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ダグ・トンプキンス(右)と、セロ・デ・ラ・パスに登る前のシーカヤックの旅にて。1989年、パタゴニア、チリ Photo : Rick Ridgeway
ダグ・トンプキンス(右)と、セロ・デ・ラ・パスに登る前のシーカヤックの旅にて。1989年、パタゴニア、チリ Photo : Rick Ridgeway

正しく食べる

By イヴォン・シュイナード   |   2020/11/11 2020年11月11日

このエッセイは『パタゴニア プロビジョンズ ジャーナル 2020』 に掲載されたものです。

16歳の頃、ひとつだけ確信していたことがある。それは、野生の地で素晴らしい冒険をしながら人生を送りたい、ということだ。そして、それを「安全な」食物や都市近郊の衛生基準を満たす水がないという理由で尻込みしたくはなかった。その頃、私はしょっちゅうメキシコでサーフィンをしていた。当時、メキシコを訪れるほぼすべての人が体調を崩し、旅行者は果物や野菜を避け、生水は絶対に飲むなと忠告されていた。もちろん私は手に入れたすべての果物や野菜を食べ、道端の怪しげな屋台のシーフードは言うまでもなく、水道水もためらわずに飲んだ。そして当然、具合が悪くなった。避けがたい痛みに襲われたときは、一般的に処方される抗生物質の代わりに、焚き火で残った木炭と塩を混ぜた水道水を飲んで胃を癒やした。そうやって私は生き延びた。その経験はどれほどひどかったって?30歳以上の人にはおすすめしない、とだけ言っておこう。

当時は腸内微生物や免疫システムについて何も知らなかったが、地元の人たちが気にすることなく食事をし、健康を維持していることは分かっていた。つまり、メキシコの食べ物や水に本質的な問題はなく、むしろ商業的に生産された食品や塩素処理された水を習慣的に摂取してきたアメリカ人の消化器官が、自然に発生する微生物に対する耐性を鍛えていなかったのだ。覚えておいてほしい、当時全盛だった化学企業によって推し進められた「化学を通してより良い生活を」という価値観が今なお受け継がれていることを。

焼却炉を片付け、そこに住み、ティトン山脈でひと夏を過ごした。1958年、ワイオミング州ジャクソン Photo : Lorraine Bonney
焼却炉を片付け、そこに住み、ティトン山脈でひと夏を過ごした。1958年、ワイオミング州ジャクソン Photo : Lorraine Bonney

今日、我々はより多くのことを知っている。我々が学んでいることは、大部分を工業型農業製品に頼って生きている世界にとって、憂慮すべき悪い知らせである。工業型農業は気候変動の最大の要因のひとつとなっているだけでなく、より個人的なレベルでは、食物から必須栄養素を奪うと同時に、風味も奪っている。さらに悪いことに、単作の食料生産と化学農薬への依存は、自然な腸内微生物の多様性を低下させる可能性があり、その結果我々は、さまざまな健康問題の影響を受けやすくなる。パタゴニア プロビジョンズの目標は、これらの懸念を共有する農家や牧場主、漁師、その他の食品生産者をサポートすることだ。このジャーナルでは、我々自身と故郷である地球の両方を、枯渇させるのではなく、再生させる食品を生産するために行われている魅力的かつ美味しいいくつかの取り組みを取り上げる。

リズ・カーライルは、再生型農法を通して土壌の質を高め、気候変動と戦うモンタナ州の農家のボブ・クインと、多年生穀物と窒素を固定化するマメ科植物が人間と環境の双方に与える利点に重点を置いた研究を行う〈ランド・インスティテュート〉のティム・クルーズについて紹介する。

シェフのダン・バーバーは、主要な野菜の種子栽培農家たちと対談し、土壌の健康と栄養価の向上、そして風味の関係について示す。

私の友人であるダン・オブライエンは、厳しい吹雪が牧場を襲ったときのことを語る。近隣では10万頭もの牛が死んだが、グレートプレーンズの気候に生まれつき順応していたダンのバッファローは生き延びたのだ。

エムラン・メイヤー博士は、腸内微生物の重要性を解説し、人体の内部生態系と地球の生態系の間にある重要なつながりを証明する。腸にとって良いものは、地球にとっても良いことがお分かりいただけるだろう。

リサ・アベンドはスペインのガリシア州の海岸へと我々をいざなう。そこでは、責任ある漁業と養殖に対する先駆的な取り組みによって150年の歴史を誇る家族経営を救い、さらに市場で最高品質のシーフードを生産している。

これらのストーリーは多くの重要なテーマを共有している。1つ目は、現代の産業型のフードシステムは破綻しているということだ。

収穫量を最大化するため、数十年にわたる耕起、化学肥料、農薬によって有機物や微生物が枯渇した土壌で育てられた現代の食物は、その栄養価を失っている。『Journal of the American College of Nutrition』に掲載された研究で、43種類の作物の栄養素を1950年と1999年で比較したところ、現代の野菜がたんぱく質、カルシウム、ビタミンB2、鉄、ビタミンCなどの主要な栄養素の「信頼性のある減少」を実証した。我々も、放牧されたバッファローと肥育場で飼養されたバッファローや牛を比較し、同様の結果が得られた。言い換えれば、今夜出される食事は、50年前に両親や祖父母が取っていたものと同じものであっても、栄養価ははるかに低いと考えられる。

証拠は次々と挙がっている。『Mother Earth News』が実施した調査では、種子や昆虫、ミミズ、植物などさまざまなものを食べる放し飼いのニワトリの卵は、市販されている従来の卵よりもコレステロールと飽和脂肪が3分の1少なく、オメガ3脂肪酸は2倍、ビタミンE、ベータカロチン、ビタミンDは3倍だった。ウイルスの大発生により世界中でミツバチが死んでいる理由のひとつに、我々が食べている換金作物を摂取したミツバチの免疫システムが弱体化しているという説もある。恐ろしい「炭鉱のカナリア」のシナリオだ。

工業的な食料生産で地球の大部分を台無しにした今、我々は地上で犯したすべての過ちを海に持ち込もうとしている。網で囲んだサケの養殖場では、化学殺菌剤や糞便、寄生虫、ウイルスが公共の水域に自由に流れ出すのを放置するだけでなく、陸上の飼育場と同様に低栄養、高化学物質の食品が生産されている。さらに悪いことに、我々が食べるべき食物連鎖の下位にいる小さな魚が、家畜化されたこれらの養殖魚の餌として大量に利用されている。その結果、良質な食物の代わりに我々に残されたのは、ホルモン剤や薬剤が投与された風味のない、栄養価に乏しい代替品だ。

ダン・バーバーや他のシェフたちが証言するもう1つの共通のテーマは、アグリビジネス業界がスピード、効率、サイズに重点を置いているために、食物本来の強い風味を失ってしまったということだ。食料品店に並んでいるこぶし大のイチゴは、発泡スチロール製の緩衝材と同じような味しかしない。また、現代のニワトリは約40日で市場に出せる大きさに成長する。非常に短時間で多くのニワトリを生産できるが、ケージに閉じ込められ、市販の餌を与えられた鶏肉は味がなく、水っぽい。これに対し、私は以前、有機土壌で栽培され、二度の厳しい霜を耐え抜くまで収穫されなかったニンジンを食べたことがあるのだが、深みがあり、濃厚なその味にとても驚いた。ぜひ、ダン・オブライエンが放し飼いにしているバッファローの、その餌となっている多様な在来植物から得られる豊かで絶妙な風味を、肥育場で育てられた風味がない不味いバッファローや牛の肉と比べてみてほしい。風味豊かな食品の方が、栄養価もはるかに高いとうことは当然だ。マイケル・ポーランが言うように「我々は我々が食べたものでできている」のだ。

食料が少なくなり、何よりも切望していたのがパンだった。焼きたてのパンを缶詰のヨーロピアンバターと一緒に!1968年、フィッツ・ロイのベースキャンプ Photo : Chris Jones
食料が少なくなり、何よりも切望していたのがパンだった。焼きたてのパンを缶詰のヨーロピアンバターと一緒に!1968年、フィッツ・ロイのベースキャンプ Photo : Chris Jones

最後に、このジャーナルに掲載している記事が提示することは、新しい食料の生産方法、つまり人間と地球にとってより良い方法に目を向けると、多くの場合、その解決策は昔ながらのやり方であるということだ。我々は、土壌の健康を築き、土地の侵食を止める古代の多年生穀物を探す。土地固有の家畜を選んで自由に歩き回らせ、そこでともに進化してきた在来の草を食べさせて健康を増進させる。数百年も前から行われてきた釣り針と糸のみを用いた漁法で元来豊富な種であるサバを捕獲することで、個体数を健全に保ち、混獲を防ぐ。

農業、牧畜、漁業、水産養殖……よく考えると、これらの言葉はそれぞれ正反対な性質を表している。農業とは、化学肥料や農薬にまみれた10,000エーカーの遺伝子組み換えトウモロコシの単作を指すこともあれば、多年生穀物、被覆作物、堆肥を使用したリジェネラティブ・オーガニック農業を指すこともある。牧畜は、何千もの動物が自らの糞尿の中に閉じ込められた工業的畜産を指すこともあれば、草原を復元するバッファローの放牧を指すこともある。漁業は、大量の混獲魚を廃棄しながら無差別に海底をこそぎ取る底引き網漁を指すこともあれば、野生魚の個体群の再構築に役立つ、古来の選択的収穫を行う漁法を指すこともある。水産養殖とは、汚染を引き起こし、化学物質を大量に消費するサケの養殖場を指すこともあれば、実際に水質を改善するムール貝をロープを使って養殖することを指すこともある。いずれの場合も、私は後者の定義を選ぶ。これらの選択は、味や栄養価だけでなく、我々の生存にも関わることなのだ。

家庭菜園をはじめた当初、我が家の庭にはミミズがいなかった。その理由が分からず、有機堆肥を大量にまき、輪作を行い、定期的に水やりをしたが、それでもミミズは出てこなかった。その後ふとひらめいて、市が加えている塩素を除去するために庭のホースにフィルターを取り付けた。すると数か月のうちに、庭にミミズが姿を見せはじめ、フィルターを使いつづけることで、その数は驚くべきものになった。

必ずしも人に勧めることではないが、個人的に私は、産卵を終えて腐りかけたサケでいっぱいの川を除いて、釣りをする川の水をそのまま飲む。メキシコを旅していた10代の頃から、私は免疫力と今では腸内微生物と呼ばれているものの多様性を築きつづけてきた。アフガニスタンやパキスタンやインドのバザールや青空市場で食事を取り、発酵したヤクのミルク、昆虫、エビの頭、カニの内臓、あらゆる種類の生のシーフード、さらに鮮度のレベルすら特定できないさまざまな肉も食べてきた。ほとんどの場合、そのすべてを美味しくいただいた。私は釣りをする川の水は喜んで飲むが、なるべく塩素入りの水道水は飲まないようにしている。

進むべき道はかなり明確だ。メイヤー博士が思い出させてくれるように、我々人間にとって良いものは、地球にとっても良いものだ。両者を救うための最善策は、食料の生産方法を変えることだ。環境を再生して、生物多様性を促進し、最も多くの栄養を提供する食物は同じであることを我々は知っている。そして、少なくとも私にとって、何よりも良い点は、それらが最も素晴らしい風味を持つ食物でもあるということだ。なんと良い知らせだろう。さあ、正しく食べよう。

2020年1月
カリフォルニア州ベンチュラ

Photo : Amy Kumler
Photo : Amy Kumler

パタゴニア プロビジョンズの新しいジャーナルが完成しました。私たち自身と故郷である地球の両方を、枯渇させるのではなく、再生させる食品を生産するために行われている魅力的かつ美味しいいくつかの取り組みを紹介しています。そして、それらの新しい食料の生産方法、つまり人間と地球にとってより良い解決策とは、多くの場合、昔ながらのやり方であるということを提示しています。

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