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愛があれば

コリン・ワイズマン  /  2021年1月12日  /  読み終えるまで7分  /  スノー, アクティビズム

夜明け前に出発し、日の出には森林限界に至る。地平線に晴天を仰ぎ、マリーとカエルは、ブリティッシュコロンビア州コースト山地の山小屋泊でバックカントリーへ。Photo: Colin Wiseman

マリー=フランス・ロイは、常に環境の代弁者だったわけではない。

世界トップクラスのスノーボーダーになった2000年代、世界を飛び歩く自分のライフスタイルの偽善に後ろめたさがあった。自分を山へ駆り立てながらも、世間の目にとまるリスクを避けていた。黙っていたのは、自然のために立ち上がることに対する反動を恐れたからだ。彼女自身が環境に与えている負荷を、遠方の地元民は動画クリップを通じて容易に測れるだろう。しかしこの10年間に、彼女は声を上げることを知った。それによって見知らぬ人、友人、さらには家族からさえも、批判を受けるかもしれないと分かっていても。

「この数年で山でのリスク耐性がかなり低下したわ。サラサラの雪を長時間滑りたいし、グループのみんなにも楽しんでほしいと思うけど、時々無理をしてしまう。そして自問するの『この喜びはリスクに見合う価値があるのか』と。」

彼女は環境保護についても同じ疑問を投げかけた。

愛があれば

ブリティッシュコロンビア州テラス付近で、良き相棒のリア・エバンスと共にひどい嵐に遭遇しても、マリーは「地の塩」のごとき笑顔。Photo: Mattias Fredriksson

「子どもの頃から、自然界を保護することが自分たち世代の最大の課題になると分かっていたわ。大学では環境学を専攻したけど、その頃にプロのスノーボーダーとして活動を始めたの。2010年に首を痛めた時、休養中に考える時間を持てた。私たちは山での体験を通じて自分自身のために多くを手に入れるのだから、山を守るために進んで多少のリスクを取ることは、有意義なことだと気付いたのよ。」

その時から、マリーにとって環境保護は必然になった。実際、沈黙を続けるリスクこそ、彼女がいま最も恐れていることだ。

愛があれば

2016年、「Full Moon」(2年間をかけて撮影された、過去から現在までのスポーツ史上、最も伝説的な女性ボーダーのドキュメンタリー・フィルム)の撮影中に、マリーはアラスカ州ヘインズをトリプルショットで滑り抜ける。Photo: Ben Girardi

ケベック州の農村で育ったマリーは、ほとんどの時間を野外で過ごした。自宅裏の森の水は「生命で満ちあふれ」、コンクリートの都会のゴミであふれる側溝とは違うことに気付いた。「それは死んだみたいによどんでいて、すべては人間の開発のせいだった。たぶん5歳くらいだったけど、自分たちは自然とうまく調和していないことを知ったわ。」

「プロのスノーボーダーとして活動し始めた頃、私には何かもっと目的意識を感じられることが必要だったわ。ケガをしてから、だれも完璧じゃないと分かって、環境を救うためには政治改革を促さなきゃいけないと思ったの。罪悪感を棄て、社会として行動を起こすべきだとね。」

マリーにとって「行動を起こす」とは、教育を通じて、あるいは問題の原因に取り組む人々のコミュニティに参加することで、力を付けることだ。彼女にとって、そうした人々を受け入れることは、自分の日常的行動を見直すだけでなく、雑音を無視して持続的変化を求めることにもなる。

「夕食の席で『エコ』をジョークのネタにされたり、知らない人から『なんでまだ車に乗っているの?』とメールがきたり、常に非難されるわ。表立って何かと戦うと、たくさん反感を買うの。」

それでもマリーは自分の知名度を利用して声を上げようと決心した。それが環境に配慮したスノーボーディングがテーマの映画「The Little Things」(2014年)の制作・公開である。そして2015年にProtect Our Winters(POW)とTransWorld SNOWboardingより「気候アクティビスト賞」を授与された。批判は、もちろんあった。

「友人でもある有名なスノーボード写真家が、受賞についてすぐにコメントを投稿したわ。『エコのフリはやめよう』と。この批判を見た人々は、環境のために自ら声を上げることは賢いやり方だろうかと揺らぐでしょうね。ポジティブなメッセージを送ろうとして、こんなふうに友だちに自分の人格を疑問視されるなんて、傷ついたわ。」

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自分の家のように安全で、やさしい存在になろう。ブリティッシュコロンビア州ユクルーレットに近い40平方メートル弱のコブハウスの自宅で、マリーは「Westcoast Triple Plank」のアイデアを練る。それは彼女が毎年5月に主催するサーフボード、スケートボード、スノーボードを通じた募金活動で、収益金はセントラル・ウエストコースト森林協会に寄付される。Photo: Graeme Owsianski

こうした攻撃はマリーの人生で日常茶飯事だが、それでも彼女は保護活動を重ねてきた。私生活でも、移動を減らし、手の込んだ堆肥システムでコブハウスを建て、太陽光パネルやバイオガス処理のような装置を設置するなど策を講じ、さらにPOWのような有効な組織にも携わっている(2018年の設立以来、マリーはPOWカナダの理事である)。けれどそれはマリーの個人的関係に緊張をもたらした。

最近、マリーは継続中の保護活動をめぐり家族の1人と仲たがいをした。マリーが変化の代弁者として活動し続けるのは、自分の人生を、どれほど地球に配慮しているかを基準に評価したいからだ。

「何かをしなければならない」とマリーは言う。「こんなふうに考えるの。死の床に臨んで私は何を一番誇りに思うだろうって。どれだけ稼いだかじゃない。それは私個人のことでは全然なくて、人や、世界や、世界に調和をもたらすものに役立つために、自分がどれだけ手を尽くしたかでしょうね。」

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このボスはなかなかのやり手である。2019年のWestcoast Triple Plankの終盤、各地で3日間のイベントを指揮した疲れにもかかわらず、マリーはその合間に北西に向かって敬礼しながらフィニッシュラインのジャンプを決める。ブリティッシュコロンビア州ワシントン山 Photo: Colin Wiseman

だれもが保護活動に注力するほど自由な時間に恵まれているわけでないことは分かっている。それでもだれでも声を上げることはできるとマリーは思う。本当に変化するには、個人レベルの行動ではなく、社会全体を通じた関与が必要だ。そしてそれによって個人も報われるだろうと。

「集会に行き、同じ志の人々と活動すれば、つながりやコミュニティができ、いっしょに戦っているみんなで変化の声になれるって分かる」とマリーは言う。「それが政治家や企業に社会の仕組みを変えるようにプレッシャーをかけるために私たちがすべきこと。アクティビストの正しいあり方は1つじゃない。ひとりひとりが心地よいレベルを見つけて、自分の人生に合ったやり方で行動しなければいけない。山もそうだけど、適当なパートナーがいなくても、力や支えになってくれる人は見つかる。障害や失望や批判はあるけれど、多少のリスクは仕方ないんじゃないかな。プライベートでもこれまで何回か、山の中で引き返して、もう1度トライしなければならなかったことがあったでしょう?」

愛があれば

生息環境の回復は楽しめる。2019年のWestcoast Triple Plankで、マリーは「Yuułuʔiłʔatḥ」(ユクルーレット先住民)の伝統的領地の1日ボランティア・プロジェクトを指揮し、組織的なコミュニティ活動の喜びを、数百人の参加者に伝えた。ブリティッシュコロンビア州ユクルーレット  Photo: Colin Wiseman

2017年、マリーは、地元ブリティッシュコロンビア州バンクーバー島で毎年恒例のイベントを自ら企画することで、新たに地域の声を起こす活動を始めた。それがWestcoast Triple Plankである。3日間にわたるサーフボード、スケートボード、スノーボードの春季集会だが、午後はこのイベントの主要な後援者であるセントラル・ウエストコースト森林協会のボランティアとして土いじりをする。マリーはアウトドア・スポーツと環境を愛することのつながりに気付き、組織的な活動への踏み台として「包括性」を提示した。それはマリーが自身の人生で必要と気付いたバランスを表している。昨年の冬、マリーは冬のほとんどをブリティッシュコロンビア州コースト山地の自宅付近で、できるかぎりスノーボードをして過ごした。そこには何の罪悪感もなかった。

「山にいると、自分は何を気にしていたのだろうと思う。多くを与えてくれるこの場所を守るために、私は何かをしなきゃいけない。気象に何が起きているかを知りながら、何もしないことこそ最大のリスクだと、山は思い出させてくれるわ。スノーボードは私に情熱を与えてくれるし、本当にスノーボードが好きだから、自然を守りたくなるの。」

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そう、マリーは山と同じくらいの時間を海や河川に費やしている。ブリティッシュコロンビア州コースト山地でのクラシックなトップターン。Photo: Colin Wiseman

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