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「メドウラーク・オーガニックス」のウィスコンシン農場で、ジョン・ウェプキングと娘は、小粒の穀物をチェックする。Photo: Jesse Perkins
「メドウラーク・オーガニックス」のウィスコンシン農場で、ジョン・ウェプキングと娘は、小粒の穀物をチェックする。Photo: Jesse Perkins

信頼の種を播く

By ジョナ・パーキンス   |   2021/08/12 2021年8月12日

2015年、ハリー・ウェプキングは、クレイグリストの求人検索ボックスに「オーガニック」と入力し、ある投稿に目が止まった。

「950エーカーのオーガニック農場の運営に参加してくれる先見性のある個人または夫婦を探しています…倫理と信頼は、オーガニック農業の礎であり、私の農場にとって重要です。この農場をより良くするために働こうという意志のある方に、私の40年の農業経験を伝えたいと思います。」

ハリーと夫のジョンは、ニューヨークのレストラン「プルーン」の厨房で働いていた頃に出会い、もっと食物に関わりたいという共通の思いを通じて親しくなった。「二人とも食料生産に関わりたくて、料理界を去る準備ができていた」とハリーは言う。

ジョンは人生のドラマチックな展開を振り返る。「僕の故郷へ移住すると決心するや、ブッシュウィックからウィスコンシン州ランカスターへ、ユーホール社のレンタルトラックで直行したんだ」

1年間、ジョンの実家が営む牧草飼育牛の多角経営を中心に生計を立てようと試みたが、新たな機会が必要であることがはっきりした。ハリーがクレイグリストの投稿を見つけたのはその時だった。

投稿者は「ビックフォード・オーガニックス」のポール・ビックフォードだった。

ランカスターの東へ1時間ほど離れたトウモロコシと大豆の農場だ。ポールは1978年にその農場を開業し、当初は舎飼いの酪農をしていたが、その後、条まきの有機作物に移行した。ポールはジョンの第一印象を次のように振り返る。「彼は良いアイデアを持っていたよ。何より感じが良かった。知性と人柄に溢れている。耕うん機やトラクターの運転は教えられるが、人柄はそうはいかないからね」

農場や農地の一般的な後継者問題は、親族内で相続されるか、もしくは一般市場へ売却されるかのいずれかだが、ポールはこれまでとは異なる道を切り開こうとしていた。

彼の息子はこの農場で働いているが、経営には興味がない。「生まれながらの後継者がいる農場もある」とポールは言う。「悲惨なのは、その農家が多額の借金を抱えているために、子供に農場を譲ることが出来ない場合があることだ」そこで、ポールは自分の農場を維持したまま、熱心な若い農業家に知識を継承したいと考えていた。

信頼と約束の最初の証として、ポールはウェプキング夫妻との握手をもって、そこにあったファームハウスの修理することを許可した。家族が増えたら敷地内の家を提供すると同時に、ポールは若い二人が農場に投じる労力に応じて所有権を取得できるようにし関係を強めていった。現在、ウェプキング夫妻は農地や設備をポールから徐々に買い取り、二人はその事業を「メドウラーク・オーガニックス」と命名した。

失われない絆:ポール・ビックフォードは、オーガニック農場やそれを作るために自らが注いだ汗や知識が、良い人に受け継がれると分かり安心している。Photo: Jesse Perkins
失われない絆:ポール・ビックフォードは、オーガニック農場やそれを作るために自らが注いだ汗や知識が、良い人に受け継がれると分かり安心している。Photo: Jesse Perkins

石臼の音が響く中、ジョンは新たに建てた2階建ての製粉工場について誇らしげに語る。「実は製粉機の大部分は、雑草のなかに眠っていた古い農場の鉄鋼材で作られているんだ。製粉台の多くは、古い牛柵だよ」

ウェプキング夫妻は、地元で愛されている製粉工場「ロンサム・ストーンミリング」から石臼を購入した。オーナーが定年を迎え、石臼がしかるべき人の手に渡ることを望んでいた。また夫妻は野菜農家のリンク・ダヴィーとも提携している。ダヴィーはメドウラークの小麦製粉を全面的に管理しており、ウェプキング夫妻が石臼挽きの専門的な技術と科学を深く理解することを支援している。

ウィスコンシン州南西部の農業は、丸い穴に四角い杭をねじ込むようなものだ。アメリカ中西部の大半は、厚さ30センチ以上の黒土に覆われているが、ウィスコンシン州のこの地方は、それよりもはるかに侵食されやすく、トウモロコシや大豆のような「万能な」商品作物にあまり適さない。にもかかわらず、地元農家には、この特殊な環境でも育つ小粒穀物のような農産物を栽培するための経済支援策はほとんどない。

ウェプキング夫妻は、地域社会に貢献することを使命に自分たちの農場で栽培した20種類の小粒穀物、乾燥豆、自然受粉トウモロコシの市場を創出しようとしているだけでなく、この地方の穀物農家のために、職人による加工施設を提供し、地域の他の穀物農家の販路になることで、地域の製粉拠点となっている。

「当初から、小麦・ライ麦・オート麦のような主食穀物の生産を地域単位で行えないかと考えていたの。そうすれば多くの農家が、商品取引システムから脱して、多くの権限を持つことができるわ」とハリーは言う。商業生産用に同じ穀物を連作していると、土壌の栄養分が失われ、侵食で表土が失われることになる。しかし、小穀物を組み合わせて輪作すれば、表土を形成し、雑草や病気の循環を断ち切ることができる。いずれにしても農家に安心感と回復力をもたらす。

気候危機に直面していれば、なおさらだ。ハリーは「小穀物を取り入れることで、農業を取り巻く状況が劇的に変わる可能性がある。それは水質、土壌の健全性、侵食に影響するし、メキシコ湾沿岸の低酸素地帯にも影響する。小穀物は大きな役割を果たすことができるの」と言う。

左:「穀類と豆類を並行して蒔けば、土がむき出しになることはほとんどないから、おそらく4年間は耕さずに済むわ。」ハリー・ウェプキングは言う。右:ジョンはメドウラーク・オーガニックスで育てた穀物をきれいにする。ウェプキング夫妻は、自家製粉機を導入し、地域の製粉拠点としての機能を備えた施設を整えることで、地元農家に商品取引システム以外の道を提供している。Photo: Jesse Perkins
左:「穀類と豆類を並行して蒔けば、土がむき出しになることはほとんどないから、おそらく4年間は耕さずに済むわ。」ハリー・ウェプキングは言う。右:ジョンはメドウラーク・オーガニックスで育てた穀物をきれいにする。ウェプキング夫妻は、自家製粉機を導入し、地域の製粉拠点としての機能を備えた施設を整えることで、地元農家に商品取引システム以外の道を提供している。Photo: Jesse Perkins

表土を作り、農業資材の投入を最小限にすることが、ウェプキングの農場計画の基本方針だ。ウィスコンシン州の農業は、従来型のトウモロコシと大豆の輪作が主流だが、それは表土を劣化させ、地産地消による循環を犠牲にしてきた。ウェプキング夫妻の構想は、これら2つの課題を、省耕起、被覆作物、インターシーディング、そして家畜の堆肥を利用して農場内の養分を循環させるなどの技術を用いて回復させることだ。ただこれについては「しばらく時間が必要だ。堆肥を供給するためには、家畜をそれなりの頭数に増やさなければならないからね。でもそれが目標さ。そうやって、自給自足と回復力を促進できると考えているんだ」とジョンは言う。

“「耕うん機やトラクターの運転は教えられるが、人柄はそうはいかないからね」 —ポール・ビックフォード ”

有機農業、リジェネラティブ農業、不耕起栽培といった微妙な違いがある中で、この小粒な穀物の分野には有望な解決策の糸口がある。秋まき小麦の上にアルファルファのような飼料草を育てて地面を覆うほか、ウェプキング夫妻は豆類と同時に支柱としてトウモロコシを育てるインターシーディング(立毛間播種)も採用している。「自然受粉のポップコーンを数種類の品種栽培したんだよ」とジョンは言う。「伝統的な農法を生産的でありながらも、再生可能な規模で行うためのこうした継続的な学習はポールが与えてくれる支援とインフラに支えられているのさ」

ところでここ最近、ポールはどこで何をしているの?

この農場に数十年を費やしてきた師匠を持つ最大のメリットは、現役時代をかけて蓄積されたこの土地に関する総合的な知識を得ることができることだ。その反面、頑固ゆえ、人生の大半を一人で決めなければならないという側面もある。しかし、ハリーはメドウラーク・オーガニックスの成功の秘訣を次のように指摘する。「ポールは、いつも革新を奨励してきた。先代がそうだったのだから、私もそうするわ。というのではなく、常に学び改善する機会があるの」

「頭でっかちになることはない。むしろ、自分が積み上げてきたものが、新しい家族の出発や事業の成長に役立てば幸いだよ。私が作った農場を受け継ぎ、彼らが賢く利用してくれることをありがたく思うよ。これで心と体の荷を下ろせた」とポールは言う。

そしてポールは完全に引退する予定は今のところないと言う。これは農場の譲渡をゆっくり進める上で重要な検討事項だったが、いかんせん、ポールは長い1日の労働から回復するのに時間がかかる。「85歳になってもまだ動き回れたら、たぶん、ここでトラクターを運転しているよ。ロッキングチェアでくつろぐようなタイプにはならないね」

ジョンは来年の種として取っておく自然受粉したトウモロコシを選別する。Photo: Jesse Perkins
ジョンは来年の種として取っておく自然受粉したトウモロコシを選別する。Photo: Jesse Perkins

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