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大切な物以上のインナーグローブ

玉井 太朗  /  2021年1月30日  /  読み終えるまで4分  /  Worn Wear, スノー

Photo : GENTEMSTICK

できる限り物を持たず、物に頼らず生きていきたい。とは言え人間は道具を操る生き物で、生活の中にはありとあらゆる道具が存在し、良い道具が生活を豊かにし、道具そのものが豊かな生活の証ともなる。一言に豊かさと言っても人それぞれの価値観がある。

都会のハイライフが豊かさだという者もいるだろうが、汗だくで泥まみれで高みを目指して命がけで登り詰めた山の頂に立った時や、腹の底から震えが来る大きな波に対峙して、心臓が飛び出しそうな緊張感の中やっとの思いでピークに近づき、大海原からやってくるうねりの頂での一瞬の中に垣間見る景観や身体の細胞の奥深くに染み入る感覚が僕らにとっての豊かさだ。昨今は世界最高峰のチョモランマでさえ金がものをいう世界だが、それでも「気」がなければ登頂は叶わない。話は逸れたがそういった高みを目指す行いの中から、道具の進化が人間のレベルを押し上げる。この事実は人間の歴史が始まって以来、長い間続いている。

僕はブーツとグローブは若い頃からスポンサーを付けずにいた。その理由は、ボード以外で最も重要な道具がブーツとグローブだと考えてきたからだ。ブーツは言わずもがなだが、さてグローブはと言うと、スキーのようにストックという道具を持たないスノーボードの場合、掌がそのままジャイロの役目を果たすと考えているからだ。斜面に合わせて掌を動かす。滑りはスロープの面に合わせて行く事が重要で、刻々と変わる斜面に合わせるために掌が大いに役立つのだ。

大切な物以上のインナーグローブ

写真:原田 賢能

寒さや衝撃から手を守るのがスノーボード用グローブの役目だが、1980年代、僕がパタゴニアに注目しはじめ、口うるさいユーザーになった時点から今も使い続けているものがある。それは、ペットボトルから作ったレトロパイルを採用したインナーグローブだ。

薄手のナイロン生地を採用し立体裁断でできた軽量なシェルグローブと併せてこのインナーグローブを使用していたが、シェルはとうの昔にボロボロになってどこかにいってしまった。特に気に入ったのがこのインナーグローブでだった。はじめのモデルはパイルが手の内側に向いていたが、次のモデルは外側向きに改良され濡れた手の出し入れが容易になった。

当時はグローブの立体裁断も珍しかったが、超軽量で、何よりも温かかった。ただこのグローブは完璧ではなかった。もちろんスノーボード向けに作られているわけでは無いので当たり前のことだが、僕が注目した理由は完璧なまでにシンプルだった事だ。より多くの機能を備えた物が「良いもの」だとされる風潮が既にこの時代にもあった。その風潮の中で、このデザインは異端だった。僕はこのグローブを使ってみて、カスタマイズの為のベースになるデザインを元にスノーボードにマッチする機能を持たせる事でより完璧に近いものが出来ると考えた。このようなものづくりの姿勢はパタゴニアの他の製品にも貫かれ、その可能性を感じたからだ。

時代とともに求められるものが変わってくるのは、技術の進歩やライディングの進歩からすれば当然だが、世界のどの分野でもいえている事だが物事はより複雑だ。人間が進化して行く過程で今まで知らなかったことを知る事によって、そう単純では無い事が分かってきたからだ。温かければ良い、風雪風雨に強ければ良いわけでは無い。自分たちがフィールドに出る事やその道具を作る過程、ゴミになる過程で環境問題が発生することもわかってきた。人間は、精神にも身体にも環境にも多くの負荷をかけて生きている。でもそれも進化の過程だとも言える。

大切な物以上のインナーグローブ

Photo : GENTEMSTICK

「一生を棒にふって人生に関与せよ」
父が僕の中学入学時に贈ってくれた高村光太郎の詩の一節だ。
どんなに難しかろうが、大変だったとしても、とにかく人間と関わり、仕事に没頭せよ。
この言葉が自分の人生に大きく影響し、ものづくりに対する姿勢しかり、関わるものの隅々にまで想いと意志を入れたい。
なんでもよかったら、本当になんでもよくなる。そうなると魂も残らない、愛も残らない。
物は所詮、物かもしれないが少なくとも僕は核心の関わって行く道を選ぶ。

僕にとって30年使って来たインナーグローブはいまだ大切な物以上の物なのだ。

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