ときめく女性たち
ウィメンズのクライミング用パンツの再デザインに取りかかった当初、私は不安でいっぱいでした。我がデザインチームは、「パタゴニア製品の中で最悪のクライミング用パンツ」というフィールドテスト後のコメントも含め、一連の批判をたっぷり浴びていたからです。一流のアスリートが着るビレイ用ジャケットや、世界最高峰での厳しい状況に対応するアルパイン用システムを生み出してきたというパタゴニアのデザイナーとしてのこれまでの実績も、パンツのフィットに立腹したタフな女性クライマーの痛烈な一撃でかすむだけでした。そしてじつのところ、彼女の不満は理に適っていました。それで、今回は異なるやり方が必要だと悟ったのです。
着手してから数か月が過ぎたころ、私はカリフォルニア州ビショップで開催された「フラッシュ・フォクシー・ウィメンズ・クライミング・フェスティバル」に行きました。会場にはパタゴニアの修理ブースも設置され、数百人の筋金入りのクライマーが参加する理想的なフォーカスグループとなっていました。ブースに立ち寄ってくれた女性のポラロイド写真を撮り、写真の余白にパンツに求めることを書いてもらいました。その後ベンチュラのデザインスタジオに戻って何枚ものポラロイド写真を見ていると、よく考えられたさまざまな意見に刺激を受けました。より丈夫な素材を望む女性もいれば、飾りのないシンプルなパンツを望む女性もいました。また多くの女性はたんに自分に合うサイズが見つからないことや、サイズが合ってもそのフィットが気に入らないことを指摘していました。過去にこれらのパンツをデザインした男性デザイナーたちは、すべての女性をひとつの型にはめ、達成すべき目標を単純化しすぎていたのだと感じました。
より包括的なフィットを念頭に、まずはすべての素材に伸縮性を加えました。それから社内のパタンナーであり、地元の砂漠のクラッククライミングの達人でもあるアリソン・ヘンドリックスと緊密に協力しながら、力強いハイステップやチムニーでのヒップスメアなど、具体的なムーブに対応するクライミング仕様のデザインの開発を進めました。素材の伸縮性を高めるとパンツを腰までたやすく引き上げられるため、フライの必要がないことに気づきました。デザイン評価では、パタゴニアの代表取締役のジェナ・ジョンソンが、「いままでなんでフライが付いていたのかしらね?」というもっともな質問をしました。というわけで、メンズのパンツでは生物学上必要なフライを、ウィメンズのパンツからは取り除きました。
そうしてできた試作品をフィールドテスターとアスリートたちに送りました――ヨセミテ渓谷で野生のキノコを収穫するジェーン・ジャクソン、ワシントン州レブンワースを見下ろす山の頂上のユルトで暮らすアーティストでありボランティア消防隊員のジェス・キャンベル、オーストリア・アルプスでルートを開拓し、気候変動の研究を専門とする物理学の博士号をもつドルテ・ピエトロン、モンタナ州ボーズマンの緊急救命室で夜勤に励むアン・ギルバート・チェイス、フレンチ・アルプスのシャモニ・バレーでガイドをしながら2人の息子を育てるゾーイ・ハート。彼女たちのメモにあふれる個性はとても興味深く、たとえばジェーンがヨセミテのビッグウォールを登るのに完璧なパンツであっても、ドルテが望むのはルートをすばやく登るのに適した、ヨーロッパの景観に調和するパンツでした。フィールドテスターとそれぞれのクライミングのスタイルや個性に合うパンツを作ることは、さまざまな女性に幅広く響く製品ラインを生み出す秘訣となりました。
全員女性という素晴らしい製品開発チームで取り組んだこのプロジェクトを振りかえると、とくに誇りに思うのは、感性をとらえることができたことです。お気に入りのジーンズやほつれた古いセーターや縁起が良いスポーツブラなどについ手が伸びるのに似た、言葉では表しがたい感性。しかも私たちは密かにウィメンズのすべてのパンツを、メンズのパンツよりもハイテクに作ってしまいました。要所の継ぎ目を超音波で接合し、より軽量な素材を使用し、修理しやすいようヒップ部分と膝のバータックをはずしました。またハーネスラインの下のかさばりを抑え、裾は絞ることができるよう仕上げたので、足元が見やすくなっています。
これが刺激的な女性たちと一緒に仕事をすることの醍醐味です。ときには思いがけないことが、そもそもの目的と同じくらい革新的で重要な結果につながるのです。