をさしてもらえる』だよ。」

川に関しては、ヒックマンの天然の強さは別の形をとる。ボートを出すときは、かなり気楽そうに、ギアを高速に入れ、まるで夕食を釣りにいくような気軽さで、その日の釣り客を連れ出す。しかし、フライロッドを手にしたときが見ものである。流れの中に膝までつかり、優美な力強い動きで両手を操る。極端に遠くまで放たれる、川幅いっぱいの正確なキャスト。ほとんど何気なくやっており、魚についての絶え間ないおしゃべりは、ほぼ止むことがない。ジョークを言い、キャスティングについてアドバイスし、人があまり知らないようなスチールヘッドの秘密を披露する。「スチールヘッドはひどいものさ。厄介なことになっている。めったにかからないだろう。それはやつらが食いつかないからじゃなくて、そもそもいないからさ。ここにはそれほどいないんだ。」

言われなくても分かる。皆伐地、木材業者のトラック、この流域沿いの孵化場の看板を見れば、それは明らかだ。オレゴン州北部沿岸の河川とそこを故郷と呼ぶスチールヘッドは深刻な危機にさらされている。この魚たちは自ら姿を消したのではない。長期休暇中のわけでもない。数世代にわたる虐待、放置、拝金主義が共謀して、全個体を死のスパイラルへ追いやった。「野生のスチールヘッドは苦労しているよ」とキャストの合間にヒックマンは言う。「その数は本来の生息数からはほど遠い。」

その数は衝撃的である。過去の資料や州から入手できる最も正確なデータによると、1920年代以降、ネハレム川の野生スチールヘッドが継続的に90%減少していることは明らかである。当局のデータによると、オレゴン州沿岸全域で、ほとんどの川の野生スチールヘッドが、1980年代以降、10年間につき20~24%減少し続けている。「この平均比率で減少が続けば、沿岸のほぼすべての野生スチールヘッドが50年以内に絶滅の危機にさらされる」と、漁業生物学者でNFS会員のクリス・フリッセル博士は言う。

それにもかかわらず、オレゴン魚類野生生物局は、ネハレム川のスチールヘッドのような生息数であれば「健全」と見なしている。水準の変化を如実に物語る悲しい例だ。かつての遡上の規模に関する情報が消失するか、忘却されたことで、時を経て確実に減少していることが認識されていない。

ヒックマンによると、野生のスチールヘッドの減少には、そもそも主に2つ原因がある。それは木材産業と孵化場である。「世界は変わった。今では企業の拝金主義がすべてさ。」こうした拝金主義を支援し、煽っているのがオレゴン州当局と彼は主張する。「オレゴンの魚類野生生物局も森林局も、どちらも収穫部門だ。鶏小屋をキツネが見張っているようなものさ。どっちも長期的な解決策なしに、行き当たりばったりで運営されている。」

オレゴン州のスチールヘッド:すべては故郷の水域のために

オレゴン州北岸沿い、木材産業は決して遠くない。Photo:Jeremy Koreski

沿岸をドライブしてみると、まぎれもなく、オレゴンはかつて、そして今も木の国であり、いたるところに木材産業が影を落としている。国道101号線沿いでは、丸太が高く山積みされ、アジアへの出荷を待っている。製材所の臭気が漂う。道路沿いや待避場所に端材が集積されている。切り出したばかりの丸太を積んだトラックが、ぬかるみの搬出路をガタガタと走る。皆伐地はスチールヘッドの小川の18メートル近くに迫る。一方でわずか数キロメートル先には、一年中ツーリストで賑わうキャノン・ビーチがある。もちろん、その目当てはあちこちに積まれた端材ではなく、ヘイスタック・ロックを見て、エコラ州立公園をハイキングし、こじゃれた街で地元産のビール、ワイン、シーフードを愉しむことである。年中繁盛のレジャー/観光業と、林業道路沿いの容赦ない破壊のコントラストは強烈で、製材所や材木の山に郷愁混じりのあきらめが漂う。

「見ろ」とヒックマンが言う。「環境主義者はここの仕事をつぶさなかった。これまで以上に木が伐られているのに、雇用は減っている。木材産業は昔の夢物語だ。木材は多くの人を利してはいないよ。ここの学校は良くならないし、住民にとって何の得にもなっていないし、コミュニティは材木の売り上げの恩恵に浴さず、むしろ害され、川は沈殿物で溢れそうだ。」

ヒックマンとこの辺りの川を漂流していると納得せざるを得ない。豪雨の時、雨水は皆伐地を抜け、めった切りにされた地面を流れ、泥を川へ流出させる。ヒックマンはボートから飛び降り、下草の茂る藪を進んでいく。しばらくして、かつて木が生えていた斜面を指さして言う。「木の収穫が速すぎて危険なんだ」「水質、地滑りの可能性、極度な洪水、この川のすべてが影響を受けている。」

ヒックマンは地面の裂け目を指さした。そこに新しい木々が植わっている。樹齢数年の緑の斜面だ。この単作のダグラス・ファーが大きくなるまで、草が生えないように農薬を空中散布していると話す。農薬に含まれるのは、雑草を駆除するイマザピルやクロピラリド、そして除草剤「ラウンドアップ」の有効成分であるグリホサート、枯葉剤「オレンジ・エージェント」の成分2,4-Dである。こうした化学薬品が川や魚や彼の家族が飲む水に何をしようとしているか、大声で疑問を投げかける。ダグラス・ファーの若木の隣には、切り株だけが残る、伐り出されたばかりの斜面がある。「資源の責任ある管理がこれさ。」彼の向こうには、責任とはほど遠い景色が広がっている。「ぼくは決してここの過激主義者じゃない。」

オレゴン州のスチールヘッド:すべては故郷の水域のために

野生のスチールヘッドをキャッチ・アンド・リリースする瞬間は晴れがましい。ボートのだれもがその達成感を分かち合う。photo:Jeremy Koreski

ボート上で、ほとんどの時間ヒックマンはオールを取り、狭い水路や岩、ぶつかり合う波の間を航行する。下流に良さそうな区間を見つけ、トロ場の先端の岸にボートを着ける。フライ、リーダー、立ち位置など、細かなチェックをしてから、あの何気ない壮大なキャストが放たれるが、その間ずっとしゃべり続けている。魚に話しかけ、自分に話しかけ、自分が何を考えているのか、魚が何を考えているのか、ヒックマンが思うことを皆に話す。そして、ついにその時がきた。魚が彼の餌に食らいついた。リールがあの「シャッ」という音を立て、魚が跳ねる。ヒックマンのさい配どおり、魚はまさに彼がいると言ったところにいた。ヒックマンは唸り、彼の長いスペイロッドが揺れ、たわみ、虹色の魚影が見え隠れする。だれかが網を取りに走る。

数分後、戦いは終わり、魚は網の中で暴れている。放流魚のスチールヘッドである。何ヶ月もコンクリートの壁や水路にぶつかりヒレが擦れ、角がなくなっている。脇腹には痛々しい赤い擦り傷がある。最近、腹ペコのアザラシに遭遇して逃げたのだろうとヒックマンは推測する。魚は小さく、形が悪く、それほど抵抗できなかった。手早く流木の木片で殺し、えらを切り、血を川に流す。ヒックマンは少し興奮気味だったが、無感動なのは明らかだ。実際、少し落胆している。「なぜか分からないけれど、自然よりも上手くやれると思ってしまうのが人間の性だな。」

オレゴン州のスチールヘッド:すべては故郷の水域のために

釣るのは難しい、持つのはもっと難しい。オレゴン北部で、野生のスチールヘッドのリリースに苦戦するジェフ・ヒックマン。写真:Jeremy Koreski

魚はボートの底で輝く銀色からくすんだグレーに変色していく。ヒックマンは再びオールを取り、次のトロ場を、願わくは野生の魚を求めて岸を凝視する。「放流魚が嫌いなわけじゃないけど」少し釈然としないように言う。「こういう漁が長く続くのを見たいだけだよ。孵化場は長期的問題へのほんの一時的な絆創膏だよ。孵化場は150年前からここらにあるけれど、まだ漁の危機は去らない。孵化場が漁民を救うつもりだったとしたら、もうそうなっているはずだ。」最近、オレゴン魚類野生生物局は、ネハレム川ノースフォークで、親魚放流計画を開始した。この方法では、野生魚のペアを川から捕獲し、魚卵と魚精を採取し、受精卵を孵化槽で孵化させ、飼育し、再び川へ放流する。「この冬からノースフォークの孵化場は、親になる天然魚を探し始めたよ。これまでの孵化計画が崩壊し始めたらしい。まだ親魚の採取を開始したばかりだけれど、市民の意見も科学もあったものじゃない。この魚が遡上に向けて何を捕るかを知らないのさ。」

この実験は上手くいかなかった。産卵期の野生のスチールヘッド14組を川で捕獲し、4万2,000匹のスモルト(海水への適応が完了した稚魚)を作った。しかし、それらの養殖スモルトのうち3万匹が、フラボバクテリウム・サイクロフィラム(Flavobacterium psychrophilum)という別名細菌性冷水病と呼ばれる養殖魚の病気で死んだ。「そっとしておけばいいのさ。そうすれば野生の魚は自然と戻ってくる。それが野生のスチールヘッドだ。やつらは何でもできる。」

沿岸の短く荒くれた川で、再び長くすばらしい1日を過ごすと、あの暖かいキッチンがまた出迎えてくれる。ビールが注がれ、魚が切り身にされ、オリィが再び父さんに大はしゃぎする。ラップを踏んで、あり余るエネルギーをいくらか発散した後、ヒックマンと息子はニンジン・スティックとジュースの前に腰を下ろす。ほかの子どもと違ってオリィは死んだ放流魚にまったく興味を示さない。この年齢にして、すでにたくさん見てきたからだ。ヒックマンは息子を抱きしめ、特に意味もなく肩にまとわりつかせている。「今が転換期だよ。未来の世代、自分の子どもやその子どものために、ぼくたちには守る責任がある、それは」少し間を置いてから、彼は言った。「今しくじれば、ずっとそのままだからさ。」

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