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失われていく砂浜

阿出川 潤  /  2021年5月14日  /  読み終えるまで8分  /  サーフィン, アクティビズム

1960年初頭、太東岬から釣ヶ崎方面を眺める。人工物はなく自然が残っているのがわかる。 Photo : TED SURF

サーファーというのはとても薄情な生き物だと思うときがある。

日頃から「自然環境を大切に」「海からゴミをなくそう」「海へのコンクリート反対」などと声高々に叫んでいたとしても、訪れた海でいい波に乗れたならば(例えそれが海に入れられた建造物によってできた波であっても)日頃から思っているそのことを忘れて気持ちよく帰路に着く。現在の九十九里の砂浜がおかれた現状を見ていると、どんなに環境意識が高いことを言っても自分を含めてサーファーなんてしょせんそんなものなのかとまるで袋小路のなかにいるような気持ちなってしまう。

九十九里と聞くと大抵の人が銚子から太東岬まで永遠に続く砂浜をイメージするが、現在の九十九里は海岸侵食を食い止めるという大義名分のもと始まった護岸工事により広く長く続いていた砂浜が海に沈められた建造物によりこまかく区切られてしまっている。ある砂浜はまるで万里の長城のようなコンクリートがつくられその海の景色は驚くべきスピードで人の手により変わってしまっているのが現状だ。

失われていく砂浜

2021年の太東岬から釣ヶ崎の眺望。オリンピック会場とどれだけコンクリートの建造物が増えたかが分かる。Photo : Pedro Gomes

私が生まれ育ったのは九十九里の最南端の太東。幼少期からここで過ごし、海ではサーフィン、河口ではウィンドサーフィンを覚え、波と風に乗るという自分のライフスタイルの基礎をこの土地で育んだ。

海の景色に対する感覚は幼少期の頃から頻繁に行われていた海岸工事により人と違うものになってしまったような気がしている。砂浜に行く度に、これから海に沈められるコンクリートの消波ブロックが所狭しと置かれ、工事車両が砂煙をあげて走っていた。学校からは、海はいつも工事をしていて危ない場所なので近寄っては行けないと指導されていた。海は好きな場所であるけれど、現在も続いている海岸工事を見ているとどうしてもこの負のループと言えるイタチごっこがいつまでも続いていくのだろうか…と寂しさと悔しさ怒りが混ざりあった複雑な気持ちになってしまう。

失われていく砂浜

コンクリートで作られたヘッドランド、砂のつき方がヘッドランドごとに違う。それだけ砂の流れというのは机上の理論だけではコントロールできないことがわかる。九十九里 Photo : Pedro Gomes

砂はどこにでもあり無限なものだと誰もが思ってしまうかもしれない。

綺麗な島のサンゴ礁や砂浜がシャベルカーにより破壊され、土砂により埋められてしまう映像はだれにとってもショッキングに映る。

でも私が思うのは壊していい自然というものは存在しないということ。
それが砂であっても長い年月と自然が作り出してきたシステムにより堆積してきたそれ自体が生物のようなもの。それがあることで海流が生まれ波が打ち寄せ、そこに生物が宿る。

ハワイのマウイ島で6年間を過ごし日本に帰国すると、自分が暮らしたその変わらぬ田園風景を見てホッとしたのを覚えている。しかし一度海に行ってみると数年前には見なかった工事がはじまり、その時はまだどのような工事なのか予想もつかなかったが、まさか砂浜に建造物がつくられるなんて考えもつかなかった。

余談だが、ハワイから戻り太東の通称キレメから志田下までオーバーヘッドの波で来る日も来る日もいい波にありつけたときはマウイに戻らなくてもいいんじゃないかと思ったほどだった。が、今はそのブレイクもヘッドランドにより消失してしまった。

失われていく砂浜

中里海岸のアウトサイド。南側での護岸工事が進み沖への砂の付き方が悪くなりこのようなブレイクはなくなってしまった。Photo : TED SURF

気づくと加速度的に工事が広がり東浪見と一宮の間にも無数のヘッドランドが建造され、それにより手つかずの波が残っていたサーフポイントの砂浜が消失してしまった。カイトサーフィンを楽しんでいた中里海岸は、南となりの一松のヘッドランドができてからどんどんと砂浜が少なくなり嵐の翌日に消失してしまった。それを食い止めるために砂浜際にコンクリートの擁壁を建造したことにより、壁がない砂浜はさらに砂が流れてしまうという負の連鎖がとまらない状況になってしまった。

失われていく砂浜

2000年代前半の中里海岸。このビーチも行き過ぎた護岸工事により消滅してしまった。Photo : Jun Adegawa

海水浴場やサーフポイントというミクロの視点で砂浜を見ているとAのビーチで砂がなくなってしまったからAとBの間に建造物をつくり海に沈めることで砂の流れを食い止めるという考えに行き着いてしまう。しかし、九十九里全体を一つの砂浜としてマクロに捉えることで、何かもっといいアイディアが生まれてくるのでは…と現在の海岸侵食工事をみていると考えてしまう。

海岸侵食が進んでしまった原因はいくつかある。それは北の屏風ヶ浦、南の太東岬の崖が波によって崩され砂になり長い年月を得て供給されていたものが1960年代に行われた消波堤工事により途絶えてしまったこと。また、九十九里の真ん中に位置する片貝漁港が南北の砂の対流を止めてしまっていることなど、いくつかの要因が重なり起きてしまっているようだ。その中の要因の一つが過剰な海岸工事であることは間違いない。

失われていく砂浜

日頃から自分が食する魚を採るための漁港、生活に密接に関わり合ったものだけあって一概にこの工事が良いのか悪いのか分からない。この答えが僕たちの次の次の世代に負の遺産となって残らないことを願うばかりである。Photo : Pedro Gomes

南側からはじまった海岸侵食工事を見ていると、一つのヘッドランドを造りそのすぐ脇の砂浜が削れてしまう。そしてまたそのすぐ脇にヘッドランドを造りヘッドランドとヘッドランドの間の砂浜がなくなると侵食を防ぐための建造物を入れるという工事のイタチごっこが続いている。日々打ち寄せる波により造った建造物が壊れ、そこにまた手を加えていくという誰がみても非効率的な工事が人目につかず日々行われているのである。

太東で使わなくなった漁網を州状に砂浜に設置することで砂の動きを止めるという独自のアイディアで侵食を止めることに成功した吉田さんというサーファーがいる。「金なんてかけなくても、コンクリートをいれなくても、いくらでも砂を溜めることができる」と堂々と県の海岸侵食のシンポジウムで大学教授と意見交換していたのは一つの明るい兆しであった。しかし、工事がお金を生む一つのシステムであれば、いらなくなった網を海に沈めるというのはいささか、ある人達にとっては面白みにかける話なのかもしれない。
何千年もの気の遠くなるプロセスで形成されてきた世界でも稀に見る長い砂浜が一部の産業や利権を得るシステムによりほぼ消失してしまっていることに深い悲しみを感じている。

失われていく砂浜

以前ここでカイトサーフィンを楽しんでいた中里海岸。現在は2m以上のコンクリートの壁が立ち上がり子供たちはおろか大人でさえ潮が上げているときは近寄れない場所となってしまった。Photo : Pedro Gomes

現在、大網白里市の白里海岸は九十九里に残された手つかずの砂浜だ。南北に約10kmの砂浜が残されており、嵐や潮の満ち引きの影響はあるが年間を通して九十九里らしい美しい堆積した砂浜を見ることができる。しかし、この砂浜にもヘッドランド建造と消波ブロックを沖合に投入する計画を千葉県が発表している。

以前、市が主催するイベントを行うにために、県立九十九里自然公園指定されている白里海岸に重機を入れて砂浜を平らにする工事が行われていた。そこで、SNSを利用して地域の市民に情報を共有したところ、多くの賛同者を得ることができた。賛同者と共に市や、県に訴えかけたことにより市も理解を示し、その後のサーフコミュティーとのコミュニケーションのきっかけとなった。

20年前のまだ広かった他の砂浜を見ると、あのときあの護岸と防波堤ができてからすべてがおかしくなってしまった。それと同じことが現在も繰り返されていくと思うと、どうしてもこの美しく続く長い砂浜の海岸線をいつまでも残していきたいと強く願ってしまう。

本来、日本人は自然に存在するすべてのものに神が宿るという自然観があるはずなのに本当にどこで道を誤ったのか、これは国、行政、議員、など責任をだれかになすりつけてしまいがちになる。すべては自分達がいままで無頓着に海という環境を傍観しつづけてしまったからにほかならない。

九十九里の海を愛する人間として自分ができること、それは九十九里の「いま」を伝えサーフィンができている裏側で起こっている事実を伝えていくことだと思います。残された手つかずの砂浜を自分たちの子どもたちの世代まで残すため、一人でも多くの人にこの現状を知ってもらい共に活動していきたい。

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