スカイパイロット農場で子羊を抱えるジョシュ・ワートン。コロラド州ロングモント。Photo: James Lucas
スカイパイロット農場で子羊を抱えるジョシュ・ワートン。コロラド州ロングモント。Photo: James Lucas

務めを果たす

By ジョシュ・ワートン   |   2021/08/06 2021年8月6日

クレイグ・スキャリオットと僕は、きかん坊の子羊の一群を大きな囲いから仕分けのための囲いに誘導する。1頭1頭、注意深くつかみ、やさしく抱きかかえても、大抵はレスリングの様に反撃を食らう。全体重をかけて、泥がこびりついた羊毛に顔を埋めてしまうのが得策とすぐに気付く。それでもなお、ほとんどの羊が自由になろうともがくのだが、最終的にはどの子羊も落ち着き、静かになる。この時点で、クレイグが手際よく子羊の口に駆虫剤を注入する。動物の健康を維持し、家畜に寄生虫を寄せ付けないための必要な薬だ。

この作業を子羊1頭1頭に繰り返し、その後、金属製の囲いを解体して、子羊を再び牧草地に放したときには、もうヘトヘトだ。私は車で帰宅し、その日のボランティアは終了。クレイグはやり残した仕事や他に世話しなければならない動物がいるため残る。小さな農場では仕事が決して尽きることがない。クレイグはこの3年間休暇を取っていないという。

ソーラーパネルの周囲で羊は草をはむ。コロラド州フロントレンジ。Photo: Craig Scari
ソーラーパネルの周囲で羊は草をはむ。コロラド州フロントレンジ。Photo: Craig Scari

小規模農家の生活は厳しく、体力を消耗する困難で果てしない作業だらけだ。好きでなければできない仕事である。数年前、クレイグは資金管理関連の高収入の職を辞し、コロラド州ロングモントで、パートナーのクロエ・ジョンソンと共に、スカイパイロット・ファームを立ち上げた。

クレイグとは、クライミング界の共通の友人を通じて知り合ったのだが、彼の決断は私に刺激と感銘を与えた。クレイグは、金銭や安全を優先せず、自分の情熱に従おうとしていた。私もクライマーの一人として共感している。しかし、クレイグとクロエは、自分たちの幸せのためだけに、スカイパイロットを立ち上げたのではなかった。

二人が購入したこの荒れた小さな農場は、固く乾いた泥土に覆われた、果てしないプロジェクトだった。しかも、にぎやかなボルダーの中心街や、コロラド州フロントレンジの至る所に見られる都会のスプロール地帯からもすぐの距離にある。それでも、クレイグとクロエは、43エーカーの土地を商業開発から守ることができた。さらに二人は再生型の放牧に取り組み、そして地域に働きかけ、教育のためのプログラムを構築した。彼らの土地に虫や鳥が戻り、小川では再びカエルが鳴き始めた。

やり方を学ぶ。Photo: James Lucas
やり方を学ぶ。Photo: James Lucas

再生可能な土地管理に焦点を当てた民間の土地所有者との契約を通じて、スカイパイロットは現在、700エーカー以上の土地で放牧を行っている。ボルダーやその周辺地域から次第に多くの人々が、信頼できる場所で採取されたラム肉や豚肉、卵を購入しようと、時間をかけて訪れるようになり、開業以来、農場の売り上げは2倍、3倍と成長している。またスカイパイロットは、フロントレンジのソーラーパネル設置場で羊を放牧させることで、二酸化炭素を大量に排出する草刈りの必要性をなくし、植生管理にも役立っている。

仕事は決して尽きない。ジョシュ・ワートンは農場を手伝い、自身の役目を果たしている。Photo: James Lucas
仕事は決して尽きない。ジョシュ・ワートンは農場を手伝い、自身の役目を果たしている。Photo: James Lucas

3年前、イヴォン・シュイナードはパタゴニアのミッション・ステートメントを変更し、全関係者に対し、現在の取り組みをもう1歩進めて、気候危機に取り組もうと呼びかけた。私は適当なことが思い浮かばず苦慮していた。貢献したかったが、何をどうすればよいのかよく分からなかったのだ。二酸化炭素を排出する航空機に乗って環境デモに参加することが正しいとは思えなかったし、Instagramで自分の意見を発信することも、問題がありそうだった。特に昨今の調査によると、ソーシャルメディアは人々の意見を変えるよりも、凝り固まった意見を深める傾向があるという調査結果が出ているという。ただ、こうした行動に必ずしも価値がないと言うつもりはない。実際、最近のある研究によると、ある問題についてグループの約25%が立場を明確にすると、変化が起きる可能性が高いらしい。

黄昏時の散歩。Photo: James Lucas
黄昏時の散歩。Photo: James Lucas

私自身が求めていたことは、ある程度の個人的な犠牲を継続的に必要とする何かだった。この社会で自分が行動し、選択し、参加することが、毎日地球を少し傷つけているように、何か不快な、自分を少しいたぶるような貢献がしたいと思うようになった。最終的にクレイグとクロエを手伝うことを思い付いた時、すぐにそのアイデアは正しいと思えた。フェンスを移動し、卵を集め、シャベルで鶏舎のフンをかき出し、子羊に駆除剤を飲ませるなど、まさしく「休日」にすることではないが、ちっぽけでも、私には測定可能な善意の行動であった。

気候危機に関連する衝撃的な統計データを見ると、幻滅したり、悲観的になったり、政策の構造的変革以外、何も変化を起こせはしないと降参し、非難したくなったりするのは、たやすいことだ。確かに世界は徐々にグローバル化しており、我々は数十億の中の1人にすぎない。しかし、今も人々の生活の大部分は、直近の輪の中で進行し、形成されている。個人の行動など無意味であるというシニカルな見解に屈服したり、単一で動きの遅い大規模な解決策にすべてのエネルギーを集中したりすれば、人々は楽しくなくなり、無感動になり、必然的に何もしなくなる危険性がある。少なくとも、僕にはそう思える。

クレイグやクロエの農場での取り組みのように、すぐ目の前にあり、見えるもの、できることが、希望や力となり、ひいては友人や隣人の心を動かすことができる。その結果、文化にゆっくりと変化が吹きこまれ、やがては、みなが全体として、この地球の良き管理人としての責任を担うようになるだろう。

昨年、20日間以上をこの農場で過ごした。仕事は決して楽ではないし、ただ「ありがとう」と言われ、時おり卵を1箱もらうだけだが、なぜかそれが正しいと思える。そこに行って、ただ手伝うという静かな行動は、具体的で純粋で、パフォーマンスのような感覚が全くない。僕はそこで学ぶべきことの表面をかじっただけだが、でも1つ分かりかけていることがある。

我々には今いる場所と最終的に到達しなければならない場所がある。それは前進するための回帰であり、スカイパイロットのような小さな農場は、その間を結ぶ重要なかけ橋ではないだろうか。