クリーネストライン


最終的に海に流出することを防ぐため、マイクロファイバーを捕えるようデザインされたフィルターのテストを行うケイティ・ジョンソン。Photo : Tim Davis
最終的に海に流出することを防ぐため、マイクロファイバーを捕えるようデザインされたフィルターのテストを行うケイティ・ジョンソン。Photo : Tim Davis

科学者に任せる

By マダリナ・プレダ   |   2021/01/08 2021年1月8日

カリフォルニア州ベンチュラにあるパタゴニアの素材ラボには20台の機械があります。それぞれが異なる要素のテストに使われますが、そのすべての目標はひとつ。素材がどのように機能し、なぜ、そしてどう改善できるかを探ることです。撥水性を試す機械や、素材が毛玉になったり擦り切れたりする速度を計測する機械や、通気性をテストするために生地から空気を吸い込む機械があります。多くの機械にはニックネームがあり、たとえばUPF(紫外線防止指数)をテストする機械は、映画『塔の上のラプンツェル』のカメレオンに似ていることから「パスカル」と呼ばれています。

ラボの入り口の重たいドアには、下向きの扇風機が付いた「エアカーテン」と呼ばれる空調設備があり、内部はつねに気温摂氏21度、相対湿度65%に保たれています。ドアを通り抜けるとパスカルの向かいで、素材性能のエンジニアのケイティ・ジョンソンが1枚の生地を4つの長方形に切り分けています。その生地は1枚ずつ、ウォーターボトルほどの大きさのステンレス鋼製の容器に入れられます。

ケイティは生地と一緒にBB弾サイズのステンレス鋼の玉をいくつか入れ、それぞれの容器を遠心性の洗浄機に挿入し、洗浄サイクルを40分に設定します。機械が唸り出すと、鋼の玉が生地にぶつかって摩耗に似た状況を作り出し、ほとばしる水と小型のスティールパンを叩いたような音が不協和音のシンフォニーを奏でます。通常この方法は耐変色性(素材の色褪せ)のテストに使われますが、ケイティはウール/ポリエステル混紡素材の繊維の抜け具合のテストに使っています。洗浄サイクルが終わると、それぞれの生地から抜け落ちた繊維の量を測定し、この素材と他の素材を確実に比較できるのに十分なデータを収集するまで、同じテストを繰りかえします。

「ザ・フォージ」の研究開発チームにとってはこれら一反が根本にある。Photo: Kyle Sparks
「ザ・フォージ」の研究開発チームにとってはこれら一反が根本にある。Photo: Kyle Sparks

ケイティはパタゴニアで働く20人以上の科学者と技術者のうちの1人で、データを用いてパタゴニア製品に使う素材とテクノロジーの開発、テスト、改良を行っています。私たちは、科学的根拠に基づいて、パタゴニアのテクニカルギア用に最高の機能を備えた素材を探し、またエコロジカル・フットプリントの削減努力の情報を与えます。データを利用するのは、みずからの行動を改めるためだけでなく、全世界の炭素排出量の10%を占め、気候危機に加担している衣料品産業全体を改善する解決策を見つけるためでもあります。私たちは2025年までにパタゴニアのビジネスのすべてをカーボンニュートラルにするという、野心的ながらも達成可能な目標を立てています。

これにはパタゴニアのサプライチェーンも含まれます。現在パタゴニアの炭素排出量の97%はサプライチェーンが占め、その大半が原料に由来します。つまりカーボンニュートラルを目指すにあたり、その最前線に立っているのはパタゴニアの材料科学者で、この取り組みは、生命すべての起源と同じように、化学がはじまりです。「化学には『遺憾な代用』という用語があります」と言うのは、パタゴニアの素材研究開発チームのエリッサ・フォスター。「ある化学物質が環境に有害、または人間に有毒で使用禁止となり、その代用品が使われることがあります」新たな化学物質が最初の化学物質ほど有害ではないことが確証される厳格なテストがなされないと、私たちは問題にぶつかります。たとえば、製造会社はレシートやペットボトルに使われるビスフェノールA(BPA)をビスフェノールFやSに置き換えましたが、のちの研究でそれらはビスフェノールAと同様の悪影響を人体にもたらしかねないことが明らかになっています。「それが『遺憾な代用』とみなされる例です。パタゴニアではそんなことは起こってほしくありません」とエリッサは語ります。

そのような後悔をしないよう、エリッサたち科学者スタッフは製品の生涯におけるさまざまなデータを収集することからはじめ、各素材の炭素や水のフットプリント、製造過程で発生する環境被害などを測定します。それらの情報は改善の必要性や、素材が人や地球に及ぼす影響を把握するのに役立ちます。ある素材の最大のフットプリントが製織工程に起因していれば、製織工場で使われるエネルギー源の調査が必須となり、工場が化石燃料を使用していれば、再生可能なエネルギーへの切り替えについてサプライヤーと話し合う必要があります。

生地やインサレーションのロフトを測定するための基準となる重りを、パタゴニアの科学者たちは引き出しの中にあったガラクタから創作。Photo :  Tim Davis
生地やインサレーションのロフトを測定するための基準となる重りを、パタゴニアの科学者たちは引き出しの中にあったガラクタから創作。Photo : Tim Davis

データ収集には非常に多くの比較要素と複雑な計算が関係します。たとえば、消費者から回収されたリサイクル・ウールと羽のように軽いマイクロポリエステルで作られるパタゴニアのウーリエステル・フリース素材を見てみましょう。

イタリアにあるパタゴニアのリサイクル・ウールのサプライヤーからこの素材を受け取ったエリッサのチームは、ウーリエステルのカーボンフットプリントを、バージン・ポリエステル・フリース、リサイクル・ポリエステル・フリース、コットン/ウール混紡フリースのそれぞれと比較しました。「ウーリエステルの勝ちでした」とエリッサは言います。私たちが使用するリサイクル天然繊維は、一般にフットプリントに最も影響する繊維の栽培過程が省かれるため、それは大幅に少なくなります。

パタゴニアの環境科学者が影響のデータを収集し、製品デザイナーに特定の製品のカーボンフットプリントを最小限に抑える素材について助言する一方で、パタゴニアの材料科学者は素材の品質を立証し、それが期待どおりに機能することを確かめるため、ケイティのチームが率先するようなテストを実施します。またパタゴニアには未来の素材の開発に取り組む素材革新チームもあり、パタゴニアのウェアに使用されるすべての素材に適応する、実現可能な最良の進化を探求しています。こうした研究には長い時間を費やすだけでなく、あるものを見てそれを別のものに想像する能力が必要です。

パタゴニアの帽子のつばに採用されている、漁網をリサイクルして作られた高密度ポリエチレン(HDPE)素材は、製造に5年を要しました。2013年、カリフォルニアを拠点とする小さな会社だったブレオは、チリ沿岸で廃棄された漁網を回収し、スケートボードの板とサングラスのフレームを作りはじめました。その1年後、パタゴニアの社内投資部門である「ティンシェッド・ベンチャーズ」は、この漁網から衣料品業界で使用できる素材の製造方法を探すため、ブレオに資金援助を申し出ました。「私たちにはより大きな可能性が見えていて、ブレオ社もそれに気づいていました」と、パタゴニアの素材革新チームのロブ・ノーターは言います。

ブレオが漁網を糸に変換させることに成功すれば、それを製織して布地にすることができ、アパレル市場で使用可能な製品となります。しかし廃棄物から物を作り出すことは容易ではありません。廃棄された漁網を洗浄し、リサイクルして新たな製品に変える最善策を見極めなければなりません。「採用する素材は素材チームの判断で決まります」とロブは言います。「潜在的にどれだけ海洋汚染を削減できるか、その過程でどれくらいのカーボンフットプリントが発生するかを認識しなければなりません」だから正確な数値が必要となるのです。

ウェアが必ず直面するであろう摩耗やその他の酷使を模擬するために、試作品の素材はBB弾サイズのステンレス鋼の玉と一緒に40分間の洗浄サイクルにかけられる。かなりの騒音をともなうものの、その結果に疑いの余地はない。Photo: Tim Davis
ウェアが必ず直面するであろう摩耗やその他の酷使を模擬するために、試作品の素材はBB弾サイズのステンレス鋼の玉と一緒に40分間の洗浄サイクルにかけられる。かなりの騒音をともなうものの、その結果に疑いの余地はない。Photo: Tim Davis

エリッサのチームは論文審査のある科学専門誌に、マイクロファイバー汚染に関する調査結果を発表しました。他の科学者がこの取り組みから学び、今後の足場として利用するためです。一方、ティンシェッド・ベンチャーズの基金はメタンガスをバクテリアに与えて生分解性プラスチックを作り出す技術に投資し、やがてはそれが新しい原料として石油由来のポリエステル繊維に置き換えられることを期待しています。ポリエステルは、衣類の原料として使われるその他すべての繊維を、使用総量において上回るからです。

パタゴニアの環境助成金プログラムは海洋環境においてプラスチックがどのように作用するのかを解明できるよう、〈サンフランシスコ・エスチュアリー・インスティテュート〉のプラスチック汚染調査に資金提供もしています。科学だけでは素材の問題点を解決することはできませんが、科学は持続可能性への道のりをより明確にしてくれるため、私たちは自信をもってリサイクル素材への移行を支援しています。ライフサイクル評価で収集したデータは、リサイクル繊維の使用により、炭素排出量が44〜80パーセント削減できることを示しています。何らかの代償はそこにもつねにあるでしょう。パタゴニアの科学者とデザイナーたちは、それぞれの素材が最大の効果を発揮する最善のバランスを見つけなければなりません。

私たちは、製造するすべての製品が地球に何らかの負担を与える、という事実を認識し、この責任を真摯に受け止めます。子どもたちの世代に、ただ生き延びるだけでなく、のびのびと生育できる驚きに満ちた美しい世界を残したいからです。何年も経ってから過去を振りかえり、もっとできたはずだ、よりよくできたはずだ、と後悔することのないように。科学によって、私たちはその任務を忠実に遂行しつづけることができます。

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