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任務が同調になるとき

ケリー・オーバリー  /  2021年2月6日  /  読み終えるまで8分  /  アクティビズム

晩夏、ポーキュパイン・カリブーの群れは越冬のためにカナダ北西部へと移動する。群れは地球上の哺乳類としては最長の土地移動ルートをもち、越冬場所と北極圏野生生物保護区の海岸平野にある出産場所のあいだを1年に1,800キロ以上も移動する。グウィッチン族はこの海岸平野を「Iizhik Gwats’an Gwandaii Goodlit(生命がはじまる神聖な場所)」と呼ぶ。何十年にもわたり、グウィッチン族はカリブーとその生活様式を工業開発から守るために闘ってきた。今日その闘いは差し迫る脅威に晒されている。Photo:Keri Oberly

ツンドラ全体に響き渡る音――1発の弾丸ですべてが終わり、カリブーは倒れた。ある晩夏の涼しい朝、ニーツアイ・グウィッチンの先祖の土地で、私は友人で伝統的なハンターのグレゴリー・ギルバートのカリブーの狩猟に同行した(グレゴリーはその後、逝去)。私たちが動物に近寄ると、グレゴリーはグウィッチンの言葉で祈りを捧げた。「Mahsi’ k’eegwaadhat gwinzii neechy’aareehee’aa(神よ、ありがとう。おかげで僕らは良い食事ができる)」 私は柔らかなツンドラに跪き、グレゴリーがその場でカリブーを優雅にさばくのを見た。この象徴的な関係を自分の目で捉えるために、カメラは伏せて。この瞬間が私の任務よりも偉大なものであることは分かった。私はグウィッチンにとって何が脅かされているのかを肌で感じた。
2018年の夏、私はグウィッチン主導による9,000人のグウィッチン族の声をまとめる組織〈グウィッチン・ステアリング・コミッティー〉と共同でおこなう写真のプロジェクトに招待された。この組織はポーキュパイン・カリブー群、食料安全保障、グウィッチンの神聖な土地のために声高に提唱する団体だ。グウィッチン族はポーキュパイン・カリブー群の移動ルートに沿ってつくられた北極圏中の15の村に住む。
グウィッチン族は、彼らにとって「Iizhik Gwats’an Gwandaii Goodlit(生命がはじまる神聖な場所)」として知られる北極圏国立野生生物保護区の海岸平野を守るため、何十年も闘ってきた。旧トランプ政権はこの場所における石油とガス掘削リースの売却と開発を早期認可するための積極的な手段を講じてきた。神聖な土地における資源採掘は取りかえしのつかないことであり、主権国家の許可なしにそれをすることは人権の侵害である。土地への危害はグウィッチンへ族への危害だ。自然は彼らの食料品店であり、薬箱であり、師、そして癒しでもある。カリブー、ムース、魚、ベリーのような伝統的な食物は、冷凍野菜が20ドルもする地方においては不可欠な食料源だ。ギルバートがカリブーを準備するのを目にしたことで、グウィッチンの土地や動物との神聖なつながりを垣間見ることができ、すべての生命がそれに値する尊敬と尊厳をもって扱われるために闘うことへの、純粋な同調者となった。
〈グウィッチン・ステアリング・コミッティー〉の事務局長バーナデット・デミエンティフが、グウィッチンであることの意味についての彼女の考えと、どうすれば同調者になれるのかについての助言をくれた。

「これまで多くの写真家やジャーナリスト、支援者たちが、私たちのストーリーを伝える手助けをしようとやって来ました。彼らはここに来て、必要なものを持ち帰ったあとは、2度と連絡をしてきません。真の同調者なら、広い心と学ぶ志をもって私たちの故郷を訪れるべきです。私たちとつながりをもつための十分な時間を取り、カリブーだけでなく、土地や動物に対する私たちの精神的かつ文化的な関連性を真に理解する。この土地で私たちの家族と過ごし、生活様式を学ぶために十分な時間を取るべきです。声を奪われ、忘れ去られた人びとのストーリーを語るために、創造主が与えてくれた才能を利用してください。そして何度もここへ戻って来てください」

任務が同調になるとき

カリブーの民。「土地の民」として知られるグウィッチン族は、その生活様式を2万年以上にわたってこの土地とポーキュパイン・カリブー群に依存してきた。群れは先住民族の食糧、薬、衣料、住居そして道具となり、彼らの生活様式にとって不可欠だ。気候変動はますますこの群れに影響を及ぼしている。予測しがたい天候のせいで、ヴァシュライ・クーの地元のハンターたちは狩りのために、より危険で費用の嵩むさらに遠方へと旅をしなければならない。地元のハンターでトラッパーのグレゴリー・ギルバートは、カリブーは迷ったような行動をとっていると言う。動物ですら何をしていいのかわからないようだ。
何世紀も前、グウィッチン族はヴァザイ・サット(カリブー・フェンス)を使ってポーキュパイン・カリブーの群れを狩った。これらのフェンスにより、当時遊牧生活を営んでいたグウィッチン族は大量の狩猟物を得ることができただけでなく、群れを追いかけて長い移動ルートを旅することから休息ができるようになった。グウィッチン族は放牧するカリブーに忍び寄り、移動ルートの途上に建てられたフェンスへと追った。一旦カリブーがフェンス内に入ると、ハンターは開口部を遮り、弓と矢で引きかえすカリブーを狩った。残りの群れは柵囲いに追いやられ、ヘラジカの皮紐でできた罠で捕らえられた。ヴァザイ・サットはフランス系カナダ人の毛皮商人がフォート・ユコンに前装式ライフルを持ち込んだ1850年代頃に使われなくなった。しかし一部では1920年代頃まで使われていた。この部分的なヴァザイ・サットの再建は、伝統的な知識を若い世代に教えるための教育プロジェクトの一環として、ヴァシュラジ・クーの青年たちによって作られたもの。晩夏にはポーキュパイン・カリブー群は越冬のためにカナダのノースウエスト準州に移動する。群れは冬の生息地と北極圏野生生物保護区の海岸平野にある出産地のあいだを1,800キロ以上も移動し、地球の土地哺乳物としては最長の移動ルートをもつ。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

ヴァシュラジ・クーの外にある彼の家族のキャビンの横に建てられた見張り台で、動物を探すボブ・ギルバート。何年も前、ボブが朝起きるとキャビンがカリブーに囲まれていた。今日そんな話は聞かない。ヤナギの急成長により、カリブーが川に降りてくるのを妨げているのだ。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

天候の回復を待ちながらカリブーを探して近くの尾根を見張る、伝統的なハンターのグレゴリー・ギルバート。グウィッチン族はアラスカ北東部とカナダの北西部にまたがる15の村に住み、それぞれがポーキュパイン・カリブーの群れの移動ルートに沿ってつくられた。今日、地球温暖化の影響により、群れが通過するのは数村のみ。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

冬のあいだに必要な、冷凍庫を満杯にするカリブーの狩猟を成功させたあと、ヴァシュラジ・クーへと帰途につくグレゴリー・ギルバート、ジュールス・ギルバート、ブレナン・ファース、バイロン・ブルーホース。彼らは心と体、そして魂に栄養をくれる創造主と土地、そして動物につねに感謝を捧げる。カリブーは彼らに食糧を与えてくれるだけでなく、彼らそのものでもある。カリブーは彼らの踊りや歌の一部であり、衣類と道具でもある。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

(左)グレゴリー・ギルバートが狩ったカリブーの枝角の上で、胃壁を乾燥させる。胃壁はグウィッチン族が好む乾燥肉で、カリブーの多くの用途のひとつだ。「これが僕の食料品店だ」と言うのはレイモンド・トリット。彼らの冷凍庫が底をつくようになると、グウィッチン族は零下50℃の天候でも狩りをし、罠をしかける。それほど寒いときはカリブーを野外でさばく際に手を胃のなかに入れて温める、とレイモンドは言う。
(右)グウィッチン族はカリブーの心臓の一部は人間であり、グウィッチンの心臓の一部はカリブーだと信じる。彼ら先住民の運命とカリブーのそれは絡まり合っている、と信じているのだ。太古の物語によれば、カリブーと交信できたグウィッチンの長老が彼らと協定を結んだ。カリブーがグウィッチンを食べさせてくれたら、グウィッチンはカリブーを守ると。何十年ものあいだ、グウィッチンはポーキュパイン・カリブーの群れとみずからの生活様式を保護するため、工業開発と闘っている。彼らは言う。動物は話すことができないのだから、代弁してやらねばならないのだと。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

ヴァシュラジ・クーの自宅で装飾品を作るため、ムースの骨の切断準備をする長老ギデオン・ジェームス。グウィッチンは動物すべてを利用し、何も無駄にしない。カリブーと聖なる土地の保護を声高に提唱するギデオンは、「神聖さを守るとき、我々は動物を守る」と言う。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

アラスカのグウィチャア・ジー(フォート・ユコン)の貯蔵庫で、カリブーの肉を乾燥させるケリー・フィールズ。カリブーはヴァシュラジ・クーの家族が送ってきたもの。今日、ポーキュパイン・カリブー群が移動するのは、グウィッチンの15の村のうち、たった数村のみ。多くの家族がカリブーを見かけなくなった村の親戚や友人にカリブーの肉を送っている。サーモン、ムース、ベリーも同様だ。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

グウィッチャア・ジーの冬のあいだ家族を食べさせるカリブーとムースの肉でいっぱいの冷凍庫。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

ヴァシュラジ・クーのミッドナイト・サン・ネイティブ・ストアの、加工肉でいっぱいの冷凍庫。地元のハンター、ジェラルド・ジョンは、「$30ドル出せば、僕だけのためにステーキを買うこともできるが、家族全員を食べさせる薬莢を一箱買うこともできる」と言う。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

ベリー摘みから一息つき、火のうえで料理したムースのスープを食べるギルバート一家と友人たち。伝統的な食物を料理するときに好まれる方法だ。グウィッチンは子供と孫の未来を心配する。もし北極圏国立野生生物保護区が石油とガス開発に解放されたら、彼らの民族の存在とアイデンティティーそのものを脅かすと信じるからだ。グウィッチンにとって野生は贅沢なものではなく、生活様式そのものなのだ。Photo:Keri Oberly

任務が同調になるとき

トランス・アラスカ・パイプラインはプルドー湾からアラスカのバルディーズへと石油を運ぶ1,280キロのパイプラインだ。アメリカで最も豊かな州のひとつであるアラスカは、州の歳出をたったひとつの産業、石油とガスに依存する。共和党は何十年も北極圏国立野生生物保護区を石油とガス開発に解放しようと提案してきた。その可能性が近づくたびに、それは民主党、あるいはクリントン大統領によって拒否されてきた。2017年、アラスカ州代議員のリサ・マコウスキーは、トランプ元大統領が制定させた税法に北極圏国立野生生物保護区の産業開発への解放を忍びこませた。それ以来、開発を迅速に進めるために積極的な措置が講じられている。Photo:Keri Oberly

これらの写真が撮影されたのは、ニーツァイ・グウィッチン・グウィッチャア・グウィッチンとアラスカのローワー・タナナ・デネ・ピープルの略奪されなかった土地。
グウィッチンの土地擁護者であるジョディ・ポッツは、食料安全保障と神聖な土地を守ることの重要性を示す彼らの努力について、なぜよそ者の私を同調者として受け入れたのかを説明してくれた。私は彼女の許可のもと、彼女の考えを記す。このプロジェクトを正当化するためにではなく、よそ者としての意図、尊敬、協働の重要性を示すためだ。

「私の人生において数々のジャーナリスト、撮影クルー、組織、そして『同調者』たちと取り組んできましたが、あなたが私の子供と私をカリブーの狩猟で追ったときほど肯定的な経験はありませんでした」と彼女は言う。「あなたは鋭い観察力、いたわりと尊敬、そして尊厳を抱きながら耳を貸し、私たちを追ったからです。すべてがおしつけがましくなく、一部だけを抽出することなく」

デミエンティエフとポッツはジャーナリストと地元地域の信頼関係を築くことの重要性にも言及した。先住民の土地で仕事をする写真家は、先住民の声と経験を拡声する必要がある。そのような人は自身や出版社の意図ではなく、地元地域にまつわる仕事だけをすべきだ。先住民族の写真を撮る前に、そしてその写真が出版される前に、つねに許可を乞うべきである。もし地元地域と対話せず、仕事がその地域の助言によってなされたものでなければ、同調者とは呼べない。

グレゴリー・ギルバートとの狩猟場所までの晩夏の2時間のドライブは、軽い雨とグレゴリーとレイモンド・トリットのグウィッチン語の会話のなか、素早く過ぎていった。私は彼らの後ろに座り、複雑ながらも美しいグウィッチン語を聞きながら、この険しい景観が生み出す力に驚嘆し、そこにいられることの特権を深く感じた。

カナダのノースウエスト準州にある冬の出産地への1,800キロの移動ルートのどこでカリブーと交差できるか、グレゴリーは正確に知っていた。彼はこの土地で、力強い伝統的なグウィッチンの家族とともに成長し、自分の子供と孫も同じように育ててきた。その日の狩猟場に到達すると、グレゴリーは銃弾を詰めながら双眼鏡を手渡し、山を指差した。最初、私には紅葉のなかにある静けさだけしか目に入らなかった。それから、土地が動いているのに気づいた。何百頭ものポーキュパイン・カリブーが私たちに向かって移動していた。

その夜私たちが3頭のカリブーを持って村に戻ると、グレゴリーの娘のジュウェルス・ギルバート、パートナーのブレナン・ファース、そして地元のその他のメンバーがムース狩りからの獲物を持って戻っていた。翌日、先住民族のメンバーたちはカリブーとムースを解体した。長老たちは若い世代に異なる部位の適切な切り方と、貯蔵準備をするための知識を伝授した。誰もが高揚し、物語を分かち合い、笑い、火を囲んで調理された新鮮なカリブーとムースのスープを食した。

私は毎年数回、グウィッチンの人びとに会いつづけている。議会指導者のオフィスでのロビー活動やテキサスの〈SAExploration〉本部に10万件のコメントを届け、北極圏で掘削する計画を諦めるよう促すため、またはたんにイベントや結婚式に参加し、釣りキャンプを訪れるために。先住民族はまるで私の家族のようで、彼らはよく、いつアラスカに引っ越して来るのかと尋ねる。私は「保温性のビーチサンダルが発明されたら。年中それを履けるようになったらね」とジョークを飛ばす。

この経験は私を変えただけでなく、私の仕事のやり方をも変えた。私はカリフォルニアで地元の先住民の女性グループを探し、月々のトーキング・サークルに聴衆として参加し、必要とされるときは手を差し伸べる。私はコミュニティの必要性に動かされ、人びとに恩恵をもたらす協働の方法で仕事に取り組む。暴力的な植民地時代の歴史と、いまも彼らの土地全体で継続する先住民族への不正義、暴力、人種差別を理解するために、私は先住民の真の歴史について自分を教育しつづける。そして私はもはやカメラを置くことを恐れない――まず人間であるために。

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